なぜヨーロッパがサーキュラーエコノミーの先進地なのか

欧州サーキュラーエコノミー視察レポートVol.1

「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」をメインテーマとして様々な情報発信を行う「環境と人」の編集チームは、2023年1月30日〜2月7日、ヨーロッパに視察に行って参りました。訪れたのはヨーロッパでも循環型経済導入の最前線にある国として知られるフィンランドとオランダ。両国ともサーキュラーエコノミーのフロントランナーとして有名です。

「環境と人」ではこれから数回にわたり今回の視察の内容をご紹介していきますが、その前に、そもそもサーキュラーエコノミーがなぜ今注目されているのか、という基本的なところから解説します。そしてヨーロッパが先行している理由、さらに、産業界で多岐にわたるサーキュラーエコノミーの取り組みの中で繊維業界に活気がある理由について解説していきたいと思います。

なぜサーキュラーエコノミーが注目されているのか

「記録的」「観測史上初めて」の気候が連続する時代

近年、世界各地で温暖化や気候変動が原因とされる自然災害が多発し、「記録的」「観測史上初めて」という表現を本当によく聞くようになりました。

今年1月、日本全国で寒波に伴う大雪が観測され、九州や八丈島など、これまで雪が降ったことのない地域でも降雪がありました。また昨年6月には、観測史上最長の9日連続の猛暑日を記録したことも記憶に新しいところです。世界に目を移せば、5万人が避難したオーストラリアの洪水や、400億を超える作物の被害発生したカリフォルニアの干ばつ、国土の3分の1が水没すしたパキスタンでは洪水なるなど、2022年だけでも枚挙にいとまがないほど大規模かつ深刻な被害が起きています。

温室効果ガス削減のために生まれた仕組み

このような気候変動を引き起こす原因は何でしょうか。環境省が発表する気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書では、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と指摘されています。「人間の影響」とは、産業界による経済活動を示唆しています。報告書ではさらに、「気候システム全般にわたる最近の変化の規模と、気候システムの側面の現在の状況は、何世紀も何千年もの間、前例のなかったものである。」と報告され、温室効果ガス排出の大きな影響について書かれています。

地球温暖化というやっかいな地球課題。そこに立ち向かうための方法の一つとして生まれたのが新たな経済の概念「サーキュラーエコノミー」なのです。

大量生産・大量消費・大量廃棄

さかのぼれば18世紀後半、石炭や石油などの化石燃料を使った動力が生まれ、イギリスで産業革命が起きました。この革命は日本を含む各国に波及し、工業化が急速に進み、大量生産・大量消費の時代が始まりました。消費者は次々と新たな商品を手にし、資本家は潤い、関係各国に経済繁栄がもたらされる一方で、大量廃棄、資源の浪費、環境汚染という負の側面を生み出してきました。その結果、前述の通り温室効果ガスが増加し、温暖化や気候変動という弊害が生まれたと見られています。

きっかけになった「2015年」

そして近年、世界各国による温室効果ガス削減のための国際交渉が進められ、2015年、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすることを目指す内容が定められた「パリ協定」が採択されました。同年には持続可能な開発目標・SDGs (Sustainable Development Goals)」が国連総会で採択され、人類がこの地球で暮らし続けていくために、2030年までに達成すべき目標として17のゴールが示されました。この年をきっかけに、環境悪化を解消し、持続可能な社会へ移行する流れが急速に進んでいます。持続可能な経済モデルであるサーキュラーエコノミーはその流れの中でも本流といっていいでしょう。

従来の経済モデル VS 新しい経済モデル

図1の3つの経済モデルをご覧ください。左が旧来の経済モデルで、「資源→生産→使用→廃棄」というように矢印が一方向の直線(リニア)になっています。真ん中は「リサイクル経済」。資源の再利用というと、「リサイクル」が思い浮かぶ人は多いでしょう。このモデルでは、一度使ったものをリサイクルして生産に戻す形になっており、資源の節約にはなっていますが、形としては直線型のままで、廃棄も生み出します。そして右側が「循環型経済」。資源を効率的に再利用することで廃棄物を減らし環境負荷を最小化するモデルで、リサイクル資源に新たな資源を投入して生産し、使用し、リサイクルし、というループを形作るものです。従来のモデルとは形も違いますが、もっと大きな違いは、「廃棄物」がないことです。サーキュラーエコノミーでは、製品設計の段階から「廃棄を出さない」「寿命を延ばす」ものづくり、仕組みづくりを行うことが前提になっているからです。

オランダ政府ホームページをもとに作成)

デジタル化と表裏一体

そして、サーキュラーエコノミーのもうひとつの側面は、最新のデジタル技術と一体化していることです。廃棄を出さないためには、製品のライフサイクルにわたって予測分析、追跡、監視などが求められるため、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、ブロックチェーン、人工知能、3Dプリンティングなどデジタルの活用なしでは成り立たず、表裏一体なのです。いわゆる「グリーンテック」と言われる領域です。

