健康食品からジェット燃料まで。バイオ技術で世界をより良くするユーグレナ社の事業

サステナビリティ・ファーストを体現する 株式会社ユーグレナ インタビュー①

小さな小さな微生物の力で世界を救う。

微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)から食品・サプリメント・化粧品を手掛け、さらに2020年からバイオ燃料の供給を開始した株式会社ユーグレナは、自社のフィロソフィー(哲学)に「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を掲げ、いま日本で最も持続可能性に本気な企業の1つです。

今回は、そんなユーグレナ社のビジネス/ビジョンの両面を前後編でそれぞれ掘り下げることで、ビジネスにおける本質的なSDGsの実践とはどのようなものなのかを見ていきます。

ユーグレナ社創業の経緯

株式会社ユーグレナ 広報宣伝部部長 北見裕介 /
下着メーカー、化粧品メーカー、IT企業を経て、2019年に株式会社ユーグレナに入社。これまでに情報システム、Web担当、宣伝、EC、広報を経験。ユーグレナ社では、広報宣伝部の部長として、広報全体の企画・実施やオウンドメディア施策の企画策定、商品・素材のPRなどを担当している。PRTIMES認定の初代プレスリリースエバンジェリスト。

ーまず創業の経緯からお願いします。

株式会社ユーグレナは2005年に創業しました。きっかけは、創業者である出雲充が大学時代にバングラデシュにインターンシップで行ったことです。

現地に行く前は飢えに苦しむ人たちが多いと思ってたんですが、実態はそうでなく偏った食事による栄養失調が多いと知り、その栄養失調を解決するためには、何か新しい食材が必要であると考えました。

というのも、例えば野菜って色んな栄養がありますよね。でもそれを生鮮食品のまま向こうに持っていくには冷蔵設備が必要です。ということは現地に電力供給等のインフラが整ってないと駄目ですよね。そうではなく、例えば一粒食べるだけで体が元気になるような新しい健康食品を考えないといけないと出雲は考えました。

そこで、帰国ののち学生仲間や先生方に話を聞いて回って、栄養豊富なまったく新しい食品として可能性があったのが、藻の一種であるユーグレナ(和名:ミドリムシ)でした。

ーユーグレナの培養と食品化はすんなりできたんでしょうか?

いえ。ユーグレナは59種類の栄養素を含む小さな小さな藻なんですが、それだけに他の微生物たちの恰好のエサになってしまいます。培養すればするだけ他の微生物が食べてしまう。それをどうやって人間が食べられる量まで培養するかが課題でした。

そこで出雲は会社を立ち上げました。まだ事業化の目処がないどころか培養技術の確立すらできていませんでしたが、出雲は必ずこれを成功させて、それをバングラデシュに届けることではじめて栄養失調の問題が解決できるんだ、この小さな藻で世界を救うんだ、という強い思いから株式会社ユーグレナと名付けました。

その後、実際に培養に成功して食品事業が立ち上がり、さらには化粧品、バイオ燃料なども作れるようになり今に至ります。

現実に根ざしたバイオ燃料事業とは

ー今ユーグレナ社の事業の構成はどんな形になっていますか?

食品事業、化粧品事業、バイオ燃料事業、遺伝子解析事業、そして研究開発。大きく分けてこの5つがあり、さらにその後ろに控えているのが、バイオプラスチック研究や農業分野でのバイオテクノロジーの活用です。

バイオ燃料事業に関しては、創業15年目の2020年から、使用済み食用油とユーグレナから抽出された油脂等を原料として製造したバイオ燃料「サステオ」の供給を開始しました。まだ実証プラントという検証用の生産施設を動かしている段階なので、今後2025年に向けて商業用のプラントを作っていくステージです。

ー御社のバイオ燃料はユーグレナと使用済み食用油が原料だそうですが、将来的にユーグレナ由来100%で飛ばす構想ですか?

いえ。技術的には可能ですが、それより「いかに循環型社会を作っていくか」が大切だと思っていて、その実現には最も適した原料を使っていくのが近道です。

そういう意味では使用済みの食用油ってすごく優秀な原料なんですよね。植物油ならCO2を吸って育つし、それがまず一度食用に使われて、さらにそれを原料にして燃料を作るので無駄がない。ただし、廃食油は生産するものではなく発生するものなので上限量が決まっています。そこを補う意味でユーグレナの価値が出てくると思っています。

そこを履き違えて、ユーグレナ100%にこだわって実用化が遅れたとしたら、意味がないですよね。それよりもなるべく早く・多く生産して、皆さんに使い慣れて頂くことが大切です。これがつまり社会実装だと思いますので、僕たちはそこを大事に考えています。

ー社会実装していくにあたって意識していることはありますか?

