スウェーデン 自治体運営のリサイクル専門ショッピングモール「ReTuna」

欧州循環経済レポートVol.2

廃棄物が限りなくゼロに近いスウェーデンは、国をあげて資源活用の取り組みを行っています。その先進的なリサイクル事情と、IKEAの中古ショップもあるストックホルム郊外のリサイクルショッピングモールを紹介します。

廃棄はわずか1%?リサイクル先進国スウェーデン

環境問題に熱心な国として有名な北欧最大の国スウェーデン。驚くのがごみのリサイクル率で、なんと99%のごみが再利用され、廃棄されるのはわずか1%(2019年調査)なのです。1975年の時点では38%ですから、50年近くかけて廃棄物ゼロに限りなく近づいていると言えます。

前回の記事ではフィンランドの飲料容器リサイクルのディポジットシステムについてお伝えしましたが、スウェーデンでも早くからこのシステムが普及しています。1984 年にはアルミ缶、1994 年にはペットボトルのディポジットシステムがスタート、毎年 20億本以上がリサイクルされています。

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スウェーデンマルメ市のスーパー入口のディポジットマシン。リサイクルは子どもの環境教育の場と考えられており、一台は子ども用にデザインされている。(筆者撮影)

2020年の年間のごみ排出量は4,600,000トン(1人あたり年間 449キロ)で、家庭ごみおよび類似のごみ(生ごみや古紙)は年間750,000トン。その54%がエネルギーに転換され、ストックホルム市内の10万人のヒーティング、20万人の電気に活用されています。ヒーティングとは、北欧の住宅に必ずあるヒーティングパネルのこと。家庭で出たごみがエネルギーとなり部屋を暖めてくれるという理想的なエコロジーを実現しているのです。

また、スウェーデンで処理している廃棄物は自国のものだけでなく、10%をイギリスから輸入しているというから驚きです。廃棄物=「処分しなければならない厄介なもの」ではなく「エネルギーそのもの」という考え方なのです。

このように、スウェーデンの廃棄物収集とエネルギー転換の仕組みは非常にうまくいっており、国が掲げる目標値に限りなく近づきつつあります。

年間売上21億円のリサイクル専門モール

スウェーデンの先進的なリサイクル事情を象徴するスポットに、ショッピングモール「リトゥーナ(ReTuna)」があります。ストックホルムから100キロほど離れたエスキルストゥーナ(Eskilstuna)市に2015年に作られた世界初のリサイクル専門ショッピングモールです。「Tuna」はこの街の愛称で、そこに再生を意味する「Re」がついて「ReTuna 」とつけられました。

ストックホルム中央駅から鉄道で北へ1時間ほど行くとエスキルストゥーナ駅に到着します。駅前でバスに乗りつぎ、10分ほど幹線道路を走ると茶色い建物が見えてきます。

土曜ということもあり、駐車場は利用者の車でほぼ満車状態(筆者撮影)

エントランスを入るといきなりホールに人だかり。臨時受付カウンターで不要品引き取りを行っていました。

集めた不要品は一度運営会社が引き取り、各ショップに分配しているという。(筆者撮影)

利用者はこのように不要になった服をここに持ち込みますが、買い取り式ではなく、欧米でよく見られる「チャリティショップ」(寄付)の形。しかしリセールの収益を非営利活動に役立てるチャリティショップと違い、ReTunaはしっかり収益を上げています。2020 年には、1,540 万ドル(約21億円)相当のリサイクル製品が販売されました。2015年のスタート時から92% の増加とのこと。仕入れは無料なので利益率はかなり高いと思われます。

このショッピングモールの隣には市のリサイクルセンターがあり、運営はエスキルストゥーナ市が所有するEskilstuna Energi och Miljö,(EEM)が行っています。EEM は、エネルギーと環境の分野で事業を行う地方自治体の会社です。

リサイクルセンターには車で不要品を持ち込む人用の搬入口があります。見ているとひっきりなしに車が行き来していて、家具などの大物を運ぶために後部にトレーラーをつけている普通車もあります。

(写真左)モールの隣にあるリサイクルセンターの搬入口(筆者撮影)(写真右)ReTunaのホームページより

ReTunaは広さ3,000m 2 のスペース[にスポーツ用品店、電化製品店、ファッションブティック、ガーデニングセンター、玩具店など14の店、そしてカフェもあります。

圧倒的に多いのがファッションの店。学生など若者が品定めをしている姿が目立つ。(筆者撮影)

(写真左)PCなどの中古品の店。VHSビデオデッキなど、もう使われないものもあるが、「まだ動く」が基準で引き取られているという。(写真右)自転車や電動キックボードなどの中古専門店。スポーツバイクが1万円程度の値がついていた。(筆者撮影)

ReTuna では販売だけでなく、「持続可能性」に焦点を当てたイベントやワークショップなども開催されています。 年間を通して学ぶ「リサイクルデザイン講座」などの市民向け定期講座も実施しているとのこと。

循環型ビジネスを目指すIKEAの公式中古ショップも

正面入り口にあるIKEAセカンドハンドショップ(筆者撮影)

ReTuna内の人気店のひとつがIKEAのカンドハンドショップ。同社の公式中古ショップはここが唯一で、売られている家具は新品の約半額。IKEAでは当初、ここを半年間のポップアップショップにする予定だったそうですが、期間がどんどん延長され現在はレギュラー店になっています。IKEAは2030 年までにサーキュラー(循環型)ビジネスに移行する目標を立てており、このストアはそれを達成するための一環となっています。

IKEAがReTunaの取り組みに関わっているのはそれだけではありません。大きい家具を買ったのはいいけれど、それをどうやって家まで運ぶかということは大きな問題です。日本では配送業者に頼むのが一般的ですが、往々にしてそのコストは家具代より高くついてしまいます。お買い得な中古家具も運搬費を考えると二の足を踏んでしまう人もいるでしょう。

ここは国の事情の違いを感じる部分ですが、こちらでは大きな家具も自分で運ぶ人が多いのです。活躍するのはトラックではなく、乗用車につけるタイプのトレーラー。購入者は無料のトレーラーを借りて、自分の車に連結して家まで運ぶのです。

一般乗用車の後尾にトレーラーを連結させて使用(筆者撮影)

ReTunaの購入者は、駐車場の一角に何台か置かれたIKEAが提供するトレーラーを使って家具を運ぶことができます。運び出しだけでなく不要品の搬入の際にも使えます。日本の感覚からすると驚いてしまいますが、北欧では普通のことで、トレーラーを牽引する乗用車を本当によく見かけますし、家の駐車場の横にトレーラーが置いてあるの風景も珍しくありません。

ちょうど返却をしている男性を見かけたのでその様子を見ていましたが、トレーラーを所定の場所に置き、工具を使ってあっという間に切り離しをして、スマホで返却の報告をし、風のように帰って行きました。

トレーラーで運搬するには、家とモールを二往復しなければならないこと、連結作業をしなければならないという2つのハードルがありますが、それさえクリアできれば自分の車で無料で家に持って帰ることができます。つまり配送費はゼロ。手間はかかりますが、コストは家具代だけで済みます。

日本でこのトレーラーを使うのは難しいかもしれませんが、運搬費の問題で家具のリサイクルを諦めて粗大ゴミになってしまうことの多い日本にこそ必要な仕組みかもしれません。