Z世代が支持する「エシカル就活」

この春は2024年に卒業する大学3年生らを対象とした企業の採用説明会が解禁され、就職活動が本格的に始まっています。Z世代と呼ばれる1990年代半ばから2010年頃までに生まれた若者のキャリア志向は、ひとつの安定した会社で勤め上げる長距離走型から随分と変わってきているようです。そうした中で注目されているのが、「エシカル就活」。Z世代のスタートアップ企業の社長がZ世代のメンバーと共に、同世代の就職を支援しています。

「エシカル就活」とは?

「エシカル就活」を運営しているのは、Allesgood(アレスグッド、神奈川県鎌倉市)。「エシカル就活」は、気候変動や環境保全、食糧問題などの社会課題に取り組む厳選された企業の情報を掲載し、社会課題の解決を志す学生とのマッチングを支援する採用プラットフォームです。2021年5月に、当時22歳の大学生、勝見仁泰さんが立ち上げました。

「エシカル」とは「倫理的な」という意味で、消費者庁は、「消費者それぞれが各自の社会課題の解決を考慮し、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うこと」を「エシカル消費」と定義しています。つまり、業種や業界で選ぶのではなく、人や地球環境、社会に配慮して取り組んでいる企業を選ぶ就職活動が、「エシカル就活」といえそうです。

社会課題への関心が高いZ世代

昨今、Z世代と呼ばれる若者のSDGs(持続可能な開発目標)をはじめとする社会課題への関心度が高まっています。株式会社ディスコの「就活生の企業選びとSDGsに関する調査」(2023年春卒業予定の大学生・大学院生約1000人が対象)によると、SDGsに積極的に取り組んでいることが、その企業への志望度に「影響する」と答えた人が4割に上っています。

株式会社ディスコ実施「就活生の企業選びとSDGsに関する調査」(2023年春卒業予定の大学生・大学院生約1000人が対象)より

その一方で、「企業の社会課題の取り組みが不透明」、「SDGsが免罪符になって、本気で取り組んでいるかわかりにくい」といった声も上がっていました。現状の就活サービスでは「業種・業界」といった枠内でのリサーチしかできず、多くの学生が企業選びに苦戦している状況でした。

「エシカル企業・団体カオスマップ」を制作

困難な状況は、勝見さんも同じでした。勝見さんは、実家が八百屋を営んでいることもあって、幼い頃から事業家を目指していました。高校時代、バックパッカーで東南アジアを放浪。フィリピンで、子どもがゴミの山から金属などを探す光景を見て、貧困問題に関心を持ったそうです。

大学は経営学部に進学。文科省のプログラム「トビタテ! 留学JAPAN」に採用され、ドイツ、コスタリカ、米国に1年間留学して、途上国の特産品を活用した有機化粧品事業を立ち上げたこともあります。帰国後に起業を志していたのですが、コロナ禍で一時断念。大学4年になって就活をスタートしたのでした。

勝見さん自身、就活時は「ビジネス×社会課題」を軸に企業探しをしていたものの、従来の就活サイトでは社会課題に関する企業の情報がなかなか集められませんでした。社会課題の解決に興味・関心を持ち、就職活動に取り組んでいる学生が抱えている「どの企業が、どんな社会課題に取り組んでいるのかを網羅的に知ることが難しい」という課題を解決するためにできたのが、社会課題別に企業を整理した「エシカル企業・団体カオスマップ」です。

2022年5月に制作した第1弾では、気候変動・環境保全・食糧問題の3つの領域に取り組む約60社を分類。続いて、「国際協力」、「ジェンダー平等」、「自立支援(マイクロファイナンス、雇用創出、教育)」、「地方創生」、「ヘルスケア」などの領域に取り組む企業・団体をまとめて、これまでに第4弾までを公表。これまでサイトには、60以上もの企業が参画しており、5000人超の学生が登録しています。

社会に貢献するのが幸福につながる

Z世代が社会課題に強い関心を持つ傾向があるという背景には、インターネットやSNSなどの普及が挙げられるでしょう。幼いころから、スマートフォンを通して世界中で起きている様々な出来事とリアルタイムで接しているから、ひと昔前とは、目にする情報量や幅が格段に違います。

また、Z世代は、周囲と「競争」するよりも、共感できる仲間と協力して「共創」する意識が強いと言われています。デジタル技術の急速な進化やコロナ禍など、将来の予測がなかなか見通せない状況が続いています。長引く経済の停滞や人口減少なども、働き方に影響を与えているのでしょう。会社や地位にとらわれず、年齢や場所に縛られず、やりたいことを追求する人も目立つようになってきました。

「ソーシャル・グッド」。社会に良い影響を与える活動などを意味しますが、Z世代が好む言葉だと言われています。押し付けられるのを好まないZ世代は、得意分野を磨ける職場を求め、自分で決めた仕事で社会の役に立つことに幸福を感じるようです。経済的な豊かさだけでなく、社会や環境問題などに貢献できた方が仕事の価値が高まり、幸福感も上がるということなのでしょう。

Z世代が推進するSX

アレスグッドのミッションは、「テクノロジーで産業界のSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)を加速させる」。まずは「就活」を入り口にして世の中を変革していきたいと、勝見さんは考えています。「口先だけで行動が伴わない企業を、Z世代の学生はしっかり見抜きます。環境配慮や人権などを軽視し、経済合理性だけを追求する企業には就職したくないのです。そして、エシカル就活をした学生たちは、企業の内部から変革を起こすことになるでしょう」と、勝見さん。

アレスグッドの試みに関心を持つ大手企業も少なくなく、2022年7月、サイバーエージェント・キャピタルや丸井グループなどが出資、1億円を超える資金調達を達成しています。社会課題解決のために、志のある企業と将来世代とが「共創」できる環境を整えていきたい――勝見さんの夢は広がります。