“いらない”が“欲しい”に変わる!?廃タイヤチューブのアップサイクルで目指す環境に優しい社会

廃タイヤのチューブを活用したアップサイクル製品と聞いてオンラインショップを覗くと、そこにはスタイリッシュなバッグや小物がズラリ。“エコ”を前面に打ち出しているわけでもなく、むしろそのような文字は見当たらない洗練されたショップという印象です。

環境保護、持続可能性、エコ…そのようなワードを目にすると意識していなくてもどこか身構えてしまうものですが、「カッコいいから使う」という理由で選ぶのもアリじゃないかと思わせるようなおしゃれさが、廃タイヤチューブのアップサイクル製品「SEAL」の特徴でもあります。

今回は、廃タイヤを活用した「SEAL」ブランドの開発・販売、クリエイター齊藤明希氏と共同で開発を行うビニール傘から生まれた「PLASTICITY(プラスティシティ)」の製造・販売を行う株式会社モンドデザイン 代表取締役 堀池洋平さんに、自社のアップサイクル製品やアップサイクルが果たす役割についてお話を伺いました。

元から抱いていた環境への興味からアパレル業界へ

堀池洋平

株式会社モンドデザイン 代表取締役 堀池洋平氏 / 1980年生まれ。幼少期~高校卒業まで福島県いわき市で過ごし、2003年に千葉工業大学卒業後に広告制作会社に勤務。2006年に株式会社モンドデザインを創業。

ー早速ですが、事業内容から教えていただけますか?

会社のコンセプトは「環境に優しい製品の開発」で、廃タイヤのチューブを使った「SEAL」が約7割、ビニール傘のアップサイクル「PLASTICITY(プラスティシティ)」が1割、残りは企業から相談を受けて開発を行うといった事業が2割程度です。

ーSEALはいつから?

2007年4月ですね。当時はアップサイクル製品というのは今ほどなかったんですが、漠然と環境に貢献できる何かをしたいという思いはありました

ー何かきっかけが?

当時環境に優しい製品を選びたくても選択肢がなかったんですよね。そういうものがあったらいいな、と。
昔のエコってなんというか…ちょっとダサかったじゃないですか。それが、プリウスが出たあたりからエコのスタイルがカッコいいという風に変わってきた。そういう時代の流れもあったのかもしれません。

ー確かに昔と今ではエコのイメージは変わりましたよね。

私は田舎育ちなんですが、環境の変わりゆくさまを間近で見たことも関係していると思います。例えば山だったところが更地にされて住宅地に変わったり、ゴルフ場ができて農薬が使われた影響で湧き水が飲めなくなったり…環境というものがいつもつきまとっていたというのはありますね。

量、素材感、イメージ…すべてを満たしていたのが「タイヤ」だった

ー「SEAL」についてお聞きしたいのですが、いろいろな廃材がある中で、なぜタイヤを選んだんでしょうか?

環境に配慮した魅力的な商品を作りたいという思いでいろいろな廃材を探している中で、総合的に一番良かったのがタイヤだったんです。素材として選ぶポイントが3つあって、一つは廃棄されている量、二つ目は製品にした時に素材感を活かせるかということ、三つ目はイメージですね。

ーイメージというと?

山積みにされた廃タイヤから製品が生まれるというインパクトというか、イメージにピンときたんです。他にもウェットスーツの生地や建築現場のメッシュシートなど、いろいろ候補はあったんですが、例えばウェットスーツの生地はそもそもそんなに捨てられているものではないし、メッシュシートは素材感が普通というか、廃材を使う意味が伝わりにくいというのがあって。総合的にタイヤがしっくりきたんです。

タイヤチューブの素材は実際に使われていた環境や年月により様々な表情を持っています。SEALでは、一点一点表情の異なる製品は唯一無二、世界に一つだけの製品として、日本の職人が一つ一つ丁寧に仕上げています。

ーなるほど。廃タイヤの集め方は?

