古木と古民家の価値を広める 山翠舎が考えるサーキュラー建築

国内の古木と古民家を再生させる 株式会山翠舎 インタビュー①

近年、古民家を活用したカフェやワーキングスペースなど、味わい深い内装を持つお店に注目が集まってきています。長い歴史を刻んできたものが持つ温もりや重厚感は、どこか私たちにほっと落ち着ける空間を生み出してくれます。

今回は、古民家の改修・古民家から得られる古木を活用した建築の企画・設計・施工をおこない今年で16年目の「株式会社山翠舎」へインタビューを実施。これからの建築や地域を活性化させる街おこしについて、前後編を通じてお届けしていきます。

前編は、古民家解体時に得られる古い木「古木(こぼく)」の魅力や価値、建築における資源循環について伺いました。

古民家を再生させる 山翠舎の事業

株式会社 山翠舎 代表取締役社長 山上 浩明/
1977年生まれ。長野県長野市出身。大学卒業後、2000年にソフ トバンクに営業として入社。社長賞を受賞。2004年に山翠舎に 入社し、2012年に代表取締役社長に就任。2021年には事業構想 大学院大学にて事業構想修士を取得し、現在、空き家となった 古民家などの社会問題解決を目指して新規事業を展開している。
2022年からは行政とのプロジェクトも稼働。小諸市のサテライトオフィス事業のプロ デュースや、長野市のスマートシティプロジェクトでフードロス解消レストランのプロ デュースなど、既存の枠にとらわれず、精力的に活動を続けている。

―山翠舎さんの事業内容をご紹介ください。

山翠舎は「地域総合循環型ビジネス」を展開する企業として、使われなくなってしまった古民家から引き継いだ古い木「古木(こぼく)」を活用した設計・施工や飲食店開業支援、地域活性化を目指した街おこし事業など、幅広く活動をおこなっています。

1930年に建具職人だった祖父が創業し、2006年頃から「古木」を活用した設計・施工をスタート、2021年からは飲食店開業支援の為の家主との交渉や街おこしの企画やファイナンスから担う案件も増えてきています。

―山翠舎を象徴する取り組みである「古木」について詳しく教えてください。

「古木」とは、戦前80年以上前に建てられ今は使われなくなってしまった古民家を解体する際に引継ぐ木材のことです。質のいい木材は時が経つほど乾燥して硬くなります。200年から300年という長い年月を経て硬くなった古木は、非常に丈夫です。それらを飲食店の柱としてやインテリア家具として活用することで、丈夫かつ古木が持つ味わい深い空間を仕上げることができます。

現在は、解体された古民家から引き継いだ古木が5,000本ほど常備されています。引継ぎから販売、活用する際の設計・施工まで、古木の専門家として事業を展開し、これまで古木を使って手がけた店舗は500軒以上にものぼります。

―古木1本1本についているラベルには何が書いてあるのですか。

このラベルには、その古民家が建てられた年代や場所など入手のルーツが記載されています。トレーサビリティが確保されているものだけを古木と呼んでいるんです。

多くのモノは減価償却で時が経つほど価値が下がっていきますが、古木はその逆です。年月が経つほど丈夫になるので物質的な価値はもちろん、AさんからBさん、BさんからCさんと人から人へ引き継がれていくほど価値が高まっていきます。

出所のわからない木よりも「あの場所の〇〇さんの家だった木」というような、その古木だけがたどってきたストーリーに価値があるのではないかという想いから、トレーサビリティの確保を徹底しています。

戦前と戦後の建築の変化

―古木に目をつけたきっかけは?

1986年くらいのとき、当時の山翠舎は全国に先駆けてアメリカンカジュアルショップ向けに、海外から輸入した古い木を使った施工をおこなっていました。私はまだ高校生くらいの年齢ではありましたが、古い木は味わいがあって素敵だなあと漠然と感じていました。

それから時を経て、2006年。新規事業を考えていたときに、ふとその古い木のことを思い出しました。自分の足元を見ると古い木がチップ化されていてもったいないなあと。海外から輸入するのではなく、日本にある地元の古民家にもいい材木がたくさんあって、それをうまく活用する方法を考えていきました。いきなり販売するのは難しかったので、施工の中で「古木を使ってみませんか?」と提案するところから、徐々に古木の魅力を広げていきました。

―古木の調達から施工まで簡単な流れを教えてください。

基本的には古民家の持ち主から連絡をいただいて、解体現場に出向き引き取る形になります。古木はかなり大きく運ぶのが大変なため、基本的には倉庫から近い長野や新潟の古民家へ足を運ぶことが多いですね。

古木を使った施工には、釘を使わずに繋ぎ合わせる技術を用いて行われます。古民家をリノベーションして再利用する場合は、壁を壊さず歪みを整える「古民家ジャッキアップ工法」という技術もあります。※特許出願中

また、最近では大手ホテルなどの法人の取り組みに、古木施工専門業者として入らせていただく場面も増えてきているんですが、そういった大規模な施工の際は、一度倉庫で仮組みをして確認したうえで、現場に搬入することもあります。

―古木とは戦前80年以上前に建てられた古民家から引き継いだ木とのことでしたが、戦前と戦後で建築に使われる木にはどんな違いがありますか。

全然違うんですよ。1945年を境に大量生産・大量消費社会に移行していくなかで、これまでは職人さんが持つ特殊な技術で木と木をつなぎ合わせていたところ、釘でつなぐ方法に変わっていきます。すると、使われる木もチープなものばかりで、戦後以降の建築の木材は脆く、再活用できる余地がありません。

