企業紹介Vol.1 Lindström(リンドストローム)/ワークウェアサービス

ワークウェアレンタル事業を核とするフィンランドの老舗「リンドストローム社」はサーキュラーエコノミーへの移行に積極的に取り組み、成功を収めている企業です。ヘルシンキ・ヴァンター空港近くの工場兼事業所を訪問し、お話を伺いました。
リンドストロームの事業について
リンドストロームグループは175年の歴史がある会社です。繊維染色工場としてヘルシンキで創業し、1992年にエストニアに子会社を設立してからはグローバル企業となり、現在ヨーロッパとアジアを中心に23カ国で事業を展開しています。

お話を伺ったリンドストローム シニアバイスプレジデントAnupam Chakrabarty 氏
―事業の中心はワークウェアサービスでしょうか。
はい、すべての事業の中で、ワークウェアは最も大きな事業の一つで、事業全体の約50%を占めています。そのほか、製薬業界や電子産業で使用されるクリーンルームサービス、業務用のマットサービス、機器や機械などの洗浄に使われる工業用ワイパーも扱っています。ベッドシーツやタオルなどホテルのリネンサービスも大きな柱です。また、空港などの施設のトイレで手を拭くためのロールタオルを提供する洗面ソリューションもあります。
このように、私たちは多くの異なる事業ラインを持っていますが、ビジネスモデルはすべて同じです。私たちは何も売りません。売るのではなくレンタルする事業です。

回収されたワークウェアは顧客ごとに4つのユニットに分けられ、洗濯・乾燥・スチームの工程を経て畳んで顧客に戻される。
―テキスタイルのレンタル事業は創業当初から行っていたのですか。
約50年前から始めました。このレンタルビジネス自体が、循環型経済のコンセプトで成り立っています。私たちは、製品を販売するのではなく、耐久性があり長持ちするように製品を設計し、衣服はさまざまなユーザーによって再利用され、必要に応じて修理することで寿命を延ばします。そして、ライフサイクルが終わった後は、ごみにするのではなく、 裁断して別のものに作り替えるなど、さまざまな方法で再利用・リサイクルしています。
そしてここ2、3年は、サステナブルの観点から製品のライフサイクルを延ばすだけでなく、修理しリサイクルすることで全体のサークルを広げていこうという意識がより強くなっています。 そこで私たちは2019年に戦略を策定し、2025年までに全事業で繊維のリサイクルを100%にするという目標を設定しました。当社のウェブサイトに掲載されている「Lindström Sustainability report 2022」を読んでいただくと、すでにその目標にかなり近づいており、2025年にはすべての市場で繊維のリサイクルが100%になると確信していることをご覧いただけます。


それぞれのブースにソーイングキットや部品が用意され、修理される。裁縫スキルは会社で習得可能。
サーキュラーエコノミーを実現させるテキスタイルとは
―サーキュラーエコノミーの非常に重要な要素のひとつに、いかにして製品の寿命を延ばすか、ということがありますが、作業着やマットなどのテキスタイル素材はどのように選んでいるのでしょうか。
テキスタイルは基本、使用すれば汚れるものです。特にファッションテキスタイルに関しては数回使っては捨てられ、それが今日の世界で多くの汚染を引き起こしているのはご存じの通りです。ですから私たちが生地を選ぶときに重要な要素のひとつは「耐久性」です。製品の寿命は長ければ長いほどいいのです。生地選びの際には「その生地はどのくらいもつのか」「何度も洗濯した場合、色や性質はどのように持続するのか」「簡単に修理ができるのか」などを考慮します。