どこに廃棄されているものなのかもわからなかったので、タイヤリサイクル協会というところに聞いてタイヤ産廃業者を紹介してもらったんです。そもそも廃材を見つけてきて加工する技術がなかったので、ルートを作るのに1年半かかりました。

ー今も仕入れは産廃業者から?

現在は主に海外の産廃業者から仕入れています。というのも、日本で使われなくなったタイヤは海外に運ばれて、海外でさらに使われてから廃棄されるんですよね。
ですから現在は現地の協力会社に依頼して、インナーチューブを分離して洗浄し、ある大きさにして運んできたものを国内で加工しています。

ーデザインの知見はあったんですか?

一緒に創業した者がデザインを担当しています。でも知見があったというよりは試行錯誤しながら改良して…という感じですね。

SEALで使用している素材は、何年も車を支えてきた大型トラックのタイヤチューブ。素材一つ一つを確認しながら数回の検品を行い、ダメージの大きな素材やパンク跡・切れ目のある素材は全て選別し、最終的に耐久性やデザイン性を吟味した上でSEALのメイン素材として採用しているのだそう。

コアなファンを生むための“自社直販”という選択

ー最初はどんな風に始めたんですか?

ネット販売から始めました。運良く新聞などにも取り上げてもらって、次に展示会に出品して卸先を増やしていったんです。

ー今もオンラインがメインですか?

はい、実は7年前に卸しはやめて自社直販のみにしたんです。期間限定のポップアップショップなどはやっていますけど。
元々、数十万人に使ってもらうといったことは考えていなくて、百人千人ぐらいのコアなファンの方に大事に使っていただきたいという思いがあったんですよね。それならいろんな場所で売る必要はないと思ったんです。

ー意識的にターゲットを絞ったということでしょうか?

コアなファンを作るには自分たちが説明できる範囲でしっかり説明しながら販売しなければならないと思ったんです。そういう環境を作るために、卸しはやめようと。どうしても専門のスタッフがいないところでは説明が行き届かないので。買って後悔したり不満が残るようではファンになってもらえないので、それを解消するために直販に絞ったということです。

ーきちんと説明して納得した上で買っていただきたいということですね。

製品的に、万人受けするものではないと思っているので、コアなファンに定期的に買っていただきたいという思いがあって。コロナになってから特にリピート率は48%ぐらいと高いんですよ。
変わった商品なので、運良くいろいろなメディアに取り上げてもらえたこともあり、広告費はほとんどかけずに宣伝できました。

エコはあくまでも二次的要素。徹底した顧客管理もキーポイントに。

ー価格はどのように決めているんでしょうか?

原価率から販売価格の目安を設定して…という普通の方法です。あとは、お客さんが想像する価格と差がない価格を設定するようにしたというところでしょうか。

ーターゲットはある程度絞っているんでしょうか?

設定したこともあったんですけど、上手くいかなかったので、特に今はターゲットを絞ることはしていないです。
最初の製品がロングセラーでファンもついているというのは非常にありがたいことだと思っています。

ー成功する秘訣や意識していたことは?

そうですね…エコを売りにしていないところでしょうか。それは売りにはならないので。あくまで二次的な要素であって、主は品質、価格、機能、デザインであるということは意識しています。リサイクル素材とはいえ、欲しいと思えるデザインや品質でなければ意味がないですから。

あとは、お客様のサポートには費用と時間をかけています。例えば7年前にSEAL製品を買って5年前に修理に出し、3年前に楽天市場店でリピート購入している…といった一人ひとりのお客様の情報を、サポートの担当者が把握できるようにしています。

持ち込まれたビニール傘がスタイリッシュなバッグへ生まれ変わる

ーPLASTICITY(プラスティシティ)についても教えていただきたいんですが、ビニール傘はどこから仕入れているんですか?