また、戦後以降の建築の木材を見ると形が正方形にカットされています。本来、木は丸いところを正方形にカットされているということは、かなりの部分を削っている証です。一方、古民家から得られる古木の形は長方形であることが多いです。長方形にカットする作業は機械化することができないため、一本一本手作業で加工していたわけです。

山翠舎に置いてある古木は、建築が工業製品化される前に建てられた古民家から得たものです。現在、古民家は150万軒しか残っていないと言われていて、数限りある大切な資源となっています。

―職人の巧みな技術が必要な古木の施工は、まるで宮大工のような神聖さを感じます….。

たしかに、いま工業化された建築ばかりが目立つ中で、かなり手間をかけているほうだとは思います。ただ、私としては、あくまで山翠舎や古木事業は芸術の世界ではなく、実用的なもの、生活者にとって身近なものでありたいと感じています。

宮大工のような世界にも個人的にはすごく興味がありますし、本当に尊敬はしていますが、古木を芸術の世界にしてしまうと、職人も含めたエコシステムが成り立たないと思います。たしかな技術は持っているはずなのに、工業化によって仕事がない時期が山翠舎の職人たちにもありました。だから、私たちの事業は神聖なものではなく、あくまで生活に根付いた存在でありたいなと思っています。

古木の魅力発信は発展途上

―山翠舎が古木事業をはじめてから16年が経ちますが、反響はいかがですか。

山翠舎に依頼してくれた古民家の持ち主からは「救われた気がした」など、うれしいお言葉をたくさんいただいています。効率性を考えたら「もう使わないなら解体して更地にすればいい」という世間の声もあるかもしれませんが、持ち主にとっては亡くなられた祖父祖母の思い出の詰まった家だったりする場合が多いので、そう簡単にはいきません。

私たちが一番大切にしたいのは、持ち主の気持ちです。持ち主が解体して木材も燃やしていいと判断をしてしまったら、私たちの事業は成立しませんから。

―これまで500軒以上の飲食店を建てられていて、事業としてもかなり注目を集めていらっしゃるのではないですか。

2009年に大手コーヒーチェーンの店舗に私たちの古木を採用いただいたことが、古木を世間に知ってもらう大きな一歩に繋がったと思っています。

ただ、まだまだ古木の魅力を広められていないのが現状です。持ち主から古木を受け継ぎ感謝いただけるのは本当にありがたいのですが、今は5,000本以上が次の出番を待っている状態です。今後より多くの方に使っていただきたいです。

古木や古民家の活用が広がっていくために

ー古木や古民家の活用によって、建築がもたらす環境負荷にも変化はあるのでしょうか。

木の中には多くの二酸化炭素が含まれているため、古民家を解体する行為自体が環境にやさしいとは言えません。本来であれば、使える古民家はそのまま使ってもらうことが一番環境負荷が少ないんです。

先述した「古民家ジャッキアップ工法」を使えば、古民家に古木の丈夫な柱を加えて修繕することができます。古木の利用が広がることも大切ですが、古民家をそのまま使う選択肢があることも広がってほしいと思っています。

ー古木や古民家の活用が広がっていくには、どんなことが必要だと思いますか。

古木や古民家が今や非常に限られた大切な資源であることを、まずは多くの方に知っていただきたいです。その上で「歴史があり味わいがある建築って素敵だよね」という価値観自体を育てていく必要があると思っています。戦後以降の工業製品化された建築は味気ないですし、均一化された建築だけが並んだ街はどこか物悲しいですよね。

建築に限らず古いものには魅力がありますし、結局古いものをそのまま使うことが一番環境負荷がかからない場合が多いので、エシカルという意味でももっと評価されるポテンシャルがあると感じています。

ーありがとうございました。

前編では、古木の魅力と建築における環境負荷についてお話を伺いました。後編では、山翠舎が目指す街おこしはどんなものなのか。また、そのためにはじめた飲食店開業支援事業とはどんなものなのか。詳しく伺います。

山翠舎が目指す、これからの建築と地域振興

書籍紹介

インタビューにご協力頂きました株式会社山翠舎 代表取締役社長 山上浩明氏執筆の「‶捨てるもの″からビジネスをつくる: 失われる古民家が循環するサステナブルな経済のしくみ」が2023年2月4日に発売されます。本インタビューでは伺いきれなかったグッドデザイン賞も受賞した「古民家・古木サーキュラーエコノミー(循環型経済)」についてより深く知る事が出来ます。是非お読みくださいませ。

‶捨てるもの″からビジネスをつくる: 失われる古民家が循環するサステナブルな経済のしくみー山翠舎 代表取締役社長 山上浩明 著

日本の建築技法・文化を守る「古民家・古木サーキュラーエコノミー(循環型経済)」でグッドデザイン賞を受賞した山翠舎。古民家の解体から古木を収集・備蓄・整備し、単なる販売に止まらず設計・施工までも手掛けることで再利用を促しながら、地方ビジネスの可能性を広げ る同社の挑戦を紹介します。
いかにして古民家・古木から価値を産み出し、地域を活性化しながら、企業としても成長を続けているのか? サステナブルな循環型ビジネスのヒントがここにあります。

ご購入はこちらから

2022.11.15

取材協力:株式会社山翠舎

https://www.sansui-sha.co.jp/