食品ロス削減のため 企業が今できること


日本の食品衛生技術は世界トップクラスといえます。しかし、その一方で食品ロスは年間500万トン以上とも言われており、その削減は急務と言えます。

そして解決には、企業の努力が必須といえます。今回は、食品ロスをなくしていくための現状と方針について紹介します。

1.食品業界の既存ルールについて

久米 今回は、食品ロス削減のために企業が今できることについてお話していきたいと思います。よろしくお願いします。

新井 1.食品業界の既存ルールについて2.食品流通の3分の1ルールについて3.「もったいない」をなくすために企業ができること。のお話をさせていただきたいと思います。

久米 環境と人では様々な社会課題について取り上げてきていますが、今起きてしまっている「もったいない」「ロス」を解決していくためには、なぜ起きてしまっているのか原因をきちんと探っていくことが大事だと考えています。

特に、年間500万トン以上のロスが出ていると言われる食品について教えてください。

新井 はい。日本は食に対する世界でもトップクラスの安全衛生基準を達成しています。それによって、いつどこで何を買っても安心して食べられる、素晴らしいシステムを持っていますよね。

ただ、そのシステムを動かしていく裏側で、非常に厳しくルールが決まっているため、まだ食べられるのに廃棄せざるを得ない食品が大量に含まれているというのが現状です。

ルール的なところで、規格外についてが挙げられます。食品ロスといえば規格外野菜が思い浮かぶ方が多いと思うんですけど、それはJAなどがサイズ・色などによって出荷できるかできないかを厳格に管理しているからです。

むろんそれによって安心してどこで買っても一定の品質の野菜が食べられる利点があるんですが、裏を返せば規格に合わないものは廃棄されてしまっている。

もちろんそれをジュースにしたりリサイクルに回したりはやっていますが、そもそもそこを見直そうという動きも必要かと思います。

久米 JAが規格を決めているって話は私もよく聞きますが、あれって実は日本全国の共通ルールがあるわけではなくて、各自治体で自地域で売られるミカンはこの規格にしようって感じで決めているんです。

新井 ブランディングみたいな感じですね。

久米 はい。棚に並べられたときに綺麗に見えるように、美味しそうに見えるようにっていうところを意識して規格が決められて、地域によって全然違う基準があるそうです。

新井 なるほど。

あと食品ロスの原因の1つに聞くのは「食品表示法」があります。

産地や賞味期限など決められた情報を必ず記載しないといけない法律で、例えばこのラベルに印刷ミスがあったとしたら、モノ自体は問題ないのに廃棄しなければいけないとか、運んでるときにちょっと剥がれちゃったとか見えなくなっちゃったりしたら、それも廃棄対象になるケースもあるようです。

品質管理に特化するあまり、品質に影響のない例えば外装のダンボールの傷とかでもはねられてしまう程になるのはちょっと違うと思いますよね。

2.食品流通の1/3ルールについて

久米 食品のルールと言えば「3分の1ルール」がよく聞くものですよね。あれはどういったルールなんですか?

新井 3分の1ルールは法律ではなく、食品業界が独自に決めた独自のルール・商習慣です。食品の流通過程で、製造業者から卸業者まで行くまで、卸業者から小売店まで行くまで、小売店から消費者に届けるまでの流通を3分割したときに、それぞれの過程で賞味期限の3分の1を過ぎたら廃棄しましょうっていうルールです。

久米 食品メーカーの工場で作りすぎて在庫にしておいたら3分の1を超えてしまって卸業者に受け取ってもらえないかもしれないってことですよね。海外でも3分の1ルールっていうのはあるんですか?

新井 海外でも似たようなルールあるんですけど、期間が2分の1だったりして日本より長くとってある国が多いです。日本でもこのルールを見直すべく、農林水産省など主導で変えていこうという動きがあって、今は2分の1ルールに変わりつつあるという流れがあります。

久米 少しずつ見直されてきてるんですね。

新井 あと品質管理の面で言うと、飲料のダンボールに傷があって返品になる事例なんかは、納品先が厳密にチェックしていることもあれば、そうでなく納める側が「これじゃあお客さんに渡せないよ」っていうプライドを持ってやってる場合もあるし、過去に返品になった担当者が経験から厳しくやっていたりと色んな理由が考えられますよね。

それ自体は企業の努力として素晴らしいんですが、本質って何だっけって、それを守ることが企業の価値なんだっけって考えたとき、そうではなく柔軟にした方がいいよねっていう流れに世の中がなってきています。

3.「もったいない」をなくすため企業ができること

久米 食品ロスを減らしていくためには企業はどういったことをしていったらいいんですか?

新井 日本は元々「もったいない」って文化がありますし「Mottainai」はグローバルで通じるくらい有名な言葉になってますけど、先に挙げた例は「お客様第一主義」って気質が影響しているので、お客様第一から、お客様も大事だけど、社会も環境も大事だよねって風になってはきています。

3分の1ルールの見直しもその一つですし、もう一つ大きいのは、そもそも作りすぎないっていうところですね。大量生産して売れ残りを安売りで処分するみたいな考え方から、必要な分だけ作るってことを、デジタルを使って精度を上げていけば、企業側のメリットにもなりますよね。

もう一つ、これも品質管理の例ですが、トヨタが関連会社に対して、品質に問題がない傷や汚れは気にしませんっていう声明を2021年に出しました。

以前に取材した再生ドラム缶を作ってる企業さんが言ってたんですけど、この声明は非常にインパクトがあったそうです。トヨタほどの企業が言うことで「これ納品していいんだ」と非常に多くの人が安心したし、実際にロスが減ったそうです。

久米 そういった大企業が方針を打ち出すことで、下請けや孫請け企業も食品ロスといった無駄を控える取り組みを進めやすくなりますね。

新井 特にいまは小売業が力を持つ時代なので、納めるときに気を遣っちゃいますから、大企業がそういった考え方を発信するのは非常にインパクトが大きく、隠れたロスがかなり減るんじゃないかなと思います。

久米 ありがとうございました。