サーキュラーエコノミー新規事業のハブ オランダBlueCityとは

今、私たちが暮らす地球上には、気候変動や食料不足、飲み水の確保等、様々な社会問題が顕在化しています。これらの社会問題をビジネスとして解決する「ソーシャルビジネス」に取り組むスタートアップや、今後起業したい人たちが集まる施設がオランダのロッテルダムにあります。そのハブがインキュベーション施設「BlueCity」です。

BlueCityには、シェアオフィスだけでなく、食品や製品をトライアル製造できる設備や小規模での製造に対応できる施設など、ソーシャルビジネスへ挑戦するスタートアップに必要な全てが揃っています。

そこで今回は、BlueCityにおけるサーキュラーな取り組みや、BlueCityにある入居者同士が協力・協業できる環境づくりについて、BlueCityのオペレーションマネージャー「Marc ten Oever氏」にお聞きしました。

閉館したスイミングプール施設を再利用したインキュベーション施設

スイミングプールとして使われていた頃の看板が今でも残っている。

―BlueCityとはどのような施設でしょうか?

BlueCityがあるこの場所は、元々1980年代に建設された「Tropicana」という名前のスイミングプール施設でした。

今は、我々が様々なサステナブルな取り組みをするシェアオフィスを中心に、キッチンや研究設備をシェアしたり、入居者同士で協力・協業できるインキュベーション施設として運営しています。

かつてスイミングプールとして使われていたこの場所には、水が張られ、ロッテルダム市民が楽しく泳いでいた。今ではBlueCityのイベントスペースとして、様々な取り組みの中心となっている。

今から約8年前にiFundという投資会社がこの建物を購入し、ゼロからスタートしました。

元々スイミングプールとして水を張っていた場所は、今はイベントスペースとしても使用。スイミングプールとして使われていた施設に、色々なリユース品を運び込み、今の施設を再構築しました。

そのため、元々オーダーメイドで作られた内装ではないため、内装として運び込んだモノの素材やサイズ、入手経路を把握するのが困難になり、後々困ることになると思いました。そこで、BlueCityでは「建物パスポート」というデータベースを採用して、内装で使う全ての建材や家具、備品を把握しています。追加で同じような素材を探さなければならない状況になってもすぐに探せる仕組みになっています。

かつてある病院で使われていたギザギザの形をしたガラスの間仕切りを、BlueCityのデザイナーがうまく取り入れて、リユースしている。

―ここはシェアオフィスのフロアですか?

はい。今いる場所は、オフィスフロアです。1つの大きなフロアを仕切って、個別のオフィスを作っているのですが、間仕切り壁に利用されている建材は、元々病院で使っていたものを再利用しました。

―間仕切りがジグザグになっていてデザイン性が高いですね。

病院で使われている時から、少しジグザグに折れ曲がっているデザインだったので、建築士と話してそれを活かすことにしました。

こちらのフリーアドレスの席からは、BlueCityの隣を流れるニューウェ・マース川の景色が一望できる。

―どのようなプランでこのオフィスを利用できますか?

デスク毎にレンタルでき、1つのデスクを月額€380でレンタルできます。さらに、運河を臨むこの席はフリーアドレスになっていて、会員が自由に使えるスペースです。

オランダで使われている公共のごみ箱をアップサイクルして作った椅子。

BlueCityは社会起業家が集まり、協力・協業できる仲間を見つけられる場所

―サーキュラーエコノミーに取り組む社会起業家にとって、BlueCityはどのような居場所になっていますか?

ビジネスを立ち上げたばかりの時は、わからないことやうまく行かないことが多いと思います。スモールビジネスの段階から多くの人が集まれる場所が多くありません。BlueCityでは、異なる業種のソーシャルビジネスを行う人々や異なる素材を取り扱う人たちがこのコミュニティに集まることで情報交換の場ができ、アイディアが生まれています。BlueCityの会員同士での協力や競合は、かなり活発です。

―BlueCityに入っている起業家はどのようなサポートを受けられますか?

