【徹底比較】脱炭素社会実現のカギ「次世代型モビリティ燃料」3種それぞれの是非 [前編]

気候変動の問題を解決するため、世界中が実現に動き出しているカーボンニュートラル。

その達成の要所である脱炭素を加速する上で避けては通れないのが、化石燃料を中心とする現代のモビリティ燃料のアップデートだ。

とはいえ燃料の大転換には、イノベーションの必要性・既存インフラの転用可否といったさまざまな問題が立ち塞がっているという現実がある。

今回は、化石燃料に代わると期待されている3つの新燃料について、それぞれどのようなメリット・デメリットがあるのかを洗い出し、CO2削減効果と社会実装の両面からベストな回答を模索していく。

脱炭素時代の燃料問題

ー今回は開発が進んでいる新燃料について伺います。そもそも化石燃料に代わる燃料を開発するようになった背景から説明していただけますか?

新井 世界中で脱炭素、つまり脱化石燃料を目指そうという流れが強まり、燃料についても変化が求められるようになったからです。

そもそも人類は産業革命以降、いわば太古の遺産である石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料を活用して動力源・熱源・エネルギーを確保してきました。

現代の豊かな社会はそれら化石燃料がもたらしたといっても過言ではありません。

しかし、大量の化石燃料を使い続けてきたことで凄まじい量のCO2が大気に放出されるようになり、それが今問題となっている地球温暖化の一因として位置付けられるようになってしまいました。

化石燃料の使用だけが地球温暖化の原因ではないという意見もあります。
ですが、人類が取り組むべき重要な対策であることは疑いようもなく、モビリティ燃料を変えることで脱炭素を目指すのは当然の流れといえるでしょう。

ー具体的にはどのような新燃料が代表的なのですか?

新井 代わりに使うことで化石燃料の使用量を減らす、そのようなコンセプトで進化し続けている燃料の代表例は大きく3つに分類されます。

まずひとつめが「電気燃料」、そしてふたつめが「水素燃料」、そして最後が「バイオ燃料」です。

今回はそれぞれの特長と課題について整理していき、それぞれの新燃料について理解を深めていければと思います。

CO2を排出してもクリーンなのか?電気燃料の現実

ーではまず「電気燃料」について教えてください。

新井 3つの新燃料のうち、最初に実用化されたものが電気燃料だと思います。

電気で稼働するモビリティの代表は「電車」、そして現代ではお馴染みの「電気自動車」。
皆さんもご存知の電気自動車が普及したことで、その存在感は一気に増したといえるでしょう。

ちなみに電気自動車は、三菱自動車が可能性を世に示し、日産リーフが拍車をかけたと言われており、日本発で世界に普及した分野と言われていますね

ーしかし、そもそも電気をつくるために化石燃料が大量に使用されています。それでは本質的には脱炭素には繋がらないと思うのですか?

新井 まさにそこに課題があります。

現在の日本を例に挙げると、ざっくりとしたエネルギーMIXは、火力発電:再生可能エネルギー発電:原子力発電で7:2:1の割合です。

つまり、化石燃料を大量に燃やす火力発電が圧倒的なシェアを誇っているのです。

ということは、電気をつくる過程で大量のCO2を排出しているわけで、電気燃料の浸透は脱炭素社会を目指す上であまり意味がないのでは?という疑問が生まれるのは当然のことといえるでしょう。

ーガソリンのままでも変わらないのでは?という話になりますよね。

新井 おっしゃる通りです。

ですが、仮に発電方法の中心が火力発電から再生可能エネルギー発電に移行したらどうでしょうか。
そうなれば化石燃料が関わるスペースが縮小されるので、脱炭素に大きく貢献しますよね。

つまり、電気を代替燃料にするならば、再生可能エネルギーの普及が前提ということです。

今の取り組みは再生可能エネルギーの発電割合が増えることを踏まえてのアクションであり、未来を見越して今から電気自動車を増やしていこう、このような考えなのです。

よって、電気を燃料にするモビリティが真骨頂を発揮するタイミングは、再生可能エネルギーによる発電のパーセンテージが高まった後といえるでしょう。

電気燃料と脱炭素、本当の相関関係

ーでは、再生可能エネルギーでの発電が浸透すれば、もの凄く効果的なモビリティ燃料になりますね。

新井 その通りです。ただ、ここにも盲点というか、解決すべき課題があります。

それは再生可能エネルギーによる発電の不安定さです。

例えば太陽光発電は雨の日は機能しませんし、風がなかったら風車が動かないので風力発電もできません。
このように、安定供給が難しいのが再生可能エネルギーの特徴なのです。

こと日本においては地理的な条件で再生可能エネルギー発電の設備を大々的に展開することが難しいといわれており、発電箇所を増やしてカバーすることも現実的ではありません。

つまり、再生可能エネルギーによる発電に依存しすぎた場合、一時的にでも電気が枯渇するリスクがあるということです。

ーでは、適した気候の際に再生可能エネルギーで発電しておいて、蓄電すればよいのでは?

新井 実は、現代の技術では電気を大量に備蓄しておくことができないのです。

蓄電できないのであれば不足分は火力などで補おう、というのが今の考え方の主流です。

ただ、最近では電気自動車のバッテリーを使って蓄電しようという話もあがっています。
特に日産リーフのバッテリーがとても蓄電面で優秀らしく、中古のリーフを何台も確保して蓄電池として使おうという流れが生まれつつあるそうです。

災害対策の場面などでも期待されている手法ですね。

ー電気自動車が意外な形で活躍しているのですね。

新井 ただ、電気自動車のバッテリーを使わず蓄電しようとすると価格が跳ね上がってしまうなど、まだまだ技術が追いついていないのが現状のようです。

他にもバッテリーに使用する鉱物資源の不足といった課題もあり、生産面にも不安視される点があります。

それらの課題を踏まえると、モビリティ燃料の大きな割合を電気に変更しつつ、かつ脱炭素を実現するとなると、まだまだ時間がかかるだろうと考えています。

(後編へ続く)