産業廃棄物によって起きた事件・ごみ問題を振り返る

これまで循環思考メディア「環境と人」は、何も捨てないビジネスの仕組みやごみの新しい価値を創る取り組みなど、「環境に関わる知られていない事実や知識」を生活者・企業・団体に届ける情報プラットフォームとして発信してきました。

その内容はどれを見てもポジティブで前向きな活動を捉え、未知なるごみの可能性までも感じる企業の活動です。しかしながら、一方でごみにまつわる歴史はほとんどが負の歴史であり、現状の課題も未だ社会全体として解決へ進んでいるとは言えません。

本記事では過去の産業廃棄物にまつわる事件をピックアップし、その問題が身近なところで発生していることを知ってもらい、現状を知った私たちに何が出来るのかを改めて問うことを目的とします。

産業廃棄物が要因となる事件はどのようにして起きるのか

産業廃棄物の事件の発生要因はさまざまですが、一般的に下記のようなケースがあるとされています。

・不法投棄

産業廃棄物は、その性質や種類に応じた適切な処理が必要なため、その扱い方は法律で厳しく規制されています。しかし、そのためのコストや手間を惜しむ企業や生活者が不適切な廃棄方法を選択することがあります。たとえば、法律に反して廃棄物を山林などに不法投棄したり、出所や素材を偽って安価な処理方法である焼却や埋め立てを行うなど、不適切な廃棄方法が原因で周辺環境や住民の健康に悪影響を与えることがあります。

・不適正処理

産業廃棄物は、製造プロセスにおいて発生することが多く、使用する原材料や生産設備に問題がある場合、深刻な問題を引き起こすことがあります。たとえば、毒性のある化学薬品を環境中に放流したり、土地に放置することで腐敗や漏出を招いたりといったことが挙げられます。経営者や担当者の知識不足によりそういった事態を招くリスクを防ぐため、企業の社会的責任が求められます。

・国境を超えた廃棄物の移動

産業廃棄物をそのまま埋め立てることは環境汚染や土地の無価値化を招くため、選別・解体・破砕などの工程を経て有用な金属やプラスチックなどをリサイクルしたり、脱水・焼却等の処理により減容を行います。一般的にリサイクルされた再生原料はバージン原料よりも品質が落ちるため、製造コストの安い発展途上国で生産する方が価格競争力が高まります。そのため、廃棄物由来の原料が欧米日などからアジア地域に輸出され、再生原料を使った製品として加工されることが多くなります。その際に資源として使用できない廃棄物が混入し、現地で汚染を引き起こすことがあります。

産業廃棄物の事件を振り返る

さて、ここからは国内でこれまで発生した産業廃棄物の事件をピックアップしています。その前に産業廃棄物事件の今を数字で見てみましょう。

環境省の報告によると、不法投棄の新規判明件数は、ピーク時の平成10年代前半に比べて、大幅に減少しています。一方で、令和2年度で年間139件、総量5.1万トン(5,000トン以上の大規模事案4件、計3.2万トン含む。)もの悪質な不法投棄が新規に発覚し、いまだ後を絶たない状況です。

不適正処理についても、令和2年度で年間182件、総量8.6万トン(5,000トン以上の大規模事案3件、計4.8万トン含む。)が新規に発覚しており、いまだ撲滅するには至っていません。また、令和2年度末における不法投棄等の残存事案は2,782件報告されました。

この様に見ると私たちが想像するよりも実は身近にある産業廃棄物事件。有害廃棄物が公害や不法投棄を引き起こし、周辺住民の健康を脅かしているのです。

・イタイイタイ病(1940~1950年代)

岐阜県の神岡鉱山から排出された産業廃棄物であるカドミウムが水田を汚染し、その水田で育ったお米を食べた人々が発症したのがイタイイタイ病です。症状は、腎臓に障害が出る、骨に異常が出て、症状が重くなると骨折を繰り返すようになります。現在は産業廃棄物であるカドミウムが川に流れないような対策をしており、被害者や調査団の方々の努力によって綺麗な川が保たれています。

病院で治療を受けるイタイイタイ病の患者=富山県婦中町(現富山市)(林春樹さん撮影)

・水俣病事件(1960年代)

熊本県水俣市にある化学工場から排出されていた水銀によって、人々に健康被害をもたらしました。海に排出された産業廃棄物である水銀が体内に蓄積された魚を食べた人が視覚障害や言語障害などを発症し、意識不明で亡くなることもありました。これが水俣病です。妊娠中の母親を介して赤ちゃんが水俣病になる事例もありました。その後、水俣地域は産業廃棄物による汚染地域を埋立て、現在は魚介類の安全性が確認されています。

この事件をきっかけに、環境汚染の問題が社会的な課題として取り上げられるようになり、日本国内だけでなく世界的な環境保護運動の発展にもつながったほか、国内で公害防止を目的とした法律の整備や環境保全政策の強化などが進みました。

・豊島事件(1970年代~現在)

