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「ガイアの夜明け」にも登場“リノベーションの鬼才”に聞く「家の再生・街の再生・地域の再生」

タムタムデザイン(北九州市)代表 田村晟一朗氏インタビュー

北九州市JR黒崎駅前。シャッター街となった商店街に再び人の住む明かりを灯す・・・テレビ東京の経済ドキュメンタリー番組「ガイアの夜明け」(2021年1月放送)で、ある建築家の取り組みが紹介されました。田村晟一朗さん。これまでの建築設計の枠にとらわれず、既存の建物に宿る先人の想いなどを読み解き、リノベーションを通して地域のこれからのあるべき姿を次々に形にしていく注目の建築家です。北九州市の田村さんのオフィスにお伺いし、「再生」をテーマに様々な切り口でお話を伺いました。(聞き手:新井遼一/構成・文:熊坂仁美)

田村晟一朗(たむら・せいいちろう) / 一級建築士、株式会社タムタムデザイン代表。1978年高知県生まれ、福岡県北九州市在住。リノベーション・オブ・ザ・イヤー2016「アーケードハウス」最優秀総合グランプリ 2018年「黒川紀章への手紙」最優秀総合グランプリなど、受賞歴多数。

 

「ラーメン屋」も経営する一級建築士

―田村さんの事業内容を教えてください。

 

僕の事業は三本柱になっていて、まず、元々からの建築設計がひとつ。施工はやらず設計監理だけです。ふたつめは転貸事業、いわゆるサブリースですね。オーナーが別にいてビルやフロアを借り上げて、シェアオフィスや複合施設で家賃収益を上げるという収益構造のものです。

 

あともうひとつは飲食店の運営です。「tamtam7」というバーの運営と、個人の別会社で「あんとめん」というラーメン屋さんもやっています。月1回、2時間ぐらいですけど、僕も麺を茹でています(笑)

ラーメンは無添加無着色。「子供もお年寄りも安心して最後の一滴まで飲み干せるラーメンなんです。すごく美味しいですよ」と田村さん。

 

事業はこの3つなんですが、こういうことをやっているうち行政から町づくりの賑わい推進事業の相談があって、直方市のアドバイザー業務もさせていただいてます。

 

「新築でもリノベーション」である理由

 

―田村さんはリノベーション業界の有名人ですが、この分野に入られたきっかけは何ですか。

 

元々リノベーションをやろうと思ってやり始めたわけじゃないんです。独立したときに飯食って行かないといけない、そのために何をしたらいいかと考えたとき、社会の役に立つ仕事をしようと。建築や不動産がからむ社会課題としてあるのは、空き家の増大、人口減少に伴う地方の衰退などです。地方に住んでいる身としてはやっぱりそこに注目しないといけないなあと。ただ単純に空き家をリノベするだけではあまり意味がないなと思ったんです。

 

―商店街の再生にずっと取り組まれていますね。

 

独立した事務所が商店街にあったので、商店街の活性化はずっと頭にありました。人口減少は自分には止められないですが、町の中心部に人を集めれば密度が上がってくので、おのずとそこに多様性も生まれるし、賑わいに繋がっていくんじゃないかと。ここ北九州でも、そしてどこの町でもおそらくそうですけど、中心部に人は集まるようにするための更地があまりないんですよね。もう開発されつくしてそれが疲弊してきている。自ずと既存の建物を扱うことになります。

 

僕は、たとえ更地であってもそういうマインドの下でやる設計はリノベーションだと思っているんです。商店街に更地があってそこでカフェやりたい人がいたら、その土地や町の文脈を読み取って、その事業が発展するためのエキスをデザインに取り入れながら新築を建てる。それもリノベーションだと思うんですよね。

 

―新築でもリノベーション、面白い考え方ですね。

 

一般的には、空き家とか中古物件を買って改修することがリノベーションだと思われているんですが、リノベーション(renovation)って「re+inovation」という意味で、もう一度新しい価値を見出すことであって、既存建物ありきのことではないんです。

