脱肉食の救世主?急速に進化を遂げるプラントベースフードの最前線

近年欧米では、健康目的でヴィーガンやベジタリアンになるのではなく、地球環境を考慮して菜食を選択する人が増えています。

年間40億トンもの食料を必要とする人間。食料供給に伴う温室効果ガス排出量は、産業全体の4分の1にも上ると言われています。つまり、世界中の人々のおなかを満たすための営みが気候変動をもたらし、生態系破壊の大きな要因にもなっているのです。

私たちは今、地球に配慮したサステナブルな食料供給を考えなければならない局面に差し掛かっています。そのために考えられる方法の一つが「低肉食」へのシフト。

そこでこの記事では、急速に進化するプラントベースフードの最前線をご紹介しながら、これからの私たちの食の在り方について考えていきたいと思います。

食の未来は想像以上に過酷である

日本国内では、人口減少と高齢化が問題となっていますが、世界に目を向けてみるとそこには真逆の問題が待ち構えています。地球全体の人口は約78億人。2030年には86億人に、2050年には100億人近くになると予想されていますこの予想通りに進んだ場合、私たちは近い将来飢餓の拡大に直面するかもしれません。どうすれば100億人の胃袋を満たすことができるのかという課題に、私たちは今から真剣に取り組まなければならないのです。

菜食を選択することで温室効果ガスが減る?

菜食を選択することで温室効果ガスが減るのか?という問いに対する答えは「YES」。

例えば健康な体に欠かせないタンパク質を見てみると、100グラムのタンパク質を牛肉で生産する場合と、大豆などの豆類で生産するのとでは、実に40倍近い環境負荷の差があります。

Tackling Climate Change Through Livestock(家畜を通じた気候変動への取り組み)と題された国連食糧農業機関の報告によると、最も高い温室効果ガス排気率を占めるのは、牛肉と乳製品の生産なのだそうです(20%)。この報告はまた、気候変動の危機を緩和するにはエネルギー資源を効果的に保護する必要があると述べており、天然資源を大量に使う家畜の生産について見直しが必要であることが示されています。

地球に配慮したサステイナブルな食料供給のカギは、私たち消費者一人ひとりが握っています。もちろん牛肉は美味しいし、食卓からなくすことはできないという人も多いでしょう。しかし、例えば週一日だけ肉を控えるという程度なら、気軽に実践できるのではないでしょうか。

「肉食大国アメリカ」はもう古い!?

分厚いステーキや特大のハンバーガー…肉食大国のイメージがあるアメリカですが、実は現在、脱肉食の波が押し寄せています。2019年の調査によると、アメリカの成人のうち2~6%がヴィーガンであることを宣言。さらに、Food Navigator USAのレポートによると、39%ものアメリカ人が、ヴィーガンとは言えないものの植物ベースの食生活を積極的に生活に取り入れようとしているということです。

欧米の食文化を根底から覆すこの事態の背景には、単なる健康志向や思想の域を超えた、「人口増加と環境問題」という未来への危機感があるものと思われます。地球規模の課題の解決策として、菜食主義が脚光を浴びているというわけです。

アメリカで急速に進化するプラントベースミート

(出典:インポッシブルフーズHPより)

菜食への移行が進んでいるアメリカでは、人々の意識変化に伴い、動物性タンパク質の代用食品であるプラントベースミート(植物由来の代替肉)が急速に進化しています。プラントベースミートがなぜ環境に優しいのかというと、家畜による膨大な温室効果ガスの輩出や、飼料作物のための広大な土地開拓、大量の水の使用などが抑えられるから。畜産が縮小すれば、気候変動や水不足が緩和されるかもしれない。こうした時流に呼応して脱肉食を選ぶ人が増え、代替肉の需要が急増しています。

(出典:インポッシブルフーズHPより)

現在アメリカで普通に手にすることができるのが、豆類を原料にした植物由来の代替肉です。そのトップを走っているのがインポッシブルフーズビヨンドミート。この2社は、限りなく肉に近い商品の実現によって、欲望を否定することなく新しい食材のクールさを訴求しているところが多くの人に受け入れられています。

例えばインポッシブルフーズの商品「インポッシブル」は、なんと血の滴りや鉄含有タンパク質の香りまでも再現されています。どの焼き具合でもジューシーで、肉好きも思わず唸る味だとか。

培養肉の市販化が目前に

(出典:アップサイドフーズHPより)

