最も循環する金属「鉄」の仕組み


「水の星」とも呼ばれる地球だが、実は最も多い成分は鉄(Fe)だ。

金属の代表格であり、最も循環する金属でもある鉄はリサイクルの優等生と呼ばれている。

今回はそんな鉄の再生の仕組みと、今後に期待が持たれる新技術について解説する。

鉄ってどう作られている?

飴屋 そもそも鉄ってどうやって作られてるんですか?

新井 いわゆる鉄鉱石と呼ばれる、鉄を含んだ石を鉱山から掘り出してきます。次にそれを高炉という設備を使って、石炭と一緒に窯の中に入れて燃やします。

掘り出してきた鉄は「酸化鉄(FeO)」という状態なんですが、それを石炭と一緒に燃やすことで酸素(O)を取り除いて分離させて、純粋な鉄(Fe)だけを取り出します。それがドロドロの状態で出てくるので、成形することで粗鋼(そこう)っていう鉄製品の原材料になります。

ただ、この粗鋼ができるまでに大量の石炭を使うため、めちゃくちゃCO2を出すんですよね。

飴屋 たしかに、石炭を燃やしてるわけですからね。

新井 全産業の中でCO2排出量の40%は鉄鋼業で、もうダントツでワーストワンになりますね。

世界でもっとも循環する素材「鉄」

飴屋 鉄のリサイクルができれば問題はないように思いますが、鉄ってリサイクルできますか?

新井 めっちゃできますね。回収されてきた鉄は一般的にスクラップって呼ばれますが、

世界で流通してる鉄のスクラップは年間10億トンにのぼっていて、リサイクル原料の流通量としては一番多いです。

2番目に流通している古紙が2.5億トンぐらいなんで、鉄は4倍でダントツの規模です。

飴屋 再生鉄の流通量は飛びぬけて多いんですね!

新井 そうです。鉄スクラップって昔から流通してますが、理由としては分別しやすいからなんですよ。

鉄って磁石にくっつくから、すぐわかるじゃないですか。砂鉄なんかも磁石で取ったりしますよね。

ゴチャゴチャと集めてきた資源ごみの中から磁石で鉄だけを分離することが、大規模になっても簡単にできるので非常にリサイクルが進んでいる素材ですね。

飴屋 それだけリサイクルされてたら、身近なもので鉄のリサイクル品って多いんですか?

新井 日本だとそんなに作ってないです。

鉄のリサイクルっていうのは鉄鉱石から鉄を作る「高炉」じゃなくて、もう一つの「電炉」っていう設備で作るんですけど、集めてきた鉄のスクラップをすごい電力を使って融かして、また成形するやり方なんです。

すでに最初の鉄鉱石の状態から鉄だけに分離してあるので、石炭を燃やす工程がいらないんですよ。

飴屋 そこはエコですけど、使う電気がすごそうですね?

新井 そうなんです。もう何千世帯分みたいな電力を一瞬で使ったりします。

高炉の場合だと酸素を飛ばすために燃やしているので、鉄鉱石から酸素を分離すると同時に、鉄を成形できる状態まで融かすことができるんです。

その融かす工程だけを電炉でやってる感じですね。

飴屋 電炉はなんで日本では少ないんですか?

新井 日本は精度の高い、高品質の鉄製品に強みがあるんですが、そのためには純度の高いヴァージンの鉄鉱石から作った鉄が必要になってくるので、電炉はあまり発展しませんでした。

一方で、電炉は高炉と比較すると建造コストが安いので、中国とかの新興国に導入されることが多かったんですが、昔はヴァージン鉄よりも品質が低いって見られていました。

けれども、どんどん電炉の技術も上がってきて、今ではもう、高炉と電炉の品質の差ってあんまりなくなってきてるって言われてますね。

鉄リサイクルはうまく回っている?

飴屋 今は鉄リサイクルの問題・課題はないですか?

新井 そうですね。分別とか流通という意味でも非常に優等生と言っていいと思いますが、ただし電炉の電力をどこから持ってくればいいのかっていう課題はあります。

飴屋 すごい電気を使いますもんね。

新井 そうですね。そこを再エネを使ってできればいいんですけど、なんせ電気の消費量が多いので、現状は火力発電がメインになっているのはやっぱ問題ですかね。

ちなみに、今は鉄鋼業界全体でも脱炭素の課題は非常に言われていて、そのためには再エネを使った電炉技術を進めていく、あともう一つは高炉を石炭じゃなく水素を使って酸素を分離させるっていう技術、これも研究されています。

水素を使うと石炭は使わないんで、そこの過程ではCO2が出ないですが、どっちにしろ鉄を融かさなきゃいけないんですよね。

飴屋 水素じゃ融けませんか?

新井 そうですね。だから電炉と同じように、融かすための電力をどこから持ってくるのかという課題があります。

脱炭素のための技術開発に関しては今まさに鉄鋼業界はすごく研究を進めていて、どちらかというと水素を使っていこうみたいな方向になっていると聞いてます。

飴屋 脱炭素が進むといいですね!ありがとうございました。