成功事例からみる「持続可能な街づくり」とは?


「持続可能な社会」を目指して世界中が変革期を迎えているいま、都市のありかたも考え直すべき時に来ているといえます。では、10年後、100年後も続いていける持続可能な街、サーキュラーシティとはどういう姿なのでしょうか。今回は、国内外の3つの事例を元に未来の都市について考えていきたいと思います。

サーキュラーシティとは?

久米 今回はサステナブルな街づくり、サーキュラーシティについてお話を伺っていきたいと思います。では本日のポイントを3つお願いします。

新井 まずはサーキュラーシティとは何か、次に国内外の事例について、そして日本の都市開発はどうあるべきかということについて、お話をしていきたいと思います。

久米 今回のキーワードである「サーキュラーシティ」とはどういった街のことを指すんでしょうか。

新井 まさにサーキュラーエコノミー(循環型経済)という概念を都市開発に落とし込もうということで最近盛んに言われているのが「サーキュラーシティ」という単語です。

なので、例えば今の東京であれば、福島で発電した電気を使って、海外で作ったモノを大量に輸入して、食べたり消費して出たごみは燃やして灰を秋田の山奥に埋める…みたいなことをやってるわけなんです。

一方サーキュラーシティとは、この輪をもっと縮めて、地域内で作ったエネルギーを使うとか、地域内で作った作物を使って料理を作るとか、廃棄物に関しても地域内でリサイクルなりをして循環させたりを目指す概念です。

久米 なるほど、地域の中で循環させるというところがキーワードですね。

国内外の事例 ①黒川温泉(熊本)

久米 では、サーキュラーシティに成功した国内外3つの事例を紹介していきたいと思います。まず一つ目、熊本県の黒川温泉ですね。

黒川温泉といいますと、30軒ほどの温泉が集まっていて、温泉街という感じのことで有名かと思いますが、どういった取り組みがされてるんでしょうか?

新井 黒川温泉は1970年代ぐらいからブランド化を目指しており、成功事例としてよく知られています。

私も以前行ったんですけれども、若い方がいっぱい来てました。若いお客さんが30軒ほどの地域を浴衣姿で歩き回り、買い物したりとか温泉入ったりしていて、かなり賑わってる「昔ながらの温泉街」みたいな雰囲気です。

こうなったのは、我々の二世代前くらいの方々が頑張ったためと言われています。当時、昭和の団体旅行の全盛期でした。温泉旅館としてでっかいビルが建ってて、そこで宴会をやって、お土産もそこで買って、そこ一箇所だけで完結して帰るみたいなスタイルが全国的に流行っていました。

しかし、黒川温泉はそれじゃあ先がないだろう、地域全体で盛り上げないと、持続的じゃないという風に考えて行動しました。例えば地域に洞窟を掘って洞窟風呂にしたりとか、雑木林を整備して温泉街らしい景観にこだわって作り込んだりですね。

また、1990年代くらいからは「入湯手形」を発行して、これさえ持っていればどこへ行ってもいいっていう観光客が歩き回れる仕組みを作ったんですね。それでさらにブランドが強化され、今その次の世代がサーキュラーエコノミーを取り入れようと取り組んでるのが堆肥化プロジェクトです。

地域で出た生ごみとか落ち葉とかを堆肥にして、近くの農家で野菜作りに使う。それで、できた野菜を旅館の料理にお出しするっていう循環の輪を作ったんです。今これがサステナブルツーリズムみたいな文脈でも注目されつつあって、話題になっているという事例ですね。

久米 循環のモデルが産業を活性化することにも繋がっているということなんですね!まさにサーキュラーエコノミーです。

新井 はい。この黒川温泉の堆肥化をはじめとしたサーキュラーエコノミーのプロジェクトは、サーキュラーエコノミー研究家の安居昭博さんという方が中心になって動かしていったんですが、その安居さんが日本に取り入れたのが、オランダ・アムステルダム市のサーキュラーエコノミーという概念です。アムステルダムはサーキュラーエコノミー化が進んでいるんですが、久米さんも現地にいたことがあるということで、ちょっとお伺いしてもいいですか?