 

中心部に人を集める。集めるには面白いデザイン、面白いコンテンツを入れないといけない。そうすると密度も高まって、面白いエリアになって多様性が生まれます。

 

―リノベーションオブザイヤーを受賞されたアーケードハウス(昭和54 年に築造された行橋市のアーケードの空き店舗の利活用プロジェクト)もまさにそうですよね。

 

はい。アーケードハウスはその最たるプロジェクトで人が住まなくなった商店街の2階にもう一回人が住めるようにというデザインの工夫と、あとは夜の商店街に人が住んでいる明かりを灯す、共存関係をリデザインというかリバイバルというか、そういう形で表現したのがすごく評価されて、色々と賞をいただいきました。

 

―実際アーケードハウスにも人が戻ってきていますか?

 

いえ、残念ながらアーケードハウスの方はまだまだです。やっぱり1軒だけじゃ難しいというのがあって、アーケードハウスを今度「アーケードシェアハウス」にしたプロジェクトが黒崎(北九州市の副都心)でやっているんですが、そこはちょっとずつ人が集まってきていますね。

 

―「ガイアの夜明け」に取り上げられたプロジェクトですね。

 

そうです。そこはいま若い20代の男女が住んでいますし、その子たちがうちでやっているラーメン屋でアルバイトしてくれています。商店の2階に住むことと、その1階の商店で活動することが実現しているので、この流れは広げていきたいなと思っています。

 

JR黒崎駅前のシャッター商店街の3軒長屋をまとめて借りてリノベーションした「寿百貨店プロジェクト」。1階店舗は小さく仕切り、2階はぶち抜いてシェアハウスに。田村さんのラーメン店「あんとめん」も入居。

 

「ハードとソフトの真ん中の位置」を模索

 

―賑わいや事業を意識して設計コンセプトを作るというお話、詳しくお聞かせください。

 

例えば建築設計ってハードじゃないですか。物を作る、空間を作る。そしてそこに入る事業者はソフトなんですよね。そこで何をやりたいか、オフィス運営やホテルやカフェなどがソフトです。その強いソフトを持っている人が、このハードに対してこのソフトがうまく回るようにしたいっていう話を毎回ここで繰り広げられるわけなんですけど、ハードとソフトをそれぞれ分けてしまってはいけないと感じてきました。

 

ここ数年、ラーメン屋をやり始めたのもシェアオフィスをやっているのもソフト面を知っておいた方がハードづくりに役立つし、クライアントにも大きく還元できるところがあります。だから、ハードとソフトというように割り切って立場を作ってやっていくよりは、グラデーション化してその真ん中みたいなところを作っていく。

 

もちろん図面は書きますし現場にいって職人さんと打ち合わせもしますけど、そこのスタンスを「完全なハードな人間」じゃなくて「半分ソフトの人間」とした方が全てうまくいくんじゃないかなと感じています。まだはっきり言語化できてないんですけど、ハードとソフトをグラデーション化したときに一番いいポジションを探す、一番いいスキルを発揮するみたいな。いまそこを模索しながらやっています。

 

―依頼する側からするとそういう立場で設計してくれたらきっとうれしいと思います。

 

そうなんです。実際「飲食店やってます」というとお客様からすごく安心されるんです。「厨房(どうしたらいいか)悩むんよねー」みたいな話になったら当然厨房の話は普通にできるので「一回うちで叩き台作るのでそこから煮詰めましょうか」と言える。シェアオフィスでもそうです。

 

いま設計者にはプラスアルファの部分を求められますが、その点、自分がやっている活動の経験則を入れることでお客様に良い提案ができているのかなと思います。

 

海外で進むコンクリートのリサイクル

 

―設計する際に、国産材やこの近辺地域のものを使うことを意識されていますか?

