「所有価値」から「使用価値」へ。ブリヂストンのサーキュラーソリューションとは

私たちの生活になくてはならない存在である自動車。2050年には自動車の保有台数が20億台を超えると予測されています。

自動車の足元を支えるタイヤは、買い替えが必要になる消耗品であると共に安全性に関わる重要なパーツ。性能にこだって選びたいけれど、安い買い物ではないだけに買い替え時には頭を悩ませてしまうという方も多いのではないでしょうか?

実は今、『タイヤシェアリング』というサーキュラーエコノミーのビジネスモデル(PaaS)に則したサービスが構築され、近い将来タイヤ選びに新しい選択肢が加わろうとしています。このサービスを提供しているのは、タイヤの主要メーカーの一つである「ブリヂストン」。

そこで今回は、所有権を移動しないことで経済性と環境性が整合していくことが期待されるこの新しいタイヤソリューションにフォーカスし、タイヤから考えるサーキュラーエコノミーについて紹介していきたいと思います。

「サステナブルな社会」の実現の柱となるサーキュラーエコノミーとは?

リトレッドタイヤで廃タイヤを減らす

主要タイヤメーカーの一つであるブリヂストンでは、2050年以降を見据えた環境長期目標に製品の原材料の「100%サステナブルマテリアル化」を掲げ、持続可能な資源の利用に取り組んでいます。将来、人口や自動車台数の増加によりタイヤの需要が拡大すれば、資源枯渇などの問題に直面する可能性があります。この問題を解決するためには、バリューチェーン全体を通して、使用する資源を減らす(リデュース)、資源を循環させる(リユース、リサイクル)、再生可能資源を拡充・多様化する、という3つのアクションが必要。

リトレッドタイヤとは?

ブリヂストンが取り組む3つのアクションのうち、資源を循環させる「リユース、リサイクル」のアクションを実現するために取り組んでいるのが「リトレッドタイヤ」の導入です。リトレッドタイヤとは、走行により摩耗したトレッドゴム(路面と接する部分)を新しく貼り替えて、タイヤの機能を甦らせ再使用するタイヤのこと。新品タイヤに比べて、原材料使用量が3分の1未満になるだけでなく、トレッドゴム以外の部材(台タイヤ)を再利用できるため廃タイヤの削減にも大きく貢献します。

(出典:ブリヂストン タイヤサイトより)

高い耐久性能で長寿命を実現

リトレッドタイヤは、現在はトラックやバスなど、大きな輸送を支える部分へのサービス、事業者向けに提供されています。ブリヂストンでは「貨物や人を運ぶトラックやバスは経済の原動力である」という考えのもと、トラック・バス用タイヤ向けの新技術の開発を続けており、ほぼ全ての商用用途に応じたリトレッドタイヤをラインナップ。高速道路や都市、路上やオフロード、冬季などの運転条件において、安全性、信頼性、経済性の高いタイヤを提供しています。

トラック・バス用タイヤの中には、2回リトレッドができるよう設計された商品もあり、より長く資源を活用することが可能。

リトレッドタイヤを活用したタイヤソリューション

ブリヂストンが新たに提案する「タイヤソリューション」は、これまでのタイヤ単品販売とは異なり、新品タイヤとリトレッドタイヤ、それらを最大限有効活用するためのタイヤメンテナンスを組み合わせることでタイヤの寿命を延ばし、環境に優しくコスト面でユーザーにもメリットを提供できる新しいビジネスモデル。

タイヤの所有権をタイヤメーカーが持つことで、ユーザーはメンテナンスなどを気にせず“使うこと”だけを考えて使用することができます。タイヤメーカーにとっても、製品寿命を延ばすというインセンティブが生まれ、本来の意味でのサーキュラーエコノミーを完成させることが可能に。

タイヤソリューションを利用することによるメリットとは

タイヤソリューションを利用することによるユーザーへのメリットは、以下の3つ。

・業務の効率化により本業に専念できる

・コスト管理がしやすい

・プロのメンテナンスによって安全性が高まる

【業務の効率化により本業に専念できる】

これまでユーザーが行っていたタイヤのメンテナンス、点検管理などの業務をメーカーが行うことで業務の効率化に繫がり、本業に専念できるというメリットが。時間的な負担が軽減することで働き方の見直しにもなります。

【コスト管理がしやすい】

年間のタイヤ関連費用が平準化されることで経費のバラつきがなくなり、予算管理が容易になるというメリットがあります。

※車両毎の月額料金を設定したプランの場合

【プロのメンテナンスによって安全性が高まる】

タイヤのプロによるメンテナンスで空気圧管理が向上して燃費が改善されたり、さらにバーストやパンク件数も減少したという声もあります。タイヤ管理をプロに任せることで、事故や安全について情報共有できるというメリットも見逃せません。