大きめの商業施設や駅などから回収しているんですが、実はここ2年くらいは送っていただいたものを使用しています。学校の授業の取り組みで持ってきてくれたり、事業所単位で送っていただいたりということが多いですね。

ー持ち込みできるということをどうやって知るんですか?

HPにも載せているんですが、メディアで紹介してくれたというのが大きいと思います。最近ムーミンコラボの商品を出させていただいたんですが、それもムーミンバレーパークに放置されていた2000本の傘を使って作ったんです。あとは、不要ビニール傘を送ってもらい、ポイントと交換するプログラムも実施しています。

ービニール傘の金属部分はどうしているんですか?

スクラップ業者に引き取ってもらっています。意外と簡単に分離できるんですよ。

日本において1年間で消費されるビニール傘は約8,000万本。その大多数が廃棄されているというから驚きです。しかも、ビニール傘は分解のしにくさからリサイクルが難しく、多くが埋め立て処理や焼却処分されているのだそうです。
「PLASTICITY(プラスティシティ)」では、傘の素材が持つ防水性や汚れに強いなどの良い特性を残しながら、特殊な技術により幾重にも重なる層に圧着をするという方法によって製品を生み出しています。
置き忘れや、使い捨てによるプラスチックの廃棄問題。PLASTICITYは、今後解決されるべき環境問題が近い将来に解決されるという思いを込めて「10年後になくなるべきブランド」を宣言しています。

環境的なインパクトよりもユーザーの意識が変わるきっかけを作りたい

ー製品に関してはリペアも行っているんですか?

はい。月に100件近く依頼いただいています。リペアすることによって製品を長く使っていただけるのは、こちらとしても嬉しいです。
素材自体の耐久性は高いので、修理を依頼されるのはチューブ以外のファスナーだったり革の部分だったり。そういった部分をリペアしていただければ、5年10年は使えます。

ー廃材探しは、環境的なインパクトを考えて行っているんでしょうか?

それに越したことはないんですが、それが主な目的というわけではありません。どちらかというと、こういうものがあるよ、廃材でもこういった使い方ができるよということを知ってもらうことで、ユーザーの行動や考え方が変わるきっかけになれば、ブランドの存在意義がありますよね。
アップサイクルはそこに意義があるというか、素晴らしさがありますよね。製品を「いいな」と思って使うことで、その人の考え方が変わる。その変化がわかるとすごく嬉しいですね。

ーファッション産業は環境負荷が大きいということが指摘されていますが、それに対して何か思うことはありますか?

エコや環境問題は、突き詰めて考えすぎると「我慢しなくちゃいけない」という風になりがちですよね。でも我慢することは続かないじゃないですか。
消費していいと思うんです。私自身もビニール傘を使いますし、使うこと自体を悪いこととは思っていません。ただ、使った後にどうするかを一生懸命考えればいいと思うんですよね。使った後に何か別の形で活かせたら、素材の寿命が伸びて最終的に環境に優しいということになる。あまり我慢せずに環境に貢献できる方法があれば、それはそれでいいことなんじゃないかと思います。

ー製品自体を使い終わった後はどうしていますか?

SEALは、持ってきてもらえればリサイクルします。まだ使える物であれば、サポートしている団体を通じて途上国に寄附を行っています。

ーPLASTICITYについてはどうですか?

PLASTICITYはそこまでできていないので、今後の課題ですね。ビニール傘の素材はポリエステルなんですが、リサイクルのしやすさで言えばそうでもないんです。鞄になった後の流れも仕組みにできればいいなと思いますね。
コストはかかりますが、そういった取り組み自体もブランディングの一環だと思っているので。
パタゴニアなんかはかなり前からそういった取り組みを行っていますよね。環境保護とブランディングが同時に存在しているという意味では、とても参考になります。

ー企業側の“つくる責任”、ユーザーの“つかう責任”が見える取り組み。業界が目指すべき理想の形の一つですよね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

2022.11.29
取材協力:株式会社モンドデザイン
https://www.mondodesign.jp/