いま弊社の実証プラントを最大稼働したとしてもまだまだ社会を変えるのに必要な量にはなりません。ごく少量です。なので、まずはこれを1台や1社にまとめて導入するのではなく、少量をたくさんの移動体に入れて、稼働に問題がないことを皆さんに確認して頂くこと、そしてそれを発表することを意識しています。

なぜかと言うと、いざ将来大量に生産できた際に「安く沢山できました!皆さん使ってください」って売り出しても、よく知らない燃料を自分の車に入れるのって抵抗がありますよね。自家用車でさえそうなのに、大型バスや飛行機に何か不具合があったらと思っていてはなかなか導入できないじゃないですか。いまも安全であるというのは規格として問題ないとなっているにも関わらず、その「抵抗感」があるためになかなか進まない。

なので「この車両に弊社の燃料を使って頂きました」ときっちり発表して、皆さんに安心して使えるんだっていう実感を持ってもらうのが今のフェーズだと思っています。安全の次に必要な、安心のフェーズなんです。

ユーグレナ社のバイオ燃料を使用して走行しているバス

発表をたくさんして知ってもらってニーズを広げれば、工場を大きくできる。工場が大きくなると価格が下がる…っていうのが連動してくるので、ニーズが高まれば高まるだけ価格が下がっていく。例えばパソコンも最初は一台100万円とかって感覚だったのが、今は10万円以下でも買えますよね。バイオ燃料においても同じことだと思ってます。

ー最近の発表ではどんなものがありますか?

ジェット燃料に関しては、成田空港のハイドラントっていう地下タンクのシステムで給油できるようになりました。

なんの事か分からないと思いますが、これはすごい進歩なんです!これまでは納品量が少ないためドラム缶から手作業で飛行機に給油していたんですが、通常オペレーション外の作業なので負担が重く、時間がかかるのでダメですって事があったんです。ですが、地下給油システムに燃料を入れる許可がもらえたので、成田空港では今後はいたって普通に飛行機に給油することができるようになります。

ー時代が着実に変わってきていると感じますね。量が足りないだけで、品質的には100%サステオでも飛行機は飛ばせるんですか?

はい。100%だとすぐになくなってしまう量しか製造できていないので混合がほとんどですが、弊社が製造する次世代バイオ燃料「サステオ」は国内軽油規格に合致し、JIS規格、品確法上軽油なので、100%バイオ燃料でも移動体に使用することが可能です。そのことを皆様に知って頂きたいので、スーパー耐久レースでST-Q クラスに参戦しているマツダさんの車両に100%で使って頂いています。2022年全戦参戦しています。

「誰も取り残さない」食品事業について

ー続いて食品事業について伺いたいんですけれども、新製品を出されたとか。

はい。「からだにユーグレナ」シリーズのうち、マスカット&ハーブ味が一番の新商品で、自信作です。からだにユーグレナ初の機能性表示食品です。ストレスでぐっすり眠れない方や睡眠の質を高めたい方に飲んで欲しいですね。味も夜のリラックスタイムに合うように甘すぎないように工夫しました。

加えて味について1つ話をすると、ユーグレナには59種類の栄養素が含まれてるんですが、藻類つまりはワカメや昆布の仲間なので海藻っぽい味がします。そのため味のクセが強いと感じるお客様も中にはいらっしゃいました。

「それでも体にいいから皆さん食べてください・飲んでください」っていうのがこれまでの僕たちの売り方だったんですが、それってお客様に1つ我慢させてますよね。

SDGsのゴールには健康だけじゃなくて、健やかに過ごせるっていう指標があります。これを深読みするなら「美味しい」って感覚を捨てずに健康にならないといけないし、環境にも配慮しないといけないっていう、すごくわがままな話だと思うんですよ(笑)

そのバックグラウンドがある中で、ユーグレナをただの「未来の栄養源です」じゃなくて、社会の当たり前にしていくには絶対に美味しくないと駄目だよねって事で、2021年から「あとはおいしくするだけプロジェクト」が立ち上がりました。

料理人の鳥羽周作シェフに当社のコーポレートシェフとして参画いただき、開発を進めてきました。これによってユーグレナをいかに日常的に飲んでもらえるようになるかのチャレンジができているなと思っています。

「59種類の栄養素が入ってるから飲む」ではなくて、美味しくて飲んでいたら59種類の栄養素が手に入ったよっていうふうに、これまでの僕たちの考え方がすごく変わっています。

ー栄養の問題で言えば、タンパク質危機に対してユーグレナ社の考えはありますか?

