廃棄プラスチックが資源に~ケミカルリサイクル技術の広がり

プラスチックごみは増加するばかりですが、リサイクルするには良い状態のものが少なく、そのほとんどが焼却処分されています。

そこで近年注目されているのが、原料を分子レベルまで分解して回収する「ケミカルリサイクル」。大手化学メーカーや石油元売り会社などが、この新技術を活用して、廃プラ再利用に乗り出しています。
ただ、事業を軌道に乗せるには、コスト削減と共に、原料となる廃プラの十分な確保など、課題も少なくないようです。

廃プラスチックの現状

軽くて丈夫なプラスチックは容器やレジ袋などに幅広く使われ、生産量は増加の一途をたどっています。

経済協力開発機構(OECD)の推計によると、世界のプラごみ排出量は、2000年の1億5600万トンから、2019年には3億5300トンと2倍強に増加。リサイクルや焼却、埋め立てなど有効な対策を取らなければ、2060年には10億1400万トンに達すると予測されています。

また、海や川などの水生環境に蓄積されるプラごみ量も見逃せません。年間2200万トンが流出し、自然環境を汚染しています。

プラごみ排出量は、特にアジアやアフリカの新興国で急増。プラスチック生産時などに排出される温室効果ガスも4.3ギガトンと、2019年から倍増すると予測。

OECDの報告書では、「厳格で野心的な行動が協調して取られなければ、国際社会は、プラ汚染を終わらせるにはほど遠い状況である」と、警鐘を鳴らしています。

日本では、1990年代から、ごみの分別収集やリサイクルが進んだ結果、国内のプラごみ排出量は2021年に824万トンと、20年前より2割減りました。しかし、主要排出国の1つであることに変わりはなく、国民1人当たりの排出量は、米国に次いで世界で2番目に多いのです。

マテリアルリサイクルとケミカルリサイクル

廃プラスチックの再利用では、プラスチックを化学的に分解せずに新製品の材料に用いる「マテリアルリサイクル」がよく知られています。ただ、国内で年間約820万トン発生する廃プラのうち、マテリアルリサイクルの対象となる状態の良いプラスチックは2割にとどまっています。多くの場合、ゴミなどが混ざっていて、焼却処分されているのが現状です。

これに対して、「ケミカルリサイクル」では、原料を分子レベルまで分解して化学原料を回収するので、より多くの廃プラの再利用が可能といわれています。焼却する量を減らすことができれば、温室効果ガスの削減も見込めます。

ちなみに、EUでは、ケミカルリサイクルの推進を奨励しています。

アクリル板の再資源化

アクリル樹脂は、プラスチックの中でも耐久性に優れ、ガラスのような透明性が特徴です。食器や自動車部品、水族館の水槽などに使われているほか、コロナ禍では飛沫防止用パネルの素材として大いに活用されました。石油化学工業協会によると、コロナ禍の影響で、2020年のアクリル板生産量は前年比15%増の約3万1000トンに達しました。

では、コロナ5類移行で、用済みになったアクリル板(アクリル樹脂)の再資源化はどうなっているのでしょうか?これまでほとんどが使い捨てで、焼却処分されていましたが、最近化学メーカーの取り組みが始まっています。

ここで活用されているのが、「ケミカルリサイクル」です。住友化学は愛媛県新居浜市の愛媛工場で、アクリル板などを熱で化学的に分解するケミカルリサイクル手法の開発を進めています。

原料に戻して新たにアクリル樹脂を製造する技術で、新品に匹敵する品質を確保。また、再生したアクリル樹脂は、従来品に比べて製品ライフサイクル全体の温暖化ガス排出量を60%以上削減できる見込みだそうです。

このリサイクル技術は住友化学と日本製鋼所(東京都品川区)が共同で開発しました。水族館向けアクリル樹脂などを生産する日プラ(香川県三木町)や家電メーカーなどから廃材や使用済みアクリル樹脂を回収し、資源循環の仕組みを構築します。

