フィンランドのサステナブルなデザインの思考【欧州最新事例】


環境と人は2023年2月に欧州を訪問しました。世界的に環境問題への対応が迫られるなか、その最前線を行く北欧・フィランドとオランダの取材を通して、この先の20年は欧州が震源地になるだろうと感じました。

編集長・新井遼一が欧州視察で感じたことを紹介する欧州レポートシリーズ第一弾として、フィンランド人の生活に息づくサステナブルな思考とはなにかを紹介します。

写真で振り返るフィンランドの先端デザイン

久米 今回は2023年欧州視察レポートということで、フィンランドに行かれた際のお話を伺っていきたいと思います。よろしくお願いします。

まず、フィンランドってどういった国なんですか?

新井 フィンランドっていうのは、いわゆる北欧に位置する気温が低い、雪が多い地域です。人口は500万人くらいなんですけれども、日本との共通点が多くて、例えば森林大国であるっていうこと。森林がかなり多いんです。

主に北の方にあって、それを加工する産業、つまり紙とか家具とか繊維っていう産業が強いっていう特徴があります。

いきなりトイレの画像で恐縮なんですけど、これはフィンランドのヘルシンキ空港のトイレです。このシンメトリー感とかかっこいいですよね。まずこういうとこから圧倒されたんですけれども、デザインが非常に進んでいるというか、やっぱり北欧家具とか北欧テキスタイルが有名ですけど、非常にそこに関してのこだわりと歴史があって、デザイン先進国というのを非常に感じました。

これはアールト大学っていう、世界でも有名なデザインの大学の大教室です。

久米 教室がこんなにおしゃれなんですね。

新井 おしゃれですね。

あとこれはゴミ箱なんですけど、ただのごみ箱には見えないですよね。やっぱりデザインの大学なのでフィンランドの中でもかなり進んでいる所だと思うんですけど、そもそもフィンランドのデザインがなぜ優れているのかを考えると、衣・食・住で言えば「住」に対するこだわりが非常にあると感じました。

日本だったら「食」にフォーカスしてたりとか国によって優先度が違うと思うんですけど、日本と比べても晴れの日が圧倒的に少ない国なので、家の中など空間を心地よく使うっていう進化をしてきた歴史があるんだろうなと感じました。

久米 なるほど。北欧には「Hygge(ヒュッゲ)」っていう、心地よさがすごく大事だっていう価値観がありますよね。ろうそくの光とか、照明の光とかをできるだけ暖かく親しみやすいもの、ぬくもりを感じられるものにしようっていうようなことを聞いたことがありますが、まさにそういうことですね。

新井 そうですね。ばっと直接照らすんじゃなくて間接照明で影を作ることで、見る角度によっていろんな表情を見せたりみたいな光の使い方がうまいと思いました。

Case1:家具メーカー「Lundia」にみるデザインとサステナビリティ

新井 いくつかメーカーを視察した中で、こちらはLundia(ルンディア)っていう家具メーカーで、記事にもなっています。この方がCEOなんですが、後ろにある棚とかを主に作っています。ソファーとか椅子とかテーブルもあるんですけど、棚が有名で「ルンディアの棚」って言ったらフィンランドでは有名だそうです。

大工さんが考えた持続可能な北欧家具〜顧客がつくるサーキュラーエコノミー

創業70年くらいの会社なんですが、面白いのが、棚がモジュール化されていて、棚板とかこの扉っていうものを付け替えられるんです。

創業した70年前から規格が変わってないから、昔のモデルを買ったお客さんも最新のパーツに変えられるし、駄目になったら交換するっていうデザインになってるんです。

ちょっとパーツを変えるだけで違うものになったりするので、気分によってちょっと変えてみようみたいなこともできるし、例えばいらなくなった棚板は壁につけてラックにしたりシェルフにしたりと応用できるところがすごく面白いなと思いました。

その結果パーツを買いにくるリピーターが非常に多くて、経年劣化で味が出て唯一無二のものになったり、インスタで「#myLundia」をつけてアレンジを貼るコミュニティができているっていうようなお話をされてました。

Case2:ラグメーカー「Finarte」にみるデザインとサステナビリティ

もう一件、これはラグの会社で、Finarte(フィナルテ)ってっていうメーカーなんですけど、インドにある繊維工場から出てくる「サイドラン」とか「レフトオーバー」って言われる、製品を作ったときの工場端材をリサイクルコットンとして使っています。

この女性がCEOなんですけれども、素材がリサイクル品であることにこだわっているんですが、それ以上に、長く使うことが大事なんだと仰っていました。個人向けにリース販売とかレンタル販売をしていて、季節によって入れ変えたり、気に入ったら買い取れますよみたいなビジネスモデルを展開しています。

