日米どっちが優れたシステムなのか?
静脈産業後進国 日本 そのイシューとは
静脈産業のイノベーションプラン
DXの果て 小さな会社は生き残れるのか?
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ものを作ってから消費者に届けるまでを「静脈産業」とした場合、それが捨てられてから再生または焼却されるまでを「静脈物流」と言います。その動脈物流で都内トップに入る白井グループ 社長 白井徹さんと討論します。
ウェイスト・マネジメント社との出会い
新井 今回は「日本の静脈産業を変えろ!リニューアルへのシナリオ」というテーマでお話を伺います。
静脈産業を簡単に説明すると、モノを作って消費者に届けるまでを人体でいう動脈と例えて、モノを廃棄してリサイクルまたは処理するまでを静脈産業と言います。

そんな静脈産業の、特に物流の部分で日本トップクラスの白井グループさんですが、私が一番興味深いと思っているのが「海外との関わり方」です。
例えば、アメリカのウェイスト・マネジメント社(以下WM社)という大企業に視察されたり海外でビジネスをされたりしていますが、まずWM社はどんな会社なんでしょうか?
白井 アメリカで廃棄物を収集してリサイクルしたり、最終処分場に埋め立てる会社で、そこは白井グループと全く一緒です。ただし、規模が圧倒的に違います。

Guest:白井 徹(しらい とおる) / 白井グループ株式会社 代表取締役社長
1965年東京都足立区生まれ。1987年 国士館大学経済学部を卒業し、同年よりハナエ・モリ・インターナショナルに勤務。1990年、白井運輸㈱入社。2003年、白井グループ㈱設立と同時に代表取締役社長に就任。2015年より白井エコセンター㈱社長を兼任。2022年より日本産業廃棄物処理振興センター理事。
WM社は売り上げ数兆円にもなる超大企業です。対して白井グループは東京都の廃棄物会社で上位10%に入っていますが、たった25億円です。ここが大きく違います。
新井 組合の団体旅行みたいな感じでアジア諸国へ視察というのはよくありますが、なぜ自社単独でアメリカ視察へ行こうと思われたんでしょうか?
白井 もう16年以上も昔の私が会社を継いだころ、自治体だけでなく民間企業の資源収集の仕事を増やしていったんですが、少し行き詰まりが見えた時代でした。これ以上はなかなか厳しいということで他国のやり方を見ようと思いました。
組合・団体で行くのは大変なので、ささっと見に行こうぜっていう軽い気持ちから始まるんです。でも先方は兆円企業、こちらは小さい会社なのでアポを取り付けるのも難しい。なので、僕と相棒の二人で突撃することにしました。LAの空港から走っていくWM社のごみ収集車についていって荒野を進んでいくと、巨大なWM社の施設にたどり着きました。すると、警備員さんに肩をぐっと掴まれて、セキュリティルームに連れていかれるわけですよ。

何しに来たんだと聞かれて、同業者なんだ、ウェイストマネジメントカンパニーinトーキョーが視察に来たんだと伝えました。するとその方がすごくいい人で、同業のよしみでせっかく来たんだから、もう1回来てくれたらヒューストンにある本社に通してやると。そして翌年、先方の副社長さんとビジネスミーティングをさせてもらうに至りました。
新井 すごい話ですね。
白井 たぶん、ビジネスにおける文化が違うんだと思います。他にもMicrosoftさんやStarbucksさんの本社にも飛び込みで行ったことがあるんですが、1度目は会ってくれました。3回目くらいからビジネスにならないと全然相手にされなくなりますけど、1度は合ってくれる。これがアメリカのオープンマインドという文化で、言葉が通じないことが前提にあるため、シンプルかつ合理的なんです。

だから廃棄物やリサイクリング、サーキュラーエコノミーに関しても、仕組みの合理化を追求するところが全然違います。
日米どっちが優れたシステムなの?
新井 廃棄物収集の業務においても、日米の違いを感じられましたか?
白井 制度そのものが違うんですが、具体的には1社が扱えるビジネスの大きさがまず違うんです。
日本の場合、廃棄物の運搬には収集運搬のライセンスが必要です。そして中間処分や最終処分のライセンス、中間処分のなかでも圧縮破砕とか焼却とか、全部がライセンス制になっていてビジネスが細かく括られているため、各社が範囲外のことをできなくなってる。

