
SDGsや脱炭素を達成するには、消費者よりもまず企業が変わることが必須です。それも小手先のエコ活動ではなく、これまでの原料調達→廃棄の直線的なビジネスの形から、循環するサーキュラー型ビジネスにすることが大事だと言われています。今回は、その具体的な方法と成功例について紹介します。
1.ビジネスモデルの変化とは
久米 今回は、サーキュラーエコノミーを実現するサステナブルなビジネスモデルについてお伺いしていきたいと思います。よろしくお願いします。
新井 はい。まずは、1.ビジネスモデルの変化について、2.サステナブルなビジネスモデルとは何か、3.共通点から読み解く現代のニーズ。これらについて話していきます。
まずビジネスモデルっていうと、久米さんはなにか思い浮かぶものがありますか?
久米 大学の講義で習ったんですけど「替刃モデル」といって、カミソリの本体の部分は比較的安い価格で売るんですけど替刃の部分をちょっと高めに設定して、消耗品なのでそこだけ付け替えてずっとそのブランドのものを使ってもらうってモデルを聞いたことがあります。

新井 それがいわゆるサブスクモデルと言われるもののはしりですね。あとはプリンターの事例が有名で、プリンター本体を手頃な価格で販売した上でそのトナーをサブスク(サブスクリプション)的な感じで買ってもらって、トナーは消耗品なのでそれで利益を出しています。こういう販売形態によって莫大な利益を生んできたのが、ビジネスモデルの変遷の中で出てきた事例です。
ただし、そのプリンターや替刃の事例は消耗品をたくさん作って売るために使い捨てを助長する形になり、いろんな問題を引き起こしてきたという負の側面もあります。
そういった問題を解決する、または脱炭素・カーボンニュートラルを進めていくために、サーキュラーエコノミーという概念が提唱されていて、それに即した形のビジネスモデルを作っていこうという流れがあります。
これは簡単に言うと、今までは作って使って廃棄するっていう直線的(リニア)な流れから廃棄をなくして、作って使って、それをまた作る材料に戻して廃棄をしない循環をさせていく。これがサーキュラーエコノミーの基礎的な考え方です。

それに即したサステナブルなビジネスモデルというのをいくつか紹介させていただきたいと思います。
2.サステナブルなビジネスモデル
久米 それでは、サーキュラーエコノミーが特に進んでいる北欧フィンランドの政府関連団体が提唱しているサーキュラーエコノミー型ビジネスモデルの図を見ながらご説明していきたいと思います。

新井 まずは図の見かたですが、左上の紺色の曲線の部分が物流における原料調達の部分です。
どんな原材料を使って作るかっていうところから濃紺と水色の曲線が製品をどういうふうに提供するのか、販売するのかっていう部分です。
そして黄色が製品の使用から廃棄、最終的な赤色の部分が廃棄品を回収する仕組みとか原料に戻す工夫を指します。
これらを円の形にすることで、製品製造から廃棄までが繋がってぐるぐると回り続ける(サーキュラー)という図になっています。
久米 なるほど。5つの要素についてそれぞれ説明して頂けますか?
新井 はい。まずCircular Inputs(再生可能性)は再生可能な原料を使うとか、リサイクル材を使ってモノ作りをする取り組みを指します。
次にSharing Platform(共有プラットフォーム化)。これはシェアリングをビジネスに取り入れるという考え方です。
Product As a Service(製品のサービス化)。いわゆるPaaS(パース)と呼ばれるもので、ありていに言うとサブスクなんですけれども、物を売り切るんじゃなくて使った分だけ課金する従量課金制度みたいな形ですね。
次にProduct Use Extension(製品の長寿命化)というのは製品の長寿命化ですね。リペアー(修繕)とかリマニファクチャリング(再製造)によって製品または素材を長持ちさせるという考えかたです。
そして最後のResource Recovery(資源効率とリサイクル)は、製品を回収して原料に戻して、また新たな製品づくりに使っていくというリサイクルの要素です。
これら5つの要素をうまく組み合わせることで、サーキュラーエコノミーに即したビジネスモデルというのが完成するというのが、この図が提唱する考え方です。
2.サステナブルなビジネスモデル(事例)
久米 これら5つのポイントを押さえた具体的なサービスっていうのはありますか?
新井 例えばオランダの会社の事例に、「MUD Jeans」っていう、世界で初めてジーパンをリース販売しているスタートアップがあるんですけど、ここの場合はリース販売なのでProduct As a Service(製品のサービス化)、つまり売り切りではないサブスクモデルを採用しています。
くわえてリース期間を満了した製品は会社に返してもらえるようにクーポンを発行したりしてインセンティブを与えてまして、戻ってきた使用済みジーンズを原料にまた新しいジーンズを作っている。つまりCircular Inputs(再生可能性)とResource Recovery(資源効率とリサイクル)をカバーして循環させているサーキュラーエコノミーの事例として、MUD Jeansは有名です。

