【ヘルシンキ市】シャンパン空瓶20本と映画年間無料券を交換。市民が夢中になるリサイクルの仕掛け

熊坂仁美の欧州循環経済レポートVol.1

サーキュラーエコノミーをテーマに北欧に長期滞在するライター・熊坂仁美が現地で先進的な取り組みの情報をお届けする「熊坂仁美の欧州循環経済レポート」。第一回は、ヘルシンキ市のメーデーイベントで実施されたユニークなボトルリサイクルのプロジェクトについてレポートします。

年間20億個の空き容器を回収する仕組み

フィンランド、スウェーデン、デンマークの北欧3国を回ってみて、どの国でも見かけたのがスーパーマーケットに置かれたリサイクルマシン。ペットボトル、カン、ガラス瓶など空きボトルを入れるとお金が戻ってくる「逆自動販売機」と言われるものです。中でもフィンランドはこの仕組みが活用されており、リサイクルマシンの利用率は世界一。飲料容器の90%、年間20億個の空き容器が回収され、再資源化されているのです。

この事業を国から受託しているのは、非営利企業のPalpa社。フィンランドでデポジット ベースの飲料容器のリサイクルシステムを開発・管理する会社です。

Palpa社ホームページには、年始からのボトルの回収数がリアルタイムで表示されている。

回収マシンはボトルのQRコードを読み込み、素材ごとに分別し、デポジットの価格が印字されたレシートが出てきます。利用者はそのレシートをレジに持っていってキャッシュを受け取るか、買い物の合計から差し引かれるという仕組みです。500mlペットボトルの場合、1本0.2ユーロ(約30円)が相場。日本の感覚だと高くてびっくりするかもしれませんが、物価が高い北欧では、500mlのペットボトルの水が4ユーロ(約600円)ぐらいなので、還元率は0.5%ほどになります。日本でもかつて酒屋さんのビール瓶でよくその仕組みが使われていました。商品価格にはボトル代が含まれていて、デポジット(前受金)でそれを支払っている、という考え方なのです。

洗って何度も使う「リターナブルびん」とは 容器の資源循環を考える

このような仕組みが根付いているフィンランドでは、リサイクルは社会貢献というより実利的な側面が強く、消費者側のメリットを考慮した仕組みやプロジェクトが一般的です。そのわかりやすい例が、5月1日にヘルシンキ市内で行われたシャンパンボトル回収プロジェクトです。

何万人もが集う祭典フィンランドのメーデー

5月1日と言えば、国際労働者デーとして世界中が祝う日ですが、フィンランドのメーデーは「ヴァップー」とも呼ばれ、春の到来を祝う古代の春祭りという意味合いもある特別な日で、国民の祝日になっています。あちこちでお祝いのイベントが行われ、どこも大変な人出。男性も女性も帽子をかぶっていますが、これは高校卒業時にもらう白い学生帽で、これをかぶって参加するのが決まりになっています。

帽子をオシャレにコーディネートする子連れカップル(著者撮影)

デモのイメージがある日本のメーデーを想像すると、まったく違う世界、お祝いムード一色。さらに、友人や家族とピクニックを楽しむという習慣があります。公園や公共の場に集まって、お祝いの食事を楽しみますが、その時によく飲まれるのがスパークリングワインなのです。

メーデー祭典のメッカKaivopuisto(カイヴォプイスト)公園で飲食を楽しむ人たち(著者撮影)

市が仕掛けるボトルリサイクルプロジェクト

さて、これだけの人が集まる公園では、当然ながらごみゴミも大量に出ます。公園にはかなりの数のごみゴミ箱が用意されていました。分別ができるコーナーだけでなく、何でも入れられる巨大な青いコンテナも何カ所も設置してあります。

段ボール、カン、瓶など細かく分かれた分別ごみゴミ箱が並ぶゴミスポット

この公園で行われていたのが、ヘルシンキ市のメーデー特別企画で、スパークリングワインボトルを20本集めると、映画の年間無料チケットと交換できる取り組み。映画チケットは1回のみのものではなく11年間のパスというから驚きです。

(写真左)「スパークリングボトル20本で映画チケットを交換〜ヘルシンキ市はあなたの素敵なメーデーをお祈りします」と書かれたブースのテント(写真右)ボトルを集めているのは大人より子どもたちや学生が多い

最初にこの企画を知った時には、スパークリングボトルだけで20本も集められるの?と疑問に感じました。でも実際に現場に来てみると、多くの人がスパークリングワインやシャンパンを飲んでいて、キャンペーンブースにはひっきりなしに人が訪れ大忙し。その合間を縫って、市の都市環境課の方にお話を伺いました。

スパークリングの重いボトルは貴重な再生資源

お話を聞いたヘルシンキ市都市環境課のSamuli Stamさん

―ずいぶんボトルが集まっていますね。どれくらいの人が来ていますか。

もう千人は超えていると思います。ブースはここだけではなく他にもう1カ所あります。このブースも、二つコンテナがあるうち左側がもういっぱいになっています。30人体制で行っています。

―集めたボトルはどこに行くのですか。

再生業者が回収し、グラスウールの原料になります。

―なぜスパークリングボトルで、普通のワインボトルではないのですか。

スパークリングワインのボトルはガス圧の関係で通常のボトルより厚くて重く、使われているガラスの量も多いので再生資源として価値があります。メーデーではスパークリングを飲む人が多く、特にこの公園は毎年ボトルが大量に出ます。

―このプロジェクトはいつから始めたのですか。

この試みはコロナ後から市が始めて、今年で2年目になります。

―子どもたちがたくさん集めていますね。

そうですね。大人は飲むのに夢中ですが、子どもたちは楽しんでボトル集めをやっていると思います(笑)

ちなみに回収業者は、冒頭で紹介したPalpa社。リサイクルマシンで回収するボトルと同様のルートに乗せて再資源化を行っています。リサイクルにおける「透明性」は市の公約の一つで、どの業者がどのように市の仕事を行っているかの情報は、すべてWebサイトで公表されているのです。

Palpa社YouTube動画から。空きボトルのサーキュラリティを図解している。

人がたくさん集まるイベントは、リサイクル資源を集めるチャンスでもあります。市民に参加のメリットを与え、遊び感覚で資源回収が実現できているこのケースは、官民一体型のリサイクルプロジェクトの成功例と言えるでしょう。