木質バイオマスリサイクルの「現状」と「課題」

「バイオマス」それは、生物資源(bio)の量(mass)を表す言葉。そして「再生可能な生物由来の有機性資源」のこと。

さらにそのなかで木材に由来する再生可能な資源のことを「木質バイオマス」と呼びます。皆様は「木質バイオマス」のこと、どのくらいご存知でしょうか。

かねてより日本では薪や炭など木材由来の燃料が盛んに利用されていました。しかし人々の生活や社会が移り変わる中で、徐々に石炭や石油といった化石燃料への依存が強まり、環境に影響を与えるようになりました。

そんな今、原点回帰と言わんばかりに注目を集めているのが、この「木質バイオマス」です。木材をチップ化し、発電や燃料として活用することでサーキュラーエコノミー及びカーボンニュートラル実現の手段と位置付けられています。

バイオマス発電は持続可能か?

今回は木質バイオマスの中でも、一度使用された木材、つまり廃棄物由来の「木くず」を活用する資源循環について、シナネンエコワーク株式会社営業グループ長 兼 営業課長 西井宏太 様と 営業グループ営業課主任 千田朋洋 様にお話を伺いました。

100%の木材リサイクル率

営業グループ営業課主任 千田朋洋 様(左) / 営業グループ長 兼 営業課長 西井宏太 様(中央)/「環境と人」編集長新井(右)

—貴社の事業についてお伺いしてもよろしいでしょうか。

千田氏 主に産業廃棄物由来の木くずのリサイクルに携わっております。家屋の解体現場で発生する廃木材や、不要になった木製の物流パレットを破砕してチップ化し、それらを3つの用途に分けて生産しています。チップ生産量が多い順に①燃料用、②建材原料用、③セメント原燃料用ですが、最も付加価値が高いのはマテリアルリサイクルである②建材原料用で、次いで①燃料用、③セメント原燃料用となっています。

①燃料用は製紙工場などでの熱電供給ボイラ燃料、バイオマス発電事業者向けもあります。②建材原料用の建材というのは主にパーティクルボード原料用で、新築の現場や家具で使用されています。③セメント原燃料用はチップの製造過程で粉状になった木くずで、セメントメーカーで原燃料として使用されるということで、木くずに関しては100%リサイクルを実現しています。

最も多いのが燃料用チップなのですが、廃棄物由来のカーボンニュートラルな燃料として注目されるようになっています。

脱炭素とカーボンニュートラルって何?

ー昔からそのような事業に取り組まれていたのですか?

西井氏 実はかなり古い業界で、元々こういった解体現場の木材などは冬場は現場で暖を取るために燃やしたり、銭湯での燃料用途として使われていました。その後、オイルショックで化石燃料の価格が上がったことで、当社は重油の代替燃料を探す中で木質燃料としてボイラメーカーとタッグを組み、ユーザー開拓からスタートしていきました。1990年代に廃棄物処理法の整備とともに社会がリサイクルに舵を切り、直近ではカーボンニュートラルの文脈から需要が伸びてきている状況です。

弊社の親会社はシナネンホールディングスで、元々はLPGや石油製品を販売する燃料専門商社です。当社はそのシナネンホールディングスグループにおける新たな事業の一つとして木質系廃棄物のリサイクルを行っております。

木くず発生の大半を占める建設系廃棄物

—原料となる木くずはどういった業者から発生しているのですか?

千田氏 最も大きな発生先は建設系で、全体の半数以上を解体業者さんが占めています。次に多いのが産業廃棄物の中間処理業者さんで全体の3割ほど、残りが物流会社やメーカーさんの木製パレットなどです。埼玉・千葉工場合わせて年間約80,000トンの木くずリサイクルをしています。

ー発生した木くずが、どのように処理されているのか、工程を詳しく教えてください。

千田氏 まずは受け入れたものを選別するところから始めます。降ろした時点で異物除去をし、燃料原料用・マテリアル原料用に分けてラインに流すか、ストックヤードに保管します。マテリアル用というのは解体材なら梁や柱材、パレットですね。その後ハンマー式の破砕機によって破砕処理をかけます。

この時点で既に目視ではほぼ完成と言えますが、さらに手を加えていきます。粉砕した後に、磁力選別機という磁力を利用した選別機によって木くずに付着した鉄系の金属を除去します。ちなみにこちらで除去した金属くずも、きちんと無駄なく鉄鋼原料にリサイクルされます。

さらにその後、専用の篩(ふるい)にかけて規格ごとのサイズに選別します。マテリアル用チップの生産時には金属探知をかけることで、付着している非鉄系(アルミやステンレス)の金属を除去します。

ー処理の工程で混入していると困るもの、また、受け入れができない木材などはありますか?