ランドリーは4つのユニットに分かれている。
そして重要なのは、その生地が長期にわたってサプライチェーンから調達できるかどうかです。企業のユニフォームは、ブランドカラーを使っているところが多いので色も変わりませんし、デザインも大きくは変わりません。そのため、サプライチェーンには同じ製品、同じ生地、同じ色が、何年にもわたって供給し続けられることが求められています。そして業界ごとにそれぞれ違ったニーズがあります。
例えば、食品や製薬業界では静電気防止製品が多く使われています。また、エレクトロニクス業界では、特に半導体や携帯電話の回路などを製造する際に、衣服の中に静電気が発生します。 体から静電気が行ってしまうので、それを本当に防ぐにはどうしたらいいのかを考えます。自動車業界やエンジニアリング業界であれば、人々は溶接など、大変な作業をしますから、その人の安全が非常に大事になってきます。 そのため、生地を選ぶ際には、火災安全基準や化学物質安全基準に耐えられる生地を選ぶことになります。また、小売業では、お客様へのイメージが非常に重要です。例えば、市場やスーパーマーケットでは、この人はウォルマートの人だ、この人はSマーケットだ、ということがわかるようにしなければなりません。

スチームの工程はカフェなど希望する顧客のみ通している。
これらのことを総合して、私たちはどのような業界と仕事をするのかを定義し、おつきあいをさせていただいています。場合によっては、私たちの顧客との関係は、20-25年の間続いています。
サステナブルなデザインとは
―デザインについてお聞きします。製品を長持ちさせるためのサーキュラーデザインは何がポイントなのでしょうか?
ポイントは、できるだけ「simple(シンプル)」「adjustable(調整可能)」「modular(モジュール化可能)」にすることの3つです。ユーザーが快適に使えるだけでなく、私たちも簡単に製品を修理できるようなデザインにするためです。 デザイン性の高いものを作ることは、決して難しいことではありませんが、派手に見せようとしてチェーンやボタンをたくさん付けようとすると、工程も難しくなりますし修理がしにくくなってしまいます。シンプルに機能的であること。モダンであること。そして、もう一つ重要なポイントは、簡単にリサイクルできる生地を使うこと、つまりライフサイクルを考慮することです。以上のようなことを踏まえ、各業界で何が求められているかを理解し、その上でデザインしています。


全てのワークウェアにRFIDタグが縫い込まれ、徹底したデジタル管理が行われている。
―お客様とともにデザインしたり、制作したりもするのですね。
はい。私たちが提供するサービスは、生地選びから始まり、製品選び、そして製品のデザインまで、エンド・ツー・エンドで行われるのです。社内にデザイナーがいて、そのデザイナーが生地を選び、調達チームが生地を購入します。 そして、デザインチームは、お客さまに向けたデザインを作成しています。そしてもちろん、定番商品もたくさん用意しています。お客様にはできる限り定番商品から選んでいただきたいと思っています。なぜならそれが最も持続可能な製品だからです。例えば、ドクターコートはどこの医療機関に行っても同じなので、自分でデザインを作るよりも、当社の定番商品から選んでもらえると嬉しいですね。当社の調査によると、定番商品は寿命が来るまで使われる率が高いので、最も環境に優しい選択と言えます。

サーキュラーエコノミーの地域性
―サプライヤーはどのように選ぶのですか。
私たちは、長期的なパートナーシップを大切にしています。当社はサステナブルな運営を行っています。今日ではC02削減の観点から、遠方のサプライヤーを抱えることはできません。そのため、より身近なところに製造拠点を作る必要があります。
そのため私たちは世界中にサプライヤーを持っています。中国、タイ、インド、北アフリカ、ヨーロッパです。ヨーロッパでは、ある部品はヨーロッパ内から、ある部品は北アフリカから、ある部品はその他の地域から購入しています。そして、サプライヤーは、「品質保証ハンドブック」で定義された品質に関するガイドラインに従うとともに、当社の行動規範にコミットしています。
さらにサステナビリティの観点でいえば、在庫を持たず必要なときに必要な分だけ生産するのが一番効果的です。そのため「オンデマンド生産」も行っています。例えば例えば、 新入社員が入社した際にユニフォームを補充する必要がある場合、1着から生産することができます。これによって、購入して在庫を抱えるのではなく、必要なときに必要な分だけを補充する無駄のない製造が実現しています。
サーキュラーループにとって重要なリサイクラー
―先ほど工場で、使い古されたワークウェアをRester(レスター)に送るためのボックスがありました。レスター社はフィンランドでは著名な繊維のリサイクル会社ですね。
はい、そうです。廃棄物ゼロのループを形成するバリューチェーンにおいて、レスターはヨーロッパにおけるリサイクルパートナーのひとつです。(下図のNo.5)。

