肉や魚をもう食べられない?「タンパク質危機」とは


肉や魚が手に入らない未来がすぐ迫っている?
今回は、タンパク質危機とは何か、そしてその理由である畜産・漁業の抱える深刻な問題について紹介する。

肉や魚をもう食べられない?「タンパク質危機」とは?

飴屋 今回は「タンパク質危機」について伺っていきたいと思います。タンパク質の危機とはなんでしょうか?

新井 「タンパク質危機」というのは人間に必須なタンパク質が、いまの畜産・漁業のあり方では人類全員に行き渡らなくなることを指します。
これにはポイントが3つあって、1つめはタンパク質と人類との関わり方について、2つめは畜産の環境への影響について、3つめは漁業の環境への影響についてです。
それぞれ詳しく解説していきます。

1.タンパク質と人類の関わり

飴屋 1つ目のタンパク質と人類との関わりについて教えてください。

新井 はい。ダイエットなどでも良く耳にする三大栄養素(タンパク質・炭水化物・脂質)ですが、なかでもタンパク質は特に人間が本能的に欲する傾向があるという研究結果があります。

飴屋 そのくらい人間にとって重要な成分ということですね。

新井 さらにタンパク質の中にも、動物性タンパク質と植物性タンパク質があって、効率のいい吸収の観点でいうと、動物性のほうが優れているので人類に嗜好されてきました。

飴屋 その大事なタンパク質が足りていないってことなんですか?

新井 そうなんです。
先進国の中で言うと加工食品が非常に増えていて、これにはタンパク質も入ってはいるのですが、主に炭水化物と脂質で構成されています。新興国なんかに行くと肉や魚が高くて買えず、そもそもタンパク質が摂れていないんです。
タンパク質の生産にはコストがかかるので、高価になってしまい行き渡りにくい問題があり、現状でも摂取バランスがかなり悪くなっています。

さらに2100年まで世界人口はガンガン伸びていくと言われているので、今でさえ足りてないのに、どんどんバランスが悪い状態が広まっていくという課題が指摘されています。

今の畜産・漁業のあり方で、増えていく人口の分を増やせるのかというと、森林伐採や気候変動の問題に複雑に絡み合っているので、なかなかそれも難しいんです。

2.畜産の環境への影響 ~開墾による影響~

飴屋 2つめの畜産が環境に及ぼす影響はどういったことですか?

新井 大きく分けて2つあります。1つは開墾による影響、2つめは飢餓への影響です。

1つめの開墾の影響についてですが、人類が地球上の土地をどう利用しているかというと、利用可能な土地面積のうち35.5%が森林、29%が砂漠・氷河、残りの35.5%が農業利用で使われています。そして農業利用の8割が畜産で使われているんです。

飴屋 ほぼ畜産が占めているんですね。

新井 そうなんです。だから人類用の耕作地は全体の約8%しかないんです。
利用可能な土地の約4分の1が畜産のために使われていて、この中には放牧の他に飼料の生産も含まれます。

飴屋 なるほど。家畜が食べる穀物などの生産も含まれているということですね。

新井 そうです。だから今後人口が増えるので家畜を増やそうと思っても、これ以上増やしたら森林がどんどん減っていくという問題に直面してしまうんです。

2.畜産の環境への影響 ~飢餓への影響~

飴屋 もう一つの飢餓への影響について教えてください。

新井 小麦・トウモロコシ・大豆などの穀物の生産において、小麦の25%、トウモロコシの50%、大豆の75%、これが家畜が食べている飼料のために作られています。

飴屋 人間より食べていたんですね。

新井 めちゃくちゃ食べてます。
さらにタンパク質の変換効率というのがありまして、飼料用穀物100kgに対して、鶏肉は20kg、豚肉は10kg、牛肉は3kgしかとれないんです。
だから畜産というのはタンパク質の変換効率が非常に低いんですよね。鶏・豚・牛が食べている穀物を人間に配れば、世界の食糧問題は解決するとまで言われています。

畜産の環境への影響についてまとめると、人類が肉を介してタンパク質を摂取したいがために、森林を切り開いて、化石燃料を燃やして開墾し、生態系が失われたうえに未知のウィルス等のリスクを作り出し、さらに、牛のゲップがメタンガスを発生するので気候変動を促進しているといった環境への負荷が指摘されているんです。

古くはベジタリアン、今でいう「ヴィーガン」で活動する方々が出てきていて、その方たちの危機感は、そういった理由が一因になっています。

3.漁業の環境への影響

飴屋 3つめの漁業の影響について教えていただきたいです。

新井 実は漁業って環境への負荷が非常に大きいと言われているんです。
1970年から2012年の間で海洋生物が半減しているという調査があって、その原因となっているのが底引き網漁です。ジャンボジェット機が13機入る巨大な網をトロール船で海底に掛け、バーっと引きずって何から何まで根こそぎ持っていくという効率のいい漁法なんですが、これが海洋生物の減少に大きく影響しているんです。

飴屋 環境への負荷はそんなにすごいんですか?

新井 ポイントが2つありまして、1つは乱獲による影響、2つめは生物多様性への影響です。

1つめの乱獲の影響についてですが、漁獲高140万トン/年と言われていたのが、しっかり調査したところ実は390万トン/年もあったんです。
このギャップが何かというと、底引き網漁で獲った目的の魚じゃない魚なんです。
要は名前も知らないマイナーな魚たちなので、売れずに全て捨てられてしまうんです。それがかなりの量あるからなんですね。

2つめの生物多様性への影響というのは、海底を蹂躙するような漁法なので、そこで暮らす小さい魚・カニ・エビやその棲み家が全て破壊されちゃうような問題です。
一説によると、地上の森林伐採よりも海底の多様性損失の方が進んでいるとも言われています。

飴屋 そこまで進んでいるんですね。

新井 とはいえ、広い海の中の問題なので本当のところは分からないんですよね。
だから先ほど話した調査も、そういう説もあるというぐらいの感覚で聞いてもらった方がいいかなと思ってます。

あと「養殖があるじゃん」と言われがちですが、養殖は養殖で餌となる魚を獲ってこなきゃいけないんですよね。数キロの魚を育てるためには、それ以上の魚を獲ってくる必要があり、漁獲量の面でいうと余計に悪化するという説もあります。

今回のまとめ

飴屋 肉も魚も問題あるなかで我々はどうしていったらいいのでしょうか?

新井 そこに関しては代替食品の開発が進んでいて、すごくホットな話題なんですが、それは別の動画で話したいと思います。

そもそも問題がこれだけ出るくらい、肉や魚は人類にとって魅力的だという事なんですね。
私自身も無くなって欲しいとは思わないし、これからも上手く共存共栄していければと思っております。

飴屋 ありがとうございました。

虫?植物?タンパク質の代替食品の現状と未来

■動画撮影にあたり参考にした取材先

オオニシタクヤ
昭和女子大学環境デザイン学部・准教授

堀晴菜
昭和女子大学国際文化研究所リサーチアシスタント