そうですね、ユーグレナにもタンパク質が含まれているんですが、肉類には全然敵わないんです。ですが僕たちとしてもタンパク質危機という問題は当然認識していて、そこへのチャレンジを今後考えてる必要があると捉えているものの、まだまだって感じですかね。

ただ、私たちのキモはバイオテクノロジーです。誰もできないと言われていたユーグレナの培養に成功したことに最大の価値があると思っていて、「株式会社ユーグレナ」なのでユーグレナに注目されがちですけども、それ以外の栄養豊富な食品を培養できるんじゃないかっていうのは考えているところで、それが弊社のフィロソフィー(企業哲学)であるSustainability First(サステナビリティ・ファースト)なんです。

ここで「ユーグレナ・ファースト」「ミドリムシ・ファースト」って言わなかったのは、世界を救うために必要な素材を私たちが社会実装していく方が大事だって事だと思いますので、今後も色々な方法を模索していく構えです。

肉や魚をもう食べられない?「タンパク質危機」とは

ペットボトル販売を止めたパッケージの改革

ーフィロソフィー改革に際して、ペットボトル販売をやめるなど包装面で環境負荷の削減をしたと伺いましたが、コストは上がりましたか?

やはり上がりますね。ペットボトルって売ることに関して言えばすごい優秀ですよね。量産しやすい、加工しやすい、保存状態、冷蔵の仕方、全てにおいてペットボトルはすごい優秀なもので、そこに比べたら価格が上がってしまう。

でも弊社の未来を生きる当事者である10代のCFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)が発信した通りなんですが「消費者が考えなくてもちゃんと環境や社会に配慮されている商品」として出すべきっていうのがあって、そのために生産コストが上がってしまうのは吸収すべきって考えています。だからこそ私達はペットボトル商品を全廃しました。

ー売上げへの影響はどうでしたか?

ベンチャーであるユーグレナ社がようやくペットボトル飲料に参入したタイミングで全て引き揚げる形になったので、もちろん売り上げに響くインパクトは大きかったです。

というのも、ドリンク売り場=ペットボトル販売が主に感じますよね。たとえば紙パックになった瞬間、乳製品や野菜ジュースのコーナーにしか置けなくなるんです。皆さんドリンクを買うときは当たり前にペットボトルのコーナーに行く方が多いです。

そういう意味で売上へのインパクトは正直大きかったですが、でもそれをマイナスだって捉えていたら延々と変わらない。僕たちの事業って、大手の飲料メーカーさんに比べればまだまだミクロな規模なので、大手がペットボトル販売を止める事に比べたら僕たちのダメージのほうが少ないです。

ー紙パッケージにしてプラスチック削減したとはいえ、やっぱりシングルユース(使い捨て)容器を使っているっていうところで何か将来的なイメージはあるんでしょうか?

バイオ燃料の話と同じなんですけども、これがたくさんの人に飲んでもらえるようになれば、自分たちでパッケージ製造の流れを作れるんじゃないでしょうか。

今はまだまだ供給量が少ないので、紙パック業者さんのご協力のもと、できる範囲で負荷軽減に努めているんですが、僕たちが市場の中ですごいインパクトを持つ飲料になっていけばそれだけ生産量が増えるので、その分自由が利かせられるようになる、様々な選択肢が取れるようになると思ってます。

だからこそ、今いかに多くの人に日常的に飲んでもらえる状況を作っていくかが大事で、それによって需要が拡大していけばもっといいパッケージ、もしくは全く新しい形で実現できるかもしれないと考えています。

ーありがとうございました。

インタビューの中では「社会実装」「チャレンジ」という言葉がよく聞かれ、SDGsやサステナビリティ・ファーストがただのお題目ではなく、それを実現するためにどう行動すべきかという指針になっていることを感じました。


後編では、そんなユーグレナ社の経営・思想についてさらに触れていきます。

取材協力:株式会社ユーグレナ

企業が世界を救うためにチャレンジができる環境とは