アムステルダム中心部に設置された世界初の3Dプリンターでつくられた橋。

ブロックチェーンを活用し透明性を確保

例えば、アムステルダムの街中で売られている「モイーコーヒー(Moyee Coffee)」は、ブロックチェーン技術を活用し「フェアチェーン」という新たな流通の仕組みを構築、焙煎などコーヒーの商品化までの価値の付加作業を原産国で行うことで、フェアトレードの5倍の現地雇用を生み出しています。途上国では、貧困により森林を開墾せざるを得ない事情がありますが、現地にお金をまわす仕組みを作り、それをブロックチェーンで透明化することで、森林保護と破壊防止にもつながっています。

Moyee Coffeeホームページより)

なぜヨーロッパが先行しているのか

CEの戦略とルールを作るEU

この世界的潮流に先鞭をつけ、戦略づくりやルールづくりを先行して行っているのがEU(欧州連合)です。パリ協定と同年の2015年、EUの政策を司る欧州委員会が「サーキュラーエコノミー政策パッケージ」を採択しました。当時はリサイクルに重きを置いた行動指針でしたが、2019年12月に発表した成長戦略「欧州グリーンディール」では、廃棄物の発生の防止に重点を置いたサーキュラーエコノミーを重要な柱の1つに位置付けました。続いて2020年3月には「新産業戦略」が発表され、大きな目標として2050年の温室ガス実質排出ゼロ(カーボンニュートラル)を掲げています。

EUで徐々に増えてきている食材や生活用品の量り売り店。容器包装を必要としないため廃棄物の発生を抑制することができる。

これに追随し多くの国が達成目標を2050年に置くことを発表しています。日本でも2020年、当時の菅首相が「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」というカーボンニュートラル宣言をしました。日本では経済産業省と環境省がこの政策を推し進めています。

EUの大きな影響力

このように、EUではサーキュラーエコノミーの戦略、ルール策定を行っているほか、実現化のための研究開発、スタートアップへの投資なども行っています。27カ国あるEU加盟各国はそれぞれの国情に合わせた目標とロードマップを立て、この新しいビジネスモデルへの移行・転換を成し遂げようと着実に前に進んでいるのです。

毎年行われるEUのスタートアップイベント「EU Startups SUMMIT」。今年は4月20-21日にバルセロナで開催、EU各国のサーキュラーエコノミー関連スタートアップ創始者も多数登壇する。

なぜ繊維産業がサーキュラーエコノミーで重要視されるのか

アムステルダム中心街にあるサステナブルなファッションのためのミュージアム「Fashion f or Good 」では、廃棄を出さないオンデマンドプリントのTシャツコーナーなどがある。

繊維業界はサステナビリティの「問題児」?

18世紀の産業革命において、イギリスを中心に最初に工業化が進んだのが繊維産業でした。そして21世紀のサーキュラーエコノミーでもまた、繊維業界が先頭を切る形になっています。サーキュラーエコノミーは広範囲の産業に適用されますが、その中でも繊維業界は実践の推進が進んでいる分野のひとつと言えます。

 その理由は、繊維産業は、資源の大量消費、化学物質の汚染、大量の廃棄物の発生などにより、環境悪化の大きな要因と言われていること。国連貿易開発会議(UNCTAD)は環境汚染産業の1位に石油、2位に繊維・アパレルを挙げており、ヨーロッパでは一人あたり毎年11キロの繊維の廃棄があり、全世界では毎秒トラック1台分が廃棄されているというデータがあります。そのため最初に手をつける必要がある分野なのです。また、繊維は原材料が全体コストの40%占めるため、そこにメスを入れることでサーキュラーエコノミーの効果が現れやすい分野でもあります。

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技術を駆使した新素材や新サービスが誕生

繊維に使われる原材料に関しては、環境にやさしいテキスタイル技術の進化によってたくさんの選択肢が生まれています。リサイクル素材を使うだけでなく、生分解性や再生可能な資源から作られた新素材も現在盛んに開発が進んでいるのです。そして前述の図の循環型モデルの「使用する」のフェーズでは、購買だけでなく、レンタル、再販、修理や改装、今注目されるPAAS(サービスとしての製品 Product as a service )など、「廃棄をなくし、製品寿命を延長させる」ための新しいビジネスモデルの開発が行われています。今回の視察では、『サーキュラーエコノミー実践』(学芸出版社)の著者安居昭博氏とともに、オランダでいちはやくPAAS型(サブスク)のジーンズを展開する「MUD JEANS(マッドジーンズ)」を訪問しました。その内容は「オランダ編」にてご紹介します。

リユース浸透とビジネス、両立の道を探る

今回訪問した世界で初めてジーンズのリース販売を手がけるMUD JEANSのオフィス。自社製品を全て回収して繊維に戻し、再び原料として使用している。

社会的責任が大きいグローバルファッションブランドがこぞって気候中立の目標を掲げる中で、素材開発などのスタートアップが活発化し、繊維業界ではサーキュラーエコノミー推進に向けての大きな潮流が生まれています。一方で「Cradle to Cradle認証」「EUエコラベル」など、認証やグローバルリサイクル基準の確立も進んでいます。

そして、EUの中でも繊維(テキスタイル)のサーキュラーエコノミーに力を入れている国のひとつが、今回の視察で最初に訪れたフィンランドです。サステナビリティ指数でここ数年世界トップを走るフィンランドではいったいどのような取り組みが行われているのでしょうか。次回はリサイクル素材を使ったフィンランドのフェルトメーカーをご紹介します。