
ファッション業界は環境負荷が非常に大きいことで世界的な課題とされていますが、日本では江戸時代から布や繊維のリサイクルが行われていました。今回は、歴史ある「故繊維業」から学ぶ服の再生とサステナビリティについて紹介します。
1.故繊維業とはなにか
久米 今回は、回収された洋服はその後どうなっているのかをお話したいと思います。よろしくお願いします。
新井 まず1.故繊維業とはなにかについて、2.回収された服はどうなっているのかについて、3.消耗品における真のサステナビリティについて話していきたいと思います。
久米 最近はアパレルの店舗などで不要な服を回収していたりとか、リサイクルショップ・古着屋さんが増えていますよね。今回は故繊維業とはどういった業界なのか教えてください。
新井 故繊維業っていうのはいわゆる衣類とか布団、昔は襤褸(ぼろ)とか言ってたんですけども、江戸時代からあるすごい長い業界で古紙とか、鉄くず拾いとかそういったのと同列で古くから繊維を回収してリサイクルする業種です。

今やっていることは、主に着られなくなった衣類の回収です。例えば自治体で古着の回収をやっているところとか、アパレルの店頭で回収された服を受け入れて処理するっていう業種ですね。
2.服は回収後どうなるか
久米 なるほど。処理というのは選別した後、具体的に何をどうしているんですか?
新井 まずは入ってきたものを選別します。まずはブランドごとに分けて抜き出していくんですね。いいものはそのままの古着として売れるものとなるので、まずは古着屋向けに抜いていって、その次には、海外輸出向けにされてます。
輸出先はアジア地域とか中東地域なんですけれども、そういった安価な衣類の需要があるエリアにそのままパッキングされて送られて現地バイヤーが買って現地で売っています。
久米 途上国への支援という形で活用されることもあると思うんですが、そこからはみ出てしまうものはごみになってしまうので、そこが難しいところだなと思います。

新井 ニーズ自体はあるんですけれども、向こうのバイヤーとしては「着られずにごみになるものを含めても欲しい」そうです。彼らとしては商売なので、仕入れたうちの何割かが売れればいいわけで、それで余ったものは廃棄してしまう。特にアフリカなどでそういった問題が指摘されてます。
久米 故繊維業者さんにお話を伺った際も、服として着られるものっていうのは割合としては少なく、ほとんどがウエス(産業用のぞうきん)とか、何かしらの形で焼却に回ってしまっていることが多いのが現実という話でした。
新井 輸出の場合、向け先が南半球の温かい地域が多いから冬物のニーズがないので、廃棄に行ってしまうことが多いのも問題です。以前は冬物の一部がモンゴルとかに行っていたんですが、今はそれも減っています。
あと回収の部分でも、都市部はブランドものが割合よく出るんですが、地方での回収ではなかなか価値の高い服が出てこないので、集めても儲けが少ないっていうお話も聞いたりします。
久米 コットン70%、ポリエステル30%みたいな複合繊維は分別しようがないっていうところもすごく課題かなと思ってまして、例えばコットン100%だったらリサイクルができるんですが、色んな繊維やボタン、ファスナーとかも含めて混ざってしまっている作りなのがリサイクルが進んでいかない原因と感じています。

新井 そうですね。あとは出口の問題もあります。反毛(はんもう)っていう技術があって、回収した衣類を裁断し綿にまた戻して、それをまた糸に縒って繊維に戻す技術なんですけれども、これで作ったものは繊維というかフェルトみたいな感じで、自動車の内装材や防音材としてリサイクルしています。
ただし、どうしても品質的に安定しないので、それを使って新しい製品を作ろうっていうメーカーがまだまだ少ないです。特に日本は相当少ないと言われていて、買い叩かれてしまい反毛の業界全体がどんどん縮小してしまっているという現状がありますね。
久米 一方、フィンランドでは反毛のスタートアップ企業が出てきているそうですね。
新井 そうですね。フィンランドは国を挙げて取り組んでいます。家庭から服の回収を義務付けていて、その再生材を動脈産業側に戻すことにトライしているところなんです。
これは世の中の流れをすごく的確に見ていると思います。フィンランドは繊維業がすごく盛んなので、そこに対するプライドもあって、これからの繊維業界は廃棄じゃなくて再生材を使っていかなきゃいけないと考えて力を入れているので、見習うべき事例といえます。
3.消耗品における真のサステナビリティ
久米 ファッション業界は環境汚染が深刻な業界なので、業界全体でサステナビリティに取り組んでいこうという流れはあります。
しかし、サステナブルな素材やオーガニック素材に変えるといった素材の代替は進んでいる一方で、短期間のうちに大量の服がごみになっている現状は、すごく悲しいことだなと思います。
なので、改めてアパレル業界がどこに注力すべきなのかを考える必要があるのかなと。
新井 そうですよね。それはやはり、そもそも大量に作って作りっぱなしっていう現状を止めないといけなくて、プラスチックも同じですけど、例えばエコバックを大量に作って、大量に余っちゃいましたみたいなことは本末転倒と言えます。

「再生ペットボトルから作ったサステナブルな新素材です!」という風に作るのもいいけど、それが最後どう処分されるかまで責任を持つっていう視点が必要だと思います。
久米 最近はアパレルの専門学校にもサステナビリティデザインっていうクラスがあって、どうすればリサイクルがしやすいのかとか、デザインの力でなるべく端切れの出ない服の作りを考える授業をしてるそうです。
新井 アパレル業界は問題が大きいぶん「何とかしなきゃ」って方も非常に多い。特に大手商社も回収やリサイクルにすごく力を入れたりしているんです。
私が思うに、彼らが結果を出すには作る側の事情まで知らないと駄目だっていうことなんです。だからサーキュラーデザインとかサステナブルデザインって考え方は、教育段階でインプットしないといけないと思います。

久米 後始末の現場、服の行き着くところにある服を見ると、どういったことが課題なのかが抽出できると思うので、そういった知見が作り手のデザインに落とし込まれていくような流れができるといいですね。
新井 そうですね。現場を見るのって非常に大事だと思います。実際に行って、故繊維業者さんの話を聞いて、余った時どうするかを考えて作らないと、今後のアパレル商売はますます厳しくなるというのが、世界的な流れでしょう。
久米 ありがとうございました。