いらないその服、大切に捨てよう

衣替えや引っ越しのタイミングでゴミ袋にまとめた大量の古着、あなたはどうしますか?

最も手っ取り早いのは可燃ごみで捨てることですが、「Tシャツ1枚を作るのに、2700リットルの水が使われる」という現実がある以上、可燃ごみに出すのが最善手でない事は自明です。

ならメルカリに出品したり、古着屋に売ったりするのはどうでしょうか。いらないものを処分してお金になれば理想的ですが、梱包して発送したり、買取り不可の古着を抱えて帰る手間を考えると多くの人にとって面倒なのもまた事実でしょう。

ではどうすればいいのか。その答えの1つが行政回収(集団回収)です。

行政回収された古着はどうなるの?

例えば私の住んでいる東京都荒川区では毎週土曜日に古布の回収があり、ふつうのゴミ袋に「古布」と書いて資源ゴミ収集所に置いておけば回収してくれます。そして回収されていった服は、実はちゃんと新しい命を得ることができるのです。

回収された古布がどうなるのか、アジア最大級の衣料リユース・リサイクル会社「日本ファイバー株式会社」常務取締役 川野達朗氏に伺ったお話を前後編に分けてご紹介します。本記事では回収された服がどうなるのかを。後編では、回収業者の目から見える日本の現状にフォーカスしていきます。

川野達朗 / 日本ファイバー株式会社 常務取締役

―日本ファイバーは、どのような事業を行っている会社なのでしょうか?

弊社は古着のリユース・リサイクル業をメインでやっています。行政回収された古着を福岡県の本社倉庫に輸送して選別します。リユース事業として古着の海外輸出と、リサイクル事業としてウエス(産業用ぞうきん)として再生・販売を軸に1950年にスタートしたので、創業70年くらい経ちます。その後まだ使えるきれいな服を販売するため1982年に「古着屋 西海岸」を作りまして、今に至ります。

―回収地域について教えて下さい。

横浜と埼玉、千葉、あと東京の一部から毎日50トンの古着を回収して選別しています。

―毎日50トンも運んで選別しているんですか!?

はい。10トントラック4~5台で関東から福岡まで運んでいます。ほとんどが自社便で大体3~4日工程で運んでいて、それが毎日往復していますので、お店(西海岸)がなかったらもう完全に採算が合わないですね。1日50トン選別しているっていうのはアジアで一番大きいくらいです。

それでも日本国内で出る量の1%くらいしかやれていない。弊社は年間1万トンくらいリサイクルしているんですけど、100万トン以上あるという話なので。さらにファストファッションが増えていくと、捨てられる量は増えていく一方じゃないでしょうか。

―回収した古着はどうなりますか?

まずは輸出材、ウエス材、そしてお店(西海岸)行きに選別されます。お店行きが一番いいものですね。

―海外輸出と、ウエスへのリサイクル、店舗販売と大きく3つに選別されるということですね。どういった割合で選別されるのですか?

海外輸出が7~8割になります。そのままでは着られず加工してウエスになるのが1割で、残りはお店に出せるすごく状態のいい服と、どうしても使えない産業廃棄物になるもの、といった感じです。

―海外輸出について詳しく教えて下さい。

ジーンズやセーターなど、種類ごとに選別したのち1つ100キロのベール(写真)にして、それを毎日250本、つまり25トンを輸出しています。

輸出先は香港、東南アジア、そしてパキスタン・中東がメインです。輸出された服がパキスタンや中東を経由して遠くアフリカまで行っているという話なんかも聞きますが、そこから先は本当に色んな所に出ていると思うので、全て把握はしていません。

―輸出先の国々の古着需要はどうなんでしょうか?

パキスタンの業者からは「もっとないか、欲しい欲しい」って電話が毎日かかってきます。回収物を選別しない「込みボロ」のままマレーシアとかに運んで、そっちで選別作業してっていう会社が多いので、国内でここまで選別しているのは弊社くらいじゃないでしょうか。なので輸出先からすると「メイドインジャパンだ」という感じで、すごく需要があります。

―途上国に古着を送る活動自体は福祉団体の活動などでも見られるものですが、一方で「私達がいらなくなったものを途上国に押し付けている」という懸念はないですか?

