
メーカー、レストラン、家庭と、さまざまな箇所でどうしても出てしまう食品ロス。中でもメーカーから出るものの多くは、賞味期限が短いからという理由で叩き売りにされてきました。
しかし、低価格だけを売りにする商売では誰も幸せにならない、作る人も買う人もポジティブな仕組みが絶対にできるはず、と信じてこの分野を開拓する人が現れました。その取り組みはメーカーと消費者に新たな“ワクワク”を提供することに成功し、幅広い分野の企業から協業の声が相次ぎ、ビジネス分野で表彰されるなど、着実に成果を上げています。株式会社ロスゼロの代表、文 美月さんに、食品ロスをポジティブに解決する仕組みについて伺いました。
これまでの“叩き売り”ビジネスとは違うやり方

株式会社ロスゼロ 代表取締役 文 美月/1970年生まれ、奈良県出身。商売経験なしでスタートしたヘアアクセサリーのECサイト「リトルムーン」を、品揃え日本最大級・販売累計450万点まで育てる。2018年、“もったいないを減らす”を掲げてロスゼロを立ち上げ、その取り組みが各方面で話題に。起業家として、日本をはじめ世界各地で講演を行う。
―先ず始めにロスゼロの事業概要をお伺いしてもいいでしょうか。
日本の食品ロスは500万トン以上毎年発生しているのですが、うち約275万トンは生産者や食品製造、加工メーカーから発生しています。これらは規格外品や商慣習などによって、まだ食べられるのにロスになってしまっている場合もたくさんあって。ロスゼロは、そんな”もったいない”食品を食べたい人のもとへと届けるプラットフォーム作りを担っています。
―「食品ロスを削減する」を掲げつつも、これまでの“賞味期限が迫ったものを安く売る”商いとはまた違いますよね。御社ならではの考え方についてもお聞きしたいです。
そうですね、私たちが目指していることはもちろん“食品ロスの削減”ではありますが、それをそのまま伝えると、ちょっとキツイ響きになりますよね。何か糾弾するようなイメージというか。そうではなくて、あくまでポジティブな思考で進めていきたいという思いがあります。食べることのワクワクやおいしいものが届いたときの笑顔、実際においしかったときのうれしい気持ちなどを大事にしていて。消費者の皆様に社会課題を押し付けすぎず、おいしく楽しく食べていただけるような仕組み作りができないかと思いました。
そこで考えたのが、プレミアム感のある食品を取り扱うことです。これまで「訳あり品」「見切り品」として売られてきた食品はどうしても薄利多売になってしまい、大手ショッピングモールなどでも一目瞭然ですが競争がすごく激しいんですね。その市場にあえて突っ込んで疲弊すると、結果続けられません。ですので、食品の価値は損なわない程度の値引きだけさせていただく形にしました。そうすると、メーカーさんにも「ロスゼロは叩き売りをしないのだな」とわかっていただけてより一層お声がけいただけますし、消費者の皆様も、プレミア感のある食品をお安く手に入れられます。その結果、食品ロスの削減につながる。そんな“三方良し”のビジネスならどこかで誰かが疲弊することなく長く続けられ、社会課題の解決にもなるなと思ったんです。

―プレミアムな市場を狙っていくとなると、相応のメーカーさんとのお取り引きになりますよね。ロスが出ていることを表に出したくないブランドさんも多いのかなと思ったのですが、そのあたりはいかがでしたか?
2018年のスタート当初は「うちはロスなんて出ていませんから」とよく言われました。「うちは叩き売りされたくない。そんな風に売られるぐらいなら、捨てたほうがましだ」との思いからですよね。そういう気持ちは私自身すごくわかるので、「御社のためにもブランドを毀損することは一切しません!」としっかりお話しして。だって、賞味期限にも問題がないのに、3分の1ルール*で90%引きになるなんて、そんなのあんまりじゃないですか。
*3分の1ルール…賞味期限の残りが3分の1となる前にメーカーが小売店に納品しなければならない、という商習慣。法律で定められているものではない。
それでも抵抗のあるブランドさんに向けて、サブスクという仕組みを取り入れました。食品ロスはいつ出るかわからないものなので、ロスゼロでは「不定期の定期便」としているのですが、これならブランド名が表に出ることがないですし、お客様に元値を知られることもない。さらに、しがらみのあるメーカーさん同士でも一緒にパッケージングできるなど、さまざまなメリットがあるんですね。このシステムを取り入れたことで、たくさんのメーカーさんからさらにたくさんのお問い合わせをいただけるようになりました。
大切にしているのは、ロスになってしまった背景

