原料や土地を大切に思う心から生まれた霧島酒造の「サツマイモ発電」とは

宮崎県「霧島酒造」と言えば、「黒霧島」をはじめ「赤霧島」や「茜霧島」などの人気商品を持つ人気焼酎メーカー。

その霧島酒造が、商品開発だけでなく、原料となるサツマイモから電気をつくるという試みを開始しました。現在では約2,400世帯分の電気を発電しているというから驚きです。

そこで今回は、霧島酒造がサツマイモ発電を始めるに至った経緯や同社の環境への取り組みを紹介しながら、これからの企業のあり方について考えていきたいと思います。

原料となるサツマイモと水への想い


(出典:霧島酒造株式会社 https://www.kirishima.co.jp/

焼酎メーカーがバイオマス発電…一見突拍子もないような取り組みに見えますが、これは芋焼酎の原料となるサツマイモ、そのサツマイモを作る土地や水への想いから導き出されたものでした。

霧島酒造のある都城盆地の土地周辺は、鹿児島の桜島など火山の多い地域。火砕流(かさいりゅう)や火山灰などが堆積したシラス台地は保水性に乏しく、作物を育てるのは難しいとされていますが、そのような環境でも育つ数少ない作物の一つがサツマイモです。

現在霧島酒造で使用しているサツマイモのほとんどが宮崎産と鹿児島産で、約1,300軒の農家が土づくりからこだわり、丹精込めて生産されたもの。

(出典:霧島酒造株式会社 https://www.kirishima.co.jp/

そして焼酎づくりに欠かせない水は、工場のある都城盆地の地下100mから湧き出す清冽な地下水、霧島裂罅水(きりしまれっかすい)を使用しています。

霧島裂罅水は、霧島連山に降った雨がシラス層や火山灰土壌を通りながら長い歳月をかけて自然にろ過され、地下深くに蓄えられた水。

柔らかさと清涼感を併せ持つこの水が、霧島酒造の芋焼酎の味の決め手となっています。


(出典:霧島酒造株式会社 https://www.kirishima.co.jp/

「この土地、水とサツマイモ農家の存在がなければ芋焼酎は作ることができない、大切な宝である」という想いが、廃棄物を無駄にせずすべて使い切る方法を模索する原動力となり、サツマイモ発電を実現させるに至ったのです。

のしかかる「芋くず」や「焼酎かす」などの残さの問題


(出典:霧島酒造株式会社 https://www.kirishima.co.jp/

霧島酒造のすべての工場には、毎日合計で約400トンものさつまいもが運ばれてきます。

その後、傷のついた芋を取り除いたり、芋が均一に蒸されるよう大きさを整えたりする過程で、使用できない芋くずが生じます。さらに、製造工程の中の蒸留では、副産物として焼酎粕が生じます。

1日に400トンのサツマイモを使って、一升瓶にして約20万本の焼酎を製造すると、その際に出る芋くずは約15トン、焼酎かすは約850トン。これらの残りをどうするかが、同社にとって大きな課題となりました。


(出典:環境省「霧島酒造(株)の詳細情報」)

当初は焼却炉を作り焼却することも考えたそうですが、焼酎かすの焼却には莫大な費用がかかることがわかり焼却処理計画は中止に。

その後、家畜への飼料や農作物の肥料としての利用などを経て、行き着いたのがエネルギー化でした。

芋くずや焼酎かすを細かく刻んで発酵装置へ送り、メタン菌の働きによって発酵させ、ガスを発生させます。得られたガスは工場の蒸気ボイラーの熱源に利用。そして使いきれずに余ったガスを発電機の燃料にして、電力を生み出すことに成功しました。

リサイクルプラントの建設からサツマイモ発電事業へ


(出典:霧島酒造株式会社 https://www.kirishima.co.jp/

霧島酒造は2006年、焼酎かすリサイクルプラントを建設し、バイオガスを生成するリサイクル事業を開始しました。
開始当初は、発生したバイオガスの約1/4を焼酎かす乾燥機のボイラー用燃料として活用するにとどまっていましたが、製造工程の蒸気ボイラー燃料としてもバイオガスを採用し、高い利用率を達成。そしてバイオガス利用率100%を目標にチャレンジしたのが国内初となるサツマイモ発電事業でした。


(出典:霧島酒造株式会社 https://www.kirishima.co.jp/

FIT制度の施行を機に本社工場敷地内に発電施設を設置し、2014年から発電・売電事業に参入。当初の計画では、年間 400 万 kwh(約 1,000 世帯分)の売電を見込んでいましたが、実際にはその倍にあたる年間700~750 万 kwh(約 2,000 世帯分)の売電に成功しました。

