オランダの気質がこれからの時代をリードする理由【欧州最新事例】


環境と人は2023年2月に欧州を訪問しました。世界的に環境問題への対応が迫られるなか、その最前線を行く欧州・オランダとフィンランドの取材を通して、この先の20年は欧州が震源地になるだろうと感じました。

編集長・新井遼一が欧州視察で感じたことを紹介する欧州レポートシリーズ第二弾では、オランダ人の社会実験に対するチャレンジを支える精神とはなにかを紹介します。

オランダってどんな国?

久米 2023年欧州視察で新井さんが行かれたオランダと、日本の違いについてお伺いしていきたいと思います。よろしくお願いします。

まず、オランダの概要について教えてください。

新井 オランダは人口約1,700万人で、およそ九州と同じくらいの広さがある、北ヨーロッパに位置する国で、元は沼地みたいな土地を開拓して作ってきた経緯がある国です。

久米 埋め立てみたいなことをしてきたわけですね。

新井 そうです。半分埋め立てみたいな感じで建国していきました。だから海抜が非常に低くて、水管理がとてもシビアだったそうです。誰か1人がミスったらもう街が水没してしまうみたいな中で建国してきた経緯があるため、ディスカッション(議論)の文化、ボトムアップだったり、全員参加でやっていく市民権の文化が育まれているのが特徴です。

加えて、自然災害がほぼないのも特徴です。地震も台風もないので、築何百年という古い建物が文化財としてたくさん残っているため、その中をうまく改修して生活したり事業したりしています。そんな自然災害がない彼らにとって、唯一の災害とは「気候変動による海面上昇のリスク」なんです。なので、そのリスクに対して非常に危機感を持ってアクションしています。

Case1:「Schoonschip」にみるオランダの本気度

久米 その建築の文脈でいえば、日本は災害面が優先されがちなのに対して、オランダにとっての一番のテーマは気候変動ということですね。

新井はい。なので、気候変動対策の面白い取り組みがたくさん見られました。今回見に行ったアムステルダム市には「Schoonschip」という、水上生活者たちのコミュニティのエリアがありまして、そこは川の上に家を浮かべていて、50世帯くらい並んでるエリアなんです。みんなその家で普通に生活しているんですが、よく見ると本当に浮いてるんですよ。

久米 面白いですね!

新井 上下水道だけが繋いであって、それを切り離せば完全に独立する構造になってるんです。なので将来的に海面が上昇してしまった時でも、そのまま浮いて生活できる。

久米 その人達は、海面上昇したときに起こりうるリスクを鑑みて、水場に住むノウハウを蓄積しようっていう目的で水場に住み始めたんですか?

新井 はい。気候変動対策の一環としてプロジェクトが走っているくらい、本当に海面上昇に対して非常にセンシティブに行動している国ですよね。

久米 なるほど。

Case2:「NDSM」「De Ceuvel」にみるオランダの開拓精神

久米 オランダのなかでも特にアムステルダム市は、サーキュラーエコノミーの具体的目標を掲げている先進的な地域ですが、今回の視察ではどこに伺ったんですか?

新井 いろいろと行ったんですが印象的だったのは「NDSM」っていう造船所の跡地の中を色々と改築して、アトリエとかスタートアップのオフィスが集まっているエリアです。

また、その近くにある「De Ceuvel」という、土壌汚染を起こした廃棄工場跡地で、使っていた船とかがそのまま残されているんです。その残された船の上にオフィスを建てて、そこにスタートアップ企業が入っているエリアだったりとか、とにかく古い施設をそのまま使って活用しようみたいなプロジェクトが非常に多かったです。

久米 古い建築物をなるべく取り壊さず、そのまま活用するんですね。

新井 はい。おそらく日本で再開発っていうとぜんぶ更地にした後で「じゃあリゾートホテルを作りましょう」って感じだと思うんですが、そうじゃなくて過去のものを残し、中で新しいものを作るリノベーション的な発想と、前例がないことを許す雰囲気か、オランダ、特にアムステルダムの特徴だと思いました。

久米 このクレーンは何に活用されているんですか?