お客さんからすれば1社が全部のごみをまとめて回収してくれるのが一番いいんですが、古紙業者と廃プラ業者とで専門領域が違うから面倒なことになる。一方でWM社はそれを全部できるんですね。1つの会社が全部コントロールできるから、とても合理的なんです。
いまや世界的な経営課題として、脱炭素化しながら再資源化率を上げて、ごみも出ないようにしたいというニーズがありますが、これも日本ではすべて別の領域に分けられてしまってどうしていいか悩みがちですが、アメリカならWM社、欧州ならヴェオリア社に相談すれば最適解を出してくれるため、方針が立てやすいはずです。
「分別するとリサイクル進まないよ」
新井 分別制度は日本の方が厳しいですが、そこについてはどうですか?
白井 日米の分別制度はどちらも一長一短あると思います。
ですが、日本でよく言われる、「アメリカは広大がゆえに巨大な最終処分場が作れるのでリサイクルが進まない。一方で日本は埋め立てできないから分別が進んでいてリサイクルが捗る」…これって思い込みなんです。

シアトルのWM社に行った時にマネージャーの方から「分別収集やるとリサイクル進まないよ」って言われました。というのも、最終処分場がひっ迫しているのはアメリカも同じでした。彼らも最終処分場は簡単には作れないんですよ。
だからアメリカでも一時期は分別制度を作って色々やっていたそうです。でも、アメリカの国民は全く分けなかった。結局は中間処分場でまたイチから分ける必要があって、リサイクルが進まないとマネージャーの方は言っていました。
そこで彼らが出した結論は「シングルストリーム」っていうスタイルです。これはビン・缶・ペット・ダンボール・雑誌・プラスチックみたいな資源ごみを全部まとめて捨てていいよって形態です。
ひとまとめの資源ごみを車1台で回収し「マーフ」と呼ばれる東京ドームよりも巨大な選別工場へ送る。そこで一気に機械選別するんですよ。だから効率的で、日本よりもリサイクル率が高まる。これが大きな違いです。
日本はこれから彼らのスタイルや背景を理解した上で仕組みを考えないといけないと思っております。
新井 これって日本の方が特殊なんですよね、こんなに分別を細かくやる民族は日本人くらいだと言われてますけれども、そのあたりの事情が一般の人にすごくわかりづらくなっていますよね。

白井 日本の分別意識は誇るべきだと思うんですが、それに見合った量がリサイクルされてるかって別の問題なんですよね。地域やマンションの独自ルールで細かく分けたごみが一緒くたに運ばれてしまうこともある。なのでシステムをしっかり整えて管理することで、はじめて日本は世界に誇れるようになるんじゃないかと。
新井 ええ。例えば書類を捨てる際にホチキスやクリップを全部とって出してますみたいな話を聞くと、ありがたいけどそこまでしなくても大丈夫ですよって思います。でも、分別しなくていいって言うのもちょっと憚られます。
白井 日本の今のごみ処分は住民の負担によって、もしくはその地域の事業者の負担によって賄われているのは間違いありません。ですがそれがコストに換算されてない気がします。

僕としては彼らを過度なごみ分別から開放してあげるべきじゃないかなと思うんです。テクノロジーを活用して、できるだけ分別ゼロに近づけたような状態でいまのリサイクル状態を作っていきたいですね。
新井 それはごみ収集車を減らすことにも繋がりますね。
白井 ええ。正確な数字はないんですが、東京にはごみ収集・資源収集に携わる車がおそらく5,000台以上あります。これはクロネコヤマトのトラックの数より多いです。ですから、CO2はダダ漏れです。
つまり市民が頑張ってごみを分別して、今の日本の分別収集制度が成り立ってしまったが故に、効率が悪くなっているともいえます。
静脈産業後進国 日本 そのイシューとは

新井 静脈産業のDX化や脱炭素化に関しては欧米の方が進んでいるんでしょうか?
白井 私は物流に関してしかわかりませんが、こと静脈物流の脱炭素化ですと、同じ量の廃棄物を運ぶのに必要なトラックの台数は圧倒的にアメリカの方が少ないですね。家庭ごみのライセンス・事業ごみのライセンスの区別がないので1台で街全体の回収ができますから。
新井 そうですね。
白井 さらに日本の場合は分別の制度的に缶の専門便、ペットボトルの便・生ごみの便・古紙の便…と代わる代わる回収してるから、当然街は収集車だらけですよ。
新井 加えて、民間企業のごみ収集だと契約してるお客さんごとにルートを決めて走ってますから、効率の良いルートどりをしてるわけじゃないですよね。
白井 だから日米に圧倒的な合理化の差があると思います。
新井 やっぱり合理化のためにも日本の静脈産業も合併・巨大化した方がいいんでしょうか。
白井 そうとも限りません。いまの会社の屋号を残しつつ合理化を達成するカギがテクノロジーだと思います。
収集会社各社の持っている情報を1つのプラットフォームに集約できれば、協力してAI配車による効率的なルートでのごみ収集が可能で、トラックの台数が減ります。