 

そうですね。材料に関してはお客さんに任せられることが多いので、できるだけ九州の材を使うようにしています。杉とかヒノキとか、このあたりは当たり前に山が多いのでたくさんありますし、できるだけこの九州圏内、「One九州」じゃないですけど、そういう経済圏で回したいという思いがあるので。なければせめて国産を使うようにしていますね。

 

―建築設計の段階で解体のしやすさは意識されていますか?

 

いま「サステナブル」であることが当たり前になってきていますので、当然解体のしやすさというか、住まい手やそこを使う人たちがまた活用しやすい空間を考えています。色を塗り直すとか壁紙を張り替えるとか自分たちでもできるというのは大事ですし、昔ながらの「木造軸組工法」で建てれば大工さんが一人いればずっと保っていけます。

―木造軸組工法とは?

 

昔からの農家のように、柱・梁・土台・基礎・屋根という構成で作られた木造の家・建物のことです。僕はこれは半永久的に保つ建物だと思っているので、鉄筋コンクリート造よりも良いと思っています。

 

いまスイスではコンクリートのリサイクルがすごく進んでいて、建物の90%を前の建物で使ったコンクリートを使っていたりするんですよ。そこまで技術が進めば公共の施設でもコンクリートを使って全然いいと思うんですが。

 

―コンクリートってリサイクルできるんですね。

 

そうです。いま世界で一番不足している建材って、実はコンクリートに使う砂、川砂なんです。海砂はすぐ中性化して鉄筋を錆びさせてしまうのでダメなので。ヨーロッパは砂に対する意識がすごく高くて、コンクリートの建物を解体した後もリサイクルして粉砕してもう一回使うっていう技術がすごく進んでるんですよ。

 

―知りませんでした。日本ではどんな状況なのですか?

 

残念ながらほぼ0%です。日本では解体されたコンクリートはどこかの埋め立て地で埋められるぐらいなので、リサイクルとはとても言えません。それでもう一回建物作るとかそういった方向に活用されればいいんですが。そこは早く国がどうかしないといけないなと思います。

「もうそろそろみんな気づく頃」

 

―集合住宅に関してのこれからの課題はなんでしょうか。

 

タワーマンションの危険性ですね。人口が減ってくれば、当然集合住宅では管理費が負担になります。地方は特に満室の所って中心市街地しかないので、中心街から離れていくと管理費がどんどん上がっていきます。大規模修繕をするにも長い期間がかかりますし、共有部分に関しては結局自分たちが負担しないといけないんです。下水道などのインフラの更新もそうですよね。30年以上経ったタワマンで水道の入れ替えができないとか、今現状でも問題がすごく出ています。

 

―でもタワーマンション、大人気ですよね

 

大人気ですね。でもそろそろみなさん気づくんじゃないでしょうかね。個人的には、20戸から30戸ぐらいの中心部のマンションがちょうどいいんじゃないかと思います。100戸超えるともうよくわからないです。所有者が減って入居率が下がると3年ぐらいで一気に変わってくると思います。特に団塊の世代がもうそろそろいなくなるでしょう。色んな所でそういう現象が起こって来ると思います。

 

空き家を活用するか、解体するか

 

―空き家問題はどう解決していけばいいでしょうか

 

空き家が増えれば増えるほど僕らは仕事ができるので、空き家って僕らにとっては実は問題じゃなくて資源なんです。ただ地域課題として、埋めないといけないエリアってやっぱりあるんですよね。小倉だったら小倉駅の周辺とか、そういう人が集まるべきエリア以外は長期的にみると解体して更地にしてしまった方がいい。その方が行政的には公共インフラをコンパクトにできる利点があります。数世帯しか住んでないのに下水道をやり替えたり、何十キロも引き込みを変えないといけないとなってくると、当然財政も破綻してしまいます。「コンパクトに住み集まる」というのが地域にとっては一番良い状況じゃないかなと思います。

 

―中心部以外は下手に活用とか考えるより更地にしてしまった方が良いということでしょうか。

 