あとはSharing Platform(共有プラットフォーム化)、つまりシェアリングの例であれば環境と人で紹介したこともある「アイカサ」っていう傘のシェアリングサービスが挙げられます。みんなで1つの傘を使うことで使い捨てのビニール傘を減らせますよね。
また、家具のサブスクで「CLAS」っていうサービスがあるんですけれども、例えば新生活には家電や家具を一通り揃えなきゃならないケースがありますが、短期の一人暮らしだったらそんなに使わないし、サブスクにしましょうってビジネスが出てきています。

久米 なるほど。
新井 久米さんはなにかシェアリングサービスを使いますか?
久米 そうですね、先程のアイカサさんも急な雨で困ったとき使ったことがあるんですが、私が特によく使うのはINFORICHっていうサービスです。
駅などによくスタンドが設置されているんですけど、携帯の充電器を必要なときに簡単に借りられて、充電し終わったらまたスポットに戻すっていうサービスで、すごく便利だなと重宝しています。

新井 充電バッテリーは私はよくコンビニで買っちゃうんですがだいたい4,000円くらいするので、経済的にもありがたいですよね。
久米 あとは、車のUberを海外でよく使ってたんですけど、あれはシェアリングでいいんですよね?
新井 そうです。Uberはシェアリングサービスのはしりみたいな存在で、使っていない車に維持費がかかるっていう問題に対して、遊休資産の稼働率を上げるという考え方で生まれました。
車を一人1台持つよりも1つの車をみんなで使った方が、貴重な資源を使っていっぱい作らなくてもいいし、そのぶん廃棄物も減ります。このへんがシェアリングがサーキュラーエコノミーのビジネスとして注目されている理由の1つです。
久米 所有者がモノを使わない期間でマネタイズ(収益化)もできるし、利用者としても効率的ですし、とても合理的なサービスですよね。
新井 そうですね。真にサーキュラーな運営ができると、従来の直線型ビジネスよりも効率的なマネタイズができる。そのうえで持続可能であるっていうところが、サーキュラーエコノミーのキモだと言われてます。
3.共通点から読み解く現在のニーズ
久米 私個人が感じてることなんですけど、これまでは替刃モデルのように消費者にたくさん買わせる、消費を促進するようなビジネスモデルが流行ってきたんですけど、今後は「買わない選択肢」を提供するとか、ムダが出ないようにとか、またはムダからお金を生むような仕組みとか、そういったものがどんどん流行してきていると感じています。
新井 そうですね。今までの大量消費を促すようなビジネスモデルとは、つまり自社利益、ひいては株主利益に直結していて、その最大化が重要だからだと考えます。

替刃モデルもプリンターの例も、その目的に沿った成功例として捉えられてきたんですけど、今の時代はそうした自社利益の最大化ではなく、社会的価値の最大化を目指すべきだという流れになってきているのではないでしょうか。私自身も、そうあるべきだと思います。
1つのモノの価値を最大限に引き出すことで、モノの価値が社会全体に最大限に行き渡ることが重要になってきている…ということが、ビジネスモデルの変遷から読み取れるんじゃないかなと思います。
久米 最近は、企業の掲げる目標をみても、売上いくらを目指しましょうみたいなことはもちろんあるとは思いますが、それ以上にCO2を削減する施策に取り組みましょうとか、社会的にこういう価値があるビジネスを創出しようみたいに社会的価値に繋がることを会社のKPI(重要業績評価指標)として置いている傾向があるかなと思います。
新井 端的に言ってしまえば、自分だけ儲かればいいって世界観であった時代がこれまでずっと続いてきていますが、その結果とても大きな問題が見えない所でたくさん起こっていて、いまそれらを解決しようってフェーズに来ている、ということが言えるんじゃないかと思います。
久米 ありがとうございました。