捨てるられるモノを生かすインフラ、資源循環のDX

ほとんどの人がインターネットでものを買う時代。買うインフラはかつて考えられないほど便利になりました。一方で、対となる「捨てる」に関わるインフラはどう変わってきたのでしょうか。

実は、その多くはまだまだアナログな世界であると言わざるを得ません。

そんな静脈産業を資源循環の「物流」と見なし、DX(デジタルトランスフォーメーション)によって改革しているのが、東京で廃棄物収集を営む「白井グループ」です。

2020年にユニクロ エアリズムのTVCMに出演。静脈産業業界のトップランナーである白井グループのDXへの考え方を、代表取締役 白井 徹 さんと営業企画部主任 小貫桃花さんにお伺いしました。

白井グループ神田オフィスにて

インタビューするのは、同じ廃棄物業界で古紙回収業を営む 「環境と人」編集長の新井遼一です。

静脈物流を改革する白井グループとは

−まず、白井グループの事業について教えて下さい。

はい。白井グループは廃棄物の収集運搬を行っており、主に4つの事業をしています。まず事業ごみの回収が東京23区を中心に大体2,500箇所ほど、それと家庭ごみの回収、他にはリサイクル家電の引取りと、一部で海外事業もしています。

東京の廃棄物処理業者は数百社以上あると言われているんですが、白井グループもその一つで、売り上げ規模から言えば業界トップ30に入っているかなという感じです。

事業ごみについて知らない方に向けてもう少し詳しく言うと、一般的に、事業系のごみ収集は企業さんが我々のような業者と回収費用キロいくら、月間いくらというような形で契約をして、定期的にごみを回収してもらう流れになっています。

ごみの区分は法律によって定まっており、産業廃棄物と事業系一般廃棄物を合わせて「事業ごみ」と呼んだりする。

ごみの区分は法律によって定まっており、産業廃棄物と事業系一般廃棄物を合わせて「事業ごみ」と呼んだりする

ごみを回収して自社の中間処分場で分別や再資源化を行っている会社さんもいらっしゃいますが、白井グループはあくまで収集運搬の会社ですので、自分たちの中間処分場は持っていません。なので、物流面でのコストを一気に省くDXの仕組みを作っています。

徹底して無駄を省く発想からのDX

DXについて、具体的に教えて下さい。

はい。いま弊社が一番力を入れているのがAIを活用した静脈産業プラットフォーム事業です。

動脈産業(製造業など製品を生み出す)サイドにはAmazonや楽天に代表されるように、欲しいモノをいつでもタイムリーに購入できる便利なデジタルプラットフォームがありますよね。しかし静脈産業、モノを「捨てる」側にはそういうプラットフォームはありませんでした。

なので、白井グループは「都市の静脈物流インフラを革新する」というミッションのもと、政府や東京都、学識の先生からアドバイスを頂きつつ、街と組んでDXを進めています。このDXで実現していきたいビジョンはずばり「静脈産業での地球配慮型のAmazon企業」です。

-「ものを作る」側でなく、「ものを捨てる」側の物流を便利にしていこうということですね。その代表であるAI配車について教えて下さい。

AI配車について説明する前に、いま都内のごみ収集がどういう状況かというと、例えば早朝の銀座に行ってみると1つの通りだけで4~5台のごみ収集車が行き来していて、これが全て別々の業者なんですよね。

なぜこんなに多いかと言うと、従来の事業系ごみ収集の仕組みでは、各店舗がそれぞれ民間の業者と契約しているので、同じビルに別々の収集車が個別で来ちゃうわけで、とても非効率なんです。

それを収集業者間で連携して、最適な配車ルートに組み直して効率よく回収するのが弊社のAI配車の大まかな仕組みです。プラットフォームに登録してくれた同業他社のA社とB社とで連携収集を可能にして、毎日5台だったのが2台になれば経済的だし、CO2排出削減もできるというメリットがあります。

実際の事例としては、例えば新宿の街。2丁目のジェンダーレス地域に関わって、街と組んで一緒にDXをしました。新宿2丁目を皮切りに、今は原宿・表参道や銀座地区でもDXを行っています。