香川県の豊島において、約62万平方メートルにおよぶ産業廃棄物の不法投棄がされていた問題で、国内では史上最悪の不法投棄事件と言われています。処理業者は、1975年後半から1990年にかけて、許可の受けていないシュレッダーダストや廃油、汚泥等の産業廃棄物を搬入し、処分地内で野焼きなどを続けていました。この間、香川県は立ち入り調査を行っていましたが、1990年11月まで実に15年もの間、有効な措置を講ずることが出来ない状態にありました。地域住民が香川県に訴えてもまともに取り合ってもらえない為、住民たちは東京まで赴き、産業廃棄物問題について国に訴えかけました。以降マスコミが取り上げたことで、国も動きだし、原状回復するための作業が開始されました。不法投棄された廃棄物の量は、約92万tにのぼりました。2023年3月に国の財政支援が終了し、ごみの撤去に続いて行われていた整地工事は完了したものの、正常な水質の基準値に達するまで10年以上かかる見通しもあり、今後も注目すべき事件です。

大量の不法投棄・野焼きの結果、水質汚染された豊島の様子(豊島・島の学校より)

・青森・岩手県境不法投棄(1990~2000年代)

青森県と岩手県の県境地帯にある山林に、首都圏より運び込まれた有害物質を含む産業廃棄物が不法に投棄された事件です。この廃棄物には、カドミウムや鉛などの有害物質が含まれており、周辺の地域や川にも漏れ出し、深刻な環境汚染を引き起こしました。地元の住民たちは健康被害に悩まされ、多くの野生動物も死亡するなど、大きな被害が出ました。

この様に見ていくと、産業廃棄物の不適切な処理や不法投棄による社会的なリスクは大きく、いまだ撲滅できていないことで生活者の命や健康の危険をはらんでいる可能性があります。

バーゼル条約とプラスチック輸出

2021年のバーゼル条約の改正

1980年代に、先進国からの廃棄物が途上国に放置されて環境汚染が生じるという問題がしばしば発生したことを受け、廃棄物の取り扱いに関する規制を定めたバーゼル条約は、1989年に採択されました。ここでいう廃棄物とは、人間の健康や環境に対して深刻な損害をもたらす可能性がある産業廃棄物も含めた廃棄物のことであり、例えば有害物質が含まれた化学物質や医療廃棄物、放射性廃棄物などが含まれます。

この条約では、危険廃棄物の輸出入に関して規制が行われており、輸出国は輸入国の同意を得なければ危険廃棄物を輸出することができません。また、輸入国は危険廃棄物を受け入れる前に、その処理方法や管理方法についての情報を確認することが求められています。

更に改正条約は、2019年に採択され、2021年1月1日に発効しました。これにより、プラスチック廃棄物の規制の追加や環境的に適切な処理の促進、輸出国の責任強化がなされ、国際的に違法処理を厳格に取り締まる様になりました。

これまで日本を含む先進国は何十年にもわたり、プラスチックを中国へ輸出し続けてきました。しかし、2018年に中国がプラスチックごみの受け入れを禁止してから、国内での処分や新規他国へ輸出ルートの開拓が余儀なくされました。

日本からマレーシア、ベトナム、タイなどへ廃プラスチックの90%以上が輸出

2020年・2021年の先進国による非OECD諸国への廃プラスチック輸出量を示したグラフ Basel Action Network (2022)

では日本はどうでしょうか。NGOバーゼル・アク ション・ネットワーク(BAN)によると、先進国は引き続き非経済協力開発機構(OECD)諸国に大量の廃プラスチックを輸出し続けており、2021年は日本が世界で最も多くの廃プラスチックを輸出したことが分かっています。日本から輸出された廃プラスチックの90%以上がマレーシア、ベトナム、タイなど、廃棄物管理が十分に行き届いていない非OECD諸国へ送られています。

これらの国々では、輸入された廃プラスチックが様々な環境・社会問題を引き起こしています。例えば、先進国から輸出された廃プラスチックが原因で、大気・土壌・水質汚染などの環境汚染や、廃プラスチックから発生する有害化学物質によって深刻な健康被害が起きていることが、これまで多く報告されています。

ごみが蓄積されたインドネシア ジャカルタ

個人や企業が出来ることはまず「減らすこと」である

世界的には中国に輸出が出来ず、東南アジアやアフリカへ廃棄物を輸出するという堂々巡りを繰り返し、一方で国内外で違法な処分は撲滅は出来ていない今、私たちは何が出来るのでしょうか。

それは、「どのようにしてごみを処分するか」「次にどこへ持っていくか」ではなく「ごみの総量を減らす」ことが、明確な解決策です。国内においてはごみの輸出を直ちに減らす取り組みに加え、使い捨てごみを大幅に減らすことのできるリサイクル・リユースの取り組みを政策レベルで実現していくことが緊急です。こういった政策が進むよう生活者や企業が連帯することはいち早い問題の解決の後押しとなるでしょう。

また、企業レベルでは、先進的なモデルであるサーキュラーエコノミーを参考にしつつ、廃棄物全般の高効率な処理や、アップサイクルやリサイクル・リユースを行いやすいプロダクトデザイン、既存の動脈・静脈産業の見直しを行うことで問題にポジティブなインパクトを与えることができます。また上記のような産業廃棄物事件を起こさない為にも地域住民との関係性を保ちつつも確実なモニタリングを行う事も重要です。