リンドストローム社のワークウェアサービスの全体図(出典:リンドストローム社サステナビリティレポート)
私たちはレスター社に投資しているので、私たちもステークホルダーです。私たちは、もう使用できない、つまりライフサイクルが終了した衣料品を同社に送り、 生地をリサイクルしてもらいます。その後、繊維メーカーがその生地を使用し、再びその生地を購入します。これが、循環型経済のループです。そのため、レスターと緊密に連携し、できるだけ多くの繊維を引き取り、私たちがリサイクルを継続できるようにしています。

工場にはレスター社に送るための箱が用意されている。
―フィンランド以外ではどういう状況ですか?
CO2排出削減の観点から、レスター社のようなリサイクルパートナーを、あらゆる場所でグローバルに展開する必要があります。例えば、中国では、今、同様のパートナーが3、4社ありますし、インドでも同じです。私たちの課題はレスターのようなパートナーに目を向けることだと思います。
―サーキュラーのループを作るにはどうしたらいいのでしょうか?
ループを作るには、二次原料(=再生原料)をどのように使うかがポイントになります。もちろん、リサイクルされた繊維がバージン繊維と同じ寿命を持つわけではないことを理解することも重要です。サステナビリティの目標とループを念頭に、レスターのようなリサイクル業者と緊密に連携し、製品の一定割合をリサイクル繊維で作る方向で取り組んでいます 。

WCEF会場ブースで展示されていたレスター社製再生原料を40%使用した生地。
「近くにいること」がイノベーション
―リンドストロームのビジネスにとってどのようなイノベーションがあるかお聞かせください。
私たちの最大のイノベーションのひとつは、「お客さまの近くにいること」だと思います。このビジネスは、毎週お客様のもとへ足を運ばなければなりません。フィンランドは小さな国ですが、それでも北から南まで3500キロメートルあります。ですから、フィンランドの真ん中に大きな施設を持っていて、毎日、さまざまなお客様のところへ行ったり来たりしているとしたら、それは持続可能ではありません。ですから、私たちは通常、ご覧のような小さなモジュラーユニットを作っています。

それぞれのランドリーユニットで最適な回収・配送ルートが構築されている。
―ユニットの範囲はどれくらいの距離ですか?
ユニットは周囲50~100kmのお客様を担当します。つまり、お客様との距離が非常に近いのです。また、中国には7台、インドには現在11台のユニットを保有しています。最終的にネットゼロエミッションを達成するという非常に強い目標を掲げ、日々の物流に対応するために挑戦を続けています。
私たちは小さく、近い存在でありたいと思うんです。毎日何千キロも運転するのは持続可能じゃありません。だからユニットの周辺を開発し、新しい顧客を開拓するには営業活動を展開する必要がありますし、多くの営業マンを雇う必要がありますから、ビジネスにとっても重要です。私たちはすべてのビジネスユニットを独立させています。
―輸送のエネルギーも変わってきていますが、どう対応していますか?
目標を達成するためには、短距離とはいえ、新しい方法を検討し始める必要があります。従来のディーゼルトラックから水素やeTrucks(電動トラック)にどう移行するか、どうすればCO2出量を増やさずに顧客ベースを増やせるか、EVが容易に入手でき、インフラが整ったときにこれらの車両をeVans(電動VAN) にどう移行するか、などなど。私たちは今、物流プロセスを一新しようとしているところです。