「ここでカフェやるんだ!」「ここでゲストハウスやるんだ!」という思い入れがあるのなら、そのエリアのエネルギーにもなるのでそれはやるべきだと思うし、応援もします。でも思い入れがないのだったら解体して更地にするか、もしくは他に思い入れがあって買いたいっていう方に安くでもいいから売ってしまうというのが、多分色んな問題を解決できると思います。

 

解体現場で感じる「先人の想い」

 

―「ガイアの夜明け」では、アーケードハウスの解体現場で田村さんが「これ使おう」と選んでいたところが印象的でした。

 

解体状況を見に行くのはすごく好きで、なんか使えそうな材があったら「これ使いましょうよ」みたいなのはよくやります。でも多分それって「見立て」ができないとできない。

 

―「見立て」とは?

 

普通の解体屋さんだと、壊したものだしうす汚れているのでそのまんま廃棄しちゃうんですよね。でも例えば、昔の家であればあるほど床板すごく分厚くって大きいので、ちゃんと削ればきれいな肌が出てきて、普通の白木になるんです。古いままの木肌を使うときももちろんありますが、立派な木は削るようにしています。

 

「これ後ろの棚に使いましょう」とか「これ外壁に使いましょう」とかはよくやります。そうすることで先人の建築士が何を考えたのかとか、自分が生まれる前の大工さんが何を思ってこれを作ったのかっていうのを想像するのがすごく好きなんです。

 

―解体現場で先人の想いを感じるわけですね。

 

そうですね。リノベーションは環境的な側面ももちろんありますが、物自体にすごく歴史があるし物語があるので、それをちゃんと伝えられるようにしたいなと思っています。家主や事業主が「これ屋根裏から出てきたんよ」とか「これ昔の階段の踏み板なんよ」と言えると、すごく物語性がある場になりますから。

 

―「先人の想い」を感じた中でこれまで印象的だったのは?

 

やはりなんと言っても「黒川紀章への手紙」というマンションの一室をリノベーションした案件ですね。これは2018年にリノベーションオブザイヤーのグランプリをいただきました。

 

建築家、黒川紀章が北九州市門司港で設計した高層マンションの20階部分のリノベーションプロジェクト。巨匠の設計思考を読み解きつつ「これからのあるべき姿」を導きだした再生が大きな評価を受ける。

 

黒川紀章先生っていわゆる教科書に出てくるような巨匠で、もう亡くなられていますが、あの先生が作ったマンションの一室で「なんでこの間口狭いんだろう」と考えていくと、景色がよく見える住戸をたくさん作るためにそうなってしまったんだろうとか、「なんでこの狭い中でより狭めるつくりにしたんだろう」って考えていくと、きっとリビングに家族が集まるようにしたかったじゃないかな、とか想像するんですよね。

 

それはひとつの大先生の答えであったけれど、これを買った事業主は新しい時代に向けて作り直さないといけないので、黒川紀章先生と問答を繰り返しながら「ここの範囲でしか海が見えないけど、内側の壁を全部ガラス張りにしてどこからでも見えるようにしよう」みたいなコンセプトを作ったりして、その問答を自分なりに描きました。

 

先人が考えたことって絶対意図してそういう結果があるので、それを読み解きつつ、次の時代に向けた間取りを考える。そういうのを得意としてやっています。

 

 

―最後にこれからの田村さんの目標をお聞かせください。

 

先ほどハードとソフトの真ん中を行くと言いましたが、それを確立させたいです。自分がどのポジションでどういう役割を担える存在になるのかを明確に伝えられるようにしたいと思いますね。今は建築士とか建築家とか建築デザイナーなど色んな呼ばれますけど、そういう肩書におさまらない動きをして、今はない自分のポジションを創っていきたいです。

 

 

2021.10.18

取材協力:株式会社タムタムデザイン

http://tamtamdesign.net/

環境と人 編集部

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