新井 これはガントリークレーンといって輸送コンテナを水揚げするためのクレーンなんですが、クレーンの中を改装して「Faralda」っていう高級ホテルにしていて、一泊10~20万円するんですが、それでもすごく人気になっています。

見た目はクレーンの廃墟みたいなんですが、内装はすごくラグジュアリーなホテルになっていて、ギャップがとても面白いなと。

久米 クレーンっていうすごく条件が限られた設備を改造して生活できるようにするっていうのは、かなり難しくて、工夫が凝らされてそうですね。

新井 そうですよね。でもそれを実行しちゃうのが、日本と違うなと強く感じました。

アムステルダム市の旧市街地は、街全体が世界遺産に指定されてるので、もう建物を解体できないんですよ。建物自体を弄れないからこそ、既存のものをいかに工夫して使うかみたいな文化が醸成されたと聞きました。

久米 アイディアの競争みたいな感じですね。

新井 なんか、もう街全体で「環境大喜利」してるようなノリがありました。

欧州視察を経て感じた 日本の生きる道

久米 そのように気候変動に対して、市民一人ひとりの環境意識が高いオランダですが、一方で、オランダに行ったからこそ感じた日本のいい所や、進んでいる部分はありますか?

新井 私は廃棄物の会社をしているので、廃棄物の排出現場をたくさん見ました。

ごみの収集については前の動画でも紹介しましたが、まずごみの収集方法は、日本と欧州・アメリカで大きく分けて2つの方式があります。日本の分別収集と、欧米などのシングルストリームという二通りで、オランダの場合は後者ですね。

日本の古紙回収は世界一って本当ですか?日本の古紙回収は世界一って本当ですか?

これは、日本のように缶・びん・ペットボトル・古紙・古布などなど、あらかじめ分別してごみ出しするんじゃなく、ざっくりと可燃ごみ、生ごみ、資源ごみに分ける方式です。

資源ごみと言っても、ごみ箱の中は缶もびんもペットボトルもダンボールもプラスチックも全部一緒くたに入ってる。これを一気に回収して、郊外の大規模な機械選別センターで後から分別作業するんですけれど、一度混ざっちゃったものは後で機械選別しても、例えばダンボールにジュースとか油が染みちゃったりしたりと、リサイクルする資源としては価値が下がってしまうんです。

それが何を引き起こすかというと、再生資源の市況(相場)が下がったときに、品質が低い資源は売れなくなって、結局は埋め立てとか焼却になってしまう問題があるんです。

久米 もったいない。

新井 アムステルダムの業者の方々もそれを課題と感じていて、日本を見習って分別をすべきだということで、街なかに分別ごみ箱がどんどん増えているそうです。それでも、ごみの排出コンテナを見ると色々とごっちゃになってしまっていたので「分別できる」のが日本の良さだと改めて感じました。

久米 なるほど。日本だと缶・びん・ペットボトルでそれぞれ収集される曜日と場所が違ったりするし、それぞれの収集インフラがきちんと整備されていますね。

新井 そうですね。ただし、だから日本が優れているというよりも、日本の分別収集と欧米のシングルストリームのいいところを取り入れたハイブリッドを目指そうというのが、いまの世界の流れです。

今回のまとめ

久米 オランダの視察を振り返っていかがでしたか?

新井 はい。まずオランダのトライアンドエラーを許容する街の雰囲気やチャレンジしようって気風は、いまの先が見えない時代、特に、気候変動という人類が初めて直面している課題に対してのアクションのとり方として、見習うべきところが多いと思いました。

また、現地で廃棄物関連の方々のお話を聞いてみて、日本のリサイクルシステムと分別収集に対する彼らの関心の高さを強く感じたので、「環境と人」で紹介している数々の国内の事例を、英語で海外に向けて発信していく必要があると思います。

久米 ぜひ発信するべきですね。ありがとうございました。