リノベーションとコミュニティ形成で新しい価値を。地域を持続させる再生型団地

1960年代~80年代の高度経済成長期、都市への人口流入に伴い大量に供給された住宅団地の多くは、建設から40年以上が経過し、住人の高齢化や建物の老朽化という問題を抱えています。しかし、敷地内に計画的に配置されたオープンスペースや緑豊かな住環境など、現在ではなかなか手に入らない魅力も多いことに気付くはず。

そこで今回は、従来のスクラップ&ビルドではない、持続可能な社会に向けての団地リノベーションプロジェクトについてご紹介します。

住まいにおいても“捨てない”概念を取り入れるには

近代社会以降、私たちはゴミを出しながら成長してきました。つまり「必要なもの」と「必要でないもの」とを分けて考える社会。

しかし、「必要のないもの」が地球から消えるかというとそうではないので、すべて「必要なもの」であるという考えにスイッチすることが、これからの持続可能な社会の実現に向けて必要なことであると言えます。

これを住まいに当てはめて考えると、“つくっては壊し、更地にして建て直す”という建築は、未来に繫がる建築ではないのではないか、というところに行きつきます。古民家再生や団地リノベーションといった取り組みによって、良い物は残しつつ現代にフィットしたスタイルに作り変える建築が今注目を集めている理由がここにあるのではないでしょうか。

「MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト」とは

あらためて見ると、団地には現在では実現できないような贅沢な敷地条件で建てられていることがわかります。

  • 建物の間隔が広くとられている
  • 豊富な緑があり、光や風がよく通る
  • 住人同士のコミュニケーションがある

MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト」は、このような団地の良さを見直し、優れた部分を上手に生かしながらそこに無印良品が積み重ねてきた知恵や工夫を掛け合わせて、これまでにない賃貸住宅をつくる活動です。

スクラップ&ビルドではなく、建物に愛着を持って丁寧に住み継いでいく。さらに住民同士の交流を促し、地域社会の活性化にも繋げることが、団地に新たな魅力を生み出すのです。

団地に好印象を持っている人は多い

無印良品で団地についてのアンケートを実施したところ、実際に住んだ経験のあるなしに関わらず、合わせて6割を超える人が団地に住んでみたいと答えたそう。もちろん築年数を考えると適切なリノベーションは必要ですが、30代40代の若い世代でも団地に共感を持っているという結果は興味深いですね。

さらに特筆すべきは、「自分で改装できるとよい」と考える人がとても多いこと。賃貸でも生活スタイルに合わせて変えられるような自由度の高い住宅が増えたら、住居の選択肢は今よりもっと広がるはずです。

無印良品団地についてのアンケートより

緑や公園がある団地の作りは、コミュニケーションの場としても大きな役割を果たしていることがわかります。現代は近所の人との関係が希薄になっていると言われますが、このような団地の良さを活かすことができれば、高齢化社会である我が国の新しい暮らしの形も見えてくるような気がします。

「生かす、変える、自由にできる」の3つのテーマ

「MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト」は、「生かす」「変える」「自由にできる」の3つのテーマをもとに進められています。

良いものは大切に受け継ぎ、工夫をこらして住む人の自由度の高い住まいに仕上げることで、今の暮らしにも合う快適な空間を完成させています。新築にはない温かみのある味わいも大きな魅力。

・「生かす」…すべてを壊すのではなく、使えるものは残して上手に生かす

・「変える」…現在の暮らしに合わせられるように工夫をこらす

・「自由にできる」…借りた人が自分の好みやスタイルで住まいを自由にアレンジできる

光が丘パークタウンの取り組み

MUJI×UR団地リノベーションプロジェクトでは、東京練馬区と板橋区にまたがる広大な「光が丘パークタウン」の一角、赤塚エリアで、多世代が生き生きをクラス“ミクストコミュニティ”をコンセプトに掲げて団地の再生の取り組んでいます。

もともとは戦後に米軍の住宅地として使われていた光が丘は総戸数1万2000戸という東京23区内でも最大規模の団地で、緑豊かな敷地の中に商店街や福祉施設が点在し、まるで一つの街のよう。入居が始まったのは83年からと比較的新しい団地ですが、築38年となり住民の高齢化も進み、多様な世代によるコミュニティが失われつつありました。

MUJI×UR団地リノベーションプロジェクトが手掛けるのは、ゆりの木通り北団地、3DKの部屋。麻素材の畳や段ボールを使った襖など、日本の住まいならではのディテールを活かしつつ、現代のライフスタイルに合うようにアップデートされた部屋は、住まい手によって暮らしを選択できる楽しさがあります。

さらに光が丘パークタウンでは、17年からUR都市機構と無印良品を展開する良品計画が連携協定を締結し、「光が丘パークタウン(赤塚エリア)団地活性化プロジェクト」を始動。団地内に住民同士が交流できるコミュニティスペースを設け、18年には空きスペースを良品計画の社員寮「MUJI BASE」に改修。さらに商店街には「MUJI com光が丘ゆりの木商店街」を開店しました。寮内の共有スペースや店舗内のシェアスペースを活用し、イベントなどを開催することで住民同士の交流の場を設けたのです。

