リサイクルにイノベーションを起こすには?


SDGs・脱炭素の流れを受け、日本においてもリサイクルの流れが加速しつつあります。しかし、そんな現在においてもリサイクル業界はスタートアップ企業が少なく、イノベーションが起こりにくい業界と言われています。起業が難しい理由は大きく3つありますが、そんな厳しい中でも目覚ましい活躍をするイノベーティブな企業について触れていきましょう。

1.リサイクル業界からスタートアップが出にくい理由

久米 今回はリサイクルにイノベーションを起こすためにはどうするかお話を伺っていきます、よろしくお願いします。

新井 はい。まず1つ目がリサイクル業界にスタートアップが生まれにくいわけについて、2つ目が、行政が絡んでくるとイノベーションが生まれにくいという点について、3つ目が、注目の環境系スタートアップ企業を紹介ということでお話させていただきたいと思います

久米 近年は再生可能エネルギーとかCO2の排出量を可視化するサービスとか、そういったDX分野でのスタートアップ企業の参入が増えてきていると感じるんですけれども、リサイクルの分野ですとなかなかスタートアップ企業が出てきていないですよね。

新井 そうですね。その理由として、まず1つが初期投資が大きいという点があります。リサイクル工場とか環境系のプラントは基本的に20~30億円ぐらいかかってしまう非常に高価なものなんです。それだけの金額をスタートアップで集めるのは非常に大変ですよね。

あと、最近はそうでもないんですけれども、リサイクル施設ってイメージがあまりよろしくないと思われてしまうんです。やっぱり、原料となる廃棄物を受け入れるので、昔は迷惑施設みたいに扱われて、なかなか操業許可が下りなかったり、周辺住民とうまくやれないっていうようなことがあって、そこもハードルが上がってる部分ですよね。

久米 なるほど。新井紙材さんも70年前からリサイクル業をやっていますよね。当時はスタートアップ企業のような感じだったんでしょうか。

新井 はい、最初はリアカー1つを曳いて印刷用紙を集めて回ってたのがスタートだったそうです。当然、その頃にはスタートアップって言葉はありませんでしたが、そういう会社が日本中にいっぱいあったと思うんです。たぶん当時は古紙とか鉄とかを再生するって新しいイノベーティブなことだったんでしょうけど、そこから70年とか100年とか経ってきちゃうと、業界としても組織としても硬直化してしまって、なかなかイノベーティブなことが生まれにくい産業になっているってところがあるかと思います。

私はそういうところに課題を感じたので、時代をキャッチアップして事業をアップデートしたり、すでにそういう新しい取り組みをしている歴史の長いリサイクル会社さんもたくさんあるので、環境と人で取り上げています。

なので、環境系スタートアップ企業の立ち上げと、既存企業の中でのスタートアップ的な事業との両方に注目していきたいと思っています。

2.なぜスタートアップが生まれづらい? 行政との関わり

久米 リサイクル業界にスタートアップが新規参入するには行政との協力が必要だったり、あとは地場の老舗会社がすごく強いところが課題だと感じるんですが、そのあたりはいかがですか。

新井 おっしゃる通りです。特に行政については、廃棄物の管理って非常に厳しい法律の決まりがあります。起業するにしても行政の許可が必要な業種なので、新たに許可を取る必要がありますし、ごみ処理って社会インフラなので、行政としては業界が混乱して、ごみが街に溢れかえってしまうような事態を避けたいというふうに考えるんですね。

なので、下手に新しいことを色々やって共倒れになるみたいな事態を一番恐れるため保守的になってしまうのがネックです。

久米 あまり自由競争を起こしたくないわけですね。

新井 そうですね、どちらかというと保護するような方向になってしまっています。

とはいえ、行政で働く方々もべつにイノベーションを阻みたいわけじゃなくて、現場で業務されてる人は、そういった課題を十分すぎるくらい理解しているため、非常に苦しんでいるみたいです。でも、国の制度みたいな問題になるとどうしても動きが遅くなってしまう。

これを解決していくためには、小さい単位での実績を産・官の協働で積み重ねていって、大きい山を動かしていくというようなことが今後は必要かなというふうに思います。

3.リサイクル業界注目のスタートアップ

久米 新井さんがいま注目している環境系のスタートアップ企業を教えてください。

新井 リサイクル領域ですといくつかあります。例えば日本環境設計(現:株式会社JEPLAN)っていう会社は、古服のポリエステルをまたポリエステルに再生する技術があるので、服を再生して循環させるっていう事業をやっています。色々なアパレルメーカーさんとコラボをしていて実績があります。

久米 繊維のリサイクルって結構難しいと聞くんですが、日本環境設計さんはケミカルリサイクル(化学的手法で原料まで戻すリサイクル)をされてるんですね。

新井 そうです。日本でも本当に数社しかないような技術を持ってらっしゃるところなので、そこに注目されがちですが、私としては打ち出し方が非常にうまいなというふうに思います。

久米 じつは私も、ヨガスタジオとかアパレル店舗で日本環境設計さんが設置してる回収ボックスを見たことがあるんですけど、デザインがすごくかわいいのでつい目に留まってしまいます。

新井 おっしゃる通り、デザインってめちゃくちゃ大事ですよね。既存のリサイクル業界って、プロモーションとかデザイン・広報を殆どやってこなかった会社が多く、そういうところが非常に弱い業界だったんです。

デザインといえば有名なのが株式会社TBMです。「LIMEX(ライメックス)」という石灰石を使った紙などの代替品を作る技術を持っていて、環境系スタートアップの中でもユニコーン企業と言われるぐらい、非常にたくさんの資金を集めることに成功しており、有名ですね。

久米 はい。

新井 他に市場からの評価とか投資額が大きいところでいうと株式会社ユーグレナとか株式会社Spiberが注目を集めています。あとは私が面白いなと思っていて、ぜひ紹介したいのがアーキアエナジー社です。食品廃棄物を回収してきて、それを発酵させてバイオガスを発生させ、燃焼によって発電するバイオガス事業をやっています。

面白いのは、スタートアップ企業でありながらも見せ方重視ではなくファイナンス、プラント設計、廃棄物の専門家といったゴリゴリの専門家が集まって課題を解決してった事例というのがあり、環境と人でも記事コンテンツがありますので、ぜひ読んでみてください。

バイオガスで不可能に挑戦するリサイクルスタートアップ企業