
「合成繊維の布地を洗濯機で洗濯すると大量のマイクロプラスチックが発生する」
ちょっとショッキングな事実ですが、海に流れ出てしまったマイクロプラスチックのうち、なんと3割が私たちの洗濯物から流出し、海を汚染し環境を破壊しています。
ポリエステルやナイロンやアクリルなどの「化繊」はれっきとした「プラスチック」。つまり繊維状に加工されたプラスチックであり、その糸くずはすべてマイクロプラスチックです。私たちは洗濯するたびに、大量のマイクロプラスチックを海に流し込んでいることになるのです。
普段の当たり前の生活が環境破壊に繫がっているなんて!と驚かれる方も多いのではないでしょうか?
そこでこの記事では、マイクロプラスチックの海への流出を出来る限り防ぐために、私たちが今すぐできる方法をご紹介します。
マイクロファイバーは下水処理場をすり抜ける

ご存じの通り布地の製造にはいろいろな繊維が使われており、例えばコットンやウールのような天然繊維、ポリエステルやナイロン、アクリルのような化学合成繊維、そして天然繊維と合成繊維の混合タイプがあります。
ファイバー状のプラスチックである合成繊維は、過去50年以上にわたって幅広い種類の布地に使用され、現在では合成繊維の世界生産は天然繊維の生産を超えるほどになりました。
洗濯によって大量のマイクロプラスチックが発生する
私たちの身の回りに溢れている合成繊維製品ですが、合成繊維の布地を洗濯機で洗濯すると大量のマイクロプラスチックが発生することがわかってきました。

(画像:マイクロファイバー 大阪市立環境科学研究センター「マイクロプラスチック問題に対する下水道の役割」より)
イギリスの研究チームの報告書によると、アクリル素材の洋服は1回の洗濯で73万本もの化学繊維を放出するのだそう(家庭用洗濯機で6kgの洋服を洗濯した場合)。
また、アウトドアメーカーのパタゴニアの支援を受けて行われた研究では、フリースのジャケットを1回洗うと最大2.0グラムのマイクロプラスチックファイバーが放出されることがわかりました。
流出したマイクロファイバーは海を汚染する
洗濯によって発生したマイクロファイバーはどうなるかというと、下水を流れ、下水処理施設にたどり着きます。しかし、マイクロプラスチックは極めて小さいため、ほとんどが下水処理施設をすり抜けて川や海に流れ込んでしまいます。つまり海のマイクロプラスチックファイバーの主要な発生源は、下水処理施設から排出される水であると考えられるのです。
マイクロプラスチックファイバーが生態系に与える影響はまだよくわかっていませんが、さまざまな研究によって多くの海洋動物がマイクロプラスチックファイバーを間違えて食べていることがわかっています。
今すぐできる4つのアクション

マイクロプラスチックの影響があるのは海や海洋生物だけではありません。農作物の栽培に使う水や土を介して私たちの食物連鎖に入り、普段呼吸する空気をも汚染し始めているということがわかっています。
これ以上の流出を防ぐために私たちができることは、すぐに以下のアクションを起こすことです。
合成繊維の服を選ばない
クローゼットの中身の約60%は、ポリエステル、ナイロン、アクリルのような合成繊維であると言われています。中でもアクリル製の繊維は、ポリエステルと綿の混紡よりも数倍多くマイクロプラスチックを放出するという研究結果があります。
まず、合成繊維生地で作られた服を購入しないことが、最も簡単に変えられるソリューションの一つであると言えるでしょう。
しかし、クローゼットの中身を思い出してみてください。

普段着用する洋服は天然繊維のものが多いという方でも、上記のようなものには化繊が使われているので、完全に合成繊維を排除することは難しいと言えます。
このことを考えると、「現在気に入って使っているものは大切に使い、自分からは積極的に合成繊維の製品を買わないように心掛ける」というスタンスで取り組むのが妥当かもしれません。
洗濯時にはフィルターを活用する
機能性の高いスポーツウェアや防寒着、下着など、合成繊維を避けることが難しい衣類や、現在愛用している合成繊維の衣類を洗う時は、洗濯時に衣類から放出されるマイクロプラスチックを集めるプロダクトを活用しましょう。
具体的には、合成繊維の衣類を入れる洗濯バッグや、洗濯時に一緒に入れるだけで衣類から出るマイクロファイバーをからめとってくれる「Cora Ball」、洗濯機に取り付けられるフィルターなど。このようなアイテムを活用することで、衣類から出るマイクロファイバーをキャッチして水路に流出するのを防ぐことができます。
洗濯は低温・時短・まとめ洗いがポイント