コミュニティスペースではお年寄りがお茶をしたり子供が宿題をしたり、人が絶えることはなく、無印の出店により商店街の雰囲気も変わり、活動も活性化したといいます。

団地内の遊休スペースや空き区画を有効利用してコミュニティの活性化を進めることで、商店街や住民同士の関係性を深めることができる。建物の再生だけでなく、このようなコミュニティを含めた街づくりが、これからの持続可能な社会には必要なのかもしれません。

ホシノタニ団地が生み出す人と街のつながり

小田急線座間駅前に広がるホシノタニ団地は、人と街とのつながりをテーマにリノベーションが行われた、団地リノベーションの先駆け的存在。

この団地は、もとは小田急電鉄の社宅として使用された建物で、そのうち2棟を建築事務所の「ブルースタジオ」が賃貸住宅としてリノベーションを行いました。中庭を活かして住民が集うことができる広場を作り、イベントスペースのあるカフェやサポート付きの農園、ドッグランなどを整備することで、地域住民との繫がりを生み出し、郊外ならではの魅力的な住環境を創出しています。

サポート付きの農園は気軽に利用できるのが最大の特徴。各区画には作業に必要な道具を置いておける利用者専用のBOXが備え付けてあるので、手ぶらで気軽に通うことができます。

広場は住人以外の地域の人にも開放しており、年2回ほど開かれるマーケットも好評。

住戸はシンプルながら、無垢材のフローリングとペンキ塗装で仕上げられた、素材にこだわった作り。

都会ではなかなか感じられない地域との繫がりが肌で感じられるとあって、現在では都内から引っ越してくる人も多い人気物件です。

「ホシノタニ団地」もまた、老朽化や住民の高齢化などの課題をリノベーションとアイデアで解決した、地域を持続させる再生型住宅と言えるでしょう。

地域社会の活性化を生む新しい住まいの在り方

国立社会保障・人口問題研究所が公表した世帯数の将来推計によると、2040年には世帯主が75歳以上の世帯が全体の1/4を占め、一人暮らしは全世帯の約4割となり、75歳以上の一人暮らしも500万人を超えるとみられています。団地のように人が集まって住む場所には、この課題を解決に導くポテンシャルがあるのではないでしょうか。

人と人とのふれあいを通じて新しい価値を生み出す可能性を秘めた集合住宅、という見方をすれば、これからの住まいの選択肢の一つとして注目される存在になるはずです。

広場をコミュニケーションの場として利用できる

大きな団地には、広大な敷地と広場があります。例えばそこにカフェや公園があれば自然と人が集まる場所になるはず。子供たちが路上で遊ぶことができる安心感があり、なおかつ大人の目もしっかりある、そんな場所があれば、子供からお年寄りまでさまざまな年齢層の人々が行き交う理想的なコミュニティスペースになります。

また、広場に行けば近所の子供たちがいるので兄弟のいない子供でも寂しい思いをすることなく、同い年以外の子供とのコミュニケーションの場にも。時にはワークショップやイベント、マルシェなどを開催して地域の人との交流をはかるなど、アイデア次第で可能性は無限大です。

古さは懸念材料ではない

団地のリノベーションというと、その古さから敬遠する人もいるのは事実。ですが、築年数が経過した集合住宅では、年数よりも管理状況が重要です。つまり、空き状態で長期間放置された物件と、きちんと管理されてきた物件とでは状態が全く違うということ。

例えばUR都市機構と無印良品の団地リノベーションプロジェクトでは、耐震基準など安全性もきちんとチェックしていることに加えて、断熱性など住みやすさの面でも高い評価を得ています。

記憶に残る住まいの形

団地にはたくさんの人と緑豊かな敷地があります。そこにあるあたたかみのある風景やそこで生まれるコミュニケーションが、暮らしの記憶として一人ひとりの頭の中に残っていく。都会のマンションや一軒家にはないそんな魅力が、団地には詰まっています。

家族構成の変化や多様化する住まいへの考え方、これから増加するだろうと思われる単身高齢者やパラサイトシングルの世帯への供給…住む人の生活スタイルに合わせて変化させることができ、人と人との繫がりを生み出せる団地リノベーションは、これらの課題を解決してくれる一つの住まいの形なのではないでしょうか。

住まい選びが持続可能な社会を作るキーポイントに

団地はもともと南向きの物件が多いという特徴があるので、リノベーションによって日当たりがよく明るい開放的な空間を作ることができます。また、「耐力壁」により建物を支える「壁式構造」を採用している団地が多く、耐震性・防音性に優れているという特徴も。

さらに今では実現することが難しいゆとりのある配置や緑豊かな環境、コミュニケーションの場としての可能性を踏まえると、良さを活かしつつ現代の生活スタイルに合った様式に変えるべきところを変えれば、これほど現代に合う住まいはないのかもしれません。

持続可能な社会に向けた“捨てない”ためのプロジェクトとしても価値のあるこのような団地利用の取り組みは、これからますます注目を集めるのではないでしょうか。