再生したアクリル樹脂は、住友化学のリサイクル技術を活用して作られるプラスチック製品を対象にした「メグリ」ブランドで、2025年を目途に販売を目指します。将来的には、廃アクリル樹脂回収のポテンシャルが高い中国やニーズの高い欧州など、海外での展開を想定、技術ライセンスとして提供することも計画しています。

三菱ケミカルグループは、ケミカルリサイクルに取り組むと同時に、2023年3月から、東京海上日動火災保険と共同で、事故で廃車になった自動車のライトを回収する実証実験を始めています。

年間約1000台分の材料を集めて、2024年からはリサイクルプラントを稼働させる計画です。コロナをきっかけに、今まで見過ごされてきた部品のリサイクルがスタートした点は興味深いのではないでしょうか。

一方、マテリアルリサイクルと比べてケミカルは色付き樹脂の再生が可能であることがメリットです。

その為、クラレは、回収したアクリル板などを熱で溶かして再利用する「マテリアルリサイクル」を進めています。原料に戻して新たにアクリル樹脂を製造する技術で、新品に匹敵する品質を確保できる他、エネルギー投入量が少なく、既存の設備が使えるメリットもあります。

企業の協業で進むケミカルリサイクル

アクリル樹脂以外のケミカルリサイクルにも目を向けてみましょう。

国内の化学メーカーや石油元売り会社などで、その取り組みが進展しています。

出光興産は、千葉県の製油所近くにある主力工場などで、2025年にも、廃プラを原料として新たな化学品や軽油をつくるケミカルリサイクル事業をスタートさせる準備をしています。

年間2万トンの廃プラを処理するプラントを建設し、2030年度には全国で数十万トン規模まで拡大させたい考えです。

触媒技術を手がける「環境エネルギー」(広島県福山市)との合弁で、廃プラから原油に近い液体をつくる新会社「ケミカルリサイクル・ジャパン」を設立。出光のほかの事業所にも油化装置を設置し、各地の自治体から廃プラを受け入れることも検討しています。

エネオスと三菱ケミカルグループは、廃プラを油化してガソリンなどの石油製品にするケミカルリサイクルの取り組みを2021年から進めています。回収した廃プラを化学的に液化し、再度原料として使用することを目指しています。複数種類のプラスチックが混ざった状態でもリサイクルすることができ、新品と同等の品質のリサイクル品を得ることができるそうです。

現在、年間2万トンの処理能力を備えたケミカルリサイクル設備を建設中で、2023年度中に廃プラの油化をスタートさせる予定です。

新しい資源循環プラットフォームの形成も

レゾナック(昭和電工と旧日立化成の昭和電工マテリアルズが統合、東京都港区)と大阪大学発のベンチャー、マイクロ波化学(大阪府吹田市)は、廃プラから基礎化学原料を直接製造する、マイクロ波による新しいケミカルリサイクル技術の共同開発をスタートさせています。

容器包装などに用いられた廃プラにマイクロ波を照射して分解し、エチレンやプロピレンなどの基礎化学原料を製造する新技術です。

マイクロ波加熱は、電子レンジでも使用されている方法。対象物に照射したマイクロ波が誘電体に直接作用し、内部加熱、選択的加熱、急速昇温ができるという特性があります。他の加熱方法と比較してマイクロ波は対象物のみを加熱するため、廃プラを効率よく分解できます。また、従来の分解法よりも分解時のエネルギー消費を抑えることが可能とされています。

さらに、レゾナックは2023年3月、伊藤忠商事と共同して、廃プラや使わなくなった衣料品を水素やアンモニアに変え、環境配慮型商品を作る事業に乗り出しました。

レゾナック川崎事業所のプラスチックケミカルリサイクルプラント(KPR)を活用し、廃プラと同時に繊維の資源循環の仕組みを構築する計画です。具体的には、循環型プロジェクト「ARChemiaプロジェクト」を立ち上げ、使用済みプラスチックと使用済み繊維を混合したリサイクル固形原料「RPAF」により、原料を100%廃棄物由来に置き換え、リサイクルプラントで低炭素アンモニアなどの化学製品を製造します。