−同業者間で効率的に収集に回ることで、少ない車両数でごみ収集ができるということですね。

はい。東京都のモデル事業としてAI配車のシミュレーションをした結果、車の台数と走行距離、CO2排出量も最大で半分以上削減できるという試算が出ています。

また、同業者さんにしてもAI配車に参加するメリットは大きくて、都内に関して言えばどの収集業者も人手不足ですからwin-winのプランだと思っています。業者の皆さんがこの考え方に賛同してもらえれば、東京23区の資源循環・低炭素化はできるというふうに思っています。

−収集に必要な車両数が減るので低炭素というのは分かりますが、資源循環というのは?

資源循環がなぜ達成できるかと言うと、収集運搬によるコストが減ることで、次工程の分別作業に費用をかけられるようになり、資源化率が高まるからです。どういうことかというと、いまバラバラに収集車を動かしているため、収集にすごくコストがかかっています。

このコストはどの位かと言うと、我々はごみを清掃工場や再生問屋さんに運んで「1Kgあたり○○円です」という形で代金を頂いているんですけれども、その半分以上は一次収集運搬の費用なんです。

だからこれを徹底的にデジタルで効率化する。

そうすると輸送費が安くなって、そのぶんのコストを分別回収に充てられるので、資源化率が上がるという事なんですね。

本気で資源循環・低炭素化を進めるなら多分こうするしかないんじゃないでしょうか。

−なるほど。シンプルながらとてもメリットが大きいですね。

もちろん、中間処分場の工程を新技術、例えばCO2の出ない焼却炉に変えたりという進歩も大事なんですが、そもそもその前に物流と流通情報の改革が必要だと私たちはは考えています。それに、やっぱり街中を走るごみ収集車は少ない方がいいじゃないですか。

また、さらなるデジタル化としてRFIDタグ(ID情報を埋め込んだ非接触型のタグ)の活用を進めています。これが実現すると、排出されたごみを全部デジタルで管理できるようになりますので、例えば今どの廃棄物業者がどのぐらいのペットボトルを持っているという事が全部分かるようになり、それを今度は資源として買い取りたい業者間でのやりとりが効率化しますよね。

このように廃棄物業界、資源収集業界を徹底的に効率化すると都市の資源循環、脱炭素化が可能になりますよというのが、白井グループの目指すDXです。

事業ごみ回収プラットフォーム「ごみ.Tokyo」

-聞いていて思ったのは、家庭ごみの収集の仕組みに似ているのかなと。家庭ごみ収集の方は収集エリアが決まっていて、非常にシステマティックにできていますよね。事業者側でもそういった形に持っていくということ?

そういうことですね。家庭ごみと事業ごみを取り扱うための免許はそれぞれ違うんですが、白井グループは両方のライセンスを持っていて、両方とも同じ規模ぐらいです。実は両方同じ比率で扱っている業者ってあまりないんですよ。大体どちらかしかやってない。

それで、家庭ごみと事業ごみの2つを徹底的に比較してみたら、圧倒的に家庭ごみの方が回収効率が高いし、コストも安いんですよね。家庭ごみの方はわりとアナログでやっているんですが、仕組みがきれいにできていますから。

「街」とタッグを組む

-聞いていて、とても共感しました。私のいる古紙業界もまさにそうで、資源ごみは資源組合などがエリアを割り振って上手く回しているんですが、こと民間となると顧客を巡る競争の世界になっちゃうので、隣合うビルにそれぞれ別の回収業者が毎日行き来したりしていて、もったいないなと常々思っていました。ただ一方で、競争関係にある同業者と共同収集というのが非常に難しいというのも痛感しているんですが、どのようにして協働を実現したんですか?