―サブスクは今どれほどのユーザーがいらっしゃるのですか?
2千世帯ほどで、隔月でお送りしています。なので、常温保存できてロスの数が1千個以下であれば、躊躇なく買取させていただける状況です。ロスゼロでは、基本的にメーカーさんからお問い合わせいただいた場合にお断りすることってほとんどないんですね。美容サプリのような、食品のカテゴリー外のものや、ひとつの単位があまりにも大きいものはなかなか難しいのですが、それ以外はウェルカム。食品ロスを扱う会社が商品内容を選り好みするのは、少し違うなと思っていますので。
―ユーザーからの声はいかがですか?
それが、ほとんどクレームがないんです。当社のサイトの特徴でもあるのですが、サブスクの登録をする際に、「食品ロスを生かす仕組みです」「お届け時には内容が変わっている可能性があります」などの文章をしっかり読んでいただかないと、次のページに飛ばないシステムにわざとしていて。そのように、きちんと賛同いただいた上で登録していただいているからだと思いますね。
それとともに、お届けする際のボックスに、なぜこの商品がロスになってしまったのかを書いた紙も封入し、ストーリーを伝えることも大切にしています。3分の1ルールをはじめ、価格の改定でパッケージにあるバーコードが使えなくなった、お中元やバレンタインなどシーズンを過ぎてしまった、などの理由が多いですね。作り手の方の思いがそこにはきちんとあって、残そうと思って残っているわけじゃないと。お客様からも「家族で食品ロスについていい話ができました」「会社で同僚とロスについてお話ししながら食べました」などといった声も寄せられ、私たちもうれしく思っています。

自治体と連携することで自社でのロスもなくす
―可能なものは全て買い取るとのことで、御社で余ってしまう場合もあろうかと思います。この場合はどうされているのですか?
食品ロスを扱う会社が食品ロスを出してしまったら元も子もありませんので、ロスは絶対に出さないようにしています。例えば、東大阪市さんとは包括連携協定を結んでいて、市の子ども食堂担当の方と繋がっているので、余ったものはそちらに持っていくようにするなどし、立ち上げから今まで“ロスゼロ”で運営できています。私たちが配り先を探すとどうしても不公平感が出るので、行政と繋がって“今必要なところ”に食品ロスを届ける必要はあるなと思いました。
―自治体がしっかり協力してくださっているのですね。協定はスムーズに結べたのですか?
最初はやはり難しかったですね。メーカーさんとの取引開始のときもそうなのですが、最初は反応が芳しくなかったんです。ロスゼロの私たちの想いを伝え、事業を理解していただくことに力を入れていきました。内閣府に食品ロスを担当している部署があるかどうかを問い合わせ、農政省の方をご紹介いただいて。霞ヶ関に行って「こんな事業を考えているんです」とお話しさせてもらう中で、消費者省、環境省の方々もご紹介いただいたりして。そうやって繋がっていくことで、消費者省が行なっている食品ロスに関する取り組みにエントリーしホームページで掲載していただくなどが叶い、徐々に実績を積み今に至る形です。
子ども食堂だけでなく、兵庫県川西市さんではコロナ禍のときに医療従事者の方にお礼をしたいとの話が出て、5千人いらっしゃる医療従事者の方々にロスゼロから食べ物を送るということもしました。この取り組みは25トンの食品ロス削減になりました。
持続可能に繋がる鍵は、ひとつのチームとして動くこと