私はそういう感覚は一切ないですね。インドネシア等に行くと「新品の洋服なんて絶対に買えない」という方たちがたくさんいて、古着というのは基本的に先進国からしか出ないので。

例えばバングラデシュは世界で一番貧しい国と言われていますが、そこだけで人口が1億人以上いますし、インドとかになると更にその何倍もいるので、需要は常にあります。逆にみんなが新品の服を着たら、世界中のコットンが一瞬でなくなっちゃうんじゃないですかね。

行政回収は「捨てる」ではなく「誰かに譲る」こと?

―使える服は海外で古着として重宝されるのですね。では、破れていたり汚れていたり、そのままでは使えない服はどうなりますか?

この工場でウエスに加工もしています。タオルだったり、綿類を1つ1つカットして袋に詰めて、それを10キロにして1個いくらで販売します。ウエスは工場などから直接発注を頂いていますね。普通の産業機械の油を拭くだけなら何色でも構わないんですが、精密な機械を扱う所だと、白くないと汚れが拭けたかどうか分からないので、白い布の方が価値が高いです。

―行政回収された古布の9割以上が再利用されるというのは驚きです。一方で行政回収に出す側としては、どこまでなら出していいんだろうという気持ちがありますが、実際変なものは入っていませんか?

入ってますね(笑)玩具とか、おむつとか…使用済みの紙おむつが入っていることもあります。それと濡れているもの。濡れた布が混じったままベールにしたら全部カビちゃうんですよ。

なので弊社では、使えるものは乾かして輸出アイテムにしたりしています。ですが一見なんの濡れなのか分からないですし、梅雨時期なんかは本当に大変です…基本的に何が入っているか分からないので、やっぱり手選別ですね。アイテムや素材ごとに選別する際、そういう所を重点的にチェックしています。

―その分選別のコストは相当かかっているんじゃないでしょうか。

うちの場合、全て日本人で選別しているので、かなりかかります。その分選別能力は非常に高く、従業員の皆さんは国内・海外ブランドが大体頭に入っています。1日50トンの選別作業を25人から30人近くで担当し、1人あたり2トンくらい捌きます。

―そのほか、困るものはありますか?

いまは海外へ輸出できるもの自体は増えてきています。バスマットも売れるようになりましたし、羽毛布団もオッケーです。ただし中綿の布団はダメなんです。なので、布団関係はダメってことにしています。そこをまた分別してくれと言っても多分無理かなと。

枕もお断りしています。ビーズクッションは特に最悪ですね(笑)あれは割れちゃうと本当にすごいことになるので。そういう、回収された先に関する認識を持って頂くのは、難しいなと感じています。

―出す側の私達としてはどうすればいいでしょうか?

古着リサイクルに関して、古紙と同じくらいの認識に持っていかないとダメだと思います。「紙はリサイクルできる」というのは皆さん知っていますので、古着もそうなっていかないと捨てる側のモラルは上がらないのではないでしょうか。回収された古着は遠くアフリカまで行って着られているんだよ、喜んでもらえているんだよっていうことを知ってもらえたらなと。

コストをかけて焼却するより、行政回収に出してもらえれば国益にもなると思うんですけどね。先進国の中でも日本の回収物の状態はあんまり良くないですね。

―リユースというよりもゴミ捨ての感覚で行政回収に出しているからでしょうか。

そうですね。。「これを誰かが着るんだ」って感覚で出すなら、使用済みおむつみたいなものは入れないと思うんですよね。ですので、もうちょっと古着に対して興味を持ってくれたら嬉しいなって思います。もったいない事をずっと続けているというのを認識してもらえると良いのかなって。


サーキュラーエコノミーの視点から

回収された服は、そのほとんどが新たに価値を与えられて世界中で着られるようになります。ですが、その回収率はまだまだ低く、国内の服の8~9割が燃えるゴミに出されてしまっている現状があり、日本の古着リユース・リサイクル率は、先進国の中で最も低いと言われています。

まずは、自分の手を離れた先でどうなるかを知ることで明日からの行動が変わるのではないでしょうか。

さて、後編では日本の古着リサイクルの状況と、日本ファイバーから見た課題についてご紹介します。

日本ファイバー最も服を燃やす国 日本の古着事情

2021.10.18

取材協力:日本ファイバー株式会社

https://www.nippon-fi.co.jp/