たい肥化、食材への利用を組み合わせたゼロエミッションの達成

(出典:霧島酒造株式会社 https://www.kirishima.co.jp/

霧島酒造では、芋くずや焼酎かすから電気を生み出すだけでなく、バイオガスを抽出した後の残りかすも活用しています。メタン発酵後の芋くずや焼酎かすは固体と液体に分離して、固体は堆肥化させて畑地に還元し、液体は微生物の働きで浄化してから下水道へ。すべてが地域へ還ることで、ゼロエミッション(排出量ゼロ)を達成しています。

同社では、運営する霧島ファクトリーガーデン内の「霧の蔵ベーカリー」にて、焼酎かす(焼酎もろみ)を使用したパンの製造・販売も行っています。このように、芋は形を変えて余すことなく大地に還り、豊かな食と文化を創り出しているのです。

自社完結型の資源循環サイクルの確立=事業の「継続性」


霧島酒造は、一社ですべてを循環できる仕組みを有していることが最大の強みです。それは、焼酎づくりが大量の水や熱を使用することから、それらをいかに有効活用するかを課題として長年取り組んできた結果に他なりません。製造、バイオガス生成、発電、熱利用など、入口から出口までの全ての要素がつながり循環の枠組みが構成されていることで、「継続的」な運営が可能になります。

つまり、サツマイモ発電は異業種への参入ではなく、焼酎かすのリサイクル=焼酎づくりの最終工程ということです。

また、地元産の原料にこだわり地域産業への貢献を重視することで環境負荷低減も図られ、水や農業を守ることにも繫がっています。廃棄物処理、リサイクルなどを部分的に切り取って考えるのではなく、循環を構成する一つとして捉えることがSDGsの本質に繫がるポイントであり、これから求められる「モノをつくり出す」企業の在り方なのではないでしょうか。

サツマイモ発電が農家の復興を後押しする!?

サツマイモ発電の可能性を別の角度から見てみましょう。

江戸時代には享保の大飢饉(1732年)から人々を救ったサツマイモ。近畿大学生物理工学部の鈴木高広教授は、このサツマイモを発酵させて作り出されるメタンガスに注目しユニークな研究を行っています。もともと民間化粧品会社で紫外線の有害性などについて研究していた鈴木教授は、研究を続ける中で、太陽光を効率的に利用した植物栽培法に興味を持ち始めたといいます。同大学で教授となってから、芋の持つ燃料としての潜在性に注目し、研究に乗り出しました。

鈴木教授が研究の先に見据えるのは、化石燃料使用による地球温暖化問題や世界の人口増加による食糧不足、さらに化石燃料の輸入に頼る日本のエネルギー問題の同時解決です。芋でエネルギーをまかなえれば、莫大な日本の化石燃料の輸入コストを国内に還元できるはず。

鈴木教授によると、日本で1年間に必要とされるエネルギーを全て芋でまかなうには40億トンの生産が必要ですが、国内での生産量は300万トン程度。しかし、効率を高めた栽培方法で遊休地などを活用すれば決して実現不可能な数字ではないのだそう。

さらに、芋の栽培は太陽光のエネルギーを使って二酸化炭素と水から炭水化物(デンプンなど)を合成し酸素を放出するため、地球にも優しいエネルギーであるという点も見逃せないポイントです。

農業に『燃料産業』という市場が生まれれば農家の収入も大幅に増加し、就農者の増加にも寄与するはず。これが実現すれば、芋エネルギーを通じた農家の復興が地域を活性化させる将来も夢ではないかもしれません。

自然環境の保全、地域社会との共生が「人と環境に優しい企業」をつくる

現在地球が危機的状況にあるということは、ニュースの中の話というだけでは済まされません。SDGsは決して難解なものではなく、地球にとって良いこととは何かを考えれば自然にやるべきことは決まってくるはず。

事実、霧島酒造のこの新しい発電設備には、全国の大手食品加工メーカー関係者などが注目し、多くの視察があったそう。このような発電方法をさまざまな地域や企業で応用することができれば、深刻化する環境問題に希望の光が見えてくるかもしれません。

自然環境の保全を前提とし、地域を中心としたネットワークを構築して地域社会と共生していくこと。これが、人にも環境にも優しい企業をつくるキーポイントなのではないでしょうか。