久米 カーペットのリースですか。

新井 珍しいですよね。1つあたり700〜2,000ユーロ(約10〜28万円)で結構高額なものも多いんですが、素材選び・素材確保に関してはすごく苦労しているそうです。たくさん作るためにはたくさんの原料がいるけど、実はリサイクル素材って世界的に取り合いになってるので、それをいかに確保していくか、開発していくかっていうことが課題だと仰っていました。

ぺットボトルを原料にした再生ポリエステルを使っているアパレルブランドって多いんですけど、ラグって踏んだりとか掃除機で吸ったりとかっていうハードな使われ方をするので、コットンとかウールであれば20年保つのが、リサイクルのポリエステルだと2年で駄目になっちゃうんです。それに、踏んだときマイクロプラスチックが発生するっていう問題もあるので、ポリエステルは使わないそうです。

久米 徹底して環境面にこだわるだけでなく、デザインもすごくかわいいので人気が出そうですね。

新井 まさにそこがポイントです。彼らの話を聞いててすごく思ったのは、サステナブルであることはもはや当然のことで、その上でのデザインなんだっていうような感覚です。

それがどこから来てるのか疑問に思って聞いたら「教育」だっていうことを口を揃えて言っていました。小学校のときから週に1〜2回ほど資源や森林との関わり方を学ぶ時間みたいのがあったらしいんですよね。

久米 多いですね!

新井 そういう教育を受けてきているからこそ、Lundiaのように長持ちする設計・デザインをするし、FinarteのCEOもロングラスティング、長持ちするのが一番いいんだっていうことを言っていました。

久米 環境にいいとかサステナブルであることはもはや当たり前で、+してデザインとかを提供することで、よりお客様に楽しんでもらうっていう根底にあるものを感じます。

新井 そうですね。主観ですけど、みんな楽しんで暮らしていているように見えました。例えば、これはヘルシンキの中心部にある地下鉄の駅です。

久米 日本で言う東京駅みたいな都市部?

新井 そんな感じです。天井がちょっとボコボコしていますよね。これはなんだって聞いたら、フィンランドは地盤が硬いらしくて、掘るときにダイナマイトで発破したりするそうで、その跡だそうです。

日本だったらコンクリートで綺麗に塗り固めるところを、あえて岩肌みたいなのを残して、かつアートっぽいオブジェを配して、間接照明による影で表情を作る・岩肌自体もデザインしてしまうみたいな発想が、北欧デザインを象徴しているなと思いました。

あと、見ていただくと分かりますが張り紙がないんです、

久米 あっ、本当ですね。

新井 どこに行っても、役所ですら張り紙がないんですよ。だからすごくすっきりしてるんですよね。最低限、わかりやすい案内サインだけあって、すごくわかりやすいんです。それがつまり、デザインですよね。

その背景には、フィンランドは移民国家なのでいろんな言語の人がいるから、言葉で説明するよりもサインで示した方が合理的っていう、使う側のことを考えたデザインっていう感覚もすごく感じました。

久米 日本だと、隙間があったら何か広告を貼って訴求するみたいな、情報過多な空間が多いので、こういった空間はすごく安心しますね。

新井 かっこいいですよね。

新井 これはホテルの廊下なんですけど、夜中に廊下へ出ると自動で明るくなるんですが、段々と明るくなるみたいな感じでした。

部屋のトイレも開けると電気がつくんですが、夜中にトイレに入ると、ちょっと暗い照明に自動的になってるんです。

久米 ありがたいですね。

新井 寝起きにバッて明るくなるとしんどいじゃないですか。だから、それも使う人のことが考えられたデザインになっているという。

久米 フィンランドの視察を振り返ってみていかがでしたか。

新井 まずデザインが非常に優れていて先進的ってことを感じました。デザインが優れている要因には気候的・地理的な要素が絡んでいるんだと思いますが、中でも特徴的なのが、デザインの中にサステナビリティが当たり前の要素としてインストールされているということです。ビジネスをするにしても何をするにしてもそういった要素は自然に出ていました。

それはなぜかというと、教育にそういった要素が組み込まれていて、小さい頃から当たり前にサステナビリティ・サーキュラリティの概念に触れているからだと思います。フィンランドは教育大国でもあるんですが、環境教育を意図的に進めている点が国の方針として非常に参考になると思いました。

やはり、世界の大きな流れがサステナビリティに向かっていると捉えると、今までの20年間が米・中を中心に来たのだとすれば、これからの20年間っていうのは欧州が震源地になるんだろうなと、今回強く感じました。

久米 ありがとうございました。