サトウキビ畑で生まれたエシカルな取り組み。沖縄から環境にやさしいアパレルを発信

株式会社BAGGASSE UPCYCLE インタビュー

サトウキビの搾りカスである「バガス」を原料に生地を作り、かりゆしウェアのシェアリングサービスを提供する株式会社BAGGASSE UPCYCLE。アパレル業界が抱える地球環境への課題を、沖縄のサトウキビ畑が解決へ導くエシカルな取り組みが今まさにスタートしています。
世界でも他に類を見ないこの事業について、代表取締役/CEOを務める小渡さんにお話しを伺いました。

余剰副産物に付加価値を持たせた上でシェアリング

小渡 晋治(odo shinji) / 株式会社BAGASSE UPCYCLE代表取締役CEO。沖縄出身で、金融業界とIT業界のバックグラウンドを持つ。沖縄の原風景であるウージ畑(サトウキビ畑)を次世代に残したいとの想いをきっかけに、広告業界で経験を積み地方創生活動をライフワークとしてきた山本直人氏とタッグを組んで同社を立ち上げる。

―まずは事業のご説明からお願いできますでしょうか。

精糖の際に排出されるバガス

サトウキビの搾りかす、バガスは精糖工場のボイラーの燃料や畜産に使われているのですが、年間15万から20万トンほど出るので、余剰副産物として一部が残ってしまう場合が多いんですね。そこでこのバガスをアップサイクルして生地化し、かりゆしウェアを作った上でシェアリングする、というサービスを提供することにしました。

沖縄の伝統衣装であるかりゆしウェアは、沖縄の雰囲気を楽しむ被服であると同時に正装でもあるので、観光用やビジネス用として広く需要があります。ただ、沖縄に来たときにだけ着用する方が多く、1回着たら捨てられてしまう場合もありました。そこで、もっと環境にやさしい形でかりゆしウェアが提供できればいいなと考えて、事業をスタートした経緯があります。

―事業の目的としては、かりゆしウェアにおける課題解決の部分が大きいのですね。

バガスアップサイクルで提供されるかりゆしウェア

それもありますし、大きく3つの課題解決を掲げています。まずひとつが今申し上げたかりゆしウェアの問題、ふたつめはアパレル業界における直線型経済モデルを、循環型に変換していくということ。アパレルは、トレンドやサイズ展開によって需要を超える大量の商品が市場に溢れてしまっています我々の事業モデルなら、製品寿命を迎えたら炭にし、サトウキビ畑の土壌改良に生かして次のサトウキビへと繋がっていくので、循環型モデルとして成立するのではとの考えです。

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循環型を掲げるとなるとトレーサビリティをとることが重要ですので、ウェア一着一着にICタグを縫い込むことにしました。このタグをスキャンすることで、サプライチェーン情報や利用状況、製品寿命などを見える化しています。
そして3つめが、サトウキビ産業の活性化です。サトウキビは沖縄県の中でも非常に大きな産業になっていますし、世界でいちばん栽培されている作物でもあります。この副産物を有効活用すれば、もっといい取り組みに繋がっていくのではないかと考えています。

寿命を迎えたウェアは炭にしてサトウキビ畑の土壌改良材へ

―かりゆしウェアの製造プロセスについても教えてください。

まず精糖する過程で排出されるバガスを、沖縄県の工場でパウダー化します。その後、和紙の機械漉きをしている岐阜県の工場で、バガスパウダーと麻を混ぜて和紙を作っていきます。出来上がった和紙は、広島県で細くスリットして、撚り上げ和紙糸にします。その糸で生地を作り、ローカルで活躍されている職人さんやデザイナーさんのデザインをプリントして、沖縄でICタグ付きのかりゆしウェアに仕立てていきます。

ICタグを付ける意図としては、先ほどのトレーサビリティの部分がひとつと、もうひとつ沖縄の伝統工芸や文化を知っていただきたいとの思いもあります。ご利用いただいたお客様がICタグをスキャンしたときに、この服がどんな思いでどんな職人が作っているのかも簡単に知れるようになっています。

出来上がったかりゆしウェアは、リペアや染め直しなど行いながらできるだけ製品寿命を延ばす努力をします。寿命を迎えたら製炭炉で炭にし、土壌改良剤としてサトウキビ畑に還していく。結果的に次のサトウキビに繋がる、そんなプロセスとなっています。

―一般的なシャツの寿命と、御社で作られたかりゆしウェアの寿命とでは、後者のほうがやはり長いのですか?

一般的なシャツの寿命はだいたい2年ぐらいかなと思っていて、それ以上は着ていただけるようにリペアをしています。ただ、ファッションに敏感な方だと同じようなデザインのシャツを何枚も持っていたり、1枚のシャツを長く着続ける方もいたりと個人間の差がかなりあるものなので、明確に比べることができないんですね。

一方で、かりゆしウェアはビジネスや観光で1回着て捨ててしまうケースがみられる、沖縄色の強い服ではあるので、その文脈においてはシェアすることで無駄な1着がなくなる。必要な時に、必要な分だけ、素材やデザインに沖縄が詰め込まれたかりゆしウェアを、シェアリングの形で提供することで、無駄になってしまうウェアを減らすことができると思っています。

