アップサイクルとリサイクル どう違う?~アップサイクルの役割と問題点~


アップサイクルという言葉を聞いたことがあるでしょうか。リサイクルと似てはいても、微妙に違うアップサイクルは、実はビジネスにおいて大きなポテンシャルを秘めているんです。今回は、アップサイクルについてその意味と役割、そして課題について紹介します。

アップサイクルとはなにか?

久米 アップサイクルという言葉はあまり聞き慣れない方も多いかなと思うんですが、リサイクルとの違いは何でしょうか?

新井 リサイクルっていうのは例えば紙をまた溶かして紙にする、プラスチックをまた溶かしてプラスチック原料にするっていうような形で、一度原料まで戻して製品化するものなんです。一方のアップサイクルの場合は、厳密な定義はないんですが、基本的には元の形のままに新たな製品を作る、そして元よりも付加価値が高く高単価なものに作り変えるのが一般にアップサイクルと言われるものです。

久米ありがとうございます。新井さんは普段、アップサイクル品を使われていますか?

新井 実は私はあんまり使ってないんです。リサイクル屋なので、リサイクルの紙やプラ製品を使うことは多いんですが。

久米そうなんですね。私はアップサイクル品を結構意識して買うようにしていて、これは普段使ってるバッグで、見た目はレザーなんですけど、リンゴの搾りかすを原料にして樹脂を混ぜてレザーのような材質を作っているんです。

新井 そんなことができるんですね。取材の中で取り上げたものでいうと、間引きしたスダチや余ってしまったアルコール類などを蒸留してクラフトジンを作ってる、エシカルスピリッツですとか、大量に廃棄されるビニール傘のビニールに特殊な加工をしてバッグにしたりとかがあります。

久米 リサイクルできないものをちょっと工夫を凝らすことで、全く別のものにできるみたいなところも魅力ですね。

新井 そうですね。企業の活動の中で出てくる廃棄物をうまく利用して新たな製品を作ることができる。だから廃棄物を減らせるし、新たな製品も作れるという意味で、うまくいけばいい取り組みになるんじゃないかと思います。

日本でエシカル消費は広まるか?

アップサイクル=ビジネスチャンス

久米 ビジネスチャンスという点ではどのようにお考えですか?

新井 まず一つは、先ほど言った通り廃棄物をうまく利用して製品化をするということで、廃棄量を減らしつつ、それを元に新たな製品を作れるということで、一石二鳥というメリットがあります。もう一つは、そういった取り組みをすることで、従来とは全く別のイメージを顧客とか世間に対して与えることができてイメージアップに繋がる。大きくこの二つのメリットがあるんじゃないかと思ってます。

久米 素材メーカーさんとか部品メーカーさんの本業はBtoBだと思うんですが、アップサイクル品って、toC、一般生活者向けにも伝えていけるものなので、何か新しくtoC向けのビジネスを始めたいという方々も挑戦される分野じゃないでしょうか。

新井 おっしゃる通り、そういった取り組みを始める企業が結構増えてきています。そういった活動を、SNSなどをうまく使って成功されている会社さんもいらっしゃいます。

アップサイクルの課題は

久米 アップサイクルの課題はいかがでしょうか?

新井 いくつかあります。まず、企業の廃棄物からモノ作りをするということは、通常のサプライチェーン(物流網)に乗っていないので、どうしてもコストが高くなりがちです。

すると販売単価もどうしても高くなるので、量がなかなか捌けてないという問題があります。また、逆にいっぱい作ろうと思っても、原材料となる廃棄物は生産するものでなく発生するものなので、量をコントロールできず、そのあたりが生産者としては難しい部分です。

久米 なるほど。安定的した生産が難しいし、またそれを販売していくのにも課題がありそうですね。

新井 あと、先ほどはビジネスチャンスとして触れた「イメージアップ」ですが、気をつけないといけないのは、例えば廃棄物全体の中の0.1%ぐらいの量をアップサイクルして商品を作ったとして、あたかも「我々は廃棄物を全て利用している」みたいに打ち出してしまうと、これはややもするとグリーンウォッシュ(うわべだけ環境にいいと見せかけること)として批判されることに繋がりかねないので、基本的には透明性を持って発信していかないと逆にリスクになってしまいます。

久米 全体の中でどれぐらい使えてるのかって重要ですよね。買う側としても、最近はエシカルな商品とか、アップサイクル品が売り場に増えてますけど「これって本当にそうなの?」って結構思います。

「環境にいい」っていう言葉を見ると、どう良いのか、何に対して良いのかって点が具体的に書かれてないこともあるんです。そこはすごく気になりますし、企業側からその情報を開示していけると、より一層納得感のある買い物に繋がるのかなと思ってます。

新井 そこはトレーサビリティ、どこ由来のものをどのくらい使っていて、環境負荷がこれぐらい軽減されたみたいなことをデータとしてきちんと示していくことが、この先は必要になってくるんじゃないかと思います。

久米 企業がそういうデータを集めて発信する際に、どうするのが有効なんでしょうか。

新井 そこはまだまだこれから開発されていく領域だと思っています。ただ、基本的には一次データを取りに行くのが大事で、そのためには最初からデータを取ることを前提としたサプライチェーンを作っていくことが必要かと思います。

それともう一つ、企業側の課題としても社会的な課題としても、アップサイクル品は「その先どうする」を考えるのが肝心です。ただ作っただけで、使い終わった後にただ燃やされてしまうのでは中途半端で、本当に課題解決に繋がるのか疑問ですよね。

だからこそ、使い続けることを念頭に置いて、使い終わったら修繕して、それでも駄目ならリサイクルというようなライフサイクルを含めて設計ができると最高です。ただ、これはかなり難しいですけれど(笑)

久米 それはアップサイクル品に限らず、もの作り全般においてすごく重要な部分ですね。

新井 その通りです。だから、アップサイクルするという事だけに留まらず、もうちょっと広い視野で見て、どうやったら環境負荷を下げられるか、1つの素材をどれだけ長く使い続けられるのかというサーキュラーエコノミーの発想というものが必要になってくるかなと。

久米 なるほど。アップサイクル自体はすごくいい事だと思うんですけれど、私としてはアップサイクルとかリサイクルっていうのは、どうしても出てしまう廃棄物に対しての対処法であって、根本的な解決策じゃないんじゃないかなっていうふうに思ってるんです。

だから、そもそもの廃棄物を減らすっていうところまで繋げていかないと対症療法に過ぎないんじゃないかって。

新井 おっしゃる通りで、リサイクル・アップサイクルって「後始末」なんですね。捨てるしかなかったようなどうしようもない廃棄物を、こんなに素敵な商品にできましたって、それはそれで新しい気付きを与えてくれる意味ですごくいい取り組みではあるんですけど、根本的にはそもそも廃棄物自体がない方がいいってことは忘れたくないですね。

久米 その通りですね。ありがとうございました。