サステナブルな賃貸マンションを目指す不動産経営者のビジョン 後編

コクーン大岡山様

前編にて紹介しました、2022年12月、東京都大田区北千束に完成した「地球にも人にも優しい」をコンセプトにした賃貸マンションcocoon oookayama。

前編では、なぜこの様なコンセプトとなったのか?どの様な工夫をしたのか?マンションオーナーのワッキーさんと、建築を担当したスタジオA建築設計事務所 代表取締役 内山 章(あきら)さんにインタビューを実施。後編では、cocoon oookayamaを建築するにあたって、最も苦労したと言う資金調達についてお話を伺いました。

サステナブルな賃貸マンションを目指す不動産経営者のビジョン 前編

断熱性能を高めると資金調達が困難になる

-cocoon oookayamaを建築するにあたって最も苦労なさったのはやはり資金調達ですか?

ワッキー氏 はい、そうでした。これまでとは違うやり方で賃貸マンションを運営するとなると、その分追加で掛かる資材費はもちろんあります。サラリーマンをしながらの副業なので資金調達は結局銀行が物件に対してお金を貸してくれるかどうかです。

-なるほど。一般的な賃貸マンションと比べてどのくらい追加で資金が必要だったのですか?

内山氏 ざっくりですが、普通に建てるよりも10%程工事費は上がっています。ですが、この10%に対して銀行は融資しないんです。そこに評価軸はないですから。要するに断熱性の高い賃貸建物に対して評価の基準がないので、銀行の担当者にコンセプトを伝えても「面白いですね」って言うんですけど、結局銀行内の稟議には通りません。ワッキーさんはそこをいろいろ頑張られて。コロナ禍ですし、ウッドショックなど建設費も途中で上がってしまって、どんどん経費が上がっていく中で、そこをちゃんと銀行と話をして。そこまで持っていったというのは本当にオーナーさんの技ですね。

-それはどんな技だったのですか?

ワッキー氏 そんな大層なことではなく、ご縁だったり色んな方のご協力あっての事ですね。担当してくださった行員さんの腕が良かったり、工務店さんがとても信頼できる方々だったり。でもcocoon oookayamaの良さを伝える事にはかなり力を入れました。先ほどの説明にもあった空室率を下げることはこれからの努力次第という所は勿論ありますが、銀行にも聞こえが良かったです。

-実際に断熱性能を上げることで空室率を下げる事が可能という実証はなされているのですか?

内山氏 残念ながら実例がまだ数ないのが現状です。ですが、過去に断熱性能を上げた賃貸マンションは1か月半で全室埋まった実績があります。家賃が相場より1万円程高かったのですが。1室32平米。6畳用エアコンひとつで住みやすい部屋でした。

新しい部屋を選ぶ基準「断熱性能」

-では、なおさら断熱性能が高い事を対外的にアピールしなくてはならないですね。

ワッキー氏 今回はこのストーリーを記したチラシを作成しましたが、残念ながらこの差別化を現状うまく伝えきれていないのが課題です。

-というと?

ワッキー氏 大手賃貸サイトを見て貰えれば分かると思うのですが、検索時に断熱性が高いかどうかのチェックボックスがないですよね。それよりも独立洗面台かどうかとか、オートロックかどうかが重視されている。日本で住宅の断熱性能に対する法律や知識がないことが反映されています。その遮音性やエアコン不要の快適さという価値を知られていないだけだと思うんですが、現実的には検索に引っかかりにくいということになります。

-そもそもcocoon oookayamaは機能分家賃は高めでしょうか?

ワッキー氏 新築マンションなので、数年はどうしても新築価格で少し家賃が高いですし、私たちのこだわりが家賃に多少は反映されます。といっても大岡山は学生の街なので、相場から大幅に外れた家賃は設定出来ませんが、安さを求める人にとってはどうしても訴求しきれない部分はあると思います。この断熱性能に関するインジケータが実装されようと業界内では動いているみたいなのですが、もう少し先になりそうです。ですが、これが実装され、住む人たちの価値観がアップデートされたときこのcocoon oookayamaは優良物件になると期待しています。

内山氏 価値観のアップデートと言うよりかは、暖かい家に住み慣れた平成生まれの世代が社会人となって、まさにcocoon oookayamaの様な賃貸マンションに住み始めましたね。だから実は既に変わっているんですよ。私たちの世代は実家と言えば寒いものでしたが、この世代の実家はもう少し暖かい。彼らは絶対寒い家には住みたくないと思いますし、少なくとも長くは住んでくれません。そうやって時代はちゃんと変化してるんだけど、住宅を供給してる人間がその変化にまだ遅れている節がありますし、法整備も追いついていません。先進国の中でも住宅の断熱性能に関して基準を作る事はとても遅れています。

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次に目指すサステナブルな賃貸マンション

-もしも資金調達に上限がないとしたらどんな賃貸マンションを作りたいですか?

ワッキー氏 資金に上限がなければ木造建築か鉄骨造を建設したかも知れませんね。サーキュラーエコノミーの観点で言うとベストな選択です。

-それはどの様なメリットがありますか?

内山氏 鉄筋コンクリート(RC造)は枠の中に組まれた鉄筋にコンクリートを流し込むので、解体の際に完全にマテリアルごとに分けることが出来ません。つまり鉄筋にコンクリートがこびりついた状態になるので、再利用が難しいのです。もう1点、特に木造では柱の腐食がひと目で分かります。その腐食した柱だけプラモデルの様に取り替える事が出来るので、資源を無駄なく最後まで利用出来ます。

-コンクリートは寒そうなイメージがありますが。

内山氏 はい、一度冷えるとなかなか温まらず寒いですね。しかも、コンクリートの壁に断熱材は入れられないので、断熱材を入れればその分部屋は狭くなります。木造だと柱の10〜12センチの間に入れる事が出来ます。総合して木造が最もサステナブルです。

-多くのメリットがあるのにも関わらず、鉄筋コンクリート造を選択したのは何故でしょうか?

内山氏 最初木造で検討したのですが相場の都合上、家賃が高く設定できない事と、税制上の都合でオーナーさんとしてはどうしても木造より鉄筋コンクリート造の方が運営しやすくなります。

ワッキー氏 賃貸サイトの話に戻りますが、木造だとマンションではなくアパートになってしまいます。女性はアパートにチェックを入れなかったりする事もありますし、ここでも住宅性能や家賃の理由をサイト上では上手く伝えきれないです。この辺りの定義や意識が変われば良いと思っています。

-そうですね。今後住む人の意識が変わる中で住宅を選ぶ基準も変わっていきそうですね。

内山氏 賃貸にこだわりが持てず「安い寒い暑い」。一方で、持ち家にはこだわっている。この意識が変わるように、住宅を提供する側も質をあげていかないとなりません。このcocoon oookayamaに住む若い人にはその価値観を得て欲しいですね。そうやって日本全体の住環境の向上が成されればと考えています。

ワッキー氏 せっかくcocoon oookayamaに住むなら住む方のエコ意識が自然と向上して欲しいなと思います。住宅に対する意識もですが、生活や考え方そのものがサーキュラーなものになることを期待しています。

ー貴重なお話ありがとうございました。

2022.12.09
インタビュー協力:ワッキー氏(cocoon oookayama オーナー)
内山章氏(スタジオA建築設計事務所 / エネルギーまちづくり社