全ての企業がサーキュラーエコノミーに取り組むべき理由

「循環型社会」という言葉は知っていても、サーキュラーエコノミーという横文字になると、耳慣れない方も多いと思います。

1990年代以降、際限なく増えるごみの埋め立てを減らすことを主な目的として、世界的に3R(リデュース、リユース、リサイクル)の仕組みと法制度が導入されました。

その時に明文化されたのが「循環型社会」という概念で、読んで字のごとく地球上の限りある資源を循環させる、という意図が込められた言葉です。

出典:資源循環政策の現状と課題(経済産業省 産業技術環境局 リサイクル推進課)

サーキュラーエコノミーとは、エコノミー(=経済)という名の通り、よりビジネス的・実務的なニュアンスを含んだ概念です。「ビジネスを通じて循環型社会をつくる」のがサーキュラーエコノミーと言っていいでしょう。言い換えれば、ビジネスによって環境という社会課題を解決する手法です。

そのために、これまでの「作って、売って、捨てる」という一方通行な経済構造(=リニアエコノミー)から、「作って、売って、使い続ける」に転換するのが、サーキュラーエコノミーが目指す循環の形です。

なぜ国際企業が導入を進めているのか

先進的なスタートアップ企業だけでなく、国際的な大企業がサーキュラー型のビジネスモデルを導入する事例が増えてきています。

有名なのは、GE(ゼネラル・エレクトリック)がジェットエンジンの販売から、働時間や回転数によって課金するモデルにシフトした事例です。

また、オランダの電気機器メーカーPHILIPSは、電球の販売ではなく光量に応じた課金システムを導入しました。

これらの企業がサーキュラーエコノミーに取り組むのは、従来型のビジネスモデルに限界を感じていると同時に、サーキュラーエコノミーにビジネスチャンスを見出しているからです。だからこそ、従来のCSRのような形に留まらず、既存ビジネスの否定も伴うような大胆な変革を行なっているといえます。

例えば、製品の使用に対して課金することで、今まで製品の販売時だけだった顧客との接点が、メンテナンスを通じて継続的になるメリットがあります。

それは、このビジネスモデルが長きに渡って小売に握られていたパワーバランスを変化させる可能性を意味し、メーカーが使い捨てでなく、長持ちする製品をつくるインセンティブにつながります。

サーキュラーエコノミーはビジネスチャンス

サーキュラーエコノミーがビジネスチャンスである理由は2つあります。

①資源価格の高騰

②成長の可能性

なぜそう言えるのか一つずつ見ていきましょう。

資源価格が長期的に高騰している

石油をはじめとした資源の枯渇という言説は、なにも目新しいものではありません。しかし、いよいよ限界にきているというのが専門家の見解のようです。

実際、従来よりも採掘コストが高いシェールオイルが採算ラインに乗ってきたのは、長期的な石油価格の上昇が背景にあります。細田衛士氏は、2012年にカナダの鉱山を訪れた際にこう述べています。

鉱山到着後に説明を受けてさらに驚愕したことがある。鉱床の銅の品位(含有率)はなんとたった0.3%だというのだ。鉱床を覆う土砂のなかには銅はまったく入っていないから、銅を採掘するためにはまずこの土砂をダイナマイトで取り去らねばならない。交渉にたどり着いて鉱石を採掘しても、銅は0.3%しか入っていない。残りの99.7%はズリとして捨てられる運命にある。

資源の循環利用とはなにか バッズをグッズに変える新しい経済システム

ズリ山(採掘目的の鉱物が含まれない土砂)が積もる採掘現場

このような効率の悪い鉱山にまで採掘が及んでいるのは、やはり資源価格の上昇で採算が取れるようになったからです。

もちろん、需要と供給の関係があるため一概には言えませんが、地球上の資源が有限である以上、長期的に資源価格が上昇するのは確実でしょう。

そうなると、企業にとってはなるべく資源に依存せず、製品を捨てずに自社で回収し、原材料として使い続けるサーキュラーな仕組みの構築が、コスト合理的な判断となってきます。

大きな成長機会がある

アクセンチュアによれば、2030年までにサーキュラーエコノミーによって4兆5,000億ドル規模の価値創出の機会があります。日本のGDPが約5兆5,000億ドル(2019年)ですから、その規模の大きさが伺えるのではないでしょうか。

この試算は、EUや中国が国家レベルで明示している生産額や雇用創出などの目標値を元にしています。

例えばEUでは、2020年1月に公表された新環境・経済・金融政策「欧州グリーンニューディール」において、サーキュラーエコノミーを主要テーマと位置付け、行動計画の実行により「2030年までにEUのGDPを0.5%押し上げ、約70万人の雇用が創出される」と明記しており、中国では2021年7月、資源循環利用による生産高5兆元(約7,500億ドル)をはじめとした関連目標を発表しました。

また、デジタルとの相性の良さも大きな成長可能性といえます。

資源や製品のトレーサビリティ確保が必要なサーキュラーエコノミーには、デジタル技術が不可欠です。

例えばシェアリングビジネスは、遊休資源の活用という観点からPaaS(Product As A Service / サーキュラーエコノミーの一つの形)とも言われていますが、効率的なデジタルプラットフォームにより世界的な拡大を実現しています。今後、5Gの導入によりイノベーションが期待される分野の一つと言えるでしょう。

さらに、EUが政策にも絡めてサーキュラーエコノミーを推進する背景には、環境分野でのデファクトスタンダードを目指す動きがあるとも言われています。

実際、サーキュラーエコノミーのISO規格化の話が持ち上がっていたり、中国での展開に力を入れるフランスの環境大手ヴェオリアの動きなどを見ると、アジア地域におけるプラットフォーム覇権という意図が見えてきます。

最悪の場合、EUから環境分野におけるGAFAMが出現し、日本企業はそこに乗らざるを得ないという未来も考えられるでしょう。

サーキュラー・エコノミー デジタル時代の成長戦略

サーキュラーエコノミー:循環経済がビジネスを変える

サーキュラーエコノミーは日本の強みを発揮できる分野

そのような未来を防ぐには、先手をとって実績を積み上げ、この分野での存在感を世界にアピールすることが肝心です。

幸いなことに、日本には自然を敬い、共生してきた歴史と文化があります。実際に、江戸時代には理想の循環型社会を築いていたとも言われています。

また、世界広しと言えども、日本ほどごみの分別ができる国は他にありません。

海外では全て一緒くたにして集めてから、大規模なラインで分別するシングルストリームという方式が一般的です。(余談ですが、個人的に映画トイストーリー3のごみ処理場のシーンが象徴的です。)

こうした日本の強みを活かすには、上記ヴェオリアの例に対抗するような、大企業を巻き込んだプラットフォーム化と同時に、「サーキュラーエコノミー」という横文字は知らなくとも、そうした活動をしている草の根的な企業や人のピックアップという、両面での展開が必要だと考えています。

サーキュラーエコノミーは自然と浸透していく

以上が、全ての企業がサーキュラーエコノミーを取り入れるべきとする理由です。

その他にも、Z世代に象徴される消費者の「サステナブル志向」も見逃せないポイントです。こうした価値観の変容が、従来のリニアエコノミーからの脱却を促すとも言われています。

かつて起きた天動説から地動説へのパラダイムシフトも、世代交代によるものだったという説もあるようです。そう考えると、今後サーキュラーエコノミーのような概念も自然と浸透していくのでしょう。

当メディアでは、地域、産業ごとの特性を活かした事例をもとに、新たなサーキュラー型ビジネスの創出のサポートを行っていきます。