―サブスク以外の事業についても教えていただけますか。
自社のECサイトでの単品販売と、アップサイクルの取り組みも行っています。単品販売の場合は、まずメールや電話でお問い合わせをいただくことが多いので、賞味期限がどれくらい残っていて最低ロットがどの程度かという聞き取りをさせていただきます。
―それはなぜでしょうか。
賞味期限が2、3ヶ月あるものならそんなに価格を下げる必要はないので最低限の値引き率にしておいて、商談が決まればすぐに買い取り、翌日でも送ってきていただいて自社の倉庫に入れます。常温保存できるものなら買い取り、冷蔵冷凍商品なら各メーカーさんから直送していただき、当社は手数料だけいただく形です。食品なのでスピーディーに進める必要があるので、早くて翌日、だいたい2営業日程度でサイト掲載まで進めます。
―画像や文章はどうされているのですか?
画像は各メーカーさんが持っておられることが多いので、そちらを借用して掲載していますが、足りなければ自分たちでも撮っています。文章は、なぜロスになったのかなどのストーリーがとても重要ですので、自分たちで書いています。そこは、かつて手がけていたヘアアクセサリーのECサイト運用ノウハウが生きていますね。
―アップサイクルの取り組みとはどのようなものですか?
工場で、材料の状態で余っている食材ってたくさんあるのですが、そういった捨てるしかなかったものをロスゼロが引き受け、加工して、ロスゼロのブランド「Re:You(リユウ)」として販売する取り組みです。例えばチョコレートなら、商社さんがコンテナなどでおいしいものをたくさん輸入するけれど、大きな単位でしか販売しないので、20kg、30kgと余っていても誰も手をつけないんですね。小さい単位で商売する仕事ではないので。すごくいい食材で賞味期限は十分残っていて、でも捨てるしかないものってたくさんあるんです。「Re:You」ではそういった食材を主に扱っています。

―売り先はどちらになるのですか?
ロスゼロのECサイトや百貨店でのポップアップストアで販売しているほか、地域創生もできればとの思いで土地の作物と組み合わせ、ふるさと納税の返礼品に採用していただいたりもしています。例えば気仙沼でとってもおいしいイチゴが作られているのですが、この規格外のイチゴをフリーズドライにし、ロスゼロで仕入れた余剰チョコと合わせて「りゆう気仙沼みなといちご」という商品を作りました。

―お話しを伺っていると、誰も損をせず、みんなが笑顔になれる仕組みについてとことん考えておられるように感じます。
ヘアアクセサリーの販売から、アクセサリーの回収、アジア圏への寄贈など、いろんなことに携わる中で、持続可能なやり方というものを学んでいったように思います。大切にしているのは、売り手と買い手に加えて、メーカーの方々も含めて、みんなで同じチームなんだという意識。「売ります」「買いましょう」という一方通行な商売ではなく、「みんなでもったいないものを生かそう」という思いから何かが生まれる気がしていて。食品ロス削減ってつい理想論になってしまいがちなのですが、そうならないようにビジネスとして育てないといけない。すごく難しいのですが、どうすれば実現できるのかと日々頑張っています。

取材協力:株式会社ロスゼロ
https://www.losszero.jp/
サーキュラーエコノミーの視点から、ビジネスモデル分析
ロスゼロは、もったいない食品と美味しく食べてくれるお客様のプラットフォームとなりポジティブに食品ロスを解決する、三方良しのソリューションを提供しています。
製造業におけるサーキュラーエコノミーのビジネスモデルとして、北欧横断評議会であるNordic Innovationとフィンランドの政府関連団体のSitraが「サーキュラーバリューチェーン」を提唱しています。これらの要素を取り入れることで、資源効率を上げ企業の価値を向上させることができると考えられています。

参照:Circular Economy business models in the manufacturing industries
ロスゼロは2つの要素を組み合わせ、資源循環を実現しています。

製品の使用権または所有権をシェアすることで稼働率を上げる
→食品ロスを抱えている企業とお客様を繋ぐECプラットフォームを運営

修理、メンテナンス、アップグレード、再販、再製造によるライフサイクルの延長
→廃棄予定の食品ロスを買取り、詰め合わせやサブスク等の新たな売り出し方をすることで長寿命化
→自社サービスで余る食材は自治体と連携して子ども食堂等に寄付
ロスゼロは売り出し方を工夫することでブランディングをすることで、食品ロスの本来の価値を損なわずに関わるすべての人にとってプラスの仕組みを作り出しています。
企業にとって懸念点である「価格の大幅な値下げ」や「ブランドの損害」が起こらないため、多くの企業にとって食品ロスの削減を進める解決策になることが期待できます。