洗濯時の流れ出るマイクロプラスチックをできるだけ少なくするには、洗濯の方法にもコツがあります。ポイントは、「低温」「時短」「まとめ洗い」。
ドイツの家電メーカー「ミーレ社」の洗濯機を使った最新の研究によると、標準設定である40℃で85分間回すのに比べ、低温・時短設定の15℃で30分間回すのでは放出されるマイクロファイバーが30%減ることがわかりました。
また、より環境に優しい洗濯を実践するには、洗濯機の容量いっぱいのまとめ洗いをするのが鉄則。なぜなら水とエネルギーの両方を節約できるうえ、少ない容量で洗濯機を回すよりも衣服同士の摩擦が減り、環境に放出されるマイクロプラスチック量を抑えられるからです。
さっそく今日から洗濯の設定を見直しましょう。
古着を積極的に取り入れる
ある調査では、新品の服は最初の8回の洗濯で最も多くのマイクロファイバーを放出することがわかりました。つまり、すでに所有している衣服を長持ちさせたり古着を買ったりすることが、マイクロプラスチックを減らす意味においてもソーシャルグッドな選択であるということです。
お気に入りの洋服を長く愛用する、リメイクを楽しむ、古着を取り入れる…いろいろな価値観がある時代。おしゃれを楽しむ方法を今一度見直してみませんか?
環境に配慮した洗濯アイテム

(パタゴニア公式HPより)
ここからは、環境に配慮した洗濯アイテムをご紹介します(もちろん天然繊維の洗濯にも使用できます)。
グッピーフレンド・ウォッシングバッグ

(パタゴニア公式HPより)
ドイツの非営利団体が開発、パタゴニアが販売をはじめたことで世界的に認知が広まっている「グッピーフレンド・ウォッシングバッグ」。
これに入れて洗濯すれば、マイクロプラスチックの「大半」をキャッチできます。もちろんすべてではありませんが、大幅に削減できるというところに大きな意味があります。
アウトドアブランドと合成繊維は切っても切れない関係だからこそ、このような製品をセレクトして販売するパタゴニアの姿勢も素晴らしいですよね。
海にやさしい 洗濯ネット

(PRISTINE ONLINE SHOP より)
「海にやさしい洗濯ネット」は、ノープラスチックにとことんこだわった洗濯ネット。生分解性に優れたでんぷん由来のポリ乳酸繊維と、オーガニックコットンを一緒に編み上げ、ファスナーの代わりにひもを結んで閉じる仕様に仕立てています。
Cora Ball

(Cora Ball公式サイトより)
前章でも触れた「Cora Ball」は、洗濯時に衣類と一緒に入れるだけで衣類から出てくるマイクロファイバーをからめとってくれるというアイテム。プラスチック製の渦巻き状のパーツを球形に重ねたもので、サンゴ(Coral)の形状がモチーフになっています。
毎回のクリーニングは不要で、毛玉が目立ってきたら抜き取って捨てればOK。
洗濯によるマイクロプラスチックの排出を食い止めよう

「合成繊維が使われた衣類や下着を洗濯機で洗濯する」という私たちにとっての当たり前の行為が、少しずつ環境を破壊している。一番大切なのは、この事実を一人ひとりが意識することです。これは、洗濯ネットを使えば解決する、というような単純な問題ではありません。そのようなアイテムを使うことが根本的な解決ではないことを理解した上で、衣類から出るマイクロプラスチックにきちんと意識を向けることに意味があります。
洗濯のしすぎは水の浪費とエネルギーの浪費と水質汚染に繫がり、衣類の繊維を傷め、衣類の買い替えやファストファッション化を加速させます。
また、コットンの栽培に大量の農薬が使われていることを考えると、天然繊維であれば何でも良いかというとそういうわけでもありません。
このように、洗濯時のマイクロプラスチック問題の他にも考えるべきことは多々あります。
何か一つのことをすれば環境問題が解決するわけではありませんが、まずは今起きていることを正しく理解して、できることから始めること。私たちの暮らしの中でできるひとつひとつの選択が、未来環境をより良く変えていく支えになるはずです。