千田氏 CCA処理した木くず(木材の防腐・防蟻)は許認可上受入れが出来ません。それと、マテリアル用原料木くずの方が品質に厳しく、プラスチックや紙等の不純物が入らないよう徹底的に注意しています。燃料用原料であってもユーザー様のボイラに影響が出ないように、破砕機へ投入する前に目視で不純物除去選別を行っています。

また、何よりも困るのが破砕機を壊してしまうような異物で、例えば大きな金属片やガレキなどが高速回転している機械の中に入ると故障してしまいます。破砕機が故障してしまうと事業自体を止めざるを得ず、本当に大きなダメージを受けます。あとはいわゆる生木(なまき)ですかね。

発生量が減る中での生き残り戦略

ー生木とは何でしょうか?

西井氏 庭木や街路樹などの樹木です。木くずと違い水分を多く含んでいるので、混入量によってはユーザー様のボイラ燃焼効率を下げてしまいます。生木自体は受け入れは可能なんですが、一旦傍へストックしておき他の原料とうまくブレンドして処理しています。

ーそういった生木はどういう場合に多く発生し、どこで処理されているんですか?

西井氏 造成工事などで大量に発生する場合が多いです。地域によっては堆肥化施設などでリサイクルされているか、FIT認定のバイオマス発電燃料用のチップ原料としての利用が主だと思います。弊社の設備と商流ではなかなか大量の受け入れは難しいのですが、今後もしっかりとした受け入れ態勢は整備しておきたいと考えています。

ーそれは木くずの数量を確保するという観点でのお考えですか?

千田氏 はい、今後も日本の人口は減っていきますし、家屋解体の需要を生む新築の戸建てが減少傾向にあるため、長期で見たときに木くず数量確保というのは今後の課題のひとつと感じております。

ですので、そういった生木も含め間口を広げ、提案材料としての商材を増やすということが必要だという話はしています。とはいえ、昨今話題になっている「空き家問題」など、日本には解体しなければいけない、ただ残っているだけの空き家がまだまだ多く存在しています。

また、コンクリートで造られているビルやマンションなどの大型物件も、内装材には木材が利用されています。つまり、建物に「老朽化する」という性質がある以上、今後も一定量の解体需要は維持されると考えており、そこからの調達は可能だと考えています。

ーその他、リサイクルできていない木くずはあるんでしょうか?

西井氏 基本的に木くずの関東圏に於けるリサイクル率は他の廃棄物に比べ非常に優秀だと思いますが(サーマル含む)、まだ大きくカウントされない例えばリフォーム工事から発生する木くずだったり、混合物として焼却に回っている部分もありますので、そこは現場での分別精度を高めていただければと思っています。

千田氏 あとは線路等で使用される枕木の中でも腐食防止の薬品が使われている場合、燃やすと有害物質が出るということで弊社では禁忌品にさせていただいているのですが、こういったものが製造時にもう少しリサイクル性を考えられるようになると良いかなと思います。

マテリアルリサイクルの可能性

ー木くずのリサイクルについて今後の展望をお聞かせください。

西井氏 マテリアル用途も増やしていきたいと考えています。社会的・環境的にもマテリアルリサイクルを進めることが優先されると言われていますし、経営的にもより付加価値の高いチップとして販売出来ています。

マテリアルは先ほど申し上げたように品質に厳しい部分があったのですが、最近では今までになかった用途での利用法の問合せがあったり、少しずつ変わってきていると感じます。

ー「再生材であること」に付加価値を感じられるような流れがありますよね。

西井氏 そうですね。紙やプラスチックでそうであるように、木材でもむしろ以前どのように使われていたかがわかるトレーサビリティや、欧州では燃料用途であっても地域で循環させることが重要視されるという話も聞いていますので、そういった面でも我々の貢献できる価値は増えていくのだと思っています。

ーありがとうございました。

2022.11.16
取材協力:シナネンエコワーク株式会社
https://sinanenecowork.com/
シナネンホールディングス株式会社
https://sinanengroup.co.jp/