見捨てられた廃プラスチックに新たな「命」を与え、地球に優しい循環を

私たちの生活には、プラスチック製品が溢れています。「プラスチックはほとんどリサイクルされているでしょ?」と思う方もいるかもしれませんが、プラスチック生産量の全体から見れば、リサイクル率は極めて低いのが現状。

プラスチックリサイクルが進まない理由はいくつかありますが、マテリアルリサイクルとケミカルリサイクルが進まない理由には、主に「複合素材の製品が多いこと」と「再生素材の品質の担保が難しいこと」が挙げられます。

今回は、特に処理困難な廃プラスチック製品の再生に取り組み、リサイクル事業を展開をする株式会社エコ・ジャパン・システム 代表取締役 森 光生さんに、プラスチックリサイクルの仕組みやこれからの課題についてお話を伺いました。

処理困難な製品のリサイクルによってお客様に喜んでもらえた経験が今に繋がっている

ーエコ・ジャパン・システムが行っている、廃プラスチックのリサイクルについてお伺いしてもよろしいでしょうか。

さまざまな企業から回収された廃プラスチックを、弊社の工場で形状や樹脂の種類などで分類し、樹脂別の専用粉砕機で処理します。粉砕後は独自開発のシステムで洗浄した後、ニーズに合わせて配合し、ペレットとして販売しています。

具体的な一例ですが、各乳業メーカー様から廃棄されているヨーグルト容器をペレットにしています。工程としては、まず自社工場で粉砕します。粉砕した粉砕品には容器にあった銀色の紙蓋など異物が混ざっています。洗浄プラントにて粉砕品を洗浄し、すべての異物を取り除いた後、押出機でペレット加工を行います。出来上りのペレットの物性測定を行い、出荷という流れです。

ープラスチック業界にはいつから入られたのですか。

この業界に入ったのが55年前。当時はリサイクルする企業はほとんどなかったですし、勉強しながら手探りでやったのが始まりです。

汚れていたり残渣があるものに関しては手が付けられていなかったので、それに挑戦しようと思いました。残渣があるものは産廃で焼却処分されていましたが、不純物を取り除くことでもう一度原料にして使ってもらいたいという想いでやっています。

株式会社エコ・ジャパン・システム 代表取締役 森 光生/1948年埼玉県生まれ。20歳の時にプラスチックリサイクル会社に入社し、乳酸菌メーカーのリサイクル事業に携わる。そこで学んだリサイクル経験を活かし、1994年に長野県で株式会社エコ・ジャパン・システムを設立。

ー世の中の困りものをリサイクルしようという思いはどこから?

人ができないことをやるのが好きなんです。もちろん大変ですが、できた時の達成感は大きいですし、お客様に喜んでいただければ我々も嬉しいし地球も笑顔になると思っています。

ー長野県に工場を建てた経緯を教えていただけますか。

今から55年ほど前だったと思いますが、あるメーカーが乳酸菌飲料のパッケージをガラス瓶からプラスチックに変えた時に、アルミ箔のついたプラスチックをリサイクルすることができなくて公害だと問題になったんです。それを私たちでリサイクルしたら大変喜んでいただけた、それがきっかけです。

また長野県はきのこ栽培が盛んなのですが、きのこ栽培に使うプラスチック容器は土がついていてリサイクルが難しかったため、当時は燃やしたり野焼きしたりしていたんですね。長野オリンピックが始まる前に、それを何とかリサイクルしたいということで依頼をいただき、少しでも我々の技術が役に立てばと思い、埼玉県から長野県に来ました。

ー長野県は自然が豊かですが、土地の特徴も関係あったのでしょうか。

リサイクルには洗浄が必要なので、まず水資源が豊富でないといけません。ですが、リサイクル企業として環境にも住民にも迷惑をかけるわけにはいきませんので、排水処理にはお金をかけています。

当社では薬品を使わない独自の洗浄システムを開発し、洗浄後の水は最新水処理システムと厳格な検査によって自然環境保全を考慮し、きれいな水質に戻したうえで排水しています。工場裏に用意した排水の池では魚を飼っていて、定期的に水質を検査しています。