「所有モデル」が描く新しいモビリティの可能性

タイヤソリューションは、現在は事業者向けに提供されているサービスですが、ブリヂストンではもちろん個人向けのビジネスモデルも視野に入れているといいます。例えばカーシェアリングのプラットフォーマー向けにタイヤソリューションが提供されれば、より循環型のビジネスモデルとして価値が高まるはず。

リユースタイヤは、所有だけを考えれば「新品」と「中古廉価品」という区分になりますが、メーカーがタイヤを所有してユーザーに提供するというビジネスモデルになれば、ユーザーは何も考えなくてもメンテナンスの行き届いたタイヤを使用することができるというメリットを得ることができます。

さらに所有モデルがどんどん進化していけば、ユーザー一人ひとりに合わせたカスタマイズに繫がる可能性も。タイヤにセンサーが付き、その情報をもとに運転の仕方やタイヤの種類などを提案するといったことも実現できるかもしれません。唯一路面に接している部品であるタイヤが持っているデータをこれからのモビリティに適用することができれば、未来は大きく変わっていくのではないでしょうか。

100%サステナブルマテリアル化への取り組みは他にも

(出典:ブリヂストン

ブリヂストンが目指す100%サステナブルマテリアル化の実現には、さまざまな角度からアクションに取り組むことが必要。もちろんリトレッドタイヤを活用したタイヤソリューションもそのうちの一つですが、ブリヂストンでは他にもさまざまな取り組みを実施しています。その一部をご紹介しましょう。

空気を使わないタイヤ技術「エアフリーコンセプト」

(出典:ブリヂストン

「エアフリーコンセプト」は、特殊形状のスポークで荷重を支える、空気を使わない接地体。通常のタイヤには高圧の空気が充填されており、この空気によってタイヤは車の重さを支える、路面の衝撃を吸収するといった、バネのような働きができるようになります。一方、この「エアフリーコンセプト」は、タイヤ側面に張り巡らせた特殊形状の樹脂スポークが変形することで車の重量を支えたり衝撃を吸収することができる、空気を使わないタイヤ技術。この技術を採用すれば、空気圧管理が不要になり、パンクの心配もありません。

(出典:ブリヂストン

省メンテナンス性にも優れるため、ノンストップ運行を可能にすることで生産性向上と経済性向上にも貢献。トレッド部のゴムや、特殊形状スポークにもリサイクル可能な材料を使用するなど、資源の循環と効率的な活用が可能なことから、様々なモビリティへの活用が期待されています。

グアユールの研究活動

グアユールは、天然ゴムの新たな供給源として有望な植物。タイヤ主原料の中で大きな割合を占める天然ゴムは、現在工業的に用いられるほぼ全てがパラゴムノキという植物から産出されていますが、パラゴムノキの栽培地域は赤道直上を中心に南北の狭い範囲に限られ、現在では、その93%が東南アジアに偏在しています。熱帯雨林の保護、病害リスクの低減のため、パラゴムノキ自体の生産量を増やす取り組みと、より広い地域で栽培可能な代替植物の研究が求められていますが、ブリヂストンでは代替植物としてグアユールから天然ゴムを商業規模で採取することに成功し、さらなる改善のため研究を行っています。

グアユールは米国南西部からメキシコ北部にかけての乾燥地帯が原産の低木で、東南アジアのパラゴムノキから採取される天然ゴムとほぼ同等の天然ゴムが収穫可能。干ばつと熱に強く、商業用タイヤゴムの貴重な供給源となることが期待されます。

循環型のモデルで作られたタイヤでよりよい未来へ

(出典:ブリヂストン

実は、タイヤは9割以上がリサイクルされている、リサイクルの優等生。ですが、タイヤの需要が拡大することが予想される今、廃タイヤのリサイクルだけでなく、原材料調達から廃棄に至るライフサイクル全体で環境・社会面への影響に考慮しなければ、持続可能なビジネスに繋げることはできません。

今回紹介したタイヤのリユースやソリューションは、ブリヂストンが行っているさまざまな取り組みの中の一つですが、将来個人の車向けにも提供されるようになれば、経済性と環境性が整合した理想的なビジネスモデルになるのではないでしょうか。

タイヤソリューションのような「所有価値」から「使用価値」へのシフトは、環境負荷低減やサーキュラーエコノミーを実現する上でのキーポイント。ユーザーである私たちも、モノを選ぶ基準として“価値のシフト”を意識することが重要なのかもしれません。