そうですね。同業間で働きかけても無理だというのは、もう10年以上やってきたので私も実感しています。例えば古紙業者さんと産廃業者さんみたいに本業が違うなら話し合いをしやすいんですが、完全に同業者だと自社の回収先の情報を出すのは嫌だとかそういう話になりますよね。

それはもう身に染みて分かってきたので、やはり街自体が共同収集を望んでくれないと難しいですね。

−街という共同体を巻き込んで仕組みを作っていくということですか?

はい。新宿二丁目や銀座は、街の主導によってデジタル回収が実現しました。なので「この街をきれいにしたい」という主体がまずあって、その目的を関係者みんなで共有する。そこからルールが作られて、それに賛同してくれる業者さんなら誰でも参加できますよっていうやり方が一番いいんだと思います。

これは新宿二丁目での活動がわかりやすい事例になりますが、以前はごみの山がそこら中にあるような街だったんです。それをこのままじゃいけないということで街が音頭を取って、行政も我々のような業者も協力して、本当に「協働」っていう形でみんなが動いて、街がきれいになりました。

新宿二丁目プロジェクトの参加者

それに、AI配車は一緒に組んでくれる業者さん達にもすごく利がある仕組みなんです。

コロナ禍の今は企業さんの出すごみが減っていますよね。それでもゼロにはならないから回収には毎日行かないといけないので、儲けが出ないのに収集車を回さなきゃいけない業者さんが少なくない。なので、効率化は絶対に必要だと思います。

「捨てる」を便利に、効率的に

−参加はどうすればいいんでしょう。

白井グループが小僧comと開発した「ごみ.Tokyo」と言う総合受付システムがありまして、これはごみ収集業者を探している事業者さんと収集業者に向けてのサービスで、これに参加して申し込んでくれればウェブ上で契約から決済まで全て終わります。なので、小口のお客様であっても十分に対応できるようになっています。

法律上、事業ごみの収集はお客様と収集業者のあいだで契約を結ばないといけないので、従来は営業に行って契約をお願いして、成約したら担当者が書類作成をして、切手を貼って印紙も貼って送って…みたいに大きなコストと相当の時間がかかっていました。

しかし「ごみ.Tokyo」では、QRコードをチラシと一緒にお渡しして、よくあるショッピングサイトの会員登録みたいに進めて頂くだけで契約できるようになりました。

-それは産廃の契約ですか?

はい、事業系一廃、産廃の契約です。もっと分別回収をしたいというのであれば、収集品目を増やしていくことも可能です。賛同業者さんがすべて登録してあって、お客さんが「署名する」というボタンを押すと弊社と賛同してくれる数社すべてとの契約が一挙にポンと作成されるので、どこが回収に行っても大丈夫な状態になります。

「輸送の効率化を徹底するしかなかった」

−なぜDXによる効率化に着目したのでしょうか?

先ほど家庭ごみと事業ごみの両方をやっていると言いましたが、そうすると収集運搬の原価の差が明確に見えるんです。

コストパフォーマンスで言ったら、東京23区の事業系ごみは収集コストがあまりにも高いと感じます。家庭ごみと比較して3倍のコストとかになるんです。

特に東京23区の民間業者が顕著なんですが、多くの小規模業者が自由経済に基づいて計画性なく収集をしてきたので、大量に廃棄物が出ているにも関わらず、えらく効率が悪いがためにトータルで見ると儲かりづらい商売になっている。

じゃあどうすればという時に「中間処分もやったら業績が上がる」とか「古紙も扱えば利益が出る」みたいな拡張路線を勧められたりしたんですが、果たして本当にそうなのかと。

資源ごみの相場がすごく高いときは儲かるかもしれないけど、いずれにせよ不安定だし、中間処分に関するノウハウもありません。なので、輸送の効率化を徹底するしかなかったというのが本音ですね。

という事で、当初、DXを始めたのは自社の効率化のためでした。例えば伝票の整理ひとつでもアナログだとすごいコストがかかる。これを何とかできないかなとデジタル化をしようと。