まず起業家にとっての最初の壁となる「書類や手続き」のサポートをしています。

また、ここにはモノづくりの上流から下流までの全てに必要な設備が全て揃っています。

さらに、BlueCityへの加入者同士でのビジネスマッチングも頻繁に行われており、競争ではなく、協力・協業して新しいものを生み出せる場を提供しています。

企業のフェーズ(4段階)に合わせて使える、BlueCity LABOの紹介

―BlueCity LABOはどのような施設ですか?

BlueCity LABOは、工業デザインを中心に行うエリアです。プロトタイプを作る際には、まずコンピューターグラフィックを使ってデザインの全体像を作り、その後に、金属や木材を専用機器で削り出して、試作品の形を作ります。この施設は、学生や教授、工業デザイナーなど、誰でも低価格で利用できます。

この施設でプロトタイプを作り、あとでご紹介する施設内の別の場所に機械を導入し、本格的な製品の製造も可能です。製品の販売が軌道に乗り、専用の施設で量産するフェーズになったら、BlueCityを出て、自分たちの生産拠点を持つという流れです。

FOOD HUBの紹介

廃棄予定の食品を使って作っているファラフェル。写真は調理前の冷凍された状態のものだが、食事の際には、これを揚げたり焼いたりして食べる。

―FOOD HUBではどのような食品が作られていますか?

BlueCityの内には、FOOD HUBという食品加工施設が3箇所あり、色々な食品の商品開発が行われています。例えば、オランダの食品ロス問題を解決するために、廃棄されるはずだった食材から「ファラフェル(※1)」という中東で人気の豆のコロッケを製造するプロジェクトがあります。

オランダでは、自国でも農作物を多く生産していますし、海外に輸出もしています。この過程で多くの食品ロスが発生することがあります。例えば、輸出する食品が入ったコンテナの中に不良品があれば、全て廃棄になることもあります。このように、まだ食べられるのにもかかわらず、廃棄される食品を活用するプロジェクトが増えています。他には、ヴィーガンケバブやヴェジタリアンパスタを製造するプロジェクトもあります。

※1:ファラフェル・・・中東の人気料理で、ひよこ豆やウズラ豆をスパイスとともに挽いて揚げたり焼いたりした、ベジタリアン向けの料理。

BlueCity発の事業事例①:コーヒーかすで作るキノコ「rotterzwam」

コーヒーかすと種菌だけというシンプルな素材でキノコを栽培している。

―BlueCityで生まれた事業の成功事例を教えてください。

コーヒーかすを使ってキノコを栽培する事例があります。出来るだけサステナブルな製法にしたいという意図があり、キノコ栽培に使う素材は「コーヒーかす」と「キノコの種菌」のみで、他に特別なものは入れていません。この製法であれば、場所を選ばず市街地でも栽培可能で、とても美味しく育ちます。

―どのようなビジネスモデルなのでしょうか?

キノコを栽培して、販売するというシンプルなビジネスモデルですね。

栽培に使うコーヒーかすは、企業から無料で入手しています。つまり、一般的な製法で作るきのこよりも、原材料費を抑えられ、利益を生み出しやすいビジネスモデルになっています。キノコ単体で販売するだけでなく、スープなどの加工品の販売も行っています。

―この製法で作られたキノコの価格は、他の製法で栽培されたキノコと同じですか?

サステナブルな製法だからと言って、値段を高くしてはいません。市販の他のキノコと値段は、ほとんど同じです。この企業は「rotterzwam」というブランドとして販売していますが、サステナブルな製法で作ったキノコとして、特別なブランディングをしているわけではありません。

オランダのポピュラーな料理であるビタボール。

―オランダはキノコの消費量が多いのでしょうか?

オランダは特にキノコが有名な国ではありませんが、ビーガン食品の市場が拡大しているため、近年キノコ需要が急激に増加しています。

タンパク質を摂取するための「肉の代替品」としてキノコを選ぶ消費者が増えています。また、オランダの名物料理である「ビタボール(※2)」も、ビーガン対応としてキノコが使われています。

※2:ビダボール・・・オランダのスナックバーなどでよく食べられる日本で言うコロッケのような食べ物。通常お肉が含まれている。

BlueCity発の事業事例②:海藻で作る建材「BlueBlocks」

海藻を使って作られた建材。

―BlueBlocksとはどのようなプロジェクトですか?