このように廃棄物事業・資源循環業のDXをみんなで推薦すれば、従来の日本の良さを生かしたまま効率化が可能になると信じています。
新井 なるほど。ですが白井さんのような考えを持てる廃棄物事業者は稀で、小さな会社を一人親方で回している経営者さんに納得してもらうのは難しそうですね。
白井 確かに難しいです。ですが、静脈産業だからこその強みがあると思います。
というのも、動脈物流でも同じように共同配送やモーダルシフトって話がありますが、なかなか進んでいません。宅急便に誤配送があってはいけない、ミスの許されない世界ですからそれも当然です。一方で廃棄物・資源の荷っていうのはそういう価値のものじゃないから、誤差やミスにある程度の許容性がある。

それとまた追い風になるのは圧倒的な高齢化と労働市場における人手不足です。合理化せざるを得ないということで、実際に弊社のAI配車が各所で運用され始めております。
あとは新井社長のおっしゃる通り、経営者や人の気持ちの問題ですが、ここは私にアイディアはないです。ですから、環境と人さんはじめメディアの力を借りて気運というか、盛り上げてもらえればなと(笑)。
SDGs推進を妨げるものとは
新井 一方で、ごみを排出する側の課題としてはどうでしょうか。
白井 「サーキュラーエコノミーを実現せよ」「脱炭素を実現せよ」と号令を出す企業の役員の方たちと廃棄物担当の職員があまりにも遠すぎると思います。
こんな話があります。私がセミナーやらコミュニティやらでいろんな会社の役員の方と話して、わが社もSDGsを実現したいので、ぜひ話を聞かせてくださいとすごく丁寧に扱って頂いたりすることがあります。
それでやりましょうとなって「じゃあ弊社の廃棄物の管理する担当に繋ぎます」ってなった途端に「今までの業者より高くなるなら無理ですね」と。
新井 うちも全く同じです。総務の方々とか環境担当の方っていうのはコスト削減っていう至上命題を背負っているので、当然そうなりますよね。「SDGsをやれ」の一方で「今まで通りコストを削減しろ」って所が矛盾しちゃってるというか。

本来はそれは経営者が調整しなきゃいけないはずですが、正しく理解できてないんじゃないかと。
白井 コストに関して私は専門家じゃないですけどESG投資なり社会的圧力なりで株価にも影響する大きな要素になってきているので、それをもっと進めてお金の数字で示さない限り、難しいかもしれませんね。
社会に対しての義務感みたいなので守られてるところを少し脱却して、もっともっと合理化とコストということを赤裸々に語っていくべきだなと。
コストと経済と合理的で幸せな都市生活を送るために、徹底的に合理化しようっていう考え方をするなら、廃棄物業と資源循環業のDXがカギになると思います。
突飛なことを言うかもしれませんけど、僕たちの業界には相当伸びしろがありますよ。

静脈産業のイノベーションプラン
新井 たしかに伸びしろがあるんですけど、先程仰っていたように業界全体が法的にガチガチに区切られているためDX化・合理化を進めるには安定しすぎていて、働く人達も安定志向の方が多いので、白井さんみたいなマインドにならないっていう意識の問題がありませんか?
白井 私がこんなことを言い始めたのは、やはりWM社の視察でアメリカに行った経験が大きいです。そのころ、実は環境に優しい企業として名を馳せ始めたパタゴニアにも視察に行っていたんです。
パタゴニアを視察した際にすごくウェルカムムードで歓迎してくれたんです。で、これはWM社と同じ業種だということで、恐らく巨大産業の会社なんだと勘違いされてるなと感じました。
その後、日本と海外で我々の業種への見かたが違うなと思うような事例がもう1つあります。弊社がインターン生をたくさん受け入れていた時期があったんですが、世界の優秀なインターン生さんがどんどん会社に来るようになりました。
当時はまだ日本は世界No.2の経済大国、そこでウェイストマネジメントビジネスをしてる会社から学びたいということで、弊社に来るインターン生は経済的に裕福なエリートの方たちが多かったように感じます。そんな彼らが廃棄物ビジネスに関してすごく可能性を感じている。

ですから、私はこのビジネスに大いなる経済上の可能性があると信じているし、それは海外で学んだことです。
新井 私も、今日改めて静脈産業のポテンシャルを確信しました。ありがとうございました。