
SDGsや脱炭素化などの社会的要請が強まるにつれ、大企業ほど抜本的な改革を迫られてきています。しかしSDGsという包括的かつ巨大な概念に対して「まず何をしたらいいの?」と戸惑う現場の声も多く耳にするのも事実です。そこで今盛り上がっているのが1社で取り組むのではなく、業界横断的に相談や勉強会ができるプラットフォームです。今回は、こうしたプラットフォームの事例と成功の鍵についてお伝えします。
1.サーキュラーエコノミーを促進するプラットフォームとは
久米 今回はSDGs担当者必見のサーキュラーエコノミー分野のプラットフォームについてお話していきたいと思います。よろしくお願いします。
新井 1.サーキュラーエコノミーを促進するプラットフォームとは、2.事業化における課題、3.前例のないサーキュラーエコノミーに挑む糸口についてお話させていただきたいと思います。
久米 最近は団体間のコラボレーションを生み出すプラットフォームが盛り上がっていますが、どういった背景があるんでしょうか?
新井 今までは「CSR(企業の社会的責任)」という考え方で、植林活動など事業と直接的な関係がないけれど社会的に価値のあることにお金を使うことが主でした。これは自社内で完結できることです。

しかし今はCSRからCSV、SDGs、サーキュラーエコノミーというCSR2.0みたいな世界観になっています。すると1社だけでは完結できないので、複数社、特に同業界や同じバリューチェーン内のレイヤーの違う業界との連携を深めて新しい価値を作っていくことが必要なんじゃないかという考えになり、様々な団体が交流できるプラットフォームの事例が増えてきているんだと思います。
久米 従来のリニア(直線型)経済モデルは、モノが消費者に渡ってからの責任を企業は持たなくてよかったといいますか、動脈産業・静脈産業の2つに切り離されていたところを、サーキュラーエコノミーの場合は静脈産業側も巻き込んで1つのバリューチェーンとして仕組みを作ることが必要になるので、これまでよりもコラボしていく企業っていうのが増えているのかなと。
新井 そうですね。例えば「リターナブルびん」という戦前からあった仕組みですけども、酒びんとかビールびんは、同じ規格のびんを複数社で使い回して、どれを使ってもいい制度が昔からありました。

飲料メーカーが中身を充填したびんを酒屋に卸して、空になったびんはリサイクラー(回収業者)が回収して洗ってまた飲料メーカーに戻すという仕組みなんですけど、これはまさに複数社での連携があってのサーキュラーエコノミーというか、リユースの仕組みですよね。

久米 同じ方向性を持った企業と繋がるための場としてプラットフォームが出てきているってことですね。
新井 私が参加しているものだと政府主導のGXリーグっていう脱炭素のプラットフォームであったり、Circular Economy Hubっていうサーキュラーエコノミー推進プラットフォーム、その他にもプラスチックの循環プラットフォームであるBlue Plastic Salonというものがあったりとか、地域連携みたいな事例だとだとTOKYOエシカルっていう枠組みもあります。
2.事業化における課題
久米 具体的に面白い事業に発展した事例はありましたか?
新井 まだないっていうのが現実だと思いますね。なぜかと言うと自分も参加してみて思ったんですが、連携するにはある程度の情報開示が必要になります。
そういった場に来ている担当者の方がそこまでする権限がなかったりすると、「今うちはこういうことやってます」の言い合いになってしまって、次のステップに進んでいくことが難しいのかなっていう印象があります。

久米 今の段階だと、まだ情報交換の場に留まってしまう?
新井 はい。もちろん情報交換や勉強会も大事なので、とりあえず枠組みはできてきていると考えるのがいいんじゃないでしょうか。
久米 プラットフォーム発の実証実験を始めますみたいなリリースは結構耳にしますが、本格的な事業ってなると、誰が回収・リサイクルコストを負担するのかっていう問題から話が進まない事もあるのでは?
新井 そうですね。投入コストの問題は非常に大きくて、だからこそいかに長期で見られるかが鍵です。10年後に黒字化するみたいな絵図を描くには、国など公共機関が音頭を取っていく事が必要だと思います。

それをやってるのがEU、特にフィンランドが力を入れています。フィンランドにはSITRAという国営組織があり、サーキュラーエコノミーの情報がそこに集約されていて、そこからエコシステムをどんどん作っていこうという流れができています。
久米 日本の場合は人口や規模も全く違いますし各地域に企業が分散しているので事情が少し違ってきますね。特にサーキュラーエコノミーはできるだけ小さい範囲で循環を回すことが必要だと思うんですが、それを踏まえると、日本におけるサーキュラーエコノミーの進め方はどうあるべきですか?
新井 地域連携こそ自治体が主導してやっていくのが鍵になると思います。
事例で言うと、白井グループというごみの回収業者が東京の自由が丘や新宿二丁目といった街と組んで、街の中でサーキュラーエコノミーの仕組み作りをした事例があるので、そういう事例を積み上げていくのが重要だと思います。


3.前例のないサーキュラーエコノミーに挑む糸口
久米 環境と人にも、街作りの一環としてSDGsに取り組みたいっていう自治体さんからのご相談が来ているそうですね。
新井 はい。自治体さんは今まさにサーキュラーエコノミーを進めていかなきゃっていう危機感を抱いているんですが、どうしていいか分からないっていうお悩みが一番多いです。
それは当然で、世界中を見てもサーキュラーエコノミーって前例がないので悩むのは当然なんです。
そこで重要になってくるのが、私たち静脈産業の存在です。先ほどのリターナブルびんの例に戻りますが、今はびんの流通が少なくなって縮小してますけど、静脈産業はもう戦前から既に循環させていた非常に参考になる生きた事例なわけなので、そこから新しい仕組み・ものを作っていくっていう視点が大切です。

現にグローバルだと動脈産業・静脈産業が1つになっていくっていう流れになってきています。
久米 静脈産業のこれまでのノウハウとか、工場とか物流を持っているっていうところを生かしながら静脈産業・リサイクラーがむしろ仕切り役になるぐらいの感じで進めていくと、より事業化のスピードが上がっていきそうですね。
新井 環境と人も、様々なメーカーさんや静脈産業の情報を集約して、彼らのマッチングを行うプラットフォームとして機能しています。これから色々な事例をご紹介できると思いますので、楽しみにしていただければと思います。
久米 それは楽しみですね、ありがとうございました。