バイオガスで不可能に挑戦するリサイクルスタートアップ企業

バイオガスプラントの設計運営会社 アーキアエナジー株式会社 インタビュー①

国内でも気候危機やサーキュラーエコノミーがグローバルな潮流として一般的に認知され、環境課題の解決を掲げたスタートアップが徐々に出てきています。当メディアで取り上げた中でも、廃材を家具やファッションアイテムにアップサイクルする企業や、ユーグレナのようなユニコーン規模の企業があります。

今回は、そんな中でも特に難しいと言われるリサイクル分野でのスタートアップ企業、アーキアエナジー株式会社の植田社長にインタビューを行いました。初期投資が大きく行政の許可も絡むこの分野で、どのように新規参入を果たしたのか、その事業の内容と将来性について前後編に渡って紹介いたします。

キャッシュフローを生み出すプラント設計

アーキアエナジー株式会社 代表取締役 植田徹也氏

ーまずは事業内容を教えてください。

アーキアエナジーは2015年に立ち上げたスタートアップに位置づけされる企業で、バイオマス発電所の事業開発とプラント設計によるファイナンススキーム構築、それとオペレーションまでを一体でやるようなことを目的として作った会社になります。

バイオマス発電は持続可能か?

その事業会社として現在、東京都羽村市の株式会社西東京リサイクルセンターと静岡県牧之原市の株式会社ゲネシスがあり、この2社で廃棄物処分業の許可を取り、実際に食品廃棄物を受け入れて中間処理と発電をするというオペレーションを行なっています。

この羽村バイオガス発電所では具体的にはどのような事業を行っていますか?

近隣の食品工場から出る、総菜・練り物であったり菓子類であったり、出来損ないの麺とか飲料やアルコールもあるし、いわゆる食品リサイクルに当たる一定のロットの廃棄物で本当に様々なものを受け入れています。

ここではそれに加えて一般廃棄物の事業系生ごみ、例えばスーパーやコンビニ、飲食店などから出る食品廃棄物を中心に受け入れています。これらをメタン菌を使った発酵設備でバイオガス化し、それを燃焼して発電する。廃棄物の処分とバイオマス発電の二軸で事業を行なっています。

どういった経緯で会社を立ち上げたんでしょうか?

私は元々食品や飲料のプラントのメーカーにいて、大手飲料メーカーや大手乳業メーカーの生産設備そのものを作ってたんですね。その中で、食品加工に使う熱を回収して新たに使うみたいな提案していくと、費用対効果つまり新たなキャッシュフローが作れるってことで、そういう提案に価値を見出していました。日本だと当時は省エネとか環境って儲かった会社が節税対策でやるようなイメージがあったんですが、そういう合理化ができる環境事業って面白いなと思っていました。

食品の生産性を上げるってことをずっとやっていて、わかったのは廃棄が相当出るということ。いろんな試算とか統計数字を見ていくと、調達・製造・物流・小売って一体の流れの中で生産全体の約4割ぐらいが廃棄になっている。そのわりに国内の食料自給率が低いっていうのもあって、そこの課題解決になるんであればその廃棄物をサプライチェーンに戻すというチャレンジもいいなと思って、それが始めたきっかけですね。

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ファイナンスが組みづらい廃棄物事業

立ち上げはどういうメンバーで?

バイオガスの事業化を目的として立ち上げたんですが、廃棄物業界って新規参入がしづらく、高度なファイナンスも組みづらいんですよね。あとは環境機材、環境プラントなどが非常に高価で、プラントメーカーも年間で出荷できる数量が限られているので、補助金ありきでないと買えないし作れないっていう課題がありました。

逆に言えば、この三つの課題を同時に解決すれば事業化できるんじゃないかっていうことで、廃棄物処理、金融面、技術面、この三つの専門性を持った人間が集まってできた会社がアーキアエナジーです。

ファイナンスが組みづらいというのはどういう事情があるんですか?

日本の廃棄物業界ってややこしくて、独特の商慣習があるんですよね。まず行政の許可が必要なんですが、廃棄物の処理ってインフラじゃないですか。特に一般廃棄物(事業系生ごみ)関連の許可は、下手にたくさん出して競争が激しくなった時に、業者が共倒れして処理が行き詰まるのが一番怖いんですよ。なので基本的に行政は一般廃棄物処理計画に基づき許可は出さないという前提があるので、ハードルが高い。

あとはバイオマス産業はマスの商売というか、処理施設の側面だけでなく、生産設備でもあるので一度に大量に処理した方が効率的で、規模が大きいほど事業性が高く小さいほど損益分岐点を切りやすいんです。ということで一定規模以上を狙っていくなら立地する場所も発生量の多い地域、つまり都市部になってくる。すると臭気対策など諸々のコストがかかってくるので、20〜30億円ぐらいのプロジェクト規模を作っていかなきゃいけない。

しかし我々みたいなスタートアップって、会社の与信とか担保がなかなか設定できないので、大きな金額の借り入れが難しい。

ここでラッキーだったのは、固定価格買取制度(FIT)の開始によって再生可能エネルギーとしてのバイオガス事業という側面が出てきて、環境に貢献できるような事業に対して出資したい企業を巻き込んだ上で、金融機関からお金を借り入れることができたんです。廃棄物事業単体では難しかった資金調達に、再エネ事業が加わることによってうまくスキームを組めたかなと。

誰がどのように出資をしたんですか?

上場企業含む出資7社でM&Aなどで活用されるSPC(特別目的会社)を作って、そこから金融機関とプロジェクトファイナンスを組んでいます。議決権のない出資ですので、事業の方は任せていただき配当のみ出している形になります。メンバーは技術を持った会社さんですとか、新規性のある事業なのでそこに取り組みたいという会社さんが多いです。

プロジェクト自体は何年なんですか?