ー独自の洗浄技術はどのように開発したのですか。

これまで時代の変化に合わせて企業からの相談を解決してきた実績がありますから、困ったお客様がどうにかならないかと持ち込まれたものを、一つずつ活かせるようにその都度工夫しています。その積み重ねで、ここにしかない洗浄システムになっていったということだと思います。

バーゼル条約改正とコロナ流行を機に時間をかけてさらに研究を重ね、CD・DVDの再生に貢献

ー他の事業者がやらないようなリサイクルの難しい製品を受け入れられるのはなぜですか。

バーゼル条約改正※でプラスチックごみの流通規制が厳しくなりましたよね。ちょうどコロナ渦で仕事が落ち着いていたので、輸出できなくなる品物について1年、2年という時間をかけて研究したんです。

その一つがCDやDVD。現在、ブックオフさんの店舗で不要となったCD・DVDのリサイクルを担っています。表面の銀色の部分はメッキがついていますが、内部にはポリカーボネートという比較的価値が高いプラスチックの層が含まれています。それを取り出して再生するために、メッキやプリントを剥離する必要があります。

ー従来はどのように処理されていたものなのでしょうか。

海外では薬品(剥離剤)を使って剥離しています。剥離剤を使えばメッキやプリントを簡単に剥離できますが、剥離剤には人体や環境に影響を与えるような成分が含まれているため、その分危険も伴います。

ーポリカーボネイトの主な使い道は。

丈夫なので日常の様々なところに使われています。例えば駐車場の波板とか雪かきのスコップ、車のヘッドライト、新幹線の窓もそうです。小さな製品ではボールペンの透明の部分だとか、スマホケースなどにも使われていますね。

ブックオフのCD・DVDから再生されたスマホスタンドとメガネスタンド

※バーゼル条約…1989年3月にスイスのバーゼルで採択された条約で、正式名称は「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」。一定の有害廃棄物の国境を越える移動などの規制についての国際的な枠組みと手続きなどを規定している。2019年の改正のポイントは、新たに「汚れたプラスチックごみ」を輸出する際に相手国の同意が必要となった点。

処理困難なプラスチックリサイクルにはメーカーの協力が必須

ー最も苦労したのはどのような製品ですか。

ヨーグルトのパッケージは、量産体制にするまで1年半かかりました。パッケージには、紙が付いていて薄いPETが入っているんです。そこからポリスチレンを取り出すまで、かなり試行錯誤を繰り返しました。

でも、自分が諦めればゴミになってしまうので何とかやりたいという思いでやっていましたね。今では全メーカーで月100〜150トンぐらい処理していますよ。

ー処理困難な製品をリサイクルするためのコストはどのように捻出しているのでしょうか。

中にはどうしても値段にならないようなアイテムもあります。その際はメーカーにも協力してもらい、1アイテムだけでなく、その工場から出る他のアイテムも任せていただき、総合的に考えて採算が取れるように工夫しています。

ーメーカー側でリサイクルしやすいようなパッケージにしようといった動きはありますか。

メーカーさんは商品を売るのが商売なので、リサイクルのことよりも製品面を優先するのが当たり前です。

以前コーヒーの容器をどうしてもリサイクルしたいという依頼があった際、一度お断りした経験があります。容器についている接着剤が原因でリサイクルが難しかったためです。接着剤の量を軽くすればリサイクルできるのですが、接着剤の量を減らすと剥がれて中身に影響してしまう問題があります。私たち目線では、リサイクルしやすい設計にした方が、リサイクルにおけるコストは抑えられます。やはり互いの歩み寄りが必要ですね。

ー今後、リサイクル企業としてどのようなことが求められると思いますか。

自分としては、見捨てられた、業者がいらないというものをなんとか活かしたいという思いは創業当初からずっと変わりません。今は企業にもSDGsへの取り組みが求められる時代なので、メーカーのリサイクルやリサイクル原料への意識も向上してくると考えています。

ー地球に優しい循環を生み出す情熱は素晴らしいです!本日は大変貴重なお話をありがとうございました。

2023.03.01
取材協力:株式会社エコ・ジャパン・システム
https://www.ecojapan.co.jp/