2003年に操業したレゾナックのリサイクルプラントは、廃プラをガス化して水素などにリサイクルする設備。この水素を原料に製造する低炭素アンモニアは、二酸化炭素排出量を8割強削減でき、環境性能に優れています。しかし、アンモニアの製造工程で、天然ガス由来の水素も使用していることが課題になっていました。

伊藤忠商事の実証実験で、「RPAF」が低炭素アンモニアの原料として利用できることが確認されました。また、伊藤忠商事は、同社のネットワークを使って、廃プラや衣料品の回収、中間加工業者とのRPAF製造の協業を進め、資源循環プラットフォームの形成を目指しています。

今後は、環境付加価値の高い、レゾナックのリサイクルプラント産低炭素アンモニアなどの化学製品販売にも協力するとしています。

ケミカルリサイクルの課題

ケミカルリサイクルの本格的な普及には課題も少なくありません。

例えば、飲料のペットボトルは、本体とラベル、キャップにプラスチックが使われていますが、種類が異なり、同時に処理するのは難しいとされています。それだけ手間と費用がかかるため、採算が取れるようになるには、さらなる研究開発が求められているのです。

また、廃プラを効率良く回収する仕組みづくりも必要で、企業や自治体との連携が欠かせません。実用化に向けて、効率的な回収をどう進めていくか、コスト負担をどうするかなど、解決すべき課題は多く残されています。

しかし、化学品の原料が原油から廃プラになり、ゴミとされてきた廃プラが資源になる。課題は多くとも、サーキュラーエコノミーを実現する社会に確実につながっているのは確かです。

世界のプラごみ対策に期待される日本の役割

2022年の国連環境総会で日本などが提案したのは、プラスチックの生産から消費、廃棄までのライフサイクル全体を対象にした世界共通のルールづくり。このルールを2024年末までに作ることで、約170の国・国際機関の交渉参加を取り付けました。

各国の主張の隔たりはまだ大きいのですが、プラごみの適切な処理をおこなう資金や技術の支援を打診しながら、各国の協力をまとめることが求められます。

これまで分別大国の日本は、プラごみ対策で国際世論をリードしてきました。一方で、国民1人当たりの排出量は2位。多くの発展途上国にその処理の責任を移管していた事実もあります。日本の果たす役割が期待されているのです。

参考文献

2060年までに世界のプラスチック廃棄物はほぼ3倍に―OECD発表 – OECD

アクリル樹脂の再資源化に向けてケミカルリサイクル実証設備が完成~異業種との連携で資源循環システムの構築本格化~ | 事業・製品 | 住友化学株式会社 

東京海上日動およびABTと連携し、国内初のアクリル樹脂回収スキームを構築~ケミカルリサイクルの事業化に向けた実証実験を開始~ | 2023年 | ニュースリリース | 三菱ケミカルグループ 

使用済みプラスチックを原料とした油化ケミカルリサイクル商業生産設備への投資決定について -環境エネルギー株式会社と合弁会社「ケミカルリサイクル・ジャパン株式会社」を設立- | ニュースリリース | 出光興産 

使用済みプラスチックを原料とした油化ケミカルリサイクル商業生産設備への投資決定について -環境エネルギー株式会社と合弁会社「ケミカルリサイクル・ジャパン株式会社」を設立- | ニュースリリース | 出光興産 

社外ベンチャーとの共創で廃プラ問題の早期解決へ | レゾナック 

国内初、マイクロ波を用いたケミカルリサイクル技術の大型汎用実証設備が完成|マイクロ波化学株式会社のプレスリリース 

株式会社レゾナックとの使用済みプラスチック・繊維循環における共同検討に関する覚書締結について|プレスリリース|伊藤忠商事株式会社