社会課題に取り組む企業は利益を追及してはいけないのか?

企業が社会課題に取り組むべきか否かについて、理論で整理した前回

環境と人では「取り組む一択、どうせ取り組むのであれば真剣に取り組むべき」という結論に至った。

では次に、企業は利益を度外視してでも社会課題の解決に取り組むべきなのか?
ここにもさまざまな意見が飛び交っている。

今回は、環境メディアとしてさまざまな企業にインタビューを行ってきた観点から、社会課題への取り組みと会社の利益の「あるべき相関関係」について模索する。

感情ではなく理屈で導き出す「企業の社会課題対応が当然である理由」

社会課題に取り組む企業の理想像とは?

ー早速ですが、社会課題に取り組む企業は、どこを目指すべきなのでしょうか?

新井 まず、利益がないと課題解決への対応に継続性が生まれませんので、利益は追うべきだと考えています。

ただ、利益だけを追うのも違うと思います。

そうではなく、企業の目指すものに「社会課題の解決」と「利益」の両方を組み込むことが大事です。
つまり、社会課題を解決する事業を通して利益を生み出していくということです。

仮に、課題解決への姿勢が疎かで利益の追求にだけ偏っていた場合、「◯◯ウォッシュ(=取り組んでいるように見えて、実態が伴っていないことを指す表現)」と揶揄され、社会にネガティブな印象を持たれてしまいます。

その反対に、利益を完全に度外視していると取り組みがサステナブルでなくなり頓挫してしまいます。

現代の企業はものすごく難しいバランスで理想と現実の折り合いをつけることが求められているといえるでしょう。

ーそれが実現できている企業は存在するのですか?

新井 世界に目を向けるとpatagonia、国内だとユーグレナなどがそうだと感じます。

両者とも企業理念のレベルで社会課題の解決と利益の両立を目指しています。

もちろんどちらの企業も悪戦苦闘しながらそういった目標の実現を目指しているというフェーズではありますが、設定したゴールのバランスが素晴らしいと考えています。

また、徐々にそういった企業が増えてきているとも思います。

ーちなみに、バランスが良い企業の共通点ってありますか?

新井 バランスの良い企業はふたつの点が共通しています。

共通点のひとつめは、理念・パーパス・フィロソフィーなんでもよいのですが、言い切って堂々と表明している点です。

patagoniaでは最近、「我々の唯一の株主は地球である」というメッセージと共に、創業者の所有する全株式を環境団体に譲渡することを発表しました。

ユーグレナでは、「サステナビリティ・ファースト」に企業フィロソフィーを刷新し、全ての事業活動においてサステナビリティが優先するということを表明しています。

これらの事例は前例がなく、賛否両論様々な議論を呼んでいるところですが、あらゆるステークホルダーに対して堂々と目指すところを示していることで、それに共感する株主・社員・仲間などが集まっているように感じます。

そして、もうひとつが、事業と取り組む社会課題に統合性があること。

ここに従来のCSR活動と根本的な違いがあります。事業活動に伴うマイナスを植林や寄付で埋め合わすのでなく、そもそもマイナスが生まれないような事業デザインが求められています。

大企業は計画性と影響力で勝負

ーそのような方向を目指す上で、まず大企業はどのように変わっていくべきなのでしょうか?

新井 大企業においては、いかに既存事業との利益相反を乗り越えるかが鍵だと思います。

多くの企業では大量生産・大量消費社会を前提として、品質・価格といった面でトップを走る技術と歴史によって、今のポジションを築いています。

例えば建設業界で、長い研究開発を経て商品化した輸入材ベースのコスパの高い住宅販売で成功してきたメーカーがいたとしましょう。

しかし近年になって明らかになってきた、主にアジア原産の輸入材が森林破壊に繋がるという指摘や、資源循環の観点から地産地消への回帰といった流れに向き合うためには、新たに国産材ベースで同様の品質・価格を実現する研究開発をしていかなければならない。

このような利益相反を伴う意思決定が求められた際に、patagoniaやユーグレナのようなドラスティックかつ社員、株主といったステークホルダーを納得させるコミュニケーションができるかどうか?

ここが大企業が一気に舵を切ることが難しい点です。

とはいえ、影響力の強い大企業がいつまでも「小さいことからコツコツと」をやっていたのでは、社会を変えることは到底できません。

そのためには、サステナビリティの優先度を高めることを内外に宣言し、組織全体で危機感を持って全員野球で取り組むような変化を期待したいです。

ーしかし、どの企業も「サステナビリティ」を掲げて取り組んでいるのでは?

