環境に優しい商品であれば売れる?データから考える「生活者の購買意欲」と「企業の環境配慮」の関係性

循環思考メディア『環境と人』では、生活者の環境についての意識調査をすべく無作為の500人に対してアンケートを実施した。

2つめのレポートとなる今回は、企業が環境に配慮した上で世に送り出す商品・サービスは、生活者の商品選択にどのような影響を及ぼすのかを調査した内容となっている。

「環境課題に取り組まない企業は生活者の支持を得られなくなる」とまことしやかにいわれてはいるが、実際のところはどうなのか、また、今後はどのように変化していくのか。

アンケート結果を元に、編集長 新井遼一に話を聞いた。

バイアスを捨てて数字ベースで事実を捉える

ー今回は無作為の500名を対象に、「商品・サービスを購入するときに、環境に優しいか否かで選ぶのか」というテーマでアンケートを実施しました。

①環境に優しい商品・サービスを必ず選ぶ
②場合によっては環境に優しい商品・サービスを選ぶ
③全く意識していない

まずはこの3つの選択肢から回答をいただいた結果、「①環境に優しい商品・サービスを必ず選ぶ」と回答した方は3.3%と非常に少数派でした。

新井 まず、「①環境に優しい商品・サービスを必ず選ぶ」という方が3.3%もいることに驚きました。

正直にお伝えすると私でもそこまで徹底はできていません。

以前ある冊子で、エシカルな生活をされている著名人の生活が紹介されていたのを拝見しましたが、ティッシュを使用せず布製のものを洗って何度も使っているという話が書かれており、そこまで徹底していらっしゃる方は本当に凄いと驚いた記憶があります。

そういう方がどのような生活を送っているのか興味が沸きますね。
とはいえ、そういった方の日常を全ての人々に標準化することはできないとも思います。

ーその一方で、「③全く意識していない」と回答した方は35.2%でした。
かなり多いと感じましたが、こちらについてはどう思われますか?

新井 今の現実的な数字だと感じますし、むしろもっと多いとすら思っていました。

私も含め、環境課題に携わっている人たちの中には、環境に配慮していて当然・それが主流と思い込んでしまう方が多いです

しかし、そんなはずはありません。
だからこそ現実的な数字を踏まえて考える必要があります。

とはいえ、「③全く意識していない」の方々の割合を少しずつ減らしていき、「②場合によっては環境に優しい商品・サービスを選ぶ」への移行を進めることに貢献しなければならないとは、改めて感じました。

日用品なら買う時に環境に配慮するのか?

ー話題にあがった「②場合によっては環境に優しい商品・サービスを選ぶ」という回答が最も多く61.5%でした。まずは、この結果についてどう思われますか?

新井 私もこのボリュームゾーンにいると自覚しています。

前述の通りこの割合を増やしていくとともに、ある程度はこの「場合」の方向性を環境配慮に貢献できる方向に収斂していかなければなりません。

ーでは、その「場合によって」と回答した350名弱の方々の「場合」とはどういったものかを確認した結果について言及していきます。
購入頻度の高い日用品などについて環境配慮のある商品を選ぶのか、また、そういうわけではないのかを集計してみました。

その結果が、以下の円グラフですが、こちらの結果についてどう思われますか?

新井 購入頻度の高い日用品などは買わざるを得ない毎日のものだから、明日からちょっと変えてみようと思った時に身近で価格的にもチャレンジしやすいといった傾向があると感じます。

何かしらの形で環境配慮を試みてみようと思っても、「じゃあ早速明日、環境に配慮された家具を買おう!」とは思わないですよね。

ー一方で、「③購入頻度の低いもの(家具・家電・自動車など)は環境に優しい商品・サービスを選ぶことが多い」という方も10%いました。こちらについては?