FITの適用期間が20年ですので、21年目にSPCは解散します。ただしこの事業は行政から許可をいただいているので、その時には西東京リサイクルセンターがSPCから施設を全部買い取って事業はリスタートする計画です。

自治体運営の焼却炉がコンペティター

なぜこの羽村を選んだんですか?

一番大きいのは縁があったということなんですが、まず僕らのコンペティター(競合)って企業じゃなくて自治体の焼却炉なんですね。事業系生ごみを焼却するかリサイクルかを比べた時に、焼却の処理費が安ければみんな基本的にそっちに行ってしまいます。

その点、この多摩地域って日本でも指折りの焼却炉の持ち込み手数料(処理費)が高い地域で、我々の方が安く設定できるんです。廃棄物を出してる側としたら手数料が同じならリサイクルに回そうかっていう判断になるんで、そこが強みですね。あとはこの地域って生活圏も近いですし、こういう廃棄物処理プラントがなかなか作られなかったのもあって、期待値は非常に高いですね。

確かに敷地もそんなに広くないですし、匂いがほぼしません。

ここ1,000坪しかないんですけど、その中でこの80t規模のプラントは普通は作れないんですよね。そこはやっぱりコンパクトに作って生産性を上げるっていうのは生産設備の本来の考え方なんで、もう僕らもプラント屋の意地とプライドにかけて、あの手この手で三、四回設計変更して申請してたら行政もあきれて、わかったから完成してから持ってきてと言われました(笑)

多摩地域の焼却炉が高い理由っていうのは?

いくつかありまして、まず焼却炉自体の維持コストが高いことです。元々整備されたタイミングでは人口も少なく畑も多かったのが、高度経済成長が始まって人口がどんどん東京に集まるようになって、このあたりも住宅地になってごみも増えていく中で処理コストがかさんでいます。

それに加えて設備の老朽化も進んで、建て替えが必要だけど代替用地も中々見つからない中で、自治体としてはやはり家庭ごみの処理を優先せざるを得ないんです。すると事業系ごみは極力民間でリサイクルに回してもらいたい。そこでどうするかといったら、持ち込み手数料を上げていくしかないんです。地方自治体は少子化で税収もこれから見込めないので、そういった地域ほどごみ袋の有料化が進んだり、処理費が高くなってますよね。

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確かに、以前取材した武蔵野市クリーンセンターでは、建て替えたばかりの施設だけどごみを減らす啓発活動に力を入れていました。

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普通こういった設備って何百億円と使って入れてるから、償却のために稼がなきゃいけないって思うかもしれないんですけど、行政の場合は20年とか30年のスパンで考えるんです。つまり次の建て替えの時にごみの量を減らせていれば、焼却設備を小さく設計できるので建設・維持コストを削減できると。となるともう今からごみの減容を始めないと間に合わないので、手数料を上げたり近隣のリサイクル施設を排出事業者に啓蒙活動されるところが多いですね。

なるほど。建て替えはするけども、稼働率を求めるより受け入れの量を減らすと。

はい、それが最終的なコスト削減に繋がるので。あとは紙オムツとか剪定枝なんかの、水分の多い廃棄物が出る地域は(燃焼効率が悪いので)とにかく焼却炉に持ち込ませたくないっていうのがあって、その最たるものが生ごみなんですよ。

そういったものを受け入れられる民間施設がこのあたりは本当に少ないんで、我々にお話が回ってくるケースが多いですね。行政から案内してもらえる。

バイオガス事業の将来性

では集荷についてはあまり問題ないんですか?

いや、むしろ今の一番の課題がごみの安定的な集荷ですね。やっぱり経済合理性だけじゃなくて既得権とか、色んな人の歴史とかが入ってくるので新規参入だと難しいですよね。現在の稼働状況は大体4割ぐらいなんで、まだまだ増やしていきたいと思っています。

価格以外で、環境的なメリットが響くっていうようなことはありますか?

この2022年から劇的に変わりましたね。環境事業って昔から必要と言われながら、儲かったらやりますよとかっていうパターンが多かったんですけど、ただ本当にこの1年ですよ。今までは廃棄物って総務部とか施設管理部みたいな人たちが主にコスト優先で決めていたのが、会社横断的に環境やサステナブルに取り組む専任の部署ができてきて、そこで専任の役員もアサインされるようになって初めてSDGsとかカーボンニュートラルを独自で設計されるケースが増えてきました。

その中でバイオガスっていうのは、サプライチェーン排出(スコープ3)の中で組み込むとCO2のマイナス評価っていうのを得られるちょっと珍しい位置づけなんですよ。

それはどういうことなんですか?

バイオマス発電の考え方って原則、生育中に吸収したCO2をこっちで吐くということで、化石燃料の使用量を減らせるわけですよ。その分がマイナス評価になってくるので、この施設に持ち込んだらCO2が減りますということは数字で出せるんです。

つまり、持ち込んだ廃棄物で発電した電気を購入してもらうっていうエネルギーのリサイクルループが可能なんです。今はウクライナとか円安の問題で電気代がすごく値上がりしている影響で一旦ストップしてますけど、やっぱりそのニーズは高いですね。

現在他に進めているプロジェクトはありますか?

今は2つあって、関東と沖縄です。特に沖縄は僕が琉球大学出身っていうのもあり、島国特有のごみ問題が顕在化しており、特に今はコロナの影響もあって処理しきれず、県外まで燃やしに行ってるんです。そういう問題を何とかしたいっていう気持ちがあります。

(後半へ続く)

2023.01.17
取材協力:アーキアエナジー株式会社
https://archaea-energy.co.jp/