「長寿命設計」とメンテナンスで買い物の概念を変えるタオルブランドの挑戦

「あなたの愛用品は何ですか?」と聞かれたら、どんなものを思い浮かべますか?プレゼントでもらった名刺入れ、ボーナスで購入した車、毎年着るコートなど、思い出と共に頭に浮かんでくるのではないでしょうか。

一方、歯ブラシやティッシュなどは、一般的に「消耗品」と呼ばれます。

では、タオルはどうでしょうか?歯ブラシやティッシュほどすぐに捨てるわけではないけれど、愛用品ほど気にかけない存在かもしれません。

「赤ちゃんの頃の記憶があるのか、お客様たちは自分が好きなタオルの感触を覚えているものなんですよ」

そう話してくれたのは、今回取材を行った「赤ちゃんが食べられるタオル」を目指すタオルブランドIKEUCHI ORGANIC株式会社の池内計司氏と阿部哲也氏です。PEANUTSの漫画に出てくるライナスが怖い夜にタオルケットを離さなかったように、私たちが赤ちゃんの頃から肌に触れているタオルという存在は、十分に愛用品になりうると教えてくれました。

では、愛用品と消耗品の違いはどんなところにあるのでしょうか。長寿命設計のタオルを売りにしてきた「IKEUCHI ORGANIC」の歩みを伺います。

ブランディングと確かな品質により愛されてきた「今治タオル」

日本のタオル二大生産地として有名なのが、愛媛県の今治と大阪府の泉州。アパレル産業・繊維産業は、特に染色段階において多くの水の確保が必要だと言われています。今治はタオル作りに適した軟水が流れる蒼社川の伏流水、泉州地域は大阪府と和歌山県の境を東西に走る和泉山脈からの地下水に恵まれていることは、タオル産業が発展する重要な要因の1つと言えるでしょう。

1990年代には、バブル経済が弾け中国からの安価な輸入タオルの需要が高まり、「今治タオル」は低迷期に入ります。しかしながら、高品質なタオルブランドとして独自で設定した品質基準を満たすものだけが名乗ることができる「今治タオル」は、そのブランディングと徹底した品質管理により、人気が再熱。海外製品も多くあるなか、「今治タオル」は今なお国内生産の5割を占めています。

一般的にタオルメーカーは、商品を百貨店などの小売に卸す個人販売、もしくは会社の記念品やレストラン、宿泊施設に卸すなど、商社を通じての法人販売が基本。タオルメーカーが直接お客さんに販売する形態は取られてきませんでした。また、諸説ありますが、一般的にタオルは1年程度で買い替える消耗品と言われてきました。

しかし、今回の取材先の「IKEUCHI ORGANIC」は、東京と京都の直営店と自社サイトを通じて、個人のお客様、法人のお客様双方へ直接販売してきました。タオルの使用期間に関しても、「10年使える長寿命設計」をコンセプトにメンテナンスサービスを開始。

既存のタオルメーカーとは異なる販売形態、タオルを消耗品から愛用品へと変化させる施策を打つ観点から、「IKEUCHI ORGANIC」が「タオル業界の風雲児」と呼ばれるのも納得です。

「タオル業界の風雲児」の誕生と歩み

いまや日本で流通するタオルの8割は輸入品といわれるなか「IKEUCHI ORGANIC」はどのようにして多くの人から愛されるブランドへと育っていったのでしょうか。まずは、その歴史を辿ってみましょう。

「IKEUCHI ORGANIC」は「池内タオル株式会社」という名で、1970年代までは、アメリカやヨーロッパへの輸出専用のタオルを中心に生産していました。

1990年代から環境配慮に注目し、1998年には世界で初めてオーガニックコットンの商品化に成功したノボテックス社のライフ・ノルガード氏との出会いをきっかけに、企業の環境配慮への国際規格ISO-14001を業界で初めて取得。翌年には品質保証に関する国際規格ISO9001も取得しました。

1999年には、原料から生産に至るまで、環境と安全性に最大限考慮したタオルを販売。これが現在も「IKEUCHI ORGANIC」の人気商品である「オーガニック120」の誕生です。

2000年代にはいると、繊維製品の安全基準では最も信頼性の高い認証の1つであるスイスの安全基準の初認定を受け、「赤ちゃんが舐めても安全なタオル」が誕生しました。また、生産活動で使う電力を100%風力でまかなうことで、「風で織るタオル」と呼ばれるようになります。

創業60年を迎えた2014年、ピュアなオーガニックを追求していくことを明確にするために社名を「池内タオル」から「IKEUCHI ORGANIC」へ。来る創業120周年の2073年には、「赤ちゃんが食べられるタオル」をつくると宣言しました。

それ以降は、食品工場の安全基準であるISO-22000にタオル業界で初めて認定を受ける、トレーサビリティシステム運用の開始など、赤ちゃんが食べられるほどの“安心安全”なタオルづくりと販売を目指し、さまざまな取り組みを展開しています。

約20年前、オーガニックを追求するタオルブランドとして大きく舵を切ることができたのは、「池内タオル株式会社」を下支えしてきたOEM事業がありました。

池内氏 1980年代、業界に先駆けてコンピュータ支援設計(CAD)を導入していたため、品質が高く、かつ早く納品ができる企業としてOEMの拡大に成功しました。デパートのタオルハンカチ売り場の半分ぐらいを私たちのタオルが占めていた時期もあります。柄を織りで表現するジャガードタオルがほとんどなかった1955年頃に、私たちはデジタルを駆使することで複雑な柄のタオルをつくることができたことも、多く受注いただけた理由かと思います。

2073年までに「赤ちゃんが食べられるタオル」をつくる

2001年に世界で最も厳しい繊維製品の検査機関「エコテックス」へ検査を依頼し、「乳幼児が口に含んでも大丈夫なもの」という最上位の認定を取得。次なる目標として創業120周年である2073年までに「赤ちゃんが食べられるタオル」をつくることを掲げています。

阿部氏 「食べられるタオル」というのは味覚を追求することではなく、万一食べてしまい体内に残ったとしても安全なタオルのことを指しています。

そもそも綿花は「食べない野菜」と呼ばれる農産物ですが、食べる農産物ではやってはいけない、もしくはやらない方がいい、遺伝子組み換えや殺虫剤・枯葉剤・化学肥料などの環境負荷が高い農薬散布が行われて栽培されています。そんな綿花を使ったタオルを、食べても大丈夫な状態にすると言っているのは、業界でも私たちだけなのではないでしょうか。

「赤ちゃんが食べられるタオル」を達成する上での最難関は、縫製用の糸だといいます。商品としては同じカラーとして販売していても、オーガニックの場合、厳密にはタオル1枚1枚少しずつ色が異なってくるのです。

阿部氏 オーガニックの白の縫製糸を用意しておいて、それで縫えば環境負荷も少ないし楽ではありますが、タオルと縫製糸の色が違うというのは、商品として美しくはないですよね。本来であれば、タオルの色に合わせて縫製糸も染色するのが一番なのですが、商品の色数分の縫製糸をそれぞれ用意しなければならないので、縫製糸も作る色数が膨大なうえに、糸の染色ロットも大きいです。その割にタオル一枚あたりに使う縫製糸の量はとても少ないので、糸の在庫量は増え、在庫消化に時間がかかり、滞留期間が長いと糸の劣化にもつながるというリスクが大きいのですが、最初に用意する資金も大きいので現実的ではないのです。

現状は弊社が店舗やECで直接販売するオリジナル商品の縫製糸のオーガニック化は完了しましたが、タオル以外の縫製品(バスローブなど)や他社様から生産委託を受けている製品については未だ手を付けられておりません。実現までには時間がかかりますが、少しずつオーガニックの糸に切り替えていきたいです。

タオルと縫製糸の色が違うというのは、商品として美しくはない。「それくらいお客さんも気にしないのでは?」とつい思ってしまいますが、池内氏はタオルへのこだわりをこのように話します。

池内氏 「これくらいいいや」と許してしまうと、あっという間にズルズルゆるくなってしまうんですよ。「赤ちゃんが食べられるタオル」と、目標を言葉にして掲げることは、自分たち自身でハードルを上げて、心を引き締めるためだと私は思っています。

徹底したオーガニックへの追求をつづけると同時に、2014年、お客様に自分たちの想いを直に伝える場として東京と京都に直営店をオープンします。小売への卸しや商社を通じた法人販売といった既存の販売はせず、直営店とオンラインストアで自ら商品を販売するのが「IKEUCHI ORGANIC」がブランドとして貫く販売スタイルです。

阿部氏 個人のお客様への販売と企業のお客様への販売、どちらが多いのか聞かれることはしばしばありますが、私たちは明確な区別をしていません。というのも、最初は個人で買いに来てくれたお客様が私たちのタオルを気に入ってくださり、その方が務める企業の記念品等で私たちのタオルを選んでくださるといったことがとても多いんですね。

池内氏 私たちは、企業やホテル用にタオルをつくることはしていません。ロゴやナンバーを入れずに、一般用のものをそのまま使っていただく。「どうしても」といわれた場合は、刺繍を入れる程度にしています。

民生用のものがそのままプロの現場でも使われる。高品質なタオルだからこそできる戦略であり、それが私たちの自慢なんです。

プロダクトライフサイクルを伸ばす「メンテナンスサービス」の始まり

「IKEUCHI ORGANIC」はお客さんにタオルを長く使ってもらうことが一番の環境配慮だと考え、「長寿命設計」「消耗品を愛用品へ」というコンセプトを掲げています。一般的にタオルは長くても1〜2年くらい使う「消耗品」と捉えられてきました。一方、誰かからプレゼントされたものや日々状態を気にかけたり、わざわざメンテナンスに出したものは、愛着が生まれ「消耗品」から「愛用品」へと意識が変化していきます。

買い替えサイクルが短いほうが、より多く売れると考えられるなか「IKEUCHI ORGANIC」が長寿命設計の重要性やメリットをサプライヤーにどのようにして伝え、理解を得てきたのでしょうか。

池内氏 例えば、私たちが「今治タオル」の占有率の50%を占めていたとしたら、たしかにサプライヤーさんの売り上げが落ちてしまうことも考えられますが、私たちは80社のうちのたったの1社なんですよ。

さまざまな嗜好を持つお客様の中には、我々のコンセプトに共感してくださる方が確実にいて、今後より増えていくはずです。だから、私たち1社が長寿命設計を実現したとしても迷惑はかかりませんし、むしろそこを強みにしていけるはずなんです。

「長寿命設計」の延長として、2022年にお客様のタオルをメンテナンスしてお戻しするサービスを開始。繊維が硬くボリュームがない、吸水性が落ちている、気になる汚れが落ちない、臭いがついているなど、自宅での洗濯では改善しない場合に、タオルメンテナンスに出すことで購入した時の状態に近づけて戻してくれるのです。

タオルメンテナンスサービスをはじめたきっかけは、お客さんから洗濯方法を相談されることが多かったことに端を発しています。

阿部氏 一般的にタオルはお客さんがご自宅で洗濯するものですよね。そのため、お店に並んでいるものと家で洗濯したものとでは、風合いや触り心地が違うと感じるお客様が多いんです。そのため、私たちの店舗には洗濯機を用意し、実際に洗濯したタオルをお客様に触っていただけるようにしています。

しかし、ここからが問題で…。実は私自身も直営店オープン当時は、そこまで洗濯の知識がなかったんです。むしろお客様のほうがよっぽど詳しくて、教えていただくことばかりでした。調べたり、お客様のお力を借りて、正しい洗濯方法を学んできたんですね。そのおよそ10年間蓄積してきたタオルケアの集積がこのサービスなんです。

このサービスでは、今治の本社工場にタオルが到着後、状態を診断。十分な量の水を使い、3時間ほどかけて温水で入念に洗濯します。その後、温風でパイルに空気を含ませながら乾燥させ、弾力を持たせる。最後に糸のほつれなどをチェックして完成となります。

池内氏 洗剤や柔軟剤等によって、石鹸かすを始めとした目に見えない付着沈着物を正しい洗濯方法で落としてあげるだけでも、タオルが少し元の状態へ蘇るんです。一般の家庭の洗濯機では、常温水かつ水の量が足りず付着沈着物は取れませんが、メンテナンスでは前工程の温水浸け置きから始まり、85℃で10分間の煮洗い、3度の濯ぎまでの全工程で約3時間、ゆっくり丁寧に洗うため、とても綺麗になります。

このサービスは、一般のご家庭だけでなくホテルやレストランのタオルたちも持ち込まれるといいます。洗濯設備を完備するのは導入コストが高く、規模が小さなホテルだと一度に持ち込む枚数が少ないため他の洗濯サービスだと単価が上がってしまう場合があります。一般のご家庭以外にも、タオルメンテナンスは一定の需要があるようです。

阿部氏 思い入れを持ってタオルを買っていかれるお客さんが多い中で、風合いが変わってしまうと残念な気持ちになるじゃないですか。でも、メンテナンスで少しでも元の状態に戻すことで、帰ってきたタオルに対してもっと愛情が湧いてくると思います。1年の「消耗品」ではなく、10年一緒にいる「愛用品」へ変容するきっかけとなってくれたら嬉しいです。

「環境価値」を伝えつづけた10年。お客様にも変化が

2014年に直営店を開店してから、もうすぐ10年が経ちます。実際にお店に立つ阿部さんは、お客さんの環境配慮への理解は確実に変わってきていると感じているそうです。

阿部氏 2014年時点では「オーガニックとそうでないタオルは、どう機能が違うのか」を質問されることが多かったんですね。タオルの使い心地というのは、①使われる糸の太さと撚りの回数、②パイルの長さ、③縦糸横糸の密度という3つの設計要素で決まります。3つの設計要素は変えずに糸だけオーガニックに変えるため、お客様の使用感は変わりません。そのため、なぜオーガニックであると価格が高くなるのか?というご質問をいただくことが多かったです。

「オーガニックの価値って何ですか?」というご質問には、環境価値ですとお答えしてきました。安全面を考えたらオーガニックのほうが絶対にいいと。昔は、その答えに対して「よくわからない」という顔をされるお客様が結構いたんですよね。でも今は、「環境にいい」ということの価値が浸透してきたのか、納得されて帰っていく方が多くなったように感じています。


直営店オープンをきっかけに、お客様とコミュニケーションをとりながら歩みを進めてきた「IKEUCHI ORGANIC」。「赤ちゃんが食べられるタオル」の完成に向け、今後の取り組みにも期待が寄せられています。

2023.9.8
取材協力:IKEUCHI ORGANIC株式会社
https://www.ikeuchi.org/

サーキュラーエコノミーの視点から、ビジネスモデル分析

IKEUCHI ORGANIC株式会社は、従来消耗品として使われるタオルの長寿命設計にこだわり、オーガニックタオルの開発・製造・販売を行っています。「10年使える長寿命設計」をコンセプトにメンテナンスサービスを開始し、消費者が商品に長く愛着を持てるよう工夫しています。

製造業におけるサーキュラーエコノミーのビジネスモデルとして、北欧横断評議会であるNordic Innovationとフィンランドの政府関連団体のSitraが「サーキュラーバリューチェーン」を提唱しています。これらの要素を取り入れることで、資源効率を上げ企業の価値を向上させることができると考えられています。

参照:Circular Economy business models in the manufacturing industries

IKEUCHI ORGANIC株式会社は製品設計、製品の使用に注力することで、タオル製造におけるサーキュラーエコノミーの実現と地域産業への貢献が高く評価されています。

再生可能性

再生可能エネルギー、バイオ原料または再生材の使用及び耐久性があり修理しやすい製品を設計

→長寿命設計を前提としたオーガニックコットンのタオルを開発・製造

製品の長寿命化

修理、メンテナンス、アップグレード、再販、再製造によるライフサイクルの延長

→吸水力、風合いを戻す洗濯によるタオルメンテナンスサービスを実施

メーカーと使い手が直接コミュニケーションをとることが出来ない業界で販売スタイルを直接販売に絞り、商品の価値やこだわりを伝えるブランディング。そして高い品質で長持ちするオーガニックコットンタオル。

また消耗品の壁を突破し長く愛用品として使用されるためのメンテナンスサービス。いずれも首尾一貫した製造業のサーキュラーエコノミー型のビジネスモデルの取り組みと言えます。

今後はタオルを静脈産業に戻し再資源化することができればより高いサーキュラーエコノミーが実現します。直接販売ならではの取り組みに期待します。