シェアリングを当たり前にするのは、やはり難しい

―シェアリングサービスについてもお聞かせいただけますか。

旅行会社やウェディング会社と連携していて、ホテル予約のタイミングで借りていただける形です。それとともに、旅行会社の専用ラウンジにディスプレイし、気に入ったデザインをその場でシェアリングできるようにもなっています。また、100名未満のインセンティブ旅行をターゲットにしたプランの中で、かりゆしウェアを着ていただきながらサトウキビ畑や精糖工場の訪問を行う、サステナブルツーリズムのいちコンテンツとしても提供しています。

それから、リゾートウェディングで我々のサービスを活用していただくパターンもあります。これまでは沖縄での結婚式の際に新郎新婦が参列者の方にかりゆしウェアをプレゼントする、という形が多かったのですが、それだとシングルユースになってしまいます。そうではなくて、シェアしていただく新しい形ですね。その場合は6、7割の参列者の方に我々のかりゆしウェアを着ていただける可能性があります。 

―男女や年齢を問わずに使えるようなデザインが多いのですか?

サステナブルを謳っているので、なるべくユニセックスで、SSからLLまで展開しています。デザイン的に攻めているものも多く取り扱っているので、主要なターゲットとしては30代・40代の男性ですね。

―現時点で見えているシェアリングサービスの課題などもお伺いしたいです。

消費者の方々の行動を変えるのは本当に難しいと感じています。我々が主要ターゲットとしている30代・40代男性は、「洋服といえば買うもの」という思考が強いじゃないですか。買うのではなくシェアするという価値観を浸透させていかなければならないので、地道な活動が必要になってくるなと思っています。

一方で、旅館に備え付けの浴衣などは抵抗なく着られていたりするので、そこはアイディア次第なのかもしれません。

まずは現状を知る。そして次へと繋げていく

―最終的に炭化することについてですが、これはバガス原料の生地だから行えるのでしょうか。

いえ、有機物であれば炭化して活用できます。炭は土壌改良材として効果があるとのデータが出ていまして、土をアルカリ性にしたり水捌けを良くする働き、土壌の保菌する力を上げることで土壌を豊かにする働きが期待されています。また、炭素を土に貯留させることも期待でき、広く地球温暖化の緩和にも繋がります。

―環境負荷低減の数値などはあるのですか?

現状、LCAを進めているところです。というのも、僕たちは既出のデータを活用して資料として使うのではなく、まずは一次情報を取りにいくことを大切にしていますので時間がかかるプロセスです。

東京都立大学の研究室と共同研究を行い、製造における環境負荷を査定して数値を確定し、一次情報を取っていくプロセスを進めています。それを踏まえた上で翌年度以降、環境負荷を低減するフェーズに入っていく予定です。

当日まさに試運転中だったポータブルな炭化装置

―今の段階で、通常の衣服と比べると環境負荷は低くなる見込みですか?

なかなか比較できないところではあるのですが、必ずしもそのようなデータが出るわけではないかなと思っています。和紙糸のほうがなんとなく環境にやさしいイメージもありますが、糸を作る過程で機械をしっかり使っているところもありますし。でも、先ずは数値を把握することに意味があるのかなと。まずは「なんとなくエシカルな気がする」というのではなく、数値をちゃんと認識・把握して、きちんとした方向に進んでいきたい、というのが我々の考え方です。

シェアリングを広げれば循環型社会促進に繋がる

―10年後の展望についてもお聞かせいただきたいです。

そうですね、10年後となるとデータの収集もある程度整備されてきているでしょうし、その部分での広がりは期待できると思います。それとともに、シェアリングをするコミュニティが作れるといいのかなと思っていて。かりゆしウェアのシェアリングサービスのみならず、シェアリングを広げることで持続可能な社会に向けた取り組みに広がっていければいいなと思っています。

コミュニティは沖縄に限らず、サトウキビがあってローカルのカルチャーが根付いている、例えば台湾やバリ島などでも展開できるのかなと。ビジネスを横展開することでスモールビジネスモジュールがいろんなところに点在し、結果的に拡大している、そんな状況を目指しています。

―お話を伺っていると、サーキュラーエコノミーについて深く知識がおありなのだなと思うばかりです。どこかで学ばれたりされたのですか?

事業を始めるタイミングで、ケンブリッジ大学のサーキュラーエコノミーに関するプログラムを受講して、それに感化された部分はあります。プログラム参加者は600名ほどで、ヨーロッパや南米の人たちが圧倒的に多く、次にアジア圏、そして日本人は片手で数えられるほどの人数しかいないという状況でした。

そんな感じだったので、僕にとって目新しい情報ばかりで「この人たちが言っているなら間違いないぞ」と確信した部分はあります。あとは、国連が提供しているサーキュラーエコノミーに関するプログラムを受けてみたりもしました。

「サステナブルな社会」の実現の柱となるサーキュラーエコノミーとは?

ケンブリッジのプログラムでは、終了後にもコミュニティが活発に動いていて「次はこれに参加しよう」とか「こんな取り組みをしている」などの発言がなされています。そういった方々を見ていると、僕自身もしっかり取り組んでいかないといけないと思いますし、先ほども申し上げたコミュニティを作らなければらない、という考えにも至りました。

この分野は日本に先進事例が多いわけではないので、まずはヨーロッパやアフリカでの取り組みを学ぶ。そして「じゃあ僕らは何ができるんだろうか」と考える、そんな進め方がいいのかなと思っています。

―ありがとうございました。

2022.10.12

取材協力:株式会社BAGGASSE UPCYCLE・SHIMA DENIM WORKS

https://corporate.bagasse-upcycle.com/

https://shimadenim.com/