街なかでよく見かけるリンドストロームの集配トラックの前で。
サステナビリティは誰もが担うこと
―サステナビリティの目標を達成するための方法について、さまざまな企業で理解を深めるにはどうしたらいいのでしょうか。
サステナビリティは、まだ多くの場合、経営者の頭の中にあるものだけです。でもこれに関しては誰もが役割を担っているということをよく考えていただく必要があります。
購買担当者がテキスタイルを買うとき、サステナビリティを本当に理解しているのか、どんな役割があるのか、どうすればそのテーマを重要視してもらえるのか。ユーザーも、ただ捨てるのではなく、修理に出すことで、この問題に積極的に取り組んでいることになります。サプライヤーは、その繊維がどこから来ているのか、その会社はどれだけの投資をしているのかを評価し、最低価格ではなく、その決断を下しているのであれば、それはサステナビリティを支持していることになります。
―フィンランドはサステナビリティの意識が高い国ですが、他の国はどうでしょうか?
私たちは、もっと多くの企業が理解し始めることを願っていますが、実際そうなってきています。弊社CEOであるJuha Laurioは、数日前に雑誌のインタビューを受け、私たちが2006年に中国を旅行したとき、誰もサステナビリティについて話さなかったと話していました。 しかしこの2月に私たちは中国で新しいユニットを1つオープンするために現地に行きましたが、ジャーナリストはサステナビリティについてだけ取材し、それ以外のことは何も聞きませんでした。これは大きな変化です。
ー中国のそのような変化は私たちにも驚きです。
私たちはビジネスのグローバル化を開始し約30年になります。 30年間で23カ国、ほぼ毎年、1カ国ずつ行っています。もちろん、COVIDのおかげでどこにも行けなかった年もあります。しかし、アジアであれ、ヨーロッパであれ、私たちは常に新しい市場に目を向けています。いつの日か、日本にも進出したいと思っています。
―日本市場には何を期待されてますか。そして私たちに何かできることはありますか。
もし何か期待できることがあれば、私たちからソリューションを得たいと思っている人がいたら、ぜひ私たちに連絡を取ってもらえればと思います。私たちはアジアにかなり大きなチームを持っており、2,000人近くが働いています。誰かが必ず対応することができます。
私たちは多くの日本企業と仕事をしています。インドや中国には、私たちが一緒に仕事をしている日本企業がたくさんあります。もし機会があれば、ぜひ私たちを招待してください。喜んでお伺いします。
―ありがとうございました。今度は日本でお会いできたらうれしいです。
取材協力:Lindström
https://lindstromgroup.com/
サーキュラーエコノミーの視点から、ビジネスモデル分析
製造業におけるサーキュラーエコノミーのビジネスモデルとして、北欧横断評議会であるNordic Innovationとフィンランドの政府関連団体のSitraが「サーキュラーバリューチェーン」を提唱しています。これらの要素を取り入れることで、資源効率を上げ企業の価値を向上させることができると考えられています。
Lindströmは、ワークウェアという消費財をPaaSで提供することに成功しています。デザイン・機能性に加え日々の洗濯・修理というメンテナンスまでワンストップで請け負い、顧客はワークウェアに関する全てをLindströmに任せることで本業に集中することが可能となります。同時に製品の耐久性や壊れた後のリサイクルまでカバーし、サーキュラーデザインを実践しています。

参照:Circular Economy business models in the manufacturing industries
Lindströmは4つの要素を組み合わせ、循環型のビジネスを実現しています。

再生可能エネルギー、バイオ原料または再生材の使用及び耐久性があり修理しやすい設計
→自社の廃棄繊維をリサイクルし、再生原料として使用

再生可能エネルギー、バイオ原料または再生材の使用及び耐久性があり修理しやすい設計
→一般的には売り切り型消費財のワークウェアをPaaSで提供

製品ライフサイクルを延ばす
→定期回収によるメンテナンスで修繕を行う

廃棄物または副産物から使用可能な資源やエネルギーを回収すること
→レスター社と提携し廃棄繊維のリサイクルを実施
ワークウェアのレンタル自体はグローバルでは珍しい事業ではないとのことですが、こうして図式化するとLindströmが忠実にサーキュラーエコノミー型ビジネスモデルを実践していることがわかります。長寿企業ならではの顧客やサプライヤーとの関係性も相まって、非常に骨太なビジネスに感じました。日本企業でも大いに参考にできる点があると思います。