サステナブル建築のカギ 木造高層ビルを可能にする新素材とは


全産業のCO2排出量のうち大きな割合を占める建築業はサステナビリティへの転換が急務となっています。そこでいま注目される新技術「CLT」は、かねてより課題とされてきた日本の林業に光明を与えるかもしれません。今回は建築業における木材について紹介します。

1.建築によく使われる木材3種

久米 今回は、サステナブルな木材と注目の新素材についてお話を伺っていきたいと思います。よろしくお願いします。

新井 はい。まずは、1.建築によく使われる木材3種について、2.木材利用の課題3.注目される新素材「CLT」。これらについて話していきます。

久米 鉄やコンクリートの寿命は100年くらいと言われますが、長く使えるサステナブルな木材はどうなのかご説明頂けますか?

新井 色々あるんですけど、今回は代表的な3つである1.ヒノキ、1.スギ、3.チークを紹介します。

まずヒノキについて、皆さんヒノキ風呂とかでよく知ってる木材ですよね。日本らしい木材の代表格で高級木材っていうイメージがあると思いますが、これがおよそ2,000年保つと言われています。1,300年以上前に建てられた法隆寺にも使われていて、水に強くて、耐久性があるという素材ですね。

2つめのスギに関しては、ヒノキよりも若干柔らかく加工しやすいので建材によく使われるようになった素材です。これが約600年保つと言われてます。

3つめのチークはインドやタイ、ミャンマーなどに自生している品種の木です。これも長持ちする木材として有名で、日本の戦艦に使われてたりとか、インドやタイの寺院にもよく使われていたんですが、人気がありすぎて過去に大量伐採されてしまったため、今はなかなか手に入りません。それでも過去に作られた家具とか、解体した家から出てきた木材を活用したりされている、人気の素材です。

久米 ヴィンテージの家具にはチーク材が多いですよね。

新井 はい。ヴィンテージの楽器のマホガニー材も今はもう切っちゃいけなくなった木材ですけど、いい木ほど沢山切られちゃって、今はもう法律で禁止されているものが結構あります。

2.木材利用の課題とは~日本の林業と花粉症~

久米 木材は使い方によって何百年と使うことができるんですね。一方で、木材利用における課題とはなんでしょうか?

新井 前にも触れましたが日本の木材自給率の問題があります。

【林業】「木を切ることは悪いこと」は間違い?【林業】「木を切ることは悪いこと」は間違い?

日本は森林面積が6割以上あって「森林大国」と言われていますが、しかしながら現在の木材自給率は4割ほどと少ないんです。これは第2次世界対戦ののち、製品を大量生産するため海外産の安い輸入材の利用が増えていき、それによって国産材を供給する日本の林業がどんどん縮小してしまったためです。

価格で勝てない理由は、森林大国ではあるんですけど、そのほとんどが山なので重機でまとめて伐採することができず、チェンソーで1本ずつ人が切らなきゃいけない。機械化できないため、どうしてもコストが高くなってしまう。これが大きな課題です。

久米 加えて、現在はスギの木が増えすぎて、花粉症が毎年どんどん辛くなっているっていう課題もありますよね。

新井 社会問題化している花粉症ですが、本を正すと日本が高度成長期の時代、将来世代のために国策として全国に成長の早いスギをどんどん植えていったことが原因と言われています。

それから50年経ったいま、ちょうどスギが適齢期になっているんですが、蓋を開けてみたら誰もが海外材を使っちゃっているのでスギ材を持て余してしまっている。持て余されたスギは適齢期なので春に花粉をワーッと放出して、それが日本の生産性を落としてるという構造ですよね。

当時は、将来世代のためにっていう目的で植えていたんですが林業は育つまでのタイムラグが大きいので、予測するのが難しい典型事例になっちゃっています。

久米 元々は木材自給率を高めるための国策だったのに、今は悪影響になってしまっているんですね。

2.木材利用の課題とは~出し先の問題~

久米 木材を最も多く使うのは建築業界ですが、これから大きくなるんじゃないかと言われている分野がバイオマス発電です。そこで間伐材をうまく活用していく可能性はあるんでしょうか?

新井 可能性はあります。バイオマス発電とは主に間伐材などを粉砕した木材チップを燃やして発電する仕組みで、最近は大規模なものを含めた発電所が全国に増えてきてます。

ただし、大規模発電所が国産の間伐材を使うのが理想なんですけども、大規模であればあるほど大量かつ安定的に必要とするため、結局海外産のチップに負けてしまうんです。今建てられているバイオマス発電所も、輸入の木材チップを前提にした計画が多いみたいです。

久米 間伐材でいえば「割り箸って間伐材を使ってるからエコだよね」みたいに言われることがありますが、実は安価な割り箸ってだいたい中国産のものを輸入してて、日本の木を使った割り箸は高級なお料理屋さんでしか出されないみたいなところも聞いたことがあります。

新井 そうですね。高付加価値化っていう意味では良いかもしれないですが、出し先がないのが今の林業の課題って言われています。

3.注目される新素材「CLT」について

久米 国産材に新しく需要を生み出していかないといけないんですね。そこで注目されている「CLT」という技術があるそうですが、教えてもらえますか?

新井 CLTっていうのは、Cross Laminated Timber(直交集成板)の略です。

日本において、住宅など高さの低い建築は木造がよく使われますが、ビル等の高層建築は耐震性・耐久性を考慮して鉄筋コンクリート造が多いです。

しかしCLTという技術なら高層木造建築が可能となります。というのもCLTとは木材の挽き板を重ねてコンクリートに負けない強度を出せるというのが特徴で、このCLTを活用した木造ビルの建築、高層ビルの建築っていうのが結構増えてきているんです。

久米 コンクリート並みの強度なのに、コンクリートより軽くてさらに断熱の効果も高く、さらに二酸化炭素の排出量も少ないという点で非常に注目されている新素材ですね。

新井 はい。

久米 CLTは日本で開発された新素材なんですか?

新井 開発はドイツでされたそうです。ヨーロッパでは30年前くらいから使われていたので新素材とは言えないんですが、日本で認可されたのが2016年と比較的最近なので、国内では新素材というふうに言われています。

久米 特に高層ビルなんてものすごい量の材料を使うと思うので、そういった領域で木材が使える可能性があるとなると、相当な木材の出し先になりますよね。

新井 はい。それに木造建築って人間との親和性が高いので、ずっと過ごしたり仕事する空間では木のにおいとか見た目とかが良い影響を与えるんじゃないかと考えると、これからどんどん増えていくことが期待されますね。

久米 集中力が上がるなんてこともあるのでオフィスにもいいですね。それにコンクリートは製造時のCO2排出量がすごく多いので、それを木で代替することができればCO2排出量も下げて脱炭素化に貢献するのでデベロッパーや建築業界にとっても大きな一手となりそうですね。