新井 全てがそうであると断言できませんが、補助金の影響が大きいのかもしれません。

例えば、電気自動車やエアコン、大きい話でいうと家自体もゼロエネルギーハウスについて補助金があります。

ただ、その割にはパーセンテージが小さいので、環境配慮からそういった制度を意識的に活用する方々は少ないのかもしれません。

「買おうとしたら店員さんに安くなると言われたから」といった理由から補助金を導入している場合、無意識的な行動なので今回の回答に反映されない気がします。
そしてそういう方々が割と多いのではないでしょうか。

いくらなら「環境に優しい商品」を選ぶのか

ー同様に、「場合によって」と回答した350名弱の方々に対して「価格によって影響があるか」について伺いました。

結果的にわかったことは、「②価格が同じなら、環境への配慮があるものを購入する」を選んでいる方が大多数でした。
こちらについてどう思われますか?

新井 まず、絶対とは言わないまでも、私自身は「①価格が高くても、環境への配慮が素晴らしいと思えば購入する」に分類されると思うのですが、同じような傾向の方が350人中20人以上いるということに驚きました。

そして、もうひとつ興味深かったのが「③価格が安いなら、環境への配慮があるものを購入する」を選択した方々が8.6%しかいなかった点です。

つまり、350人中おおよそ320人が安さ優先ではないということであり、冒頭の円グラフの結果と合わせて総合的に考えると「環境に配慮した商品を従来品と同等並の価格で提供する努力をすれば、全体の約6割の方々の支持を得られる」ということです。

生活者が企業に求めているひとつの要素として念頭に置いておくべきだと感じました。

ーとはいえ、環境に配慮された商品を提供しようとすると、どうしても従来品より高額になりがちと伺いました。
この点はどのように解決していくべきなのでしょうか。

新井 これまでと異なる仕組みが必要になりますので、仰る通り現状は高くなりがちです。

この解決に繋がる事例があるので少し説明させてください。

まず、1つめの事例ですが、従来の燃料よりもCO2排出量が圧倒的に低いオランダの会社が作っているバイオ燃料の話をします。

それを日本で購入するとリッター500円以上するそうなのですが、欧州では政府が補助金を出すことで従来の燃料とほぼ同じ値段で流通しているそうです。
先ほどのアンケート結果でも「②価格が同じなら、環境への配慮があるものを購入する」が大きな割合を占めていましたが、それは欧州でも同じらしく、ものすごく浸透しているようです。

政府が積極的に支援することで環境に優しい燃料の浸透が促されている好事例ですね。

ーということは、やはり政府が介入しないと難しいということでしょうか?

新井 ここで事例の2つめです。

例えば日本のユーグレナ社は、開発した優れたバイオ燃料を企業努力で広げていこうとしており、政府の支援ありきで考えてはいないそうです。

スケールメリットを作って流通価格を下げていくことを目標に、まずは共感してくれる企業から連携を進め、徐々にそのサイズを拡大しようとしています。

この考え方は経営戦略としてまさに王道です。
その成功事例がTeslaで、高級車でニッチなセグメントに攻め込み、その上で大衆車にシフトしてコモディティ化を目指しました。

そういう意味では「①価格が高くても、環境への配慮が素晴らしいと思えば購入する」を選んだ7%という数字は小さくなく、そこから参入して足場を固め、価格を従来品まで下げていくという戦略も決して不可能ではありません。

健康食品からジェット燃料まで。バイオ技術で世界をより良くするユーグレナ社の事業

ーなるほど、全く異なるアプローチですね。

新井 ですが、共通項はあります。

要は、「環境配慮という理想」と「現実的な生活」のバランスが最も大事であり、それは日本も欧州も同じであるということです。

生活者のことを考えて価格をなんとか同等程度にしなければ浸透していかず、浸透しなければ環境配慮も実現しません。

そういった価格調整の手段に国の力を借りるのか、それとも企業努力で賄うのか、ここはそれぞれの企業が判断していかなければなりませんが、環境に配慮していることだけをクローズアップすれば売れるわけではないのです。

とはいえ、大きな流れとしては企業に環境への対応が求められていくことも事実です。

この両方をしっかりと考えた上で、企業は経営の舵を切っていかなければいけないということですね。