国内外の事例 ②アムステルダム市(オランダ)

久米 アムステルダム市は「2050年までに100%循環型のまちを目指す」という、かなり高いレベルの目標を掲げています。行政・大手企業・市民の全体で連携して進めていこうとしている町です。

特に3つの重点分野に絞っていまして、まず1つが「食と有機性廃棄物」、そして2つ目に「消費財」、3つ目に、廃棄物が多く出る「建築」で、その分野においてユニークなビジネスモデルが生まれてきています。

例えば大手スーパーマーケットで、もう売れなくなってしまった食材をレストランで提供をしたりとか、イベント等で一時的に使う施設を中古の資材を使って建設しているんです。そのイベントが終わったら資材を提供者に返すっていうようなやり方をしていて「新築なんだけど中古で作る」というようなところまで追求してやっています。

新井 イベントの資材で思い出したんですが、日本にエコプロっていうサステナブルな商品の見本市みたいなイベントがありまして、そこに出展する知り合いがSNSで投稿してたんですが、出展準備の際にダンボールや缶といったごみが何も分別されず、そのまま山積みになって放置されてるみたいな状況で、運営の体制が問われたりといったことがありました。

これがまさに日本の現状を表しているというか、表面だけやろうとして、根本的なところが理解できてないんじゃないかという疑問があります。そうした日本の現状と比べて、アムステルダムは進んでいるイメージがありますね。

久米 「サステナビリティとは何か」っていう本質をいろんなセクターの人たちが真剣に考えている、そして連携をしているっていうところが特徴かなと思います。

国内外の事例 ③THE LINE(サウジアラビア)

久米 海外の事例のもう1つが、サウジアラビアです。サウジアラビアというと、原油をたくさん生産・輸出しているエネルギー大国というイメージがあり、サステナビリティというイメージとは遠い認識なんですけど、どういったことをされてるんでしょうか?

新井 脱炭素という今のトレンドの正反対で一番困ってるんじゃないかというようなサウジアラビアという国ですが、ムハンマド皇太子っていう若いやり手の王族の方が打ち出したのが「THE LINE」という都市構想です。

全長170km、高さ500mに対して幅が200mしかないっていう、建物というより箱みたいなものを砂漠のど真ん中に建てて、その中に都市機能を全部ギュッと入れていくんです。900万人くらい居住可能で、幅が200mしかないので5分以内にあらゆるインフラへアクセスできます。また、すごい高速鉄道も配備されてて、端から端まで20分で到達できる、効率性を追求しまくった都市です。

当然のように外壁が太陽光パネルになっていて、砂漠なので発電し放題。なので、電力から何から全てカーボンフリーでまかなえるようになっていて、サーキュラーシティというか、究極的な持続可能都市ですよね。

見た目が超未来的でまるでSFば建物なので、「環境負荷が低いってこういうことなのか?」って圧倒されてしまいますが、サウジアラビアっていうのはそれだけ石油のビジネスには先がないっていう危機感を抱いていて、もう建築が始まっているらしいんですが、とても楽しみですよね。

久米 生活や暮らしの概念そのものを変えていきそうな感じがしますね。

日本の都市開発はどうあるべきか

久米 一方で、日本の場合は東京に全てが固まるというわけではなく、日本全国にそれぞれの地域色がありますよね。だから、日本のサステナブルな暮らしのあり方っていうのはTHE LINEとはまた別のイメージかもしれないですね。

新井 そうですね。日本の街はどちらかと言えば、黒川温泉みたいなモデルを参考にしていくべきなんじゃないかと思います。あとはアムステルダム市も規模感として似てると思うので、都市単位でサーキュラーシティのあるべき姿を考えていくっていうことが必要かなと思っています。

現状だと、地方都市には「ハコモノを建てて、テナントを入れて、暮らしが便利になりました!」みたいな所で止まってしまっているんですが、これって1980年代にもう既に存在して、そこから進化してないって話なので、ぜひ2020年代には、サーキュラーシティを取り入れた都市の形を作ってもらいたいなと思います。

久米 新しいスタンダードが生まれるといいですね。ありがとうございました。