環境を「救う」新しい時代のソファ

皆さんが今、使っているソファ。
その中身について考えたことはありますか?
産業廃棄物から作られるソファが存在すると、知っていましたか?
大型家具もファスト化が進む昨今ですが、環境問題は着々と深刻になっています。
使い捨て文化が持続可能でないこの世の中、今こそサーキュラーエコノミーに注目すべきではないでしょうか。
そこで今回は、環境を考えるソファブランド「株式会社セルタン」を紹介します。

全ての企業がサーキュラーエコノミーに取り組むべき理由

株式会社セルタンは、産業廃棄物であるウレタンの廃材を利用した日本発のリサイクルソファブランド。
廃棄される原料を有効活用した製品を作ることで、リサイクル製品の市場を開拓し、廃棄物の活用に導く、今注目されるべきソファブランドです。

また、食パンや目玉焼きをモチーフにした斬新なデザインはSNS等でも反響を呼び、幅広い世代から支持を得ております。

様々な層にアプローチする製品を生み出す企画力と製造力も、セルタンならではのものです。
環境を想う家具とは? 循環する家具とは?
株式会社セルタンの常務取締役、米沢定司氏にインタビューを行いました。

米沢定司 株式会社セルタン常務取締役 / 中国黒龍江省哈爾浜市(旧満州)出身・黒龍江省大学日本語学部卒業。1990年にセルタンに入社し、1998年にはインテリア(座椅子・ソファー)組立製造体制、ビーズ発泡事業、ポケットコイル生産事業、海外生産拠点の確立などの実績を経て、2021年常務取締役に就任。

「セルタン」という会社

―まずどのような事業をされているのか、お伺いしてもよろしいでしょうか

セルタンではウレタンのリサイクルを利用したソファ、座椅子を中心に、さまざまな製品を企画・デザイン・製造・販売まで、一貫した事業として行っています。

よく「セルタン」の名前の由来は何かと聞かれるのですが、セルロース、綿繊維ですね。これとウレタンを掛け合わせてセルタンという名前になっております。

そもそもウレタンとは何か?を簡単に説明いたしますと「ウレタン結合」と呼ばれる化学反応によって生成される樹脂です

これらは配合方法や成形方法を変えることで、自動車のシートやソファ・マットレス、その他断熱フォーム、塗料、接着剤、合成皮革、弾性繊維など、我々の生活の中でも多々活躍する様々な製品の製造に使用されています。

これだけ聞くと、ただ便利な素材だなと思われるかもしれませんが、不要になったウレタンは、法律によって産業廃棄物として処理しなければならない廃プラスチックなのです。

セルタンではこの産業廃棄物であるウレタン廃材を、独自の技術でスーパーフォームという素材に再生し利用する、新しいかたちのリサイクルソファブランドを目指しています。

―スーパーフォームに転換することで今まで廃棄されてきたものが新たな商品として人々に届くわけですね。

そうです。

通常であれば焼却されるウレタンに付加価値を付けることで、新たな循環を生み出していくことができていると思います。

廃材ですのでコストパフォーマンスもよく、廃棄する側と利用側、双方にメリットがあると考えております。

とはいえ、課題もまだあります。

まずは重さ。スーパーフォームは、バージンのウレタンと比較するとどうしても重くなるため、軽量化による燃費向上を追求する自動車のシートなどには、代替えしにくい部分があります。

また、元々が「別の製品」を作った際に生まれる廃材なので、入荷量がその製品の生産量に左右されてしまいます。

例えば自動車がたくさん売れると廃材がたくさん出て入荷量が増えるわけですが、自動車生産が減れば当然入荷量は減ってしまうのです。

ここがアンコントローラブルだからといって、バージンのウレタンに全て変えたり、運送量を上乗せして海外から仕入れる、となるとコストが大幅に上がってしまいます。

逆に、余らせてしまった場合も、処理するためには燃やさざるを得ず、本末転倒なことになりかねません。

産業廃棄物を利用するからこその難しさがあるわけです。

これらを解決していかなければなりません。

ファスト化する家具に対して

―資源の使い捨て、これを根本から変えようという理念を掲げられています。

最近は使えればいい。使えなくても捨てればいい。

そんな世の中になっていますよね。

代表的な例を申しますと「100円ショップ」。

これらが普及し、価格の安さこそが一番といった風潮がここ10~15年程で日本社会に浸透しました。

以降、物を大事にするという概念が薄れたように感じます。

お金があればいつでも新しいものが買える、そして使えなくなったら捨てればよい。

これではごみが増えていく一方です。

また、賃貸の普及から引っ越す人々も増加し、引っ越しの際は捨てたほうが早い、買い替えたほうが安い、とまた新しいものを買う。そんな時代に変わってしまいました。

海外では、親が購入したソファを子供の代でも利用するということは珍しくありません。

まだこのような概念が世界に残っている中で、日本はある意味逆行していると言っても過言ではないでしょう。

我々も以前は1日に膨大な数の製品を作り、さまざまなお取引先に納品して終わりにしていた時代がありました。

廃材を100年使える家具にする

ただ、それだけではいずれ、限界が来るのは間違いありません。

廃棄コストや自然の観点を考えると、安さや手軽さのみでは今後やっていけません。

ずっと永遠に使えるようにするためには……といった視点を全員が持たなければ、今後の大きな社会問題になります。

大量生産、大量消費の時代は終わったと言っても過言ではないのです。

―とはいえ、経済合理性を考えると、物価は下がっていく一方で、普通に商品を売っているだけでは価格は低く、たくさん売れなければ利益を生み出すことは難しいのではないですか?

おっしゃる通りです。

実際、我々がソファや座椅子を売ろうとしても、相場と照らし合わせられてしまうと、商品の単価はなかなか上げられません。

また、大型のものだと輸送費も掛かるため、より一層利益を圧迫しかねない側面があります。

ですので、「小さいものを、当社ならではの付加価値を付けて売ること」に方向転換する必要性を感じております。

付加価値の例でいうと、例えば、日本の社会はこれから粗大ごみの処分により一層のお金がかかる時代が来るでしょう。

だから、セルタンを利用してくれているファンへのサービスとして、製品の無償回収など新たな切り口が必要になります。

それらのピースがうまくはまれば、セルタンでは長く使えるもの、循環して使えるものを考えているブランドとして認知される可能性も生まれます。

また、自社商品で構造がわかることでリサイクルもしやすく、それをリユースするという循環モデルが視野に入ってきます。

それによって、ファンにとっても、環境にとっても、会社にとっても良い形を模索していけるかと思われます。

これからは、自然を大事にするという「切り替え」の時代になると思います。

もっと、あたらしい循環の輪

―今後さらに循環型のサービス開発も考えていらっしゃるとか。例えば、使われなくなったソファから中身を取り出して再利用するといった取り組みは検討されているのでしょうか?

考えております。

ですが、まだ大規模なリサイクルについては課題が多く、難しいところがあります。

例えば、衛生、異物、ニオイ問題はどこまでもついて回ります。

どこで生産され、どのくらい、どのように使われていたかが定かでなければ、お客様に届ける商品に転換させるわけにはいきません。

これらの課題ををクリアすることは、実現にシフトする上で超えなければならないことです。

実は以前、パチンコ屋さんがリニューアルする際、大量の椅子が仕入れたことがありました。

しかし当時はタバコのにおいがどうしても解消できず、うまく使うことができませんでした。

ですが、今はニオイを消す方法があるのです。ウレタンのフォームにコーヒーの粉を入れて、香りをつけるとか、炭を入れて消臭するといった方法もあります。

そういう技術を今後取り込めば、まずニオイの問題は乗り越えることができ、再利用に繋がるようになるかもしれません。

あとは衛生面や消毒の問題など、問題点をひとつひとつクリアし、現実的に展開していけるようにしなければなりません。

―今後もこのような取り組みは続けていくのですか?

はい。前述したように、例えば、商品を購入していただいたお客様が買い替えの際には、無償で回収するサービスなどを考えております。

お客様のニーズにこたえながら、回収したものをリサイクルする。

ただそこで終わらせるのではなく、それを永続的に続けていくことを視野に入れていきたいと思っております。

そうすることで、一巡で終わっていた循環の輪を何回転もさせることもできるようになります。

廃材をもとに、当社で付加価値をつけた良いものを作り、それを長く使っていただき、さらに回収して改めて次のものを作り…、この流れを永遠に続けていくことができれば、他とは違う自社ならではのアプローチに昇華できるかもしれません。

業界は異なりますが、アウトドアのスノーピークは全製品が永久保証です。

そのスタンス自体にファンがつきますよね。

こういったことを当社も目指していかなければならないと感じております。

―日本全体が変わっていくためには、まずはどのようなことが必要だと思われますか?

作って、捨てて、はい終わり、でなく、まずは国内で自分たちが発生させている産業廃棄物をいかに処理して、リサイクルしていくのかを考えることが一歩めでしょうか。

海外に廃材を持っていく機会があるのですが、「ああ、日本がごみを運んできた」と思われていることを実感します。

もちろんそれは先方にとって必要な原材料として運んでいるのですが、それでもやはり、そう思われてしまう。

日本国内で発生した産業廃棄物を、いかに日本国内で処理して、リサイクルするのか。

ここに本気で取り組んでいくことが、おそらく我々の、そして皆さんの今後の使命なのではないでしょうか。

2021.09.10

取材協力:株式会社セルタン