今までの農業は環境に悪い!?新しい農業の形とは【再生型農業】


一般的な農業は「慣行農業」と呼ばれ、実は自然環境に多大な負荷を与えていると言われています。今回は、そこから脱するための新しい取り組み、持続可能な農業「リジェネラティブ農業」の可能性について解説します。

慣行農業の問題1:総CO2排出の25%を占める

飴屋 農業って環境に良いんですか?

新井 農業の中でも慣行農業と言われるものはいくつかの問題が指摘されてますね。

飴屋 慣行農業とは何でしょう?

新井 近代農業とも言われ、農薬や化学肥料を使って大量に生産量を確保するようなやり方で、ここ100年ぐらいで一般的になった農業です。

この慣行農業によって、世界の総CO2排出量の25%を占めていたり、淡水の使用量の70%を農業部門が占めていたり、生物多様性の損失の60%の原因を作っていると言われています。

飴屋 1つずつ聞きたいんですけど、何で農業がそんなにCO2を排出してしまっているんですか?

新井 まず、ビニールハウスを温めるのに燃料を使うわけですね。あとはトラクターの使用にも燃料を使いますので、このあたりに化石燃料を使っている点が挙げられます。

あと土壌って、結構CO2を貯留する能力があるんですが、畑を耕すことでその中に埋まってるCO2がほじくり返されてワッと放出されてしまうんです。

飴屋 なるほど。

新井 ちなみに農業部門は畜産業も含まれていて、そこでもかなりCO2を排出しているんです。またCO2もそうなんですが、牛のゲップで有名なメタンガスっていうのが温室効果ガスとして大量に排出されていています。

家畜を育てるために人間が直接食べるよりも多くの穀物が使われているので、畜産による農業の生産量と、もちろん人間が食べる分と、さらに畜産業から出てくるメタンガスなどの温室効果ガスが相まって、かなりの環境負荷になっているんです。

飴屋 なるほど、畜産も含まれるんですね。

慣行農業の問題2:淡水のうち70%を使う農業

飴屋 それでは次の、淡水の綺麗なお水は一体なにに70%も使ってるんですか?

新井 例えば、稲作で田んぼに水を引いたりとか、コットン(綿花)栽培にも非常に多くの水を使います。要するに植物を育てるための水ですね。

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さらに、この水を農薬などで汚してもいるんですね。なので本来は飲み水として使えるものが農業部門を通ることで汚染される問題があります。

日本ってすごく水が豊富な国で、水道水をガブガブ飲める国は、世界で本当にわずかしかないっていうぐらい貴重なんですね。だから基本的にはペットボトルの水を飲むことが世界のスタンダードであって、SDGsの6番でも「安全な水とトイレを世界中に」が目標に掲げられているくらい、水の問題ってのは深刻なんです。

慣行農業の問題3:生物多様性を60%も損失してしまう

飴屋 最後に、生物の多様性に影響を与えているとはどういったことなんでしょう?

新井 農地を作るために森林を切り開くということが世界中で行われていて、その森林にはたくさん生物が住んでいるわけなんですよね。

例えば、インドネシアはすごい森林が豊富な国なんですけれども、ここ数十年ですごい開発がされていって、ほとんどが農地転換のために森林が切り拓かれてるんです。
そのためオランウータンや、スマトラ島に生息しているスマトラトラなど、絶滅危惧種と言われる生物の棲み処がどんどん少なくなってしまっているんです。

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つまり、その地域や土地で展開されていた生物の多様性や生態系が失われてしまうっていう問題ですね。

飴屋 大問題ですね。

古くて新しい リジェネラティブ農業とは?

飴屋 これらの問題を解決する方法って存在するんですか?

新井 全てを解決するわけではないんですけれども、リジェネラティブ農業(再生型農業)と言われる農法が現在注目を集めています。

「地面の下に着目する農業」とも言われ、例えば土壌の微生物の力を使って作物を育てることで、薬や化学肥料を必要としない、より自然に近い形で生産していく農業なんです。

飴屋 その方法はどういった理由で環境に良いのでしょうか?

新井 いろんなやり方があるんですけど、例えば、耕さないことで土壌のCO2をうまくキープできることです。

あとは化学肥料を使わないことで土壌の微生物の生態系をうまく利用して、自然本来の循環で作物を育てることですね。

化学肥料は土の中に棲むミミズや小さい虫を殺してしまうこともあるんです。殺した上で生育に必要な窒素や、化学的に作った栄養分を直接的に農作物に与えるというのが化学肥料のやり方なんです。

そうすると、本来であれば、土壌に溜まった草や虫の死骸をミミズが食べて、排泄されたものから根が栄養素を選んで育っていくという作物の好循環があったのに、化学肥料なしでは育たなくなってしまうんですね。

こういった問題を解決するために始まったのがリジェネラティブ農業ですね。

リジェネラティブ農業の可能性

飴屋 では再生型農業が進めばいいですね。

新井 そうなんですが、現実的にいまの慣行農業を全て置き換えるのは現段階では難しいです。

実際にスリランカで政策として化学肥料・農薬の使用を禁止する法律(2021年4月~2022年2月)を作ったら、生産量がガタ落ちして国民から大反発をくらって止めたという話もあります。これは極端な例ではありますが、慣行農業が果たしている役割も当然あります。

一定の生産量を安定して確保できる慣行農業の技術は、20世紀の実績のなかでも非常に大きいものなんです。

飴屋 確かに、いきなりそれを無くすっていうのも難しいですよね。

新井 ですので、再生型農業でも一定の生産量が確保できる形にまず持っていって、切り替えられるところから切り替えていこうというのが現実的なのかなというふうに思います。

飴屋 無理なくですね。

新井 例えばアパレル会社のイメージが強いパタゴニアですが、実はめちゃくちゃ農業をやっているんです。しかもリジェネラティブ農業に会社全体で取り組んでいて、そこで実際に実績を上げているんですね。

あと南米のサトウキビ栽培会社があって、すごいシェアが大きいところなんですけど、そこもリジェネラティブ農業に切り替えて、逆に生産量が上がって成功した事例もあるんですよ。

こういった事例が増えていけば日本でも広まっていくキッカケになりますよね。

飴屋 なるほど。では日本も徐々に広がっていって欲しいですね。ありがとうございました。