アメリカではこのようなプラントベースミートの売り上げが爆発的に伸びていますが、動物の細胞からつくり出す「培養肉」の研究も急ピッチで進められています。アメリカ・カリフォルニア州を拠点とする培養肉企業Upside Foodsは、世界最先端の人工培養肉プラントを建設。この施設では商業用の培養肉を年間180トンも生産する能力があると言われています。同社では、『2050年までに100億人が食べる量の培養肉を作ること』を目標に掲げ、商品化に向けて準備を進めています。

培養肉は、まず牛から細胞を採取し、それを増やした後、増やした細胞を用いて組織を形成することで作られます。アップサイド・フーズは培養肉のメリットについて、「培養肉の生産は、従来の肉生産と比べて、必要な土地や水を最大で90%削減でき、さらにCO2排出量も大幅に削減できる」としています。製品化されれば、近い将来スーパーに人工培養肉が並ぶ日も遠くないかもしれません。

代替卵・代替シーフードも登場

(出典:イートジャストHPより)

普及が進んでいるのは、代替肉だけではありません。植物由来の卵や代替シーフードもまた、着々と売り上げを伸ばしています。

(出典:イートジャストHPより)

完全植物性卵「ジャストエッグ」を販売するEat Justは、これまで5000万個相当の卵の売り上げを達成しています。ジャストエッグは、緑豆が主成分のクリーミーな液体で、溶き卵というよりはクレープ生地に近いもの。フライパンで炒めるとスクランブルエッグができ、フワフワにもトロトロにも、好みの仕上がりに調節できる使い勝手の良さが人気です。肝心の味はというと、ほのかに緑豆の風味はするものの、言われなければわからない人も多いかもしれません。

(出典:Good Catch HPより)

おいしい植物由来シーフードで海と海洋生物を救おうと起業したGood Catchは、植物由来のツナやフィッシュバーガーパティなどを商品化。植物性であれば、水銀など重金属摂取の心配もなく、健康面にもメリットがあると期待されています。主成分はそら豆やひよこ豆で、シーフードの風味に必要不可欠なオメガ脂肪酸は藻のオイルを原料としています。こちらも豆の匂いや風味は残るものの、サラダやパスタなど日常の料理に取り入れやすいのが特徴。

このように、プラントベースフードの選択肢はどんどん広がっており、低肉食への切り替えへのハードルは下がってきています。

日本で購入できる代替肉は?

(出典:ゼロミートHPより)

欧米ではスタートアップ企業が続々と立ち上がり、プラントベースフードの市場規模は拡大し続けています。日本でもここ数年、食品会社を中心に開発が進められ、多くのプラントベースミートが商品化に成功。

(出典:ゼロミートHPより)

中でも科学的アプローチから本物の肉に近い食感を再現し、いち早く製品化に成功したのが大塚食品ゼロミートです。デミグラスソースをかける合い挽肉のハンバーグをベンチマークに製品化。あわせて発売されているハムやソーセージも食感や香りに違和感なく、多くの人が満足できる仕上がりになっています。

(出典:無印良品オンラインストアより)

一方、気軽に使える常温保存可能なパウチ商品が充実しているのが無印良品。封を開ければすぐに食材として調理できるため、使い勝手が良いと評判を集めています。ひき肉タイプはカレーやミートソース、麻婆豆腐といった味の濃い料理に使用すればほぼ普通のひき肉と変わらない仕上がりに。薄切り肉タイプは炒め物などにするのがおすすめです。

このようにさまざまな代替肉の開発が進んでいるほか、プラントベースミートを使用したハンバーガーを提供するオランダ発のハンバーガーショップが上陸するなど、日本でも脱肉食の波がジワジワと押し寄せてきています。

環境問題から食生活を見直してみよう

ヴィーガン発祥の地イギリスでは、毎週月曜は肉を食べない「ミートフリーマンデー」という活動が広く認知されており、どのスーパーマーケットにもベジタリアンとヴィーガンの売り場が設けられています。

日本においても、さらなるプラントベースフードの普及によって手に取る機会が増えれば、低肉食へのシフトを後押しすることに繫がるのではないでしょうか。お肉好きな方にとっても欲求を抑えることなく美味しく肉を減らすことができれば、ベジタリアンやヴィーガンが持つどこか“とっつきにくい”イメージも払拭することができるはず。

これからは、体のことだけでなく地球環境も視野に入れた食材選びが欠かせない時代がやってきます。

多様化していく食生活、そして環境に寄り添う生活に向けてどんどん進化し続けるプラントベースフードを一度体験してみてはいかがでしょうか。