新井 確かにその通りです。しかし「サステナビリティが全てにおいて優先する」と言い切っている例は少ないのではないでしょうか。カーボンニュートラルやSDGsを達成するためには、社内全ての部署がサステナビリティに関する問題意識を共有する必要があると思うのです。
つまり「カーボンニュートラル」を掲げながら、営業部ではビニール袋入りのDMを沢山送っているといったことが起きてはならないということ。それがグリーンウォッシュとして批判されるリスクが今後益々大きくなっていくからです。

だから、特に管理者層において「CSRの延長」「うちの部署は関係ない」といった誤解や無理解をできるだけなくし、ESG部門が動きやすい組織づくりが重要だといえます。

中小企業はスピードと一点突破で勝負

ーその一方で、中小企業はどう変わっていくべきでしょうか?

新井 中小企業の素晴らしい点はクイックに動けるところです。

だから、早い段階で事業とサステナビリティにバランスの取れた目標を据えて具体的に進めていくことが可能です。

特にスタートアップの場合は、ぜひ事業目的の中心に社会課題の解決を据えてほしいです。
その際には焦点を絞り、どの社会課題を解決に導くのかを明確にすることが大事だと思います。

また、レガシー領域の中小企業のオーナー・経営陣においても、同じく一点突破の方向性を明確にし、社内外に明示することで差別化を図ることが重要と考えています。
自社の存在価値をアップデートし、しっかりと情報発信することで思わぬ機会が訪れることが実際にあります。

ー具体的にはどのような事例があるんでしょうか。

新井 日本のアパレルブランドCLOUDYは、2015年設立のベンチャー企業で、アフリカの貧困問題を解決するため現地で雇用を創るビジネスモデルを展開しています。同時に現地で学校を作ったり食事を配給する活動を行うNPO法人も運営しており、事業での収益がNPOに流れ、顧客も課題解決に参加できる仕組みを構築しています。

アフリカのリアルから考える「ごみとの向き合い方」2.0アフリカのリアルから考える「ごみとの向き合い方」2.0

また、社会課題解決に特化したスタートアップを多数擁するボーダレスグループでは、多くの事業で売上の一部が関連団体に寄付されるような形がとられています。グループ傘下のピープルポート株式会社への取材の中で、下記記事中では触れていませんが、広告宣伝費の一部を寄付に回すことで、同等額をGoogleに支払う以上の効果が得られるというお話を伺いました。

不要PCどうしてる?リユース・リサイクル事業で難民を支援

これらはほんの一例で、当メディア「Green Project」というカテゴリ内で他にも沢山の好事例を紹介しています。

世界3大デザインアワード「iF DESIGN AWARD 2022」にて最優秀賞を受賞した、オールインクルーシブファッションを提唱するSOLIT!の代表・田中美咲さんは、サステナブルなビジネスの在り方について、「中小ベンチャー企業が先行してそこにマーケットがあると証明し、大企業に真似してもらうことで社会に変化を起こす」ということを仰っていました。

ファッションの喜びと業界の闇 現状打開の3rd Wayを探る

伝統的な経営戦略のセオリーで言えば最も避けるべき「大企業による模倣」を、むしろ歓迎するという考え方からは、「自分さえ良ければいい」から「社会を良くする」へと社会の価値観が動いていることを感じられるでしょう。

このことからも、マクロで見た場合の大企業・中小企業それぞれの役割はある方向に向かって変化していくことが予想されます。

躍進の鍵は「パートナーシップ」

ーそれはどのような変化でしょうか?

新井 パートナーシップが主流になっていくことです。優先順位がサステナビリティになることによって、必然的に共同物流による効率化や技術のオープンソース化が求められるようになります。

花王とライオンによる詰め替えパウチ等の廃プラスチックリサイクルの協働や、オフィシャルではありませんが小売大手2社による静脈分野での協働など、少しずつ「囲い込み」の概念が薄れていく兆候を感じられるようになっている。

現状、これらの取り組みは物流費高騰や人手不足といった実利に後押しされている面は否めませんが、実利こそサステナビリティの浸透において最重要ファクターの一つです。

また、中小企業における事例としては白井グループ株式会社の「ごみ.Tokyo」があります。従来、隣同士のビルから発生するごみを、別々の会社が別々の車両で回収していたという非効率を、競合とのパートナーシップにより解決しています。

捨てるられるモノを生かすインフラ、資源循環のDX

このような競合同士での協働や、中小・ベンチャーが突破口を切り開き、大企業が後追いでスケールさせるという新しい形の協働が広まっていくことで、社会的なインパクトのある変化を期待できます。

そのためには、より多くの企業・組織にサステナビリティという新OSをインストールし、正しい取り組みを増やしていくことが必要で、それは組織に関わる全ての人が自分ゴト化する機会を持てるかどうかにかかっていると考えています。

ー新たな価値観に基づいたパートナーシップということですか。

新井 その通りです。

そのような構造が確立できれば、日本のSDGs進捗状況で「深刻な課題」に位置付けられている目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」も前進するのではないでしょうか。

だから政治においても、多くの企業がそのような方向に促す環境整備などを支援してもらいたいですね。