産廃にまつわる二大事件から得た教訓


廃棄物(ごみ)に関する法律は複雑で、非常に厳しいものとなっています。それは、今までに起こった問題を教訓として作り上げられた成果であり、廃棄物とは何なのかを突き詰めた結晶ともいえます。

今回は、そんな産業廃棄物にまつわる事件と、廃棄物とは何かについて考えていきます。

1.産廃にまつわる二大事件

久米 今回は、産業廃棄物にまつわる事件と落とし穴について伺っていきたいと思います。よろしくお願いします。

新井 1.産廃にまつわる二大事件について、2.そもそも廃棄物の線引きはどこか?3.廃棄物に関する法律のアップデートについてお伝えしていきたいと思います。

久米 産業廃棄物に関わる新井さんが印象的だと思った事件はありますか?

新井 はい。そもそも「産業廃棄物」って字面が厳ついですけど、実際かなり厳しい法律の運用によって、企業は既に対応しているのが前提になってるんですけれども、そのきっかけになった事件というのがいくつかあります。

まず1つ目が「豊島事件」っていう有名な事件があって、日本最大、世界でも有数の産業廃棄物の不法投棄事件です。

香川県の瀬戸内海に浮かぶ豊島(てしま)という小さな島の敷地内に、当時、日本中のあらゆるところから廃棄物が集められ、不法に埋められていたという大事件でした。1978年くらいから始まったと言われていて発覚したのが1990年。そのときにはもう94万トンの廃棄物がそこに投棄されていたそうです。

見渡す限りごみの山で、しかも燃やされたりして悪臭と煙がものすごく、煙の上を通った鳥がそのまま落ちてくるぐらい酷かったという話です。それを発覚してから、30年の月日をかけて、今では完全撤去が実現したという事件ですね。

久米 はい。

新井 2つ目は「おから事件」と呼ばれる、産廃の教科書にも出てくる有名な事件です。

これは、ある肥料を作っている業者が、豆腐を作るときに出てくるおからを肥料にするために溜めてたわけなんですね。その処理が追いつかず、あまりにも大量に溜まってしまい、悪臭と周囲の環境汚染を引き起こしているってことで周辺住民から苦情が入って裁判になったんです。

ただ、それを集めてた業者は「これは肥料の原料で、廃棄物じゃなくて資源なんだ」って主張していて、そこが裁判の争点になったんです。

その時は廃棄物であるという判決が下ったんですけど、そこで採用されたのが「総合判断説」という考え方でした。廃棄物か有価物(有価で取引される資源)かを複数の要素から総合的に判断して決めましょう、という考え方が広まったきっかけとなった事件です。

久米 ある人にとっては資源で、別の人にとっては廃棄物という非常に曖昧で難しい判断ですね。

2.そもそも廃棄物の線引きはどこか?

久米 総合判断説は、何を鑑みて廃棄物かどうかを仕分けるんですか?

新井 5つの要素があって、まずはモノがどんなものなのかと、どのくらいの頻度で発生しているのか、どういう形で出てるのか、後はそれが一般的に有価物として扱われることが多いのか、廃棄物として扱われることが多いのか、お金を払って引き取るっていう意思のある人がいるのか。そして最後は、占有者が資源と思ってるとか廃棄物と思っているかです。この5つの要素を総合的に勘案します。

非常に難しい微妙な話なんですけど、そもそも法律で廃棄物とは何かっていう定義っていうのが実際できてないんです。

というのも、やっぱり見る人によって違う。ごみだと思う人もいれば資源だと思う人もいるっていうのもありますが、昔はごみだったけれど技術が進んでリサイクルできるようになったから資源になったというパターンもあるので、慎重にやりましょうって運用になっているんです。

久米 なるほど。微妙な判断といえば、廃棄物の中に一般廃棄物と産業廃棄物という2つの分類があると思うんですけど、どちらに当てはまるのかって問題もあると思いますが、どうでしょう。

新井 それも本当に微妙ですよね。一般廃棄物は家庭から出るごみのことで、自治体が責任を持って処理するもの。産業廃棄物は事業者が出すごみのことですが、その中には「事業系一般廃棄物」って括りもあったりします。

例えば事務所で従業員がお金を出して買った缶・びん・ペットボトルは会社が排出したものではないから、事務所の中だけど一般廃棄物として扱おうみたいな自治体があったりします。

その判断も自治体によって違う、さらに言うと焼却場によって「それ駄目だよ」ってところもあれば、あまりうるさくないところもある。ここが非常に曖昧で説明が難しいところなんですよね。

例えば一軒家の庭の落ち葉を集めてごみ袋に詰めたもの、これは一般廃棄物だから自治体が回収してくれるけど、隣の工場で同じように落ち葉を拾って集めても「これは企業のものなので産業廃棄物として処理してください」って言われたら、その辺りの事情を普通は知らないので、なんでだよって思っちゃいますよね。

3.廃棄物に関する法律のアップデートについて

久米 先ほど総合判断説のことを伺いましたが、廃棄物に関する法律はどうなっているんですか?

新井 基本的に「廃棄物処理法*」という法律があり、非常に厳しく取り締まられています。これにより廃棄物を処理するには必ず許可を取らなくてはいけなくて、それは一般廃棄物処理業、産業廃棄物処理業って細かい区分があるんですが、それぞれ都道府県ごとに許可を取る必要があるんです。

※廃棄物処理法は通称。正式名称は「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」 廃掃法ともいう。

久米 東京都の許可を持っていても、埼玉のごみは積めないということ?

新井 そうです。さっきの豊島事件をきっかけにして、こういうことが二度と起きないように不法投棄を取り締まろうということで、企業がごみを出したら必ずマニフェストという、産業廃棄物を誰がいつ・どこで・どれだけ出して、誰が回収していつ処分しましたって事が全部追跡できる帳票の発行が義務とされています。

マニフェスト発行は産業廃棄物に限るんですけど、落ち葉1袋であっても産廃であれば発行しなきゃいけないって決まりになっていて、なおかつ産業廃棄物処理法は刑法が適用されるので違反すると懲役、もしくは非常に大きな罰金があり許可のある処理業者であれば、一発で許可取り消しっていうかなり厳しい法律になっています。

久米 厳しい法律によって豊島事件のような不法投棄が減ったと思うんですが、一方で、もうちょっと色んな企業が参入しやすくなった方が廃棄物業界がよくなるみたいに、合理的でない部分も出てきてしまうのが、すごく難しいところですね。

新井 その通りです。落ち葉の例で言えば、工場で出た落ち葉は回収してくれないから隣町の業者まで運ぶとかって非効率が発生してるんですよね。

他にも自治体の焼却炉は人口が減ってキャパに余裕があるんだけど、産廃の焼却炉はパンパンで全然処理できない状況になっても、融通はできませんみたいなことも起きています。

災害廃棄物に関しては柔軟にやれる運用がされているんですけど、不法投棄がある程度撲滅できた現代においては、考え方とか方針をアップデートしていく必要があると思います。

久米 ありがとうございました。