それにはまず自社の抱えている情報を電子化することから始まるんですが、いざやってみると、これは自社以外にも無限の可能性があるなと感じました。

例えば、昔こんな噂がありました。

「廃棄物業界にもいずれ動脈物流(ヤマト運輸など)が参入して席巻していく」とか「外資企業が入ってきてM&Aが進んでいく」とか。

でも、いつまで経ってもそれが起きないんですよね。なぜなら、廃棄物業者の商圏というのは迷路のように作り上げられていて、各社なりのサービスの仕方とルートがあって、外様が一朝一夕で真似できるものじゃないからです。

しかしこの入り組んだ状況であれど、業者間で抱えている情報だけならば共通のプラットフォームで共有可能なはずだと思い、自社の枠組みを超えたデジタル化を始めました。やってみて感じたのは、これはきれいな街づくりに対してすごく貢献できるんです。

「ごみのことなんて考えたくないじゃないですか」

−なぜDXによる効率化に着目したのでしょうか?

課題といえば、既存のお客様に理解して頂くことですかね。

これは社内のDXでも一緒ですが、まず地域単位で標準化ルールを作って切り替えていく事が必要で、その次にDXという流れになるんです。しかし、お客さんのほとんどはそんな事に興味がない。開業当時には頑張ってごみ収集業者を選定するんですが、一度決まった後は自分の事業に忙しいから、ごみのことなんて少しも考えたくないじゃないですか。

多分、これは古紙業者さんも同じことで苦労されているんじゃないでしょうか。

-そうですね、その通りです(笑)

まず彼らの意識を私たちに、資源循環や環境配慮といった価値観をごみの排出に向けてもらわないといけないので、それが大変なんです。

開業したての新規のお客さんは我々の資源循環やCO2排出削減に理解を示して下さって、DXにどんどん乗ってくれるんですが、昔からのお客さんに合意を頂くのは大変ですね。

なので、こうして取材されたりした時に、いろいろ話すようにしています(笑)

やっぱり大衆がまずこちらに目を向けてくれないと話にならないし、新井さんも環境メディアをされていますけれど、一般の方に読んでもらえたとしても、取引先の担当者さんに同じ主張が響くかというと、なかなか難しいでしょう。

-まさにその通りです。例えば「SDGsに取り組んでいます!」と打ち出している大企業さんに営業に行ったとしても、その場で商談する総務部の方は「コスト削減」という絶対的な使命を背負っているので「環境にいいです」という話が通じないことが多いです。私はそれが縦割り組織の弊害なんじゃないかと思っていて、CSRやサステナビリティに積極的な大企業であっても、現場はそれどころじゃないっていう感覚のギャップを感じます。

その通りですね。私も実際、セミナーなんかでお会いした広報とか経営企画室みたいな部署の方と「ぜひ色々やりましょう!」みたいな話になっても、じゃあ我が社の廃棄物担当に繋ぎますってなった途端に「既存の業者さんもいるし別にいいです」みたいになったりします(笑)

先程言ったように、ごみ処理の費用って月に5,000円とか1万円とかそんな金額感なんですが、街の小さなカフェとかでも月に600~900万円とかの売り上げがあるわけですよね。ならそこに労力を割くのが煩わしいってなっちゃう。ましてや業者を変えるのって、上長に申請したりとか結構パワーが要るじゃないですか。

ただ、これは僕の想像ですけど、そういう方でも仕事が終わって家に帰ってテレビ見て、環境特集なんかやってたら「やっぱり環境って大事だよね」とか家族に言ったりしていると思うんですよ。

でも、家での自分とビジネスでの自分が繋がっていないんですよね。そこを御社のメディアとかで変えて頂きたいなって思いますね。

-まさにそれがやりたいことだなと、逆に言語化してもらえてありがたいです(笑)最後に、一般の読者に向けて白井さんのメッセージがあれば。

やっぱり事業でも家庭でも、生活していると必ずごみを出していますよね。ちょっとそこに目を向ければ、世の中で言われているようなSDGsの実現とか、サステナブルな街づくりが可能になります。

だから、今自分のいる場所で、そういった部分にちょっと目線をくれませんか、と言いたいですかね。

-ありがとうございました。

2022.01.28

取材協力:白井グループ株式会社