再生トイレットペーパーを売って100年の企業

再生紙トイレットペーパー専業で、創業100年を迎える中小企業があります。

トイレットペーパーの原料には、木材からつくるパルプと、市中から回収した古紙の二種類があります。

パルプの製造には大掛かりな設備が必要で、競合には王子製紙のネピア、大王製紙のエリエールなど、大企業の華やかなブランドが揃っています。

古紙ものの方が価格は安いとはいえ、このような競争の激しい市場で100年も存続できるものなのでしょうか?

鶴見製紙株式会社製造本部、製造管理部課長の刈谷大吾氏にインタビューを行いました。

ほぼ100%がメーカー直販であること

「事業の柱を鍛えていくこと、つまりメーカー直販という点と、機密書類の調達。そこを強化して収益が出る会社にして行こうと、社内でいつも話しています」

インタビューに応じてくれた刈谷課長

刈谷氏は、自社の強みについてこう述べています。

メーカー直販というのは、問屋を通じて小売店に卸すことの多い日用品には珍しい形態です。

マージンは取られるものの、在庫や物流の負担を任せることができ、何よりセブンアンドアイグループやイオンのように小売企業が巨大化した今、問屋との接点なくして陳列棚を獲ることは至難の業と言えるはず。なぜ直販が実現できているでしょうか?

「お客様にすごく恵まれたところがあります。古くからの販売先である大手ドラッグストアの社長さんが、ここ10数年で薬屋のオヤジさんから大社長になられていく中でも、取引を切らさずいられているのが大きいです。」

満足させるより安心して使えること

他社のOEM製品も多く手掛けている

全国チェーンのドラッグストアともなれば、その棚の奪い合いが熾烈を極めることは想像に難くありません。その中で独自のポジションを維持するには、パートナーとして相当の信頼が必要となるはずです。

刈谷氏は、ふたつポイントがあると言います。

「ひとつは、お客様が拡大政策をとられるなか、新工場を稼働させたりと設備投資を行い、きちっとついていったことで得られた信頼があると思っております。

もうひとつは、トイレットペーパーという製品の性格上、使っていて満足させるというより、いつ手にとっても変わらない使い心地で、安心して使えることが何より重要、という信念からくる品質管理です。」

立体的な構造でスペースを有効活用している

確かに、工場内は古紙や水を大量に扱うとは思えないほど整然としていて、清掃が習慣化しているのが一目でわかります。

また、都市部なので製紙工場としては異例の狭さで、縦横無尽に機械が張り巡らされているにもかかわらず、見通しが良く問題が起きても特定しやすい構造になっています。

次に、もうひとつの柱である「機密書類の調達」について伺いました。

弱みを強みに転換する経営戦略

機密書類の調達とは、官公庁や企業が所有する機密文書を、機密性を保持したまま溶解処理によって廃棄する事業を指します。

古紙を水で溶かしてトイレットペーパーをつくるという製造工程が、そのまま機密書類の情報抹消という価値を生むことに着目した仕組みです。

同様の取り組みは他の製紙メーカーも行っていますが、同社が特に力を入れる理由について刈谷氏はこう述べています。

「ここは首都圏の工場ですので、古紙や機密書類が調達しやすく、(競合の多い)富士の工場と比べて強みを発揮できると思っています。同時に、直販における配送の利便性も出せています。」

ベッドタウンとして発展した住宅街に位置する本社工場

川口の本社工場は、全国で最も都心に近い製紙工場のひとつです。

典型的な資本集約型産業において、大規模設備を持てない立地は弱点ですが、それを補う「良さ」を活かしたビジネスを構築しているといえます。

とはいえ、本社工場は住宅街に囲まれています。地域との付き合い方について伺いました。

「24時間操業ですので、かなり気を使っています。具体的には週1回近隣の清掃をしたり、夏祭りのお手伝い、あとは盆と暮れにトイレットペーパーを配るといった取り組みをしております」

何気ないことのようですが、トップの意志がなければ中々続けられることではありません。

地域に根ざし、自社の弱みを強みに転換し、最大限活かすビジネスモデルを構築する。どの教科書にも載っている経営の基本ですが、そのような「当たり前のことを当たり前にする」ことができる企業だからこそ、顧客から信頼を得て、100年企業となることができるのでしょう。

サーキュラーエコノミーの視点から

鶴見製紙は、オフィスや家庭から出た古紙を使ってトイレットペーパーを製造・販売しています。これは「衛生用紙」と言われる古紙の主要な用途の一つで、国内で年間約180万トン(2020年)生産されています。これにより、相応分の森林資源の使用を削減し、古紙の資源としての有用性を拡張しています。

しかし、サーキュラーエコノミーとして考えた場合、トイレットペーパーなどの衛生用紙にした場合、それ以上は再生できないことが課題と言えます。

しかし、用途を考えると再生利用は難しく、生分解性のある紙を使うこと、さらにそれが古紙を使ったものであることが理想の形なのではないでしょうか。

全ての衛生用紙の需要を賄うとなると、国内だけでは古紙が不足することも考えられるため、単純に置き換えることは困難だと思いますが、古くからあるリサイクルシステムである古紙再生トイレットペーパーも、サーキュラーエコノミーとしての認知が広がれば良いと思います。

2021.02.12

取材協力:鶴見製紙株式会社

http://tsurumipaper.co.jp/