三大グローバルリスクの1つ 「生物多様性の喪失」によって何が起こる?


海水面上昇や異常気象による災害など目に見える気候危機が引き起こるなか、持続可能な社会に向けて世界中が動き出しています。特に脱炭素やカーボンニュートラルの取り組みは数値化制度が進んでいますが、もう1つのリスクについてはどうでしょうか。今回は、三大グローバルリスクの1つ「生物多様性の喪失」の及ぼす被害と、企業はどうするべきかについて紹介します。

1.三大リスクの1つ「生物多様性の喪失」とは

久米 今回は、企業が注目すべき三大グローバルリスクについてお話を伺っていきます。まずは3つのポイントからお願いします。

新井 はい。まずは三大グローバルリスクとは何か、次に生物多様性の重要性について、3つ目に企業ができること、この三つでお話をさせていただきたいと思います。

久米 世界経済フォーラム2022年の報告書にて、今後10年間で起こる可能性と影響が大きいリスクに関するランキングが出されています。

その中では

1位:気候変動への適応(あるいは対応)の失敗

2位:異常気象

3位:生物多様性の喪失

が挙げられています。

気候変動や異常気象についてはカーボンニュートラルなどの対策がされていると思うんですけれども、生物多様性についてはどういったことが原因で起こっているんでしょうか?

新井 まずは都市開発や農地開発によって森林などがどんどん減っていってることで、動物の棲み家がなくなって数を減らしてしまっているという問題が一つあります。

あともう一つが森林の中でも、いわゆる里山とも呼ばれる「人工林」のような、木を切るために人間が管理している森林も関わってきます。

特に日本の場合だと、こうした里山が放置林として、外から見ると結構うっそうとしていて「自然だな」って感じなんですけど、実際は中の生物の循環が途切れてしまっているパターンがあります。

久米 なるほど、木を適度に減らしていかないと、森林の健康が保たれないということなんですね。

新井 はい。その辺りは別の動画でもお伝えしてるんですが、特に人間が管理している里山(人工林)については、適度に間伐をしていかないと、水を保持する機能が失われていってしまいます。中がどんどんジメジメしちゃったりして。

健康的な森林は雨水を適度に蓄えて、それが川に流れて最終的に海に行くし、そのときに栄養も運んでいってくれるんですけれども、こうした流れが途絶えてしまうと、今度は海の健康も損なわれてしまうというようなことが言われています。

さらに、森林の保水力が落ちることで土砂崩れみたいな災害となって人間の方に降りかかってくるっていうことも近年増えてきています。

【林業】「木を切ることは悪いこと」は間違い?【林業】「木を切ることは悪いこと」は間違い?

2.生物多様性の喪失が経済社会に与える影響

久米 経済的な活動にはどういった影響が起きるんでしょうか。

新井 世界経済フォーラムの報告書によると3つのリスクが指摘されています。

まず1つ目は事業自体が自然に依存しているリスクです。これは3つの業種で特に高いと言われてまして、建設業・農業とそれから食品・飲料産業です。

どういうことかというと、建設業だったら森から木を切ってくるとか、鉄鉱石から鉄を取り出すとか、あとはコンクリートだって元は川砂だったりするので、自然界から資源を直接取ってるわけですよね。これらが損なわれると事業継続ができなくなってしまいます。

農業の場合もやっぱり直接的に健康な土壌とか綺麗な水、こういったものがベースになっている。食品・飲料産業も同じように、自然からの恩恵(サービス)というものが損なわれると直接的に損害を受けるリスクです。

2つ目が、事業が自然界に与える影響から派生するリスクと言われてまして、これは例えば、世界的な森林破壊を食い止めるために、ある地域では新規の農地開発を禁止しますみたいな規制とかが生まれたりとか、あとは消費者の趣味・趣向が段々とサステナブルな方に変わっていくとそれに伴って森林開発を伴う事業に対する投資が無駄になってしまうみたいな、こういったリスクを指摘されているわけですね。

最後の3つ目は、自然の喪失が社会に与える影響から生まれるリスクと言われていまして、森林が減ることによって、例えば感染症が流行したりと直接的に被害があるパターンです。

森の奥地にいた生物が食べ物を求めて住宅地に出てくることがありますよね。そういうコウモリとかネズミとかが未知のウイルスを持ってる可能性があるり、それが広がるリスクが当たります。それと、森林には大気を浄化するような機能もあるわけで、例えば都市部で森林伐採が進んだりすると人々の健康が害される健康リスクがあるっていう報告もされています。

久米 ここ3~4年ほど新型コロナウイルスの拡散に悩まされてますが、そういった新型の感染症も今後、森林の破壊が原因で起こりうるっていうことですね。

新井 そうですね。さらには森林の減少が貧困とか紛争に繋がるっていうことも言われてまして、貧困世帯と言われるところほど直接的に自然へ依存した生活をしているため、例えばインドとかパキスタンとかアフリカといった国ほど農業が高いリスクに晒されており、国全体が脅かされたり、洪水が起きたりすると格差がどんどんと強まったり、それによって紛争が起きるので平和も脅かされるといったリスクが指摘されています。

久米 輸入に頼っている日本は、そのリスクを自分ごと化として捉えないといけないですね。

新井 そうですね。実感しづらい事ではあるんですけれど、確実に我々に関係しているということは忘れないでいた方がいいですよね。

3.企業ができる生物多様性への貢献 ネイチャーポジティブ

久米 これまでは企業の経済活動が自然を破壊することに繋がってしまっているという課題がありましたが、今後、それを食い止めたりとか、または事業によってポジティブに回復していくためにはどういったことができるんでしょうか?

新井 ESG(企業の非財務面を重視した投資)の文脈の中で、先進的な大企業では気候変動への対策と同じように社内に組織を作ったり委員会を作ったりして、生物多様性についてもそれぞれポリシーを決めてアクションを設定しているところがあるので、こういった活動はまず対策の1つと言えます。

そのアクションの一例として、認証取得というアクションが挙げられます。例えば森林であれば「FSC認証」、海洋であれば「MSC認証」というような各種認証を、企業ごと製品ごとに取得していくことで多様性の喪失に対するブレーキをかけていくということが期待されます。

久米 なるほど。最近はFSC認証の名刺を使っている会社も多いですから、スモールスタートではありますが、少しずつ始めている企業さんも意外に多いのかもしれませんね。

ですが、カーボンニュートラルへの対策であればCO2の排出量をどれだけ減らせたかといった定量的なデータを企業が取ったりとか、簡単に計算ができるツールとかも最近出てきていますが、生物多様性への配慮を「定量的に」効果を計測していくっていうことは可能なんでしょうか。

新井 それは世界経済フォーラムの報告書の中でも課題とされていますね。気候変動に関する問題については、ある程度歴史と世界的な認知もあって定量化っていうのが進んでいるんですけど、それに対して生物多様性の喪失とか、それによりどれくらいの被害が予想されるのかみたいなところって、まだまだこれからというところで、なかなか難しいのが現状です。

久米 いち企業のCSR活動だけですと、そういった定量的なデータを出すほど活動をするっていうのは難しいかなとは思うんですが、事業の中で提供することができれば、10年・20年というスパンで考えるとすごく大きな影響が与えられそうですね。

新井 そうですね。だから、本当に小さなことでも、いま取り組むということが重要なのかなというふうに思います。

久米 たとえ小さなことでも続けることで価値が見えてきますね。ありがとうございました。