ファッションの喜びと業界の闇 現状打開の3rd Wayを探る

Part1
ファッションの喜びと業界の闇 現状打開の3rd Wayを探る
~サステナブルファッションの現在地~
Part2
ファッションの喜びと業界の闇 現状打開の3rd Wayを探る
~ファッション業界の闇は誰のせい?~
Part3
ファッションの喜びと業界の闇 現状打開の3rd Wayを探る
~ファッションとSDGs 同時達成の道とは~
Part4
ファッションの喜びと業界の闇 現状打開の3rd Wayを探る
~今後生き残るアパレルブランドとは?~

Part5
ファッションの喜びと業界の闇 現状打開の3rd Wayを探る
~サステナブルファッションとは何か?~

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好きな自分、表現したい自分を演出してくれるファッションという存在。

私たちにたくさんの喜びをもたらすその裏で、業界全体を通じて人権問題、環境問題といった大きな闇を抱えている。

近年「サステナブルファッション」をよく耳にするが、いまだ根本的な解決には至っていない。

ファッションがもたらす高揚感とサステナビリティを両立させるために、私たちができることとは。

スタートアップからファッション業界の課題解決に向き合う田中美咲さん(株式会社SOLIT
代表取締役CEO)と中川かおりさん(newR株式会社代表取締役)と共に、その解を探っていく。

サステナブルファッションの現在地

新井 今回は、「ファッションの喜びと業界の闇 現状打開の3rd Wayを探る」というテーマでお話を伺います。

早速ですが、近年よく耳にする「サステナブルファッション」の動向について、お二人はどのように感じていますか?

田中 消費者が手に取りやすい価格でサステナブルな商品が出てきていることは、とてもいいことだと思っています。

ただ、本来はサプライチェーン全体を見直さなければ根本解決に至らないはずなのに、再生ポリエステルやとうもろこし由来など、「素材だけ変えればいい」であったり、「消費者の選び方だけ変わればいい」と一部に責任が委ねられてしまっているように感じています。

Guest:田中 美咲(たなか みさき)/ SOLIT株式会社代表取締役CEO
1988年奈良県生まれ。立命館大学 産業社会学部を卒業。2013年に一般社団法人防災ガール、2018年に株式会社morning afer cutting my hair、2020年にオールインクルーシブファッションブランド 株式会社SOLITを設立。株式会社SOLITでは「iFデザイン賞」において最優秀賞であるGOLDを受賞。

新井 リサイクル業者からすると、あまり新素材を増やさないでほしいのが正直なところです。素材が混ざっているとリサイクルできず燃やすしかないんですよ。

“素材大喜利”のような状態になってしまっています。

中川 素材大喜利、まさにおっしゃる通りです。

サプライチェーン全体の見直しでいうと、アパレル業界の商習慣も大きな問題です。とある百貨店の催事に伺ったとき、「欠品を出さないようにとにかく在庫を積んでほしい」と注文を受けました。

売れるかはわからなくても、とにかく量を担保しておくのが百貨店の消化仕入れのあり方なんですね。大量生産・大量消費・大量廃棄を変えていくためには、アパレル業界に根付いた慣習から変えていかなければなりません。

この20年で低下する服の質

新井 物議をかもす「ファストファッション」について、どう思われますか?

田中 いいところも悪いところもあって、難しいですよね。

ひと言で言ってしまえば、大量生産・大量消費を加速させてきた存在だと思うので、ネガティブに捉えられる部分もあると思います。

しかし、ハイブランドと同じようなデザインを安い価格で着られることは、大きなイノベーションだと思うんです。着ている服を見ただけて年収がわかってしまうような“ファッション・ヒエラルキー”の時代を変えてくれました。

今日のテーマでもあるように、誰でもファッションを楽しめる権利の保持と、環境負荷を減らすことのバランスの難しさを象徴するような存在ですよね。

Guest:中川 かおり(なかがわ かおり)/ newR株式会社 代表取締役
島根県生まれ。2018年アパレルブランドnewRclothesを立ち上げ。2020年一人ひとりの「好き」と「似合う」をロジカルに解析する「newRパーソナル分析」を独自開発。「好き」からつながるサステナブルファッションを目指す。

中川 誰でもワクワクするようなデザインの服に手が伸ばせることを考えると、ファストファッションは悪ではないと思います。

ただ、洋服を回収したり修理される方にお話を伺うと、ファストファッションが流行り始めたこの20年くらいで、明らかに質が落ちて修理もしづらくなったと皆さんおっしゃいます。

ものとしての価値が下がっていることを考えると、ネガティブな側面ももちろんありますね。

新井 たしかに。服のリサイクル会社も回収したところで、質が悪いからいい価格がつかずに経営に苦しんでいるところが多いようです。

一方、歴史ある「ハイブランド」についてはいかがでしょう?

バーバリーが大量の売れ残り商品を焼却していたことが明らかになり、多くの批判を受けました。

田中 ファストファッションと同様、ハイブランドも質が落ちてきていると言われています。加えてバーバリーのような事例も無視できません。

それにもかかわらず、ハイブランドが持つブランドの力によって、それらの問題を覆い隠してしまうことが怖いですよね。

「あのブランドを身につけている自分になりたい!欲しくてしょうがない」と思わされるブランドの力は、ある種“麻薬”のようなものだとさえ思っています。

中川 ハイブランドとサステナビリティって本来はすごく相性がいいはずなんです。

廃棄の問題は一旦脇に置いておくにしても、ハイブランドは修理にいつでも対応してくださいます。「一つの商品を長く使ってほしい」という気持ちがベースとしてありますよね。

代表やマネジメント層ほど理解が必要

新井 私としては、ハイブランドであっても完全にサステナブルに舵を切る企業がまだ出てきてないと感じています。

その理由には、企業内のマネジメントの問題も潜んでいると考えられますか?

田中 そう思います。若手の新入社員ほど、サステナブルな社会を目指してファッション業界から変えていきたいという志を持った方が多くいらっしゃいます。

しかし、若手の意志を潰してしまうのはやっぱり中間層ですよね。どんなに強い意志があっても、売上重視の数値目標を立てられてしまうと、サステナブルかどうかは重要視してもらえません。

企業の代表やマネジメント層こそ、理解が必要だと思います。

新井 一方、資本主義の仕組み上、売上にコミットせざるをえない株主からのプレッシャーもありますよね。

そこを打破するために田中さんの株式会社SOLITでは、「やさしい株式」という資金調達の仕組みを作られました。詳しく伺えますか?

田中 多様な人も地球環境もどちらも考慮したいと考えたとき、普通の資金調達のやり方では自社に合わないなと感じていました。

そこで、種類株式という一般的なものとは違った株式を発行し「やさしい株式」と名付けました。

「やさしい株式」とは、株主はあくまでステークホルダーの一員であり、意思決定のトップではないこと、短期的な成長を求めず出資してもらった分をいつお返しできるかわからないことを承諾してもらうやり方です。

株式会社SOLITが解散した場合は、元本補償します。

株主は急拡大・急成長、大量消費・大量生産を求めず、私たちが目指すビジョンの共感者になっていただくというものです。

新井 元本補償は珍しいですよね。だからこそ、納得して快く応援してくれる方がいるのかもしれませんね。

主語を自分に取り戻す

新井 ファッションの課題について、あらゆる角度でお話ししてきましたが、ここからは「ファッションの喜びとSDGsの同時達成への道」を探っていければと思います。

大量消費・大量生産ではない、これからのファッションの楽しみ方について、フリップに書いていただきました。では、まずは田中さんお願いします。

田中 「10年、次世代を見込む」です。

まずは、消費者側が大量生産・大量消費のこれまでのルールを壊していくことが大切だと思っています。

買う前に「10年先も着れるかな?おじいちゃん、おばあちゃんになっても着ている自分を想像できるかな?」と自問したり、もしくは、自分は着られなかったとしても、次の世代や友人に渡していく方法はないか、考えてみるのもいいと思います。

服を自分だけの所有物ではなく、共有物として捉えることは、ひとつのポイントかもしれません。

中川 私は「自分を主語に」という言葉にしました。

ECサイトから送られてくるメルマガには、ランキングやマストバイアイテムが書いてありますよね。でも、そのマストバイの主語って誰なんだっけ?と。マストバイかどうかは自分が決めることであるはずなのに、企業側が主語になっていると思うんです。

企業側が毎年トレンドアイテムを作ってあの手この手で買わせようと促しますが、何年か後を見据えても自分が本当に欲しいものなのかどうか。消費者自身が主語を自分たちの手に取り戻すことが重要だと思います。

新井 実際、自分の意思で買うよりも、「これ買わないと流行遅れだ」と買わされていることが多いですよね。

中川 例えば、「今年の流行色」と呼ばれるものはインターカラー(国際流行色委員会)が決めているものです。流行を作ることで高揚感が生まれるのは大切なことだと思うのですが、流行ってようが流行ってなかろうが自分が好きなものを着ようよって思いますね。

服は服のまま、次の人に渡していく

新井 服を長く着ようとする一方で、どうしても着なくなる服も出てきてしまうと思うんです。そういった服はどのように扱うべきでしょうか?

中川 私は「愛してくれる人に渡す」が一番だと思います。

そもそも好きなデザインじゃないと長く着ることは難しいと思います。共通する好みを持つ人たちで繋がって、その中で循環できたらすごく楽しいし、自然と廃棄量も減らせるんじゃないか、と。

田中 私は「小さい範囲から回していくこと」と書きました。

例えば、家族や友人など身近で小さな範囲から回していくことがベストで、それが難しいなら、中川さんがおっしゃっていた通り、好みの近い人や体型が近い人同士で回していく。

そうやって、小さな枠から広げていって、最終的に「これ以上は服として保たない、誰も着てくれない」と判断してようやく、リサイクルなどの次の手段が出てくると思います。

服は基本服のまま着続けてあげるのが理想だと思いますね。

「地球にやさしい」だけで人は動かない

新井 ここからは、業界全体のお話を。ファッション業界の課題をより多くの方に知ってもらい改善していくためには、いまどんなアプローチが求められると思いますか?

中川 これはもう何年も考えてきたことなのですが、ワクワクするものを作るしかないと思います。

地球にいい服だからといって、デザインが好きでなければ長く着られないですよね。まずは愛されるデザインであることが一番優先されることが大切だと思っています。

新井 まずは愛されるデザインから揃えていくと。たしかに、地球に優しいからという理由で買ったとしてもお気に入りでない限り大切にできませんよね。

環境を主語にするのではなく、人を主語にして私たちのウェルビーングを考えないと、結局人を動かせるものは作れないと私も思います。

中川 ファッションとウェルビーングは密接に関係していると思います。ファッションから得られる高揚感、好きなものを身につけることで生まれる温かな心の動きを止めてはいけない、と。

田中 私もかなり近い考え方なのですが、「北風と太陽」だったら、北風ではなく、太陽的なアプローチをすることがポイントだと思っています。

「サステナブルファッション以外は悪である」という厳しい北風的なアプローチも時には必要ではありますが、それだけでは人は動きません。「環境にいいから買う」ではなくても、「おしゃれで魅力的だから買ったものが、実は環境や人権にも配慮されていた」という順番もすごくアリだと思いますね。

スタートアップが旗振り役に

新井 ますます企業が変わっていかなければならない中、今後どんなアパレルブランドが生き残っていく、または業界を引っ張っていくと思いますか?

田中 私は業界の旗振り役として、スタートアップが重要な役割を果たすといいなと思っています。

先ほどお伝えしたように、大きな企業ほど意思決定者から理解を得ることはなかなか大変です。でも、私や中川さんの会社のように10人程度のスタートアップであれば、メンバー全員でルールをゼロから作ることができます。

「世の中にこれが必要だと思う」という純度100%のものづくりができるし、小さくても1つ成功事例を示すことができれば、新しい市場の発見や他の企業も参入してきていいんだよと、声を社会に発信する役割を担えると思うんです。

新井 一般的な経営理論だと、いかに真似されずに独占できるかを重視すると思うのですが、田中さんとしてはどんどん企業が参入できる土台を作ることが大切だ、と。

田中 そうですね。スタートアップにもいろんな考え方がありますが、私たちは100年後にも残り続けてほしい社会を実現させたいという想いが強いので、売上よりも真似されてムーブメントが起こることのほうが重要だと考えています。

サステナブルファッションとは何か?

新井 最後に、お二人にとっての「サステナブルファッション」とは。端的に表現いただけますか?

田中 「多様な人も地球環境ともに考慮されたファッション」のことだと思っています。

素材を変えたり、受注生産にしたり、わかりやすい変化が注目されがちですが、その裏側にある産業構造全体を変えなければ根本解決には至りません。人のことばかりを考えると環境が犠牲になったり、環境のことばかり考えると人が犠牲になったり、やっぱり抜け落ちる存在がたくさんあるんです。

サステナビリティを100%達成するようなブランドに私はまだ出会えていませんが、すべてを包括することを目指していくことがとても重要だと思っています。

中川 私は「好きでつながる」ですね。

服を作るところから、企業と消費者、消費者同士も、しっかりと“好き”を共有し合えていれば、誰も求めてない服が生まれることもないはずです。好きだからこそ大切にしようと思えるんだと思っています。

新井 ありがとうございます。お話をしていて、ファッションの喜びとSDGsの同時達成への道が少し見えてきたように感じています。

田中 SOLITもやりたいことは山ほどあるけれど、資本力など現実的なところでできていないことがたくさんあります。

今日お話しさせていただいたことの多くは、まだ理想に近い部分もありますが、スタートアップだからこそできることが改めて見えてきたので、もっと頑張りたいなと思いました。

中川 自分が大好きなファッションをこれだけ深いところまでお話ができて、幸せな時間でした。ありがとうございました!