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持続可能なワインを選ぼう

社会の様々な場面で「サステナブル(持続可能な)」という言葉が広まっています。資源循環型の経済(サーキュラーエコノミー)を考えるとき、カギになる言葉です。

 

国連に設置された「環境と開発に関する世界委員会(WCED)」の1987年に公表された報告書で、「サステナブル・ディベロップメント(持続可能な開発)」が提唱されました。初めのうちは環境保全の文脈で使われていましたが、現在はあらゆる産業で「サステナブル」であることの重要性が強調されるようになりました。

 

ワイン産業における「サステナブル」とは?

ところで、ワインはお飲みになりますか? ワイン産業では、「サステナブル」という言葉がどのように広まっていったのでしょうか。

 

ワイン造りの歴史を振り返れば、昔は自分の暮らす土地で栽培・収穫したブドウから造り、自家で消費していました。やがて資本主義のシステムに組み込まれ、世界に流通する商品になりました。

 

丘陵地に、ブドウ畑、オリーブ畑、牧草地が広がる

貧しかった農村で質から量への転換が図られたのは、1950年代から1960年代。畑を耕す代わりに除草剤が普及しました。人力と時間のかかる牛や馬は、便利なトラクターにとって代わられました。病害を防ぐために薬品が広まり、害虫駆除の殺虫剤が使われました。化学肥料によって手間を省き、収量を増やしていったのです。

セラーでは、畑や蔵に生息する野生酵母ではなく、安定した発酵を可能にする産業酵母が使われるようになりました。亜硫酸を多めに添加し、酸化や劣化を予防する安全策が導入されました。

殺虫剤で害虫を駆除すると生態系のバランスが崩れ、別の病害が発生します。重量のあるトラクターは土を踏み固め、通気性を悪くして微生物の活動を妨げます。化学肥料や殺虫剤は土壌のバランスを崩し、ブドウの樹が病気にかかりやすくなりました。土壌の微生物が減少すれば、ワインの味わいを決定づける土地の個性(テロワール)の表現も難しくなります。

 

1990年代になると、こうした慣行農法の反省に立って、農薬、除草剤や化学肥料を使わないオーガニックな農法に回帰する動きが広まりました。一歩進んで、牛の角に詰めた水晶の粉や牛糞など、プレパラシオン(調合剤)を散布する「ビオディナミ(バイオダイナミックス)」を導入するワイナリーも登場します。

 

ナチュラルワインへの回帰

さらに時代は進み、栽培だけでなく醸造面でも、薬品のなかった時代に立ち戻る動きが出てきます。野生酵母で発酵させ、亜硫酸を最大限に減らし、酵母の添加や加熱殺菌などの人為的な作業を行わない、昔ながらの自然なワイン造りに回帰したのが、「自然派ワイン(ナチュラルワイン)」です。誰もが認める厳格な規定や認証団体はないにせよ、世界に広がっています。日本には熱心な支持者が少なくありません。

 

そうした歴史を歩んだ延長上に、「サステナブル」という概念が登場しました。ワイン産業として持続可能な発展を続けるためには、栽培と醸造の課題だけでは解決できません。幅広い視野から、ワイン生産のすべての過程を見直すことが求められるようになりました。

気候変動は、農業だけでなく、人類の将来を左右する深刻な問題です。ヨーロッパ南部の森林火災、春霜の害、栽培品種の変更など、ワイン造りにも大きな影響を及ぼしており、「サステナブル」であることを意識した対策が必要です。畑の手入れを例にとると、1950年代に姿を消した耕作馬がいま復活しています。馬は土を踏み固めず、土中の微生物を活発化します。トラクターのように温暖化を招く二酸化炭素を排出しない利点もあります。

 

イタリア・トスカーナのナチュラルワイン

では、もう少し具体的に「持続可能なワイン」について考えてみましょう。先駆的な取り組みをしている、イタリア中部トスカーナ地方マレンマの丘陵地帯に広がる「ラ・マリオーザ」農園のワイン(Home – Fattoria La Maliosa)を例に説明します。

「ラ・マリオーザ」農園で収穫するマヌーリ氏(右)とコリーノ氏

この農園はビオディナミ農法を導入し、環境に配慮したブドウやオリーブ栽培とナチュラルワインの製造を10年以上実践しています。日本ではBMOというインポーターが輸入、ファンが少なくありません。

ナチュラルワインは市場にいろいろ登場していて選ぶのに迷いますが、これほど技術と哲学がしっかりしていてしかも美味しいワインに、私は出会ったことがありませんでした。

農園オーナーはミラノ出身のアントネッラ・マヌーリ氏。金融業界からスパリゾート経営に携わり、2009年、マレンマの豊かな自然に魅せられて広大な土地を購入。一人で農園をゼロから立ち上げました。そして、自然農法に関するヨーロッパの権威として知られるロレンツォ・コリーノ氏を2013年、ブドウ栽培指導者としてスカウトし、今に至っています。

 

マレンマの土地について説明を加えておきましょう。

 

マレンマは海に近く、地中海性気候に属しています。同じトスカーナ地方でも、ワイン産地として有名なキャンティエリアは内陸で大陸性気候ですから、気候条件が異なります。マレンマはアクセスが難しいこともあって、村落は少なく、本物の自然が手つかずのまま残されています。豪雨があり、強風があり、土地を覆い尽くすハーブ群がありで、人間にとって決して居心地の良い場所とはいえませんが、全部ひっくるめて、生物多様性と複雑性が表されている土地だといえましょう。食糧生産のために人間が手を加えた土地とはまったく違う、ワイルドライフという言葉がぴったりなところです。

 

「ラ・マリオーザ」のワイン造りを貫く哲学は、ズバリ「ワインは畑で造られる」です。ブドウの収穫後、余計な手を加えることなく、自然に取り扱うこと。そして、アルコール発酵後の熟成過程でも、添加や加工など自然に反するいかなる処理も行わないというのが、基本姿勢です。

 

「カーボン・フットプリント」の表示を読み解く

サーキュラーエコノミーに対する彼らの取り組みとして、わかりやすい例を挙げてみましょう。ある商品を生産する時に発生する温室効果ガスの量を計算して、二酸化炭素の換算量として示す「カーボン・フットプリント」という表示の仕方があります。

ここで、二酸化炭素に注目する理由を少しおさらいしておきます。

産業革命以来、人類は環境汚染を繰り返してきました。中でも大気中の二酸化炭素濃度の急激な上昇が挙げられます。

一般的に、ほとんどの科学者の見解は次の2点で一致しています。昨今の難しい気候変動を和らげるには二酸化炭素の排出を抑制しなければならないこと、そして、二酸化炭素濃度は、今後数世代にわたって今のレベルを下回ることはないこと。二酸化炭素濃度の上昇で、人体に必要な多くの栄養素は減少しており、食品の質の低下もいくつかの研究結果で明らかにされています。

ワイン造りが二酸化炭素の増加にどのくらい影響しているのか――その計算モデルを、「カーボン・フットプリント」(Vineyards and natural wines – Fattoria La Maliosa)として、ラ・マリオーザ農園はイタリア・シエナ大学との協業で実現しました。詳細は、図を参考にしてください。

 

カーボン・フットプリント

最も効果的なプラクティスを行うと、どのくらいの二酸化炭素を削減できるかを客観的な数値で示しています。たとえば、ガラスボトルの代わりに再利用可能な軽量ボトルを採用すれば16%の二酸化炭素排出を削減、送電網からの電力からソーラーパネルによる自家発電に切り替えれば13%の削減、従業員の輸送にガソリン車ではなく電動自動車を使用すれば5%の削減、化学肥料の代わりに干し草を使用すれば47%の削減……といった具合です。

数字の力は強力で、「私たちを環境にやさしいふりをしているだけではないかと疑っている人に対しては説得の材料になったし、内部てきには改善点を特定できるメリットがあった」と、農園オーナーのマヌーリ氏は言っています。

(「ラ・マリオーザ」農園のアントネッラ・マヌーリ氏とロレンツォ・コリーノ氏の2人へのインタビューは、日本ソムリエ協会会員誌「Sommelier」7月号60-63頁参照。永峰がZoomで2021年5月に取材した)

 

 

「持続可能なワイン」を選ぶ理由

繰り返しになりますが、ワインは、産地がもたらす本来の味を歪めることなく、また、ブドウからワインへと変化する自然な流れを妨げるいかなる添加物も加えず、化学的あるいは物理的な処理も一切行われないというのが、彼らのワイン造りの考え方です。

 

ワインには農業に対する2人の哲学が詰まっている

単に自然な方法で進めていくだけではありません。土壌の生命力を守り育みながら、ブドウ畑の栽培環境や農園周辺の環境や景観、畑作業に従事する労働者や農園近隣に暮らす人々の生活環境、さらには、消費者の健康に至るまで、包括的に守ることが求められています。

こうした条件を満たしてこそ、「持続可能なワイン」が生まれ、それは資源循環につながるのです。

環境に何か良いことをしたいと考えているあなた、まずはワインを飲むときに、「持続可能なワイン」を選んでみませんか?

 

 

参考文献

Isabelle Legeron “Natural Wine: An introduction to organic and biodynamic wines made naturally (English Edition)” (CICO Books  2020)

Lorenzo Corino “The Essence of Wine and natural viticulture” (Quintadicopertina  2018)

(日本語訳は川村武彦訳「ワインの本質」がKindle版で読める)

 

永峰好美

読売新聞記者として主に生活面などの取材にあたり、2005年から新聞社が親会社だった百貨店のプランタン銀座取締役、同常務取締役。その後、読売新聞東京本社編集委員を務め、2018年5月に新聞社を卒業。夫のギリシャ大使就任に伴ってアテネに在住、2020年末帰国。環境をはじめライフスタイルに関わる記事を執筆している。

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