BlueBlocksはイノベーティブな企業で、海藻から木材の代替品を製造しています。

ー匂いは「のり」に似ていますよね?

BlueBlocksの原料となるのは、食用ではない海藻です。地球温暖化の影響で、海藻が急増しており、その問題解決のためのプロジェクトが「Blue Blocks」です。BlueBlocksは、すでに製品化をして、顧客がつき始め、新しい製品の製造も始まっています。

―この海藻でできた資材はどのように利用されていますか?

家庭用のキッチンや建物の壁で使う建材として使われています。

―BlueBlocksはなぜ海藻に着目したのでしょうか?

地球温暖化の影響で海藻が繁殖しすぎて、海中の酸素循環に影響が出ています。しかし、海藻を減らせば良い?というと一概にそうとも言えません。

なぜなら、海藻は空気中のCO2を吸収する役割もあり、その吸収率は木よりも高いと言われているからです。全てはバランスが大事ですので、そのバランスを保つためにBlueBlocksは活動しています。

BlueCity発の事業事例③:マンゴーレザー「FruitleatherRotterdam」

廃棄されたマンゴーで作られたレザー。

―FruitleatherRotterdamとはどのようなプロジェクトですか?

FruitleatherRotterdamは廃棄されるマンゴーからレザーを作るプロジェクトです。日本の旭化成や帝国ホテルとも商談を進めていたり、日本の朝の情報番組「Zip」でも取り上げていただいたりと、日本とも繋がりがあります。

ーなぜ他のフルーツではなく、マンゴーを素材に選びましたか?

オランダは世界で第2位のマンゴーの輸入国です。ロッテルダムには、欧州地域で重要な湾があり、世界中からオランダに輸入され、他の欧州各国へ配送されていきます。

食物の「繊維」を使ってレザーを作っているので、技術的には他の果物でも応用可能です。ただし、FruitleatherRotterdamのビジネスはまだまだ小さいので、今はマンゴーに集中して、今後、色々な果物にも挑戦する予定です。

ロッテルダムとアムステルダムの違い

世界第2位の食料輸出国であるオランダの貿易を支える港。日々、世界中の船が行き交っている。(画像出典:Port of Rotterdam)

―ロッテルダムとアムステルダムには、それぞれどのような特徴がありますか?

ロッテルダムには湾があり、215ヵ国の人が住んでいるインターナショナルな都市で、アムステルダムよりもダイバシティがある環境な印象です。

―サーキュラーエコノミーの面ではどうですか?

ロッテルダムの方が進んでいると思います。アムステルダムは観光都市であり、対外的な発信やWebマーケティングに力を入れている都市なので印象に残りやすいですが、実際にサーキュラーエコノミーに関する企業のビジネス拠点や製造拠点はロッテルダムに多くあります。

また、ロッテルダムの西側には世界で有数の広さを誇る耕作地もあり、オランダが世界第2位の農産物輸出国になっている大きな要因になっています。

BlueCityの今後の展望

―BlueCityの中でも新しく取り組んでいるプロジェクトについて教えてください。

世界中で問題になっている「飲み水の確保」の問題解決のための実証実験をしています。上下水道を完備して、都市単位で水の浄水システムを作ることは世界中で行われていると思いますが、今、BlueCityの中では、建物単位での浄水システムを構築しています。このプロジェクトは、宇宙空間、宇宙基地の基地内で水を浄化して、再利用している運用から発想を得ています。

―このプロジェクトは、将来的にどのようなゴールを目指していますか?

まずはBlueCityの建物内で実証実験を繰り返し、他の建物にも導入することが最初の目標です。

今は、雨水を集めて、再利用している施設は少ないですが、このシステムが確立できれば、1つのビルで雨水を集め、ビル内で浄水して、飲み水や手洗い、トイレで使用できるようになる可能性があります。

―最後に今後の展望を教えてください。

シェアオフィスはある程度形になって、入居者同士の協力・協業する仕組みが回り始めたので、次のステップとして、今後は資金を集めて、隣にホテルも建設したいと思っています。

2023.06